教育と培養


 『培養』という言葉は、中国語で育てるという意味だ。
教育という言葉は、教え育てるという意味なので広義に考えると『培養』も含まれる概念であろう。ここでは知識教育という狭義の意味で使っている。

『教育不如培養』教育は『培養』に及ばずという意味だ。知識を教えただけでは、なんら役には立たない。能力を育てて初めて戦力となる。

中国人リーダクラスに言うことは立派だが、行動が出来ない人をよく見かける。
先日は中国人経営者と議論したが、立派な理念を持っておられる。しかしその理念を具体的な形として組織に落とし込むことが出来ていない。

頭で分かっていても行動する能力が開発されていなければ意味がない。いわゆる頭でっかち状態だ。しかも悪いことに知識が他者との差別化要因だと勘違いしている人が多く、自分の知識を他人に教えようとしない。

知識を教えることは重要だが、それを能力に変換することがより重要だ。
わが社は教育に金をかけている、と安心していてはいけない。知識を能力に変換する過程(『培養』)を十分にしているかどうかが問題だ。知識を能力に変換する過程が、OJTだと考えている。

従業員には知識は評価されないことをよく教え込まなければならない。その知識を活かして行動する能力を身につけて初めて評価されるのだ。能力とは、知識を他人に分かりやすく教えるられること、知識を実際の現場で活用できることだ。

最近、統計的品質管理の研修プログラムを作っている。
目指しているのは知識を教えることではなく、能力を育てることだ。普通に知識を教える講義の倍は手間がかっている。

中国の書店に行くと、統計的品質管理について書いた書籍は何冊か見つけることはできる。しかしその基礎となる統計確率理論に関する書籍は、いまだに見たことがない。

同じように、携帯電話の修理のための書籍はたくさんあるが、携帯電話の基礎となる高周波通信の基礎やネットワーク交換技術に関する書籍は見かけない。

余談だが、中国で売られている携帯電話の修理指南書には驚くべきものがある。どこで手に入れるのか、携帯電話の部品表、内部プリント基板のパターン図、レイアウト図まで掲載してある。基礎技術よりは、明日から応用できるテクニックがよりもてはやされている。

統計的品質管理の研修プログラムでは、統計確率理論の基礎がない人に、それを応用・活用する能力を身に付けて貰わなければならない。難しいことを簡単に教える。それを活かす能力を育てる。それが私の任務だと理解している。


このコラムは、2010年6月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第158号に掲載した記事です。

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