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ナゼナゼ5回

 メルマガ読者様から「ナゼナゼ5回」を取り上げてみたら?とアドバイスをいただいた.本日のテーマとして考えて見たい.

「ナゼナゼ5回」は表層的な原因ではなく,それを誘発する真の原因まで突き止めるために「ナゼ」を何度も繰り返そうという考えかただ.

「風が吹けば桶屋が儲かる」という例で「ナゼナゼ5回」にチャレンジしてみよう.

・ナゼ桶屋が儲かる?
 →鼠が増えて桶をかじるから.
・ナゼ鼠が増えた?
 →猫が減ったから.
・ナゼ猫が減った?
 →三味線がたくさん売れたから.
・ナゼ三味線がたくさん売れた?
 →盲人が増えたから.
・ナゼ盲人が増えた?
 →風が吹いて目に土ぼこりが入るから.

もちろんこれは笑い話なので,実際にこんな「ナゼナゼ」をしても役には立たない.
因果関係の蓋然性(発生確率)が低いので,5回も繰り返せば確率的に殆ど発生しない原因に突き当たってしまう.

単純に「ナゼナゼ」とただ質問を繰り返すのではなくFTA(故障の木解析)のようなツールを使いナゼナゼを繰り返す方が良いだろう.

以前,新規工場で始めて生産した製品から顧客の工程で不良が見つかった.このときの「ナゼナゼ」の例を紹介してみよう.

1.ナゼ顧客で不良が見つかった?
 →部品が過大電流により破壊していた.
2.ナゼ部品が過大電流で破壊した?
 →高電圧の回路パターンと部品のリードが接触した.
3.ナゼ高電圧の回路パターンと部品のリードが接触した?
 →作業台の縁にある金属が触ったから.
4.ナゼ作業台の縁にある金属が高電圧パターンと部品をショートする?
 →検査用のフィクスチャを使わなかったから.
5.ナゼ検査用のフィクスチャを使わなかった?
 →検査合格品を出荷前に再度機能検査だけしたから.
6.ナゼ検査合格品の機能検査をした?
 →初出荷だったので念を入れた.

これらのナゼと答えの一つ一つにFTAで可能性のある原因を並べ,現物で確認をしている.
更に検査で合格しているのに客先で,不良が見つかった原因も同様に「ナゼナゼ」をする.ここを忘れがちだが,「発生原因」だけではなく「流出原因」もきちんと突き止めておく必要がある.

この「ナゼナゼ」の結果,

  • 出荷前に簡単な再検査(出力がある事をLEDの点灯だけでチェック)をした.
  • 負荷が軽かったので再検査後回路中に電荷が残っていた.
  • 検査フィクスチャを使っていなかったので,電荷をディスチャージできなかった.
  • 検査後製品を梱包箱に戻す時にプリント基板の高電圧パターンと部品リードが作業台縁の金属に接触した.
  • その際に回路中に残っていた電荷が直接部品に流れ部品を破壊した.

という事が分かった.

これらの解析により,

  • 作業台の縁の金属を全て取り除く.
  • 全ての検査は回路中の電荷をディスチャージしてから完了とするよう,検査手順を標準化する.

という対策を採った.

重要なことは「ナゼナゼ」の過程で,現場・現物による確認をすることだ.
これを怠ると「風が吹けば桶屋が儲かる」になってしまう.


このコラムは、2009年1月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第80号に掲載した記事に加筆したものです。

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こちらの記事もどうぞ「なぜなぜ5回」

運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル

最高時速300キロの「のぞみ34号」の台車は破断寸前だった。乗務員は異音などの兆候を察知していたのに、途中駅で「異常なし」と引き継いでいた。

全文

(デジタル版朝日新聞より)

 人身に関わる事故が発生した訳ではないが、重大なヒヤリハット事故だ。
報道から読み取れる事実を時系列に整理すると以下の様になる。

13時33分:のぞみ34号博多駅出発
13時50分頃:乗務員が異臭を報告
      13号車乗客が「もやがかかっている」と申告。車掌も確認。
15時15分頃:岡山駅で保守点検者が乗車。新神戸駅で点検を提案。
      運送指令が問題なしと判断し、運転続行。
16時頃:新大阪到着。保守点検者下車。
    運転手、車掌は「異常なし」とJR東海に引き継ぎ。
16時20分頃:京都駅出発後車掌が異臭を確認。
17時頃:名古屋駅にて車両床下で亀裂油漏れを発見。走行不可能と判断。

今回は何事もなく運行(ほぼ定刻運転だったと推定される)出来たが、脱線事故で多くの死傷者が発生する可能性があった重大インシデントだ。

小倉駅を出発した時点で予兆を発見している。
少なくとも岡山駅で保守点検者が乗車した時点で車両床下を点検すべきだった。

報道によると、岡山駅で保守担当者は輸送指令に「次の駅で止めて点検したらどうか」と進言している。ところが、輸送指令は「運行に支障はない」と判断。

JR西日本は今回のトラブルを受け、社員教育のあり方を改善するほか、「音、もや、臭い」などが複合的に発生した場合は直ちに運転を見合わせ、車両の状態を確認することを徹底するという。「脱線事故後(2005年4月に発生した福知山線脱線事故)、『安全性を最優先する』とやってきたが、生かされていなかった。安全をさらに高めるために努力していきたい」とJR西日本社長は言っている。

この問題の根源は、社員教育や運行判断基準ではない。JRの組織文化に問題の根源が有ると考える。
車両区、指令区、運転区など部門ごとの縦割り組織が国鉄時代から続いているのではなかろうか?部門ごとで責任を押し付けあう体質が残っていないか?

保守点検者は「次の駅で点検してはどうか」と進言するが、指令区から運行続行を指示され従ってしまう。自分の仕事に責任と誇りを持っていれば、次の新神戸ではなく、岡山で車両床下に潜り込んで亀裂を見つけていただろう。
現場から離れた指令区の座席に座ったまま下した運転続行判断が優先される。
運転手、車掌もJR東海に引き継げば責任は終わり。

全てが「定刻運転」第一優先の様に見える。

あくまでも外から眺めた印象だ。事実誤認が有ればお詫びするが、JR職員の方々に問題があるのではなく、JRの組織文化に問題があるのではないかという提言と受け取っていただきたい。

問題の責任を追及する組織は、責任を逃れる、問題を隠す組織風土が生まれる。
問題の原因を追及する組織は、問題を共有し、改善を進める組織風土を持つ。


このコラムは、2017年12月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第607号に掲載した記事に加筆したものです。

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