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安全規定の遵守

 先週のメルマガで、次の様な安全規定の不遵守問題をご紹介した。
お客様の工場監査で耐圧検査員の感電防止対策が不十分と指摘を受け、作業員にゴム手袋を着用する様に作業手順書を改訂し、対策とした。お客様監査官は、この対策に満足していただけだが、現場はこの規定を守らない。手袋は検査台の引き出しにしまわれており、顧客監査がある時だけゴム手袋を着用する様になった。

耐圧検査は、3000Vの電圧を製品に印加する検査である。通常は検査作業者が高電圧に触れる事はないが、想定外の故障などを想定し危険回避しなさい、と言うのがお客様監査官の指摘だ。

極端な考え方をすれば、仕入れ先の従業員が感電しようがしまいが、ちゃんと良品が出荷納品されれば、顧客は問題ない。自社のメリット、都合だけに焦点を当てず、取引先工場の作業安全にも配慮する。物を買う・売るの力関係だけではなく、互いのメリットを考慮した監査をしコメントをする、監査官としてはこういう心がけを持たねばならない。

しかしゴム手袋着用の対策書に満足した所は、現場監査官としては感性が不十分と言わねばなるまい。私ならば、この対策書を突き返えす。

ゴム手袋の中は汗でびしょびしょになり、作業員は不快感に耐えられずゴム手袋を着用しなくなる。こういう事が容易に想像出来る。そして現場の班長・組長も作業者の気持ちが分かるので、安全規定違反と知りつつ容認することになる。

規定はあるが、守らない。こういう事態を許してしまうと、規定はお客様監査のためにあり、守る必要はないと言う、悪しき風土が蔓延することになる。

お約束通り、耐圧検査員の安全対策をどう考えたら良いか、事例を紹介しよう。

通常は、耐圧検査中は被検査製品に触ることができない様にカバー付きのフィクスチャー(被検査製品を検査装置と接続し、固定する治具)を作る。カバーにリミットスイッチを付けておき、カバーが閉じている時だけ検査電圧が出る様にインターロックを付けておく。こうすれば、耐圧検査中は誰も製品に手を触れる事は出来ない。

ただし、フィクスチャーを作るためにはコストがかかる。
基本部分は共用出来る様にするにしても、全ての機種にフィクスチャーを準備するためには相当のお金が必要だ。指摘を受けた顧客の製品だけ、安全フィクスチャーを使用するのは、上述の悪しき風土の一歩となり得る。

念のために申し上げておくが、従業員の安全は全てに優先する。費用と安全がトレードオフ関係になることがあってはならない。機種が少ない、類似の形態でフィクスチャーが統一出来る、などの事情が有れば、安全フィクスチャーを作る事を強くお勧めする。

しかし費用対効果は考えても良かろう。同等の効果で、もう少し安価な方法をご紹介しよう。

  1. 光電スイッチを使う方法。
     被検査製品と作業者の間に、エリアタイプの光電スイッチを設置し作業者の手が光電スイッチを横切ったら、検査電圧が落ちる様にインターロックする。
  2. 手を近づけない工夫をする。
     耐圧試験開始のスイッチを外部スイッチとする。大方の耐圧検査装置には外部スイッチを接続するコネクターが背面についている。外部スイッチは2個直列接続とし、検査台の手前、検査員が左右の手を置ける
    場所にスイッチを1個ずつ左右に配置する。プレス機の起動スイッチと同じ考え方だ。左右両手で操作しないと起動しない。従ってプレス機に手を潰される事は無くなる。耐圧検査も同様に、感電する事は無くなるだろう。
    検査開始スイッチが手元に来るので、検査装置まで手を伸ばしてスイッチを押す必要は無くなる。安全向上ばかりではなく、作業負担の削減にもなる。

作業者の安全意識を高めるために、検査中は左右のスイッチの所に手を置いておく様に指導をする。
こうしておけば、お客様監査官に対して、作業規律の良い工場と言う好印象を与えることができるだろう。

これらの方法をご参考にされ、独自の方法を考えていただければ光栄だ。
良いアイディアがあれば、ぜひ教えていただきたい。

本件にご興味がおありの方から、メルマガ配信後すぐにメールをいただいた。

I様は偶然同じ問題を抱えておられ、フィスチャーを作ってみたが装着のため作業がロスとなり、更に良い方法をご検討中だった様だ。

T様からは、具体的に蒸れないゴム手袋のアイディアをお寄せいただいた。
蒸れないゴム手袋を開発出来れば、耐圧検査員だけでなく、多くの人達の福音となりそうだ。手袋メーカの方がおられればぜひ蒸れないゴム手袋の開発をお願いしたい。


このコラムは、2013年12月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第338号に掲載した記事に加筆しました。

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地下鉄丸ノ内線車内で洗剤の缶破裂 男女2人重傷

 20日午前0時20分ごろ、東京都文京区本郷2丁目の東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅に停車中の電車内で、「乗客の女性が持っていた缶を振っていたら破裂した」と110番通報があった。東京消防庁や警視庁によると、中に入っていた液体が飛び散って乗客にかかるなどし、11人が手当てを受けた。いずれも意識があり、男女2人が重傷という。
 東京消防庁によると、11人は20代から50代で、男性4人、女性7人。このうちの20代の女性が持っていた容器が破裂したという。メトロによると、缶には「強力洗剤」と書かれていた。東京消防庁によると、女性は、コーヒーのキャップ付きアルミ缶に強アルカリ性の業務用洗剤を入れていたという。

asahi.comより

 アルミニウムとアルカリ性の洗剤が反応し,水素が発生.アルミ缶の内圧が上昇し,その圧力に耐えきれず破裂したのであろう.

こういう事故も人ごとではない.
中国の工場で,プラスチック容器に潤滑油や薬剤を入れているのをしばしば見かける.大きな缶から,使い易い様に小分けにしているのだろう.

しかしプラスチック材料によっては,切削油や潤滑油の様な鉱物性油によって劣化してしまう.ペットボトルなどは手軽に使えるが,酸やアルカリに対する耐性はあまり強くない.

ペットボトルに平気でガソリンを入れているのを見るが,危険きわまりない.ガソリンを入れておいても,短時間ならばPETは劣化はしないだろう.
しかしペットボトルからガソリンを注ぐ時に,ペットボトルが帯電する.絶縁体であるペットボトルから放電することはないが,それを支える人体は導体だ.給油中に給油口の金属に静電気が放電すると,ガソリンに引火し爆発・火災が発生することがある.

また容器を移し替えた場合,入っている物が何であるか表示も必要である.誤用があると大変なことになる.

ある工場で5Sを指導する時に,トイレ掃除用にペットボトルに入ったコヒー色の液体を発見した.掃除係のおばちゃんの説明によると,塗装の前処理に使う酸洗い用薬液の廃液だそうだ.この廃液で便器を磨いていたそうだ(苦笑)
表示がしてないこと以前に,この様な危険な薬液をトイレ掃除に使うべきではない.
表示が無い訳の分からないモノを処分しようとして,事故が起こる可能性も十分に考えられる.

本日のニュースは,現場に訳の分からない液体が,ペットボトルにないか再点検する様に,我々に示唆を与えてくれている.


このコラムは、2012年10月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第280号に掲載した記事です。

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