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人財のマルチタレント化

Z様のご投稿には、続きがある。

ちょっとひとつ気になったのは、H様の投稿の中に、「手順書らしい文体にするのは班長の仕事」とありました。各企業班長と言う職位の方のスキルや経歴は様々とは思いますが、概して現場の作業者から技能や統率力に秀でた方を、班長に据えられている企業が多いのではないかと思う。僕の日本工場の例をとると、大半は入社後技能職として経歴を積み、30代半ばから後半で班長となるのが、班長の標準的な経歴です。彼らがもっとも苦手とするのが文書化です。つまり入社後文書を書くと言った業務の経験がないのです。
20代の若手に勉強として苦手な業務もやらせるのは良いかもしれませんが、30代も半ばを過ぎた、「長」と付く職位の方に、苦手な業務を押し付けると、中々進まないものです。

実際僕のいた日本の工場もISO9001取得時に、この作業を班長、作業長に押し付けていましたが、結局無理矢理作らせた作業標準は、実際の作業を知っている人しかわからない意味不明な文書が多く、更に実作業を知らないシステム管理者が手を加えより意味不明な文書になって、実効性のないものになってしまった記憶があります。

やはり実務をある程度熟知したホワイトカラーがブリッジにならないと上手く行かないのではないかと思います。また、そのようなブリッジとなる人材そのものを育てる仕組みが必要かと思います。

H様の現場作業員はパートさん、Z様の現場作業員は技能工である。職場の形が違うので、このような差が出たと考えている。

知り合いの中国縫製工場では、ベテランの作業員を監督職に昇格させようとすると、読み書きができないからと辞退してしまうそうだ。

現状を考えるとZ様のご指摘のように、作業を文書化するのは現場よりの技術者のほうが良いだろう。

しかしこれからは、作業員もマルチタレント化をしてゆかないと競争に勝てなくなってゆく。作業者と言えど、PCを使いこなし作業指導書の一つも作れなければ職にあぶれてしまう時代になってゆくだろう。

QCC活動などで鍛え、作業者のマルチタレント化を進めてゆかなければならないと感じている。

雇用を守るということは、従業員の能力を高めてやることだ。


このコラムは、2009年1月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第79号に掲載した記事です。

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作業標準を守る

 先週のメールマガジンで作業標準について記事を書いた。

せっかく作業標準を決めても守られない。こんな事が往々にしてある。
守られないのには必ず理由がある。「品質意識が低い」の一言で片付けてしまっている例をよく見る。これでは対策の立てようがない。理由を明らかにしてきちんと対策を打つべきだ。

  • 作業標準があるのを知らない
     作業標準どおりに作業をしなければならない事をきちんと指示をするのが大前提である。作業手順書などにきちんと明示して文書化しておく必要がある。
  • 作業標準があるのを知っているが守れない
     知っていて守らないのはちょっと深刻だ。この場合にも理由はあるはずだ。やむを得ず守らない。つまり作業標準を守るのが困難な場合だ。ついうっかり守らなかった。これは作業標準を守る必然性がきちんと理解できていないと考えるべきだ。
  • 作業標準を守るのが困難
     作業標準にムダ・ムラ・ムリがある場合はしばらくの間守れてもいつかは守られなくなる。
    例えば不具合対策として重点目視項目を追加する。しかしタクトタイム以内で他の重点目視項目を検査する事が出来なくなってしまうことは往々にしてありうる。ムダ・ムラ。ムリを徹底的に排除して作業標準を作るべきだ。
    または作業者の技能が不十分で守れない場合もありうる。
    作業者の技能訓練をきちんとする。作業を簡素化する。治具や設備を工夫して誰でも作業できるようにすべきだ。
  • 作業標準を守る必然性が分からない
     作業標準が守られないと、どうなってしまうのかきちんと教えておく必要がある。どう作業すべきか(How)だけではなく、どうしてそうしなければならないのか(Why)をきちんと教えておく。
    それでも人間がする作業であれば、「ついうっかり」というのは発生する。
    作業標準どおりに作業をしなければ次の作業に移れないようにしておくなどの工夫が必要だ。
    例えば4箇所ネジ締めをする作業では、作業前に4本ネジを小皿に取り置き、作業終了時に小皿のネジの過不足がない事を確認する。ちょっとした作業追加で「ついうっかり」を防ぐことは出来る。
  • 故意に作業標準を守らない
     残念ながらこういうこともありうる。
    罰金・減給制度などの手を打っておられるところもあるだろう。しかしそれ以前に自分たちの仕事に対する「誇り」を持たせるところから始める必要があると考えている。
    牛乳を水で薄めメラミンを添加してタンパク質量のつじつまを合わせる、などという行為はこの例に当てはまるだろう。自分たちの仕事は国民の健康生活に貢献しているのだという「誇り」があればこんなことにはならないはずだ。

更に作業標準が守られている事を確実にするための工夫も必要だ。
例えばチェックリストなどは、きちんと作業標準が守られている事をダブルチェックする事が出来る。


このコラムは、2008年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第54号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

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作業標準

特に中国の工場では作業員の流動性が高いので、作業標準をきちんと決めておく必要がある。
新人作業者がラインに入るたびに、品質不良が発生したり生産性が落ちたのではやっていられない。

品質が一定のばらつきにおさまるように、品質リスクを排除できる作業方法を検討しそれを作業標準とする。また生産性が一定のレベル以上になるように、モノの置き方、モノの取り扱い方などを含めて作業方法を検討しそれを作業標準とする。

したがって作業標準というのは最低限やらなければいけない作業、やってはいけない作業で構成される事になる。言ってみれば、品質も生産性も要求下限を下回らないようにするようにするのが作業標準である。また作業標準というのは制定した時の最良の方法であるから、その後も最良の方法であり続けるという保証はない。いってみれば「進歩」をある時点でいったん凍結することである。

作業標準を決めた瞬間から、作業を観察しムダ・ムラ・ムリはないか、更に良い方法はないか検討すべきである。

作業標準は通常文章の形で共有されている。
標準作業指導書、作業チェックシートなどのような形にして作業者が理解し共有できるようにする。分かりやすい事が重要である。文章でわかりにくければビデオを利用するなどの工夫が必要だ。

このようにして決めた作業標準はきちんと守られて初めて意義がある。


このコラムは、2008年9月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第53号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

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作業標準化のコツ

 今週のお題にご投稿をいただきました.ありがとうございます.
今週号の記事はこちら

【今週のお題】
 皆さんは作業現場の工夫をどのように作業標準化しているだろうか.

Z様のご投稿

 僕は現場の作業標準というものは作ったことがありませんが、製作指導書は日々作っています。多くの場合、日本工場の班長や熟練技能者にヒヤリングして工程のポイントとなる部分だけをピックアップしていることと、品質確保を重点に作ってことが作業標準との大きな違いです。
 作る僕の語学力の問題もあって、図面追記型(=製作指導図)と写真中心型のいずれかですが、大抵日本語版を作ってから、翻訳して中国語版を作ります。上手くまとめられた時は、中国のサプライヤーから感謝されるだけでなく、日本の技能者からも自分のノウハウが、目に見える形になったことで喜ばれたこともありました。

Z様は機械加工部品の中国調達のお仕事をされている.
通常のバイヤーであれば,設計者が描いた部品図面を右から左に加工業者に渡しても仕事は勤まるであろう.品質とコストに対する飽くなき追及が,自ら製作指導書を作る原動力となっていると推察した.
部品図面にちょっと加工順を記入してやっただけでも,品質やコストに影響を与える事が出来るはずだ.

技能者というのはえてして文書化や図面化が得意ではない人が多い.
図面を見ただけで頭の中で加工順を考えられるのは,ベテラン技能者のノウハウだ.これを若い技能者に伝えるのはそうは簡単ではない.
一つ一つの製作指導書がノウハウ事例となり,日本での技能伝承にも役に立っているのであろう.

K様のご投稿

 作業標準化ですが、弊社でのやり方は、

  1. 生産開始前に図面作成担当がサンプル基板と図面を見ながら、各工程毎に作業を割り振り、それぞれの図面を作成する。
  2. 実際の生産開始時、図面作成担当、管理者で作業現場に行き、現場での問題点、改善点を手書きで記入する。
  3. 手書き修正図面を電子データに展開し、図面が完成。

 このやり方である程度完成度の高い図面は出来ていますが、まだ作業者の意見を取り入れるところが弱いと思っています。作業者が自由に発言し、管理者がそれを受け入れて図面に反映する環境を作っていく必要があると思っています。
 また、1.の図面作成はベテラン(10年選手)が行なっているので、今までのノウハウなども最初から盛り込めていますが、その人が居なくなったことを考えると、今の内に後継者を作っておく必要があります。
あと、図面フォーマットの改善点として、右上に枠を作り、各工程での作業箇所数を見易く記入する様にしています。(はんだ付け箇所:9箇所、ねじ締め箇所:4箇所 など)
作業者に数を意識させることで、作業モレを防ぐのが目的です。

詳しい作業標準策定の手順を書いていただき,皆さんのご参考になったと思う.

私が生産委託工場で指導した時は,1.の段階を,現場班長クラスの作業員で構成された「試作製造チーム」と生産技術員が一緒に試作品を作ることで対応していた.

ベテランの生産技術員は,作業中にどんな不具合が発生するか読めるのであらかじめそれを回避する作業手順を作れるのだと思う.従ってベテランのノウハウを若手に伝承するのは,工程FMEAのフォーマットで潜在不良項目を伝承するのが良いと思っている.

最後の作業点数を作業指示書に書き出しておくというのは,すぐにでもベストプラクティス(まね)すべきポイントだと思う.
私も以前,電子部品の極性チェック工程で同じように作業指示書にチェック点数を書いた事がある.このときは点数が多すぎて作業者にカウンターを渡さなければならなかった(苦笑)

お二人のご投稿は,同じように文書化することで作業を標準化するというアプローチであった.

その他にもビデオ映像で作業を標準化する方法もありうる.
文章や図解では表現しにくい作業もある.こういう場合はビデオで撮影したモノを作業訓練に使い作業を標準化する事が出来るだろう.

例えば,段取り換え作業を効率よくしようと思うと,作業内容を箇条書きにしただけではなかなか表現しきれない.実際に作業をしている場面を撮影し,ポイントをナレーションで入れておく.
定期的に「段取り換え作業コンテスト」を開催し優勝者の作業がビデオ教材に採用される栄誉を得る.

作業標準は決めた日から改善対象になる.このようなイベントで作業標準を改定していくと,作業者のモチベーションアップも同時に狙える.文章による作業指示書は改善したら手書きでも良いから、すぐに書き込むようにすべきだ.


このコラムは、2009年1月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第79号に掲載した記事です。

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続・作業の標準化

 先週の作業の標準化に対してメルマガ読者H様から投稿をいただいた.
皆さんとシェアしたいのでご紹介する.

H様のアイディア

作業標準書を作るのが一番上手なのはそこの職場に長年いるパートのおばちゃん(笑)

それも、いきなり「作業標準書」を作るというと相手もひくので(苦笑)
料理好き?得意料理何?という話題から入って、「その料理どうやって作るの?」と聞くとこうやってあーやってとわかりやすく言ってくれます。

「そうやると上手にできるん?」と聞くと必ず「そうよー」と言ってくれるので、そこで、「それなら、その料理が上手にできるみたいに、今やっている仕事はどういう風にするか教えてよ」というと、意外とすらすらと出てくるものです。

この時は、思いっきり口語でいいと思います。あと、手順書らしい文体にするのは班長の仕事(笑)

私の経験では、この方法で口説き落として作成してもらっていました。
その職場の人の意見も取り入れることにより、「班長や職長が勝手に作った」という気持ちがなくなり(この気持ちがあると形だけの作業書になってしまいます)
のちのちスパイラルアップにも役立ちます。

あと、作業標準も時と場合により、掲示や記録表に併記も有効に活用するといいですよね。

本来作業を一番熟知しているのは,班長でなければならないはずだ.しかし毎日同じ仕事を何百,何千回と繰り返している作業者の方が熟練している.その熟練の過程で小さな工夫の積み重ねで,班長より速くかつ楽に作業をするコツを体得しているものだ.

これはなかなか言語化するのが難しい.
これをH様のようにまず話しやすい雰囲気を作り,そのコツに焦点を当てて聞き出す.聞き出した内容を作業標準に落とす.この「キキダス」作業標準が作業者の効率のばらつきを埋めより高い生産性を実現する.

非言語的なコツ(暗黙智)を他の作業者でも分かるように形式智化するということだ.

更にH様がご指摘しているように,作業標準は自分達の工夫を盛り込むものだという理解が更に良い作業標準に進化する.
「ねぇねぇ,こんな風にやってみたらもっとうまく行くよ」という会話がおばちゃんたちから出てきたら最高だ.

作業標準は決めたその日から改善の対象としなければならない.

M様からもメールをいただいた.

いつも、楽しく読ませていただいています。
私も昨年まで、6年間中国の工場に駐在していましたがいまだに作業指導書がない工場があったのは驚きでした。
中国も不況で大変でしょうが、これからもがんばってください。

機械設備など一品物を造られている工場は別として,日系工場で作業指導書がないところはまだ見たことがない.
メルマガで紹介した中国企業のように,日本人の指導が入っていない工場だとまだこんなものなのかも知れない.

まだまだ日系企業の優位性がある.

さて今回は【お題】を用意した.
皆さんは作業現場の工夫をどのように作業標準化しているだろうか.
皆さんの工夫をご投稿ください.


このコラムは、2009年1月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第78号に掲載した記事です。

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作業の標準化

 製品の品質や生産性を均一にするために作業の標準化は欠かせない.
その標準作業手順を文書化したのが作業手順書とか,作業指導書などと呼ばれているものになる.

殆どの工場には,優劣の差はあっても作業手順書の類はある.
しかし今全く作業手順書を持っていない工場を初めて指導している.製造現場に唯一あるドキュメントは,製品の分解図でありこれは作業者向けとは言いがたい.明らかにエンジニア向けである.

この工場では,そのエンジニア向けの図面を班長さんが作業者向けに噛み砕いて作業指導をして生産している.したがって班長さんの力量によって生産性が変わってしまう.

また作業指導が十分でないところについては,作業者ごとにやり方が変わっている.
例えば狭いスペースに部品と配線を押し込むようにして組み立てなければならない製品がある.この作業がネック工程になっており4人の作業員で分担しているが,全員が違う作業方法で作業している.したがって出来上がりの製品は4種類の異なる配線経路を持っている.

また班長さんごとに,経験値が違うのでラインごとに違う作業方法を取っている.これで製品の品質や生産性に大きなばらつきが出ている.

実はこの工場にも以前は作業手順書があり,工程順を決め,その工程ごとに写真入りの手順書を作っていたという.しかし4000品目もある製品の手順書を造りきれずに途中で断念し,分解図だけで生産する方法を選んだようである.

一人の班長さんに,こういう状況をどう思うか?とたずねてみた.
彼曰く,
作業の生産性や品質を決めるのは作業員の「心態」(中国語で意識とか精神状態の意味)である.作業標準を勝手に決められてしまうと,現場の変動に合わせられない.

言うことは立派だが,偉そうなことを言う前に製品の品質と作業員の生産性を均一にしなさいと言いたい.

この工場では,製品は班長さんの「暗黙智」で生産されているといって良いだろう.暗黙智は他の班長さんや作業員と共有する事が出来ない.暗黙智は「形式智」に変換することによって始めて他者と共有する事が出来る.暗黙智を形式智に変換したものが標準作業手順だ.

全く標準作業手順書を作った事がない人たちに指導をするのは易しい.教えれば良いだけだ.
しかしこの工場のように一度挫折した人たちに,標準作業手順の重要性を説いて再度作業手順書を作らせるのは骨が折れる.

まずは品質と生産性に重要なインパクトを与えるところから,簡単に作業手順書もどきを作って教えてゆこうと考えている.


このコラムは、2009年1月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第77号に掲載した記事です。

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