福島原子力発電所


 東日本大地震による大津波の影響で、福島原子力発電所の制御システムが壊滅的なダメージを受け、今もまだ危機的な状況にある。自衛隊、消防庁、電力会社などの人々の、被爆をも恐れぬ献身的な活動に、目頭が熱くなる。

われわれ日本民族の未来を懸けた戦いはまだまだ終わりではないが、福島原子力発電所の事故に関して、自分が受け取った教訓について書きたい。

原子力発電所の事故につながる地震・津波の天災を「最も準備ができている日本と日本国民に与えた、神の試練」とする海外のコメントがあった。災害時に略奪、暴動が発生する国の人々にとって、地震で棚から散乱した商品を拾い上げてレジに並ぶ人々を見るのは、奇跡に思えるだろう。

災害時といえど、人としての誇りと他人を思いやる気持ちを保ち続けることが出来る日本人の民族性を、誇りに思っている。

そして今回の原子力発電所の事故は、非常事態用の安全装置、緊急冷却装置や緊急用発電施設が、すべて機能を失ってもまだチェルノブイリの様な本格的危機の発生を抑えている。しかも福島原子力発電所は、チェルノブイリ事故の発生以前にすでに運転を開始している。

40年近く前に設計された原子力発電所のフォールトレラント性(事故許容性)が非常に高かったため、想定外の地震、津波が発生してもまだ危機的な状況に至っていない。

非常用のバックアップ設備が津波により一気に機能しなくなった、しかも制御システムも瞬時に重大な機能不全に陥ったはずだ。
このような状況下で、チェルノブイリのような危機的状況の発生を抑えられているというのは、日本の原子力発電所のフォールトレラント設計の高さを証明している。

全ての制御機能を失うという事は、全ての窓にカーテンがかけられ、全ての計器が正しい値を示さない自動車を運転することと同じだ。しかも車をその場で停止するだけではない。路肩の安全な場所に移動して停止する必要がある。高度な危機対応能力がなければ、出来ることではない。

これらのフォールトレラント性、危機対応能力が海外のメディアから高く評価されている。中国のTV報道によると、中国本土、台湾ともに日本の事例を元に国内の総点検を開始している。中国では、今申請中、建設中の原子力発電所は全て凍結されたようだ。

高い評価を受けたとしても、まだ危険な状態を脱しきれていない。
M9級の大地震、20m級の津波が同時に発生したのだから、止むを得ないとは当事者ならば誰も考えないだろう。人の命が懸かっている、諦められるはずはない。

このような状況は、工場経営にも起こりうる。
天災だけではない。生産フル稼働中に生産設備が故障。停電時に自家発電機が故障。PCのデータをバックアップ中にPCがフリーズ。つまり期待していたバックアップ機能がうまく作動しない事故。

従業員のストライキ中に火災が発生。部材の調達遅延と、在庫部材のロット性不良が同時発生。生産が遅れ、出荷を航空便に切り替えようとしたら航空会社がストライキ中。つまり単一の事故は想定していたが、二重に事故が発生する場合。

今回の福島原発事故を教訓に、事前に対応を検討することは可能だ。
しかし全てのケースを予め想定しておくことは困難であろう。予想不可能の事故が発生した場合の対応優先順位を予め決めておく必要がある。

人命・人身への影響は第一優先とする。
次に顧客への製品供給を守る。つまり代替が利かない設備や材料の確保を優先。(たぶんこの優先順位は、業界を超えた共通の原則だと思う)

この様に決めておいた優先順位に従って、対応を決定してゆけば、大きな間違いは発生しないだろう。

最悪の事態は、トップリーダが冷静な判断力を失うことだ。
これを防ぐためには、平常時より部下に緊急時の心得を指導し、模擬演習をしておくことだ。実はこの模擬演習は部下の緊急時対応能力を育成するためだけではなく、緊急時に自分自身が冷静を保つ訓練の意味もある。

【この記事を書いた時には、まだ原子力発電所が危機的状況にあることは報道されていませんでした】


このコラムは、2011年3月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第197号に掲載した記事です。

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