以前色々な企業の経営理念を調べてみた事がある。グローバル企業であるジョンソン&ジョンソンは、「我が信条」として経営理念(企業の行動規範)を定めている。
我が信条には、企業が果たすべき責任の対象が明瞭に記述されている。
第一の責任:お客様に対する責任。
第二の責任:従業員に対する責任。
第三の責任:地域社会に対する責任。
第四の責任:株主に対する責任。
この信条がだだの文章上の「お飾り」ではない事を示すエピソードをご紹介したい。全米を震撼させた「タイレノール殺人事件」だ。
タイレノールは、ジョンソン&ジョンソンが販売している解熱鎮痛剤だ。
米国ではシェア35%を占める、誰もが知る薬だ。そのタイレノールに何者かがシアン化合物を混入させた。イリノイ州の少女ほか7名の犠牲者が出た。
この事件でジョンソン&ジョンソンは、タイレノールに毒物が混入された事を公表し、125,000回に及ぶTV放映、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけた。約31,000本のタイレノールを回収する為に要した費用は、1億米ドル、当時の為替レートで言うと277億円だ。
回収は、1982年9月29日に最初の犠牲者が死亡した後1週間も立たず10月5日に決断されている。回収以外にも製品パッケージを再設計している。
これらの迅速な活動は、危機管理マニュアルがあったからではない。経営者以下全従業員が「我が信条」を共有していたからだ。8人目の犠牲者は絶対に出さない、という強い使命を持って直接回収に関わった2,500人ばかりではなく全従業員が一体となって努力したのだろう。
その結果事件発生後たった2ヶ月で、事件前の80%まで売り上げが回復したそうだ。
危機管理マニュアルがあったとしても、こうは上手く行かないだろう。
法律の前に道徳がある様に、業務マニュアルの前に理念があるべきだと思う。
このコラムは、2016年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第499号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。
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