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【儲かる工場の作り方】第八話「自働化」

人机协和
「自働化」の定義

ニンベンの付いた自動化として「自働化」という言葉は広く知られている.その定義は豊田式自動織機の豊田佐吉にまでさかのぼる.
当時の自動織機は経糸が切れてもそのまま生産を続けた.つまり不良を造り続けてしまう.
豊田式自動織機は異常が発生すると直ちに停止する機能を持つ.機械が停止することにより,経糸のつなぎが可能となり不良を造り続けることはなくなった.
これが「自働化」の始まりであり,定義だ.しかし今時の機械で異常が発生しているのに不良を作り続ける機械はないだろう.
異常を検知し自動停止するというだけでは「自働化」を説明しきれない.人と機械が調和を持って仕事をする.そのための仕掛けの一部が自動停止の機能だ.
自働化の概念を表す新四文字熟語「人机协和」を作ってみた.

人と機械の調和

人の作業にも自働化は適用可能だ.コンベアで流れ作業をしている作業員一人ひとりが異常を発見したらラインを止めて,問題解決・改善をする.この改善を継続することにより,ラインストップのロスより大きな生産性向上メリットが得られる.
このように,自働化の発想は機械設備だけに適用されるわけではない.
生産機械の能力を目いっぱい引き出すために,作業員が機械に奉仕する.昔チャップリンが映画「モダンタイムス」で工場の歯車になる工員を風刺したが,現代版「モダンタイムス」では自動生産設備に仕える工員の悲哀ということになろう.
自働化の根本理念は,人が人としての尊厳をもって生産活動をするということだ.人が機械に知恵と工夫を与え,機械が人の働きを助ける.こういう発想が自働化だ.

自働化の導入

自働化の導入で重要なことは,まず生産の流れを看える化することだ.分断した生産の流れをそのまま自働化してしまうと,ムダも一緒に機械化してしまう.
例えば子部品・前加工などまとめ生産して組立てラインに投入しているのを,そのまま機械化してしまうとムダが解消されないままとなる.まずは生産の流れを一気通貫生産とする.その上で機械化の検討をすれば,過剰な生産能力の設備に投資することもないだろう.
全自動の生産設備は目指さない.人と機械が調和を持って生産できる自働化機械を目指す.
非常に単純なメカニズムだがマイコンの力で複雑な動作が可能.作業台に乗るサイズの半自動機が立派な自働化機械となる.
こういう装置を昔のカラクリ人形に習い,カラクリ自働機と称している.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年1月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第七話「リードタイム短縮」

一気通貫生産
才気より調和

『才气过人』とは秦末期楚の武将項羽のことを指して言う.史記によると項羽は身の丈八尺,重い鼎を楽々持ち上げる.才気がぬきんでていた人物だった.
戦闘では非情な強さを示し,『破釜沈舟』の戦いも有名だ.しかし才気だけでは国は治められない.調和を持って人心をつかめなかった項羽は四面楚歌の元自殺するという最期を遂げている.
国の統治には,人と人,国と人,国と国の調和がなければならない.

工場の調和

工場も同様に,人と人,会社と人,会社と社会の調和の元に経営されなければならないだろう.
その上でQCDのパフォーマンス調和が必要だ.品質(Q)コスト(C)納期(D)を顧客の期待を越えた高いレベルで調和させることが必要だ.
例えば納期,顧客の指定納期どおりに出荷するというのではまだ足りない.業界の常識を超えた生産リードタイムを実現して,フレキシブルな納期対応を顧客に提案する.これが実現できればコスト的に不利な状況でも,競合に勝つことが可能となる.
あるネジメーカは,寿司バーコンセプトを実現させ,ねじ1本から受注生産し即納する体制を構築した.つまり握り寿司のカウンターと同様にお客様が必要なときに,必要なだけ生産して供給することができる.
このネジメーカが生産するのは汎用ネジではない.しかし特殊ネジだから実現可能,汎用ネジでは実現は不可能と考えたら絶対に実現することはできない.考えようによっては,汎用ネジを本当に1本発注する人はいないわけだから,汎用ネジのほうが実現が容易ともいえるだろう.

一気通貫でリードタイム短縮

非常識な生産リードタイムを実現するためには,まずは工程ごとのまとめ生産をやめることだ.部材投入から出荷梱包までの工程を一気通貫で生産する.
一気通貫生産をすることで,工程ごとの滞留がなくなる,工程間での取り置きの無駄がなくなる,問題発生時の後戻りを最小に抑えられる,というメリットがある.
プラスチック部品を生産しているある工場で,工程ごとのまとめ造りをやめて一気通貫生産に切り替えた.切り替えの初日から十数日かかっていたリードタイムが,一日半になった.
一気通貫生産にする.そして問題が発生したらすぐにラインを止める仕組みを作る.
ラインの停止が改善のチャンスになる.まとめ造りをしていたときには気がつかなかった問題点が見えてくる.これを次々に改善してゆくことで非常識なリードタイムを実現できる.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年12月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第六話「レトロフィット」

レトロフィット
見栄えより工夫

仕事柄工場を見せていただく機会が多くある.見栄えの良い立派な社屋や最新の設備よりも,独自の工夫,独自のスタイルを持っている工場のほうが感銘深い.
以前学生の工場見学に付き合ったことがある.NPS生産方式を取り入れた自慢の工程を案内した.学生の反応は「最新オートメーションの工場を想像していたが,手作り風の生産ラインで意外だった」という感想だった.
私に言わせれば最新の創意工夫を凝らした生産ラインだが,この手のすごさは外見では分からないのだろう.
中国にも創意工夫を凝らした工場がある.その生産現場を一目見て思わずうなった.旧式生産設備をぴかぴかに磨いて使っている.そして古さを自慢するように年式を示すプレートまで付けてある.
しかもそれぞれの機械に最新の創意工夫がしてあるのが分かる.「温故知新」という言葉がしっくりする工場だ.

古きを使いこなす現場力

ただ古ければよいというわけではない.古い設備を徹底的にメンテナンスして,新品同様に使いこなす.並みの現場力ではできないことだ.
中華系のある工場は最新式の設備をドンと並べている.しかしその設備を見ると,肝心のところがきちんと清掃されていない.きっとメンテナンスどころか修繕もできていないだろう.
設備に不具合が発生した場合,それを修復するのが修繕だ.修繕では足りない.原因を突き止めて修理することが必要だ.そして不具合が再発しないように改善をしなくてはならない.それを維持するのがメンテナンスだ.

現場力を磨くレトロフィット

若い中国人設備エンジニアを指導していてがっかりすることがたびたびある.圧縮空気で動作している機械の動作が緩慢になっている.それを指摘すると,空気圧のバルブをちょっと調整して直りましたという.これでは修繕以前の対処療法だ.
彼らを鍛えるには,徹底的に原因を追究させること.修繕ではなく修理をさせることだと考えている.そのためには古い設備を使い込むことだ.
わざわざ中古の設備を日本から持ってくることはない.中古設備の輸入には手間がかかる.
まずは手元にある古い設備をレトロフィットして甦らせてはどうだろうか.古い設備をきちんと維持して使いこなす.古い設備に創意工夫を追加する.これが現場の改善魂を鍛える.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年11月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第五話「ポカよけ」

儲かる工場の作り方
「熟视无睹」

人間の視覚,注意力というのは驚くべき性能を備えている.フォーカスした部分に関しては実に詳細に観察する事ができる.しかし裏を返せば,興味の無い部分や注意力が落ちれば,殆ど何も見ていないのと同じになってしまう.

例えば,いつも見ている腕時計を見ずにそのデザインを詳細に描ける人は少ないだろう.これは時計を見るという行為が,時間を知るという目的にフォーカスされているため,時計のデザインはマスクされてしまっているためだ.

同様に市場を俯瞰しても顧客一人ひとりの顔は見えてこない.
工場の中で不良率を見ていても,不良原因は見えてこない.不良原因が見えなければ,不良を減らす事ができない.

常にモノを見るという行為の目的を意識していなければ,いつも目にしているモノから何も見えてこないことになってしまう.

品質は工程で作りこむ

1:10:100の法則というのがある.部材の時点で不良を発見できた場合の損失を1とすれば,工程内で発見した場合は10倍,顧客まで流失した場合は100倍の損失になるという意味だ.
従ってモノ造りの工程の中では,作業員一人ひとりが異常(いつもと違う)に注意力を払い,不良を作りこまないようにしなければならない.

これができていれば出荷保証検査をする必要は無いはずだ.しかし出荷検査という「ムダ」も100倍の損失というリスクを考えれば「ムダ」とはいえないだろう.

「ついうっかり」には「ポカよけ」

工程での品質作りこみができれば不良が発生する余地は無いはずだ.しかし不良は発生する.人がやる作業には「ついうっかり」というのが付きまとう.

「ついうっかり」による不良が発生するたびに,「作業員に注意しました」「作業員に再教育をしました」という改善対策書を書いていないだろうか?このような対策では「ついうっかり」は永遠になくならない.
ここで登場するのが「ポカよけ」だ.治工具を工夫することにより,不良を作れない,不良が次工程に流れなくする仕組みだ.

ここでも「熟视无睹」に気をつけねばならない.こだわりがあれば「ポカよけ」は思いつかない.また他所でやっている「ポカよけ」を取り入れることもできない.

例えば旅客機が登場口を開閉する際に乗務員がやっている「ドアモードの変更」作業に組み込まれている「ポカよけ」を観察してみていただきたい.きっとあなたの仕事にも応用できるはずだ.

ドアモードの変更はこちらを参照ください.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年10月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第四話「省人化」

人海戦術
兵法「人海戦術」

 安価な労働力が大量に確保できる.こんな魅力で中国が世界の工場といわれるまでに発展した.
 多くの日系企業も,生産コスト削減のために中国に進出したと思う.農村出身の女工さんを大量に並べ,モノ造りをしてきた.

 しかし状況は大きく変化した.最低賃金は毎年十数%上昇.中国政府は労働集約型工場に対する優遇政策を徐々に縮小してきている.

 また無尽蔵と思われた内陸部からの人材供給も陰りが見えている.必要な人数だけ工員を集められる工場はまれだ.
 既に中国の生産現場では人海戦術は通用しなくなっている.

変種変量・多品種少量生産へ

 同時に市場の要求も変化している.今までのように規格商品を大量に生産しても売れない.モノ造りも少品種大量生産から,変種変量・多品種少量生産に変化しなければならない.究極の姿は鮨屋のカウンターだ.お客様が食べたいモノを食べたいだけ食べたい時に提供する.

 このような生産を人海戦術で対応しようとすれば,無駄が多すぎる.では完全自動で作業員を極限まで削減すればよいかというと,これも違う.少品種大量生産では力を発揮するが,変種変量・多品種少量生産には向かない.

 大きな投資をすれば,設備の稼動率が気になる.稼動率を気にすれば売れないモノを大量に生産することになる.稼動率を決めるのは工場ではない.顧客の需用だ.

省人化改善

 量の拡大を目指す改善ではなく,少ない人数で作る改善をする.量の改善がなくても生産性が改善されれば良いはずだ.同時に生産スペースを縮小すれば,工場の潜在生産能力は向上する.これで変種変量・多品種少量生産への柔軟性が手に入る.

 例えば800台/時間の加工ができる機械をフル可動させるために前準備に2人投入する.3人の作業員で機械はフル可動できる.しかし1人で出来る量だけ可動させれば,500台/時間生産できる.量が減っているが,2人で生産すれば1000台/時間が可能だ.省人化改善を目指して量の改善も手に入れられた.一番大きいのは受注に合わせて生産能力を無駄なく可変できる柔軟性だ.

 省人化とは一人ひとりの生産付加価値を上げさらに高い生産効率を得ることだ.言ってみれば省人化は活人化だ.

 省人化の鍵は「抜苦与楽」.作業のムダ・ムラ・ムリを省く.作業が楽になれば結果的に効率は上がるはずだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年9月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第三話「ムダ取り」

兵不血刃
兵法「兵不血刃」
 敵も見方も流血なく戦争を勝利できれば,これに越したことはない.これを工場に当てはめて考えるとどうなるか?
 兵器(設備)の導入というのは資本の投下を必要とし,一種の「流血」だろう.固定費の増加が損益分岐点の上昇となり,簡単に流血すること(赤字)になる.
 あらゆるムダを取る事が必要だ.ムダ取りをしないで機械化すると,ムダも一緒に機械化してしまう.
動作のムダを取る
 手を伸ばす,振り返る,しゃがむ,歩く,あらゆる動作のムダを省く.工場で付加価値を生んでいるのは,原材料や半製品に「変化」を与えた時だけだ.前述の動作は付加価値を生まない動作である.
 例えば手を伸ばすことを止めれば1秒動作時間が節約できる.一秒を馬鹿にしてはいけない.作業員はこれを一日に何千回も繰り返しているのだ.
 動作のムダ取りをすれば作業員の疲労も軽減される.楽をして生産効率を上げる.これも「兵不血刃」であろう.
 動作のムダは作業員の動作をリアルタイムに観察することによって見えてくる.
ムダの集計で更に大きなムダ取り
更に,チョコ停,部材の欠品,部品の問題などによるライン停止
のムダも看える様にして改善する.
これらのムダはリアルタイムに観察をしても見えてこない.問題が発生したらすぐラインを止める.止まった理由ごとに停止時間を集計すれば,改善しなければならない点が明確になる.
ラインを止めるのは勇気が必要だ.現場は時間と量のプレッシャーにさらされて仕事をしている.ラインを止めたくないというのが人情だ.しかし問題が起こるたびにラインを止め改善する方が長い目で見れば有利となる.
私は,作業員はラインを止めるのが仕事,班長はラインが止まらないように改善するのが仕事,と教えている.つまり作業員は問題を発見・報告するのが仕事.そのため作業員にはライン停止のボタンを持たせる.班長は問題が再発しないように改善するのが仕事,というわけだ.
プロダクションレコーダを使いライン停止時間と理由をPCに集計する.集計の結果から前工程や部材業者の問題も見えてくる.設備のチョコ停,遅配,品質不良など理由にあわせて改善を進める.プロダクションレコーダは生産数量管理だけではなく,改善の小道具として使う事ができる.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年8月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方 】 第二話「ローコストオートメーション」

ローコストオートメーション
兵法「草木皆兵」
 以前ワールドカップサッカー予選で,アウェーで戦う日本代表の応援団は両手に膨らませた青いゴミ袋を持って応援したという.応援団席が青一色に染まれば,大勢の応援団が詰め掛けているように見える.アウェーの不利な戦況を一掃しようというわけだ.
 これは「草木皆兵」を兵法として応用した戦術だろう.この戦術が工場にも応用できるだろうか?
人海戦術は時代遅れ
 先日訪問した工場は,製品の組み立てラインにたくさんの作業員が並んでいた.しかしよく見ると三人に一人しか作業をしていない.どうもこの工場の中国人経営者は「草木皆兵」の戦術で我々を感心させようと考えたようだ.
 しかし人海戦術でのモノ造りは既に時代遅れだ.中国はもはやローコスト生産国ではない.いかに省人化し効率を上げてモノ造りをするかが鍵となる.
 品質についても同様だ.ヒトのばらつきが作業のばらつきになる.作業のばらつきが品質のばらつきだ.従って作業員が多ければ多いほど品質のばらつきも大きくなる.
 では完全自動化ラインを作って作業員を極力排除すればよいかというとこれもまた違う.
自働化でローコストオートメーション
規格商品が売れた時代は,同じ物を大量に生産していればよかった.しかし消費者の嗜好が多様化した現在は規格商品を大量に生産しても安価でしか売れない.
消費者の好みの変化に合わせ売れる分だけを生産する.このような生産には完全自働化ラインは向いていない.高い投資をして導入した設備だ.経営者はどうしても投資効率が気になる.「稼動率を上げろ!」と号令をかけて売れない物を大量に作ることになる.
稼動率を決めるのは工場ではない.稼働率はお客様の注文が決める.工場が決める事ができるのは「可働率」だ.
可働率を高めるために,ヒトの働きと機械の動きを調和させる.これがニンベンの付いた「自働機」だ.ヒトが主役になって設備が動く.これが自働化だ.そしてそれを安い設備で実現するのがローコストオートメーションだ.
コストの安い材料,設計を使って設備の導入コストを抑えるのはローコストオートメーションとは呼ばない.「自働化」の思想を盛り込んだモノがローコストオートメーションである.
例えば三人の検査員が分担していたのを半自動検査機に置き換える.検査員は検査時間の手待ちの間に別の作業をする.これで四人の作業員を一人に省人化できる.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年7月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第一話「まずは看える化」

疾風勁草

新連載にあたり
 世間では世界的な経済不況とか百年来の不況などと騒がれている.不況の嵐により,受注が大幅に減り経費節減,一時帰休など守りの経営に縮退する企業が多い.
 しかし今がチャンスだと考えている.生産量が落ちている今こそ儲かる工場に転換するチャンスだ.「時節到来」ピンチをチャンスに変えよう!そんな思いで儲かる工場の作り方を四文字熟語と一緒に一年間コラムに書かせていただくことになった.
経営者の思いを看える化
 まずは吹き荒れる嵐の中で経営者の強い思いを看える化しなくてはならない.ここで注意いただきたいのは「みえる」を「看える」と表記している点だ.どこかを探すと見えるのではなく,日々向こうから目に飛び込んでくるように看えなければならない.つまり「看板」の「看」だ.
 経営理念,経営ビジョンを従業員,顧客,取引先など関係者全員に看えるようにする.経営者の思いを全従業員と共有することにより,組織力はアップする.
工程も看える化
 生産の状況も看える化しよう.今工程がどういう状況になっているのかをリアルタイムで看える化する.コンピュータの中に入っているのではダメだ.これでは現場の作業員には見えない.
 現場の作業員・班長が一目してわかるようにする.何か問題が発生すれば直ちに看えるようにする.
例えば生産計画に対する実績を,現場のホワイトボードに記入して看える化している工場が多い.
しかしこれでは過去二時間の集計結果しか分からない.過去二時間の間に問題が発生し生産計画が達成できなかった事が分かっても手遅れだ.
 これをリアルタイムで看える化する.何か問題が発生し生産実績が計画に対してマイナスになれば,すぐに赤信号が出るようにしておく.そして班長には問題が発生するたびに問題解決・改善をするように指導する.
 問題が発生したとき「並」の班長は作業員をせかし生産量を上げようとする.「中」の班長は問題が発生した工程を手伝う.「上」の班長は問題が発生した工程を改善して次から問題が発生しないようにする.
 問題点を常に看えるようにしておくことにより「上」の班長を育てる事が出来る.これが日々改善の現場力源泉となる.
 

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年6月号に寄稿したコラムです.

【華南マンスリーコラム】至誠でココロを込める

ココロをこめて仕事をする
#12
 一年間「魂の小道具12選」にお付き合いいただきありがとうございました.
 毎号の写真を見て現場で楽しげに仕事をしているのだろうと思われた読者様も多いと思う.しかし現場では写真のような顔をして仕事をしている.実は性格はマジメなのだ.
 最終話はココロをこめて仕事をする,「至誠」について考えて見たい.

チェックリストから出るオーラ
 どこの職場でもチェックリストが一つや二つはあるはずだ.ココロをこめて運用されているチェックリストは,至誠のオーラさえ感じさせる.
 ある現場では設備の点検・メンテナンスのチェックリストが貼り出されている.
 各点検項目に漏れなくレ点が入っている.班長は確認のレ点を入れサインがしてある.正しく運用されているように見えるが,現場を観察するといい加減さはすぐに分かってしまう.潤滑油点検の小窓が汚れ中が見えないのに,潤滑油OKのレ点が入っている.
 チェックリストがココロをこめて運用されないのは,作業者や班長だけの責任だろうか?上位職者がココロをこめて指導していないからだと思う.班長に何を確認するのか教えているだろうか.チェックした事を確認せよ,と教えたのではレ点が埋まっていればOKと判断するだろう.
 
至誠・ココロの育成
 従業員がココロをこめて仕事をするためには,指導者はココロをこめて彼らの育成をしなければならない.
 仕事の成果を図のように仮定してみた.
仕事の成果1
 つまり情熱と能力のある者は成果が最大になるが,考え方が間違っていると負の成果となる.
 同様に組織の成果も目的意識がそろっている時に最大になる.目的意識が90度ずれていると,組織の成果には貢献しない.目的意識が180度ずれてしまえば組織の成果の足を引っ張ることになる.
 ここの能力というのは業務能力のことであり,比較的簡単に教える事が出来る.
 考え方,情熱,目的意識は行動能力に影響を与える.この部分が仕事に対する至誠だ.
 指導者は組織の使命・目的を明らかにし,メンバーの目的意識を揃える.これで組織がたんなる集団から使命・目的を共有した強い軍団になる.そして至誠を養うために常にココロの育成をする.
 品質改善・生産性改善の究極は「人質」だ.至誠・ココロの育成を基礎に人材の育成に取り組まれてはいかがだろうか.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】グーでやる気向上

美点凝視
#11
今月はグー.グー・チョキ・パーのグーではない.「グッジョブ」のグーだ.親指を立ててグー,褒める時のポーズだ.
良いところを見つけたらすかさず褒める.毎日何度でも笑顔でこれをやる.
部下を育てる時には,欠点を矯正するよりは,長所を伸ばす方が簡単だ.「美点凝視」部下の良い点をしっかり見てそれを褒める.
欠点は仕組みで補う.例えば「ついうっかり」の人にはチェックリストを使う方法を教える.「ついうっかり」を防ぐ仕組みを考えさせる.
激しいコスト競争,毎年上がる人件費,不況による受注減など暗い話題が多い.更に毎日部下の欠点を叱っていたのでは指導者の心も暗くなってしまう.部下のよいところを探して褒める,このほうは精神衛生上も良いと思うがいかがだろうか.

褒めたおす
有名な経営者で叱り飛ばすことを信条にしておられる方がおられる.叱り続けることにより,部下の反骨精神を引き出し,能力を高めるという考えだ.
反骨精神のない人間はどんどん辞めて行き,強い人だけが残る.ではただ叱っていれば良いかというとそうではない.表面的には見えないが,それで成功している経営者は人格で従業員から慕われているはずだ.
それよりは褒めたおすことで部下のやる気,成長意欲を引き出すほうが楽だ.というのが私の考えだ.
しかしこれは叱らなくて良いということではない.
 
一万元を叱らず,一毛を叱る
叱ることは相手の成長を願う愛情表現だ.ミスがあれば叱らなければならない.
大きなミスをした人間には怒りたくなる気持ちをぐっと抑え,ミスを起こした原因と対策を一緒に考えさせる.
会社に一万元の損失を与えたことは本人が一番理解しているはずだ.そこばかり叱ったのでは相手は萎縮し,次から叱られないようにしか仕事をしなくなる.
しかし一毛を無駄にする人間は思いっきり叱らなければならない.例えば作業台にネジが一つ落ちている.これを叱らなければ,皆がネジ一本くらいという気持ちになる.こういう気持ちが全従業員に蔓延すれば,あっという間に一万元の損失になる.
作業台に落ちているネジが製品に取り付けるべきものであれば,更に大きな損失になる.いつもネジが落ちている工場ではそれを防ぐ手立てはない.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.