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力一杯と手一杯

 「力一杯」と「手一杯」は一字しか違わないが、その意味には雲泥の差がある。

日々の仕事に力一杯取り組む事は必要だが、日々の仕事で手一杯になってはいけない。職位の高い人ほど、手一杯にならない様にするべきだ。

現場の作業員が手一杯になっている。班長、組長も一緒になって手一杯では困る。班長、組長は今日の作業だけではなく、1ヶ月2ヶ月後を見越した改善をしなければならない。更に上の職位になれば、半年後、1年後を考え改善や人財の育成をしなければならない。

日々の仕事に手一杯で取り組んでいると、忙しさと充実感を勘違いする。毎日仕事に力一杯取り組んでいると勘違いする。携帯電話に出ながら、製造現場をあちこち歩き回る。一日に会議がいくつも入っている。ようやく現場の残業が終わって自分のデスクに戻って、今日も力一杯働いたと息をつく様では、製造部長の仕事を力一杯しているとは言えない。

あなたはこの製造部長にどんなアドバイスをするだろうか?

「改善」「人財育成」などの重要だが急がない仕事は、往々にして忙しさを理由に先延ばしする事になる。そのため忙しさはいつまでたっても解決しない。
「重要だが急がない仕事」は計画を立てて実行するのが鉄則だ。ただ計画を立てても同じ事になる。今日出来る目標を決めて朝イチで、まず一歩をやる。先延ばし断固拒否だ(笑)


このコラムは、2016年6月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第479号に掲載した記事に加筆しました。

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洞察力

 例えば組み立てラインの不良部品を入れる箱に、ねじが一本入っているのを見つけたとする。見つけたねじは正規の部品M3×10mmではなく、M3×8mmだった。これを見つけたあなたはどうするか、考えてみていただきたい。

このねじを見つけた時のリスクをどれだけ思い浮かべられるかが洞察力であり、そのリスクに対してどういう行動を取るかが、リーダの資質だ。そしてそう言うリーダを育成する事があなたの仕事だと思うがどうだろう。

問題が起きてから部下を叱るのではなく。部下にリスクを洞察する力を付けてやるのが、経営幹部の仕事だ。

例えば、冒頭のねじを見つけた時にたまたま異部品の混入を見つけたのは1本だけだったが、他にも短いねじが混入しており、気が付かずにそのまま組み付けてしまった可能性があると考える。そして即座にラインを止めて完成品、半完成品のねじを再チェックする。一瞬でこういう判断と行動が取れれば合格だと思う。判断が遅れてしまうと、不良の可能性がある半完成品が大量に後工程に流出することになる。その結果、ねじの再チェックを実施する決断が鈍る。

自分自身が、判断・決断が出来てもまだ十分ではない。実際に生産に直面している班長がリスクを評価し、判断・決断出来る様に育成しなければならない。

本当の所は、作業員が異常を見つけた時に作業員自身がラインを止めることが出来る様になる事がゴールだ。

こちらの記事もご参考に「答えを教えない教え方」


このコラムは、2017年7月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第536号に掲載した記事に加筆しました。

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仁のために死す

yuē:“zhìshìrénrénqiúshēnghàirényǒushāshēnchéngrén。”

《论语》卫灵公第十五-9

素読文:
子曰わく、じんじんは、せいもとめてもっじんがいすることし。ころしてもっじんすことり。

解釈:
志の高い人、仁徳がある人は生きるために仁を害することがない。かえって身を殺して仁を成しとげるものだ。

保身のために嘘をつく、人を裏切る、こういう人は志士仁人とは言えません。
しかし保身のために悪事を働く人は世の中に必ずいます。
政治家、官僚、経営者、上司など権利欲、金銭欲、出世欲、保身などで悪事を働く人がいます。こういう人たちも世の中には必要なのです。

こういう人たちがいるから、小説やドラマが成立するのです(笑)

まず信頼する事

 「まず信頼すること」松下幸之助の言葉だ。
松下幸之助が親族3人で自宅で電球ソケットの生産を始めた時に、2名の従業員を雇った。新たに雇った従業員に電球ソケットの材料のつくり方を教えた。誰でも手に入る材料を混ぜているだけだ。他に漏らせば、競争相手がふえる。それでも身内ではない従業員に教えている。

まず従業員を信頼する事。人は自分を信頼してくれている人を騙したりしない、と松下幸之助は言っている。

出典:「人生心得帖」松下幸之助著

従業員を信頼すれば、それに応えてくれる。
従業員が悪い事をすると心配すれば、その通りになる。

マクグレガーのX理論、Y理論が一般に知られる様になったのは、1960年刊行の“The Human Side of Enterprise”(邦題「企業の人間的側面」ダグラス・マクレガー著)による。

松下が電球ソケットを作り始めたのは、1917年だ。心理学者より40年も早く人の本質に気がついていたと言っても良かろう。

未だに従業員を信じる事が出来ない経営者を何人も知っている。

有る日系の工場では、中国人従業員の管理を全て香港人幹部に任せていた。彼らの工場の出入り口には、従業員が製品を不正に持ち出さない様に常に保安係を配置している。この工場は従業員の規律が乱れており、中国人幹部クラスも日本人幹部の言う事を聞かなかった。

別の日系工場は、日本から持ち込んだ生産設備をコピーされるのを恐れ、設備の図面を中国工場にはいっさい置いていない。

電子部品を作っている中国企業は、材料の混合比を秘密にしており、作業要領書にも混合比率は書いていない。材料の製造工程も二つに分け、二人の作業員が混合した物を混ぜ合わせて完成させる、と言う徹底ぶりだった。実はこの工場の経営者は、日本の工場に勤め、材料比率を盗んで来た。そのため自分の従業員も信じる事が出来なかったのだろう。


このコラムは、2017年7月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第536号に掲載した記事に加筆しました。

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