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品質不良のアフターフォロー

 以前一緒に仕事をした台湾人から久し振りにSkypeでチャットの呼び出しがあった.

生産委託工場の品証部経理をしていた人で,お互い職場が変わっても時々連絡をくれる.
中国語でのチャットは正直疲れるのだが(笑)昔一緒に仕事をしていた人から連絡がもらえるのは楽しいものだ.

今彼は蘇州方面にある,医療器具メーカの品証経理をしている.今回の報告は客先からの不良クレームの件であった.

OEMユーザに出荷した新製品第一ロットの製品の主銘版ラベルの貼り方向が間違っている,というクレームだ.

ちょうど国慶節休暇の最中であったが,彼は休暇中どこにも行くあてがなかったので(笑)即バスと電車を乗り継いで顧客の工場に出向いた.

顧客側はすぐ来てくれるとは考えていなかったようで,休暇中の訪問を大歓迎してくれた.
彼は叱られると覚悟をしていったのが,嬉しい肩透かしであった.
しかも帰りには,次のロットからシェアを上げてもらえる,という約束をもらって帰ってきた.
営業がいくら頑張ってももらえなかったシェアをいとも簡単にもらえた.
そんな事を嬉しそうに話してくれた.

しかし喜んでばかりはいられない.
原因の特定と再発防止が必要である.例によって「作業者に注意します」という報告書を書くつもりだったようだが(苦笑)事情を聞いてみると,最初の仕様決めのときに問題があったようだ.

OEMユーザの図面にはラベルの方向が明示してなかった.

彼には受注時に,顧客仕様が製品設計に十分な情報が揃っているかどうかもレビューするようにアドバイスした.

顧客不良に対するアフターフォロー(後始末)も大事だが,不良を発生させないビフォアフォロー(前始末)はもっと重要だ.

以前開発のエンジニアをしていた時に,新製品に某OEMメーカのCRTディスプレイを採用した事がある.
採用決定後OEMメーカの品証部から最終完成品を見せてくれと申し入れがあった.OEMメーカの品証エンジニアは我々の製品をチェックし,高電圧(25kV)のアノードキャップから25mm以内に金属筐体があるので設計変更をしてくれと申し入れてきた.

アノードキャップは絶縁体でできており,アノード電極(25kV)がむき出しになっているわけではない.従って筐体を設計変更する必要はないと感じたが,OEMメーカの心意気に感心した私は,すぐにメカ設計チームに設計変更を要求した.

こういうのが本当の品質保証活動だと思うのだ.


このコラムは、2008年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第59号に掲載した記事です。

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作業員の質

 最近SNSを利用して中国企業の人事部門、品質部門の人たちと議論を始めた。日本人は私一人(笑)他は全部中国人幹部だ。

ある民営企業の品質部門幹部が、こんな悩みをSNSに揚げた。この企業はSMT部品を実装機にかけられる様にテーピングの作業をしている。作業員の60%が臨時工だ。

しばしば異部品を混入させ顧客クレームを発生させている。品証部門は顧客に対しするクレーム処理に忙しい。彼は臨時工の質が悪いからクレームが発生すると愚痴っている。

SNSのメンバーからは様々な意見・アドバイスが飛び交う。

  • 教育が足りていない。
  • システムに問題がある(ミスに対して罰金だけで、褒賞が足りていない)
  • 工程に問題がある(自動化すればミスはなくなる)
  • 経営者の従業員に対する「愛」が足りない。

臨時工の質に問題があるから、教育する、褒賞を与えてやる気を引き出す。
しかし出された対策では、効果が確信できないと私には思える。

例えば、東京ディズニーランドは90%の職員が臨時工だ。それでも一人一人の従業員が自ら工夫し、顧客の感動を目指して仕事をする。だから多くの顧客がリピータとなって業績が上がる。

確かに「教育」は重要だ。東京ディズニーランドでは1日だけの臨時工でも例外なく1日の導入教育をする。スターバックスでは80時間の導入教育をしているそうだ。この教育の目的は、企業の目的を明確にし従業員の役割を理解させる事だ。
今現在顧客クレームを垂れ流している現状には何ら役に立たない。血を流している患者に、健康の意義を説いても始まらない。

この企業に今必要なことは、まずクレームを撲滅することだ。
現場を見ていないので、確かなことは言えないが、作業そのものが異部品混入のリスクを抱えていると思える。

  • 部品置き場の識別管理ができていない。
  • 作業完成品の識別管理ができていない。
  • 同じ作業台に複数の部品が置いてある。

など現場の問題をしっかり見極めれば、自動化(テーピング中にAOI検査)などの設備投資をせずとも、5Sの徹底で解決するだろう。

その上で、自分たちはなぜ働くのかを明確にし、それを企業文化として育てる。
その役割の責任者は経営者自身だ。経営者の心を変えなければ、この企業は「絶望の工場」のままだろう。


このコラムは、2018年6月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第678号に掲載した記事です。

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品質クレーム

 エアーバックの回収問題、杭打ち作業のデータ偽造問題などが、社会的にも大きな問題になっている。過去にも品質クレームがきっかけで廃業した牛乳メーカがあった。

一方、1件の異物混入事故で全数市場回収・生産停止をした焼きそばメーカの事例も記憶に新しい。このメーカは事故発生後すぐに生産設備の刷新を決断している。その間市場からは自社製品が消えてしまう。通常ならば消費者から忘れられてしまい、生産を再開しても売り上げは激減してしまうだろう。
しかし事態は逆だった。生産停止期間中も、消費者から激励のメールや電話があったそうだ。生産再開後は以前よりも市場占有率を上げた。

品質クレームをきっかけとし社会的信頼を失ってしまい、倒産してしまう企業、品質クレームがあっても、顧客が離れない企業との違いは何だろうか。

もちろん熱狂的なファンがいる事も要因だろうが、品質クレームに対する処置・対応の差が重要要因と考えている。この違いで、一方は倒産、一方はシェアアップと雲泥の差が付く。

前職時代にこんな経験をしたことがある。

あるお客様向けの、内蔵電源を受注した。
第一ロットの生産が完了し、出荷判定会議を開催した。出荷判定合格の基準を全て満たしていたが、工程内不良0.7%が全て同一部品による不良であった。しかし不良原因は、部品メーカにて解析中でありまだ不明。このため出荷判定不合格とした。
しかし、出荷を止めれば顧客から納入遅延クレームをいただくことになる。
工場には、該当部品を全て(検査良品も)セカンドソース部品と交換、再検査、全検査データで工程能力の再計算をした上で出荷準備をしておく様に指示をし、翌日顧客に、事情説明とお詫びに訪問した。

当然叱られると思い、技術部長も帯同した(同じ叱られるなら2人の方が若干でも心強いと思った・笑)
しかし出荷停止の説明をした後、腕組みをしていたお客様から信じられないお言葉をいただいた。
「さすが横河さん。御社にお願いして正解でした」

実はこのお客様は、従来から電源は自社設計する事に決めており、外部に設計を含めて委託する事は初めてだったそうだ。しかし電子回路設計者が、ディジタル回路にシフトしてしまい、電源設計者が減少。従来の設計を伝承しながら製品化していたが、基本設計が古くコストダウンが思う様に出来ない。そのため同じ業界の競合他社にも電源を供給している前職の会社にオファーをいただいたようだ。

初めての製品で、第一ロットから納期遅延。当然信頼を失っても仕方がない場面だが、逆に信頼を得る事が出来た。
これは正しい処置と対応が出来たからだと考えている。


実は周辺装置のプロキュアメントエンジニアだった頃から品質保証を担当した期間、相当の修羅場を経験して来ました(笑)
第八回品質道場「顧客クレーム対応」では顧客クレームに対する処置・対応に関して私の経験をお伝えします。


このコラムは、2015年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第450号に掲載した記事に加筆したものです。

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