改善の火を灯す


 独立して間もない頃、金属表面処理のメーカから声をかけていただいたことがある。工場を訪問し経営者から話を聞くが、どんな改善活動をしたいという具体的なご希望はなかった。この工場は顧客から預かった製品に金属表面処理を施す仕事をしている。真空蒸着釜の稼働効率を上げれば、生産量が上がり、コストも下がるはずだ。しかし設備の段取り替えに緊張感がなくのんびり作業をしている印象を受けた。

経営者に段取り替えにどのくらい時間がかかっているか聞いてみた。毎回違うが平均すれば1時間半ほどかかっているという。「段取り替え時間を30分に短縮できたらどうでしょうか?」と質問すると、いきなり経営者は身を乗り出した。
すんなり仕事の契約をいただいたが、実は改善には時間がかかった。

現場の幹部や作業員が、何をしたらいいのか腑に落ちていないようだった。
やり方を教えてもダメだと気がつき、なぜ段取り替え時間を短縮するのか説明する。それでも彼らの心には火がつかなかった。
段取り替えを短縮すする意義(形式知)は理解できているが、まだ暗黙知に落ちていない。そこで段取り替え短縮のアナロジーとしてF1のピットイン作業の話をした。
これで彼らの心に火がついたようだ。翌週に訪問した時には目標の30分を達成していた。


このコラムは、2020年8月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1024号に掲載したコラムです。

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