熟練工


 日本の中小企業の事例だ。この工場は精密部品の挽き物加工、直径1.0~10mmといった小径の部品加工を得意とする工場。製品は弱電用機構部品だ。この工場では常時4、5名の検査員が、顕微鏡で製品検査作業を行っている。

仕上がり寸法などは、AOI(自動光学検査)で自動化できるだろう。しかし熟練検査員の目視検査が必要不可欠だという。

検査員は顕微鏡をのぞいて、部品の雰囲気の変化を感じとる。「雰囲気」とはあいまいな表現だが、光の反射が違うなど「いつもと何かが違う」といったレベルの些細な差異だ。不良品とはいえないが、製造セクションにその感触を伝えることで不良が出る前に改善できると言う。

その「雰囲気の変化」が使用材料の間違いとか、熱処理工程の異常など、目視検査基準には書いてない不良や異常であったりするのだろう。

自動検査装置ではこの様な「雰囲気の変化」を見つけることは出来ないだろう。検査装置に人工知能を搭載すれば可能となるかもしれないが、熟練工達の暗黙智がなければ、計算機は学習出来ない。

日本と中国(もしくは途上国)に工場がある方は、ご経験があると思うが、日本工場の目視検査員は消費者リスクギリギリで検査するが、中国工場の目視検査員は生産者リスクを食いつぶして検査する。つまり、日本の目視検査員は顧客の受け入れ検査ギリギリの線で合格判定し、中国の目視検査員はオーバーキル気味で検査する、ということだ。

日本人検査員が年齢が高めで、良い具合に視力が衰えているとか、中国人検査員が職業的使命感に燃え、寸分の不良も許さない、などの理由があるかも知れない。しかしこれは真因ではないだろう。

この違いを生むのは、日本には長期安定雇用(企業側だけではなく従業員側も)の傾向があるためではないだろうか?この道何十年の熟練工がいる日本の工場と、離職率が月当たり二桁にならんとする中国工場では熟練工の暗黙智に大いに差があるだろう。

この差を埋めるには、日本の熟練工の暗黙智を彼らが定年になる前にAI化する。又は中国工場の企業文化を日本の企業文化に近づけ、中国人従業員の安定雇用を進める。この二つしか選択肢がないと思うが、あなたはどう思われるだろう。


このコラムは、2019年3月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第792号に掲載した記事に加筆しました。

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