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リチウムイオン電池発煙・焼損事故

 リチウムイオン電池による発煙・焼損事故が、航空機から携帯端末に至るまで広い範囲の応用で、頻繁に発生している。NITE(製品評価技術基盤機構)の事故情報データベースを検索してみると953件がこの10年間で報告されている。(リチウム以外のバッテリーを含む)

残念なら、こちらのデータベースは「事故の発生原因」を取り扱っており、根本原因であるリチウムイオン電池の発熱原因については簡単な記述に留まっている。

それらの原因をピックアップしてみると

  • バッテリーセルの封口部に製造上の不具合によって生じた導電性異物による内部短絡。
  • 製造上の不具合によるバッテリーセル内の短絡。
  • 製造上の不具合のより負極板上に異物が付着したためセパレータが破損、内部短絡。
  • 電池セルのかしめ工程の作業不良による電解液流出。
  • 充電極性違い(他社製充電器仕様)
  • 落下等による変形でセパレータが絶縁劣化
  • 水没による回路基板のトラッキング。

などがあった。

ほとんどが製造上の不具合となっている。
具体的な不具合の記述はないが、リチウムイオン電池を生産している企業には、どの様な不具合なのか想定出来るだろう。これらの潜在不良を発生ないため、工程FMEAなどにより予め対策をしておく。
電池メーカでなくても「短絡」「かしめ作業」等のキーワードから潜在不良を洗い出し、同様の未然防止対策が可能となる。

またユーザの取り扱いによる事故(最後の3件)に関して、どのような対策を実施すべきか事前に検討をしておく。

なかには、充電器コネクタ部の絶縁不良による焼損事故もあった。
コネクタの絶縁部に使用している難燃剤(赤燐)による絶縁劣化と推定される。この不良現象は、過去から知られており難燃材料を赤燐から臭素に変更する事で対策していた。しかしRoSH指令により、臭素系の難燃剤が使えなくなり再び赤燐を使用する事になり、このての事故が再発している。
これは電池メーカ以外にも大いに参考になるだろう。

この様に他社事例を研究し、自社製品の不具合未然防止に役立てる事が重要だ。


このコラムは、2016年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第504号に掲載した記事に加筆しました。

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B787、遠のく空 原因特定難航

 ボーイング787型機のバッテリートラブルは、運航停止命令を受けて世界中の同型機が1カ月近く飛べなくなる異例の事態になった。日米両国が調査を続けているが、原因は不明だ。国内2社の欠航は約2千便に上り、「夢の飛行機」と呼ばれた最新鋭機の視界は晴れない。

 「認可時の想定より不具合の発生率が高い」

 米国家運輸安全委員会(NTSB)の7日の会見で、ハースマン委員長はこう指摘した。ボーイングは、バッテリーが発煙する確率を1千万時間のフライトで1回以下と想定していた。だが実際は、就航から10万時間以内に日本航空機と全日空機でトラブルが2回起きた。

 NTSBは、日航機の出火は電池内部のショートが発端だとしている。電池のプラスとマイナスがつながってしまう現象だ。ショートで発生した高熱が電池の化学反応を促し、さらに高温になる「熱暴走」が起き、並んでいる電池に広がった。ただ、ショートの原因はわかっていない。

 高松空港に緊急着陸した全日空機のバッテリーでも熱暴走があったことがわかっている。日本の運輸安全委員会は、製造元のGSユアサ(京都市)に持ち込んで分解を続けるが、詳細な調査は難航している。

 熱暴走の原因は何か。東京理科大の駒場慎一准教授(電気化学)は「過充電を挙げる。リチウムイオン電池は容量を超えて充電すると、溶けた金属リチウムが内部でとげ状になり、プラスとマイナスの電極をつないでしまってショートを引き起こすという。

 リチウムイオン電池は国産充電池の7割を占め、電気自動車やノートパソコンにも使われている。燃えやすい有機溶媒を使っているので過充電を防ぐ保護回路があるのが一般的だ。駒場准教授は「保護回路がうまく機能しなかったか、保護回路の限界を超えた瞬間的な電圧がかかった可能性がある」と指摘する。

(asahi.comより)

 メルマガ293号で取り上げた,B787機のバッテリー焼損事故の続報だ.

焼損事故の原因究明は相当難しい.

出火元(バッテリィ)の特定は比較的簡単だが,なぜバッテリィが出火元となったかを,現物の解析から特定するのは,困難な場合が多い.「陽極と陰極がショートし,熱暴走が発生した」と原因特定が出来た様に見えても,ではなぜ陽極と陰極がショートしたのか?と更に原因特定を進めようとすると,証拠が残っていないことが多い.全てが燃えてしまっている.

つまり陽極と陰極がショートしたというのは,まだ現象レベルであり,原因ではない.

電池内に残留または混入した金属粉によるショート.
電池内の絶縁セパレータの絶縁不良によるショート.
充電電圧が高いことにより,リチウム金属が析出することによるショート.
などショートが発生する原因の他にも,電池の短絡による内部温度上昇による焼損も,事故後には見分けがつかなくなっていることが多い.

例えば,電源コードを束ねている結束帯「ねじりっこ」の芯は金属製の方が作業性がずっとよい.しかしプラスチック製の芯材を使った物が一般的だ.それは,万が一火災事故が発生した場合に,金属芯を使った結束帯の場合は針金だけが燃え残るからだ.燃え残った現物調査で,電源コードの結束帯が火災の原因と特定されては困るので,作業性が悪くてもプラスチック芯の結束帯を使う.

焼損してしまった物から,事故の真因を分析するのは困難な作業となる.
通常は,可能性のある原因を列挙し,再現実験またはシミュレーション実験をすることになる.

例えば充電回路の不良が原因であっても,焼損を受けており,特定するのは難しい.

製造時の検査記録から機能的に問題がないと分かっても,出荷後に問題が発覚することはままある.例えば,出力電圧を決定する部品が,出荷後劣化し電池に高電圧がかかっても,証拠はすべて焼けてしまっている.

今回の事故は,電池,充電回路,保護回路のメーカがそれぞれ別のメーカになっている.これも原因解析を難しくする要因となる.


このコラムは、2013年2月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第296号に掲載した記事に加筆しました。

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B787トラブルの原因、バッテリーか全体のシステム設計か

 全日本空輸が運航する米ボーイング787型機が高松空港に緊急着陸したトラブルで、国土交通省運輸安全委員会は17日、同機のメーンバッテリーが黒く炭化していたことを明らかにした。バッテリーはジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)が供給するリチウムイオン電池。原因は特定できていないが、かつて発火トラブルが起きた電池の安全性が再び問われることになった。

 今回のトラブルで米連邦航空局(FAA)は世界で飛ぶ787型機の運航を当面見合わせるよう航空各社に命じた。バッテリーの安全が確認できるまでとしており、期限は明示していない。

 運輸安全委によると緊急着陸した787型機のバッテリー内部は真っ黒に炭化。
電解液などが噴き出したとみられ、重量は約5キロ減っていた。金属製のバッテリー容器は2センチほど膨張。過剰な電流や電圧によって電解液が過熱して噴き出した可能性があるという。

 GSユアサは17日、技術者3人を高松空港に派遣。運輸安全委の航空事故調査官らと合流し、原因究明を始めた。18日朝には米運輸安全委員会(NTSB)やFAA、ボーイング社から計4人が加わり、安全委と合同で調査を進める予定。

 バッテリーの重点調査が進むのは、米ボストン国際空港でトラブルが起きた日本航空の787型機の出火元もバッテリーだったため。GSユアサはボストンにも技術者を派遣、調査をしている。

 リチウムイオン電池は小型で大容量の電気を蓄えられる。ただ従来のニッケル水素電池より過熱・発火しやすいとされ、2006年にはノートパソコン用のソニー製電池が発火、大規模回収に追い込まれた。原因は製造工程で異物が混入、ショートしたこととされた。

 こうした経験を踏まえ同電池で先行してきた日本メーカーは安全のノウハウを蓄積。GSユアサは三菱自動車の電気自動車やホンダのハイブリッド車向けにリチウムイオン電池を供給。高い安全性が必要な車載用や産業用で実績を積んできた。

 787型機の調査ではトラブルの原因がバッテリー自体にあるのか、システム全体にあるのかが焦点。GSユアサ幹部は「バッテリーは周辺部品と組み合わせたシステムとして運用される。単体で発火・過熱することは考えられない」と語る。

(日経電子版より)

 B787機は,開発が3年間遅れた上に,立て続けに問題が発生している.
新聞の報道から判断すると問題は,燃料漏れとバッテリー焼損の二つある様だ.

バッテリー焼損は,本記事の1月16日高松空港での全日空機の発煙事故以外に1月7日にもボストン空港で日本航空機が火災事故を起こしている.

両方とも,今回旅客航空機に初めて採用されたリチウムイオン電池が原因となっている.

事故を起こしたANA機は,昨年就航し1ヶ月後に電気系統に不具合が見つかっている.10月にはエンジンがかからずバッテリーを交換したと言う.
実はこの機体固有の問題が,まだ解決せずに表面的な処置(バッテリー交換)しか出来ていないのかもしれないが,事故の頻度を考えると,波及性のある問題の様だ.

以前リチウムイオン電池搭載の携帯電話でやけど事故,ノートPCで発煙事故が発生した.電池内の異物によるショート,過充電による発熱などを,製造の技術,充電回路技術で克服して来た.民間航空機では初の採用だが,自動車,戦闘機,人工衛星には既に採用されていると聞く.

飛行のメカニズムを電気化し,機体を軽量化する事が可能になり「低燃費」をB787機のセールスポイントとして実現している.その陰の立役者がリチウムイオン電池だ.

30数年前,駆け出しのエンジニアだった頃,リチウム電池を製品に搭載するために評価実験をしたことがある.電池に関する知見がなかったので,リチウム電池に関する論文を片っ端から読んでみた.リチウム電池の安全性評価実験に「ショットガンテスト」というのが有り,驚いた事を今でもよく覚えている.電池をショットガンに詰めてオーク材の板に撃ち込む試験だ.ずいぶん乱暴な評価試験をするモノだと驚いた.リチウムという材料に対する不安を,消去するにはそのくらいの事をしなければならなかったのだろうと推測している.

B787の開発でも,慎重に評価が行われたはずだ.航空機の故障は,一気に数百人の命が失われるリスクを持っている.故障は限りなくゼロに近くしなければならない.初期故障は起こるモノ,などと言う言い訳は通用しない.一号機から事故ゼロを目指さなければならない.

世の中で発生している故障や事故のほとんどは,再発事故と言える.
今回の事故は,以前のリチウムイオン電池事故の形を変えた再発なのか?
それとも,新たな原因による事故なのか?
今後発表されるであろう,事故調査の結果を注視したい.


このコラムは、2013年1月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第293号に掲載した記事に加筆しました。

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