改善を阻害する文化


 最近訪問した中華企業で働いている日本人の方から、面白い話を聞いた。彼は香港人経営者、中国人従業員の中で広東語と北京語を駆使して活躍をしておられる。

1台1万元の温度調節設備をオーナーが買おうといいました。
幹部従業員が反対しました。「こんなのは自分で作ったほうがいい!」
自分で作りました。オーナーは大喜び。
オーナーのWIN : 当初1万元のものが8千元で買えた。2千元のWIN!
部従業員のWIN : 実は原価は4000元でした。残りの4000元はWIN!
結局負けたのは“品質”です。業界各社が必死で研究している製品なのに
素人のDIYが使い物になるわけがない。年間数千元の損失でしょう。
もちろん、統計はされていません。だれも‘王様は裸だ’といいません。

私は、この工場を診断した結果、理想像を描き、そこに到達するために、こんな活動をしてはどうですかと提案した。それに対して、彼はこんな事例を紹介し、もっと目先の現実から着手したいと言ってきたのだ。つまり私の描いた理想像を香港人オーナは理解できないだろう。もっと目先の具体的改善を通して、その先を徐々に見せてゆく方がうまく行く。というのが彼の考えだ。

長らく中華系企業で苦労をされた方の、処世術だと思う。
私自身も中華系工場を指導していて、同様の経験をしたことがある。
現場の改善はそこそこ進むのだが、会社全体の企業文化を改革しようとするととたんに抵抗勢力が立ちはだかる。厄介なのはこの壁が現場従業員の壁ではなく、経営者の壁だということだ。

改善のお手伝いをして、大きな成果を得られた会社は、みなこの障壁が低い会社だった。
現場の抵抗勢力は、何とかなるが経営者の壁はなかなか越えられない。

今回は私も彼の処世術を真似て、目先の改善から懐に入る戦術を取ってみようと思う。
現場のリーダたちの心に「改善の魂」を埋め込めば、小さな改善は連鎖的に発生するはずだ。


このコラムは、2010年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第159号に掲載した記事に加筆修正しました。

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