医療過誤


 「CT報告「がん疑い」、担当医見落とす 千葉大2人死亡」
朝日新聞デジタルの記事だ。

記事によると、千葉大学病院で診察を受けた30~80代の男女9人の患者が、CT検査画像診断の報告内容を医師が見落とすなどしたため、がんの診断が最大約4年遅れ、4人の治療に影響があり、2人が腎臓や肺のがんで死亡した。

70代男性は皮膚がんの疑いで画像検査を受け、放射線診断の専門医が画像診断報告書で肺がんの疑いを指摘したが、担当医は報告書を十分確認しなかった。この患者は翌年肺がんで亡くなっている。
60代女性は腸の病気の経過観察でCTの画像診断を受け、報告書で腎がんが疑われると指摘されたが、担当医が十分確認していなかった。4年後CT画像で腎がんが確認され、その年の12月に亡くなった。

こういう事例を医療過誤というのかどうかはわからない。しかし適切に対応していれば命は救えたかもしれない。

私は医療に関しては素人であるが、TVドラマで手術前に多くの医師が集まり、カンファレンスを開き術式について議論するのを見たことがある。今回の事例を見ると、専門外の医師との交流が希薄の様に思える。医療の高度化に伴い、専門分野が狭くなるのはやむを得ないだろう。だからこそ専門医同士の意見交換がより必要だと思える。

私たち製造業では、製品化の各プロセスにウォークスルーやレビューがある。ここで、営業、設計、品証、生産技術、購買、製造の専門家が集まりそれぞれの立場で知恵を出し合い製品の完成度を上げる。

患者の生死に関わる様な重大事ではないが、製品化プロセスの手戻りは経営的ダメージを与える可能性がある。重大な問題点を見逃して製品を出荷すれば、リコールが発生する事もありうるだろう。

各プロセスでのチェック機能は、この様なリスクを防ぐだけではなく、若手の育成にも役にたつ。私自身も若手の頃、開発会議に出席し議事録を取る役割を仰せつかった。当時は自分で設計することはなかった。仕事の大半は、先輩が考案した新規回路方式の動作確認や、試作品の評価試験だ。しかしこの開発会議の議事録を取ることで、設計の擬似体験になっていた。

職位が上がれば設計審査ばかりでなく、生産準備会議や、量産試作会議にも出席することになり経験智は商品化プロセス全体に広がる。

自社で行われているウォークスルーやレビューが形式的になっていないか確認して見る必要があるだろう。例えば他部門主催のレビューに経験値の低い若手だけを参加させていないか?レビューの項目が十分であるか?見直すべきことは多いはずだ。

この事例を対岸の火事と見るか、他山の石と考えるかで雲泥の差が出る。


このコラムは、2018年6月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第679号に掲載した記事です。

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