月別アーカイブ: 2019年11月

不良品の流出

 中国の生産委託工場で,どう見ても工程内で不良として除去されねばならない物が出荷されてしまう事があった.

プラスチック筐体に入った電源装置が客先から不良返却されてきた.
中をあけてみると,部品固定用の接着剤がめちゃくちゃに塗布されていた.不良は別に原因があったのだが,何人もの作業員が接着剤の塗布が異常であるのを見ているはずなのにそのまま出荷してしまった.

接着剤を塗布した作業者,その下流のケースをつけるまでの工程の作業者が接着剤の塗布に異常があることを見ていながら全員何事もなくその製品を流してしまったわけだ.「異常品」を見つけても自分の作業として指示がされていなければ何もしない.

どうも彼らには,他人の仕事に口を出してはいけないという間違った「美徳」がある様である.

問題を発生させた工程と,その後で気が付くべき工程の作業者全員に連帯責任で罰金をかけるという手もあると思う.しかし過去の出来事で叱られても実感がわかない.このような不良が見つかるのは,氷山の一角でしかないので単に「運が悪かった」と思うだけ.ということであまり効果がないだろう.

また現場で叱ろうと思っても,このような現場に出会うのはよほどの幸運がなければ見つからない.

即効性は期待でないが,毎日毎日言い続けて作業者や班長たちの意識を換えてゆくしかてはないと思っている.
私は「Check-Do-Check」,前工程から受け取ったものをチェックして自分の作業をする,自分の作業結果をチェックして次工程に流す,ということをしつこく指導した.
また前日の不良品を集めて製造,品証,生産技術を中心とした幹部と毎朝不具合検討会をやっていたが,この場で教材になると思える不具合品があると,製造の班長を呼び現物を見せてしつこく教えた.

「異常とはいつもと違うこと」の具体例を現物で見せるわけだ.そして異常があれば必ず報告するように作業員に指導させる.

最終製品がエンドユーザにどのように使われているのかを,理解させる.それと平行して自分たちの使命(例えば良い品質の製品をお客様に届けて他の会社より高くても買っていただく)を良く理解させて,仕事に対する誇りを持たせる.

自分たちの仕事や製品に対する誇りがあれば,指示されたこと以上の仕事ができると考えている.


このコラムは、2008年5月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第34号に掲載した記事に加筆しました。

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設計不良

 ある台湾メーカの中国工場を指導していて驚いた事がある.
半完成品の最初の通電検査で不良が大量に発生しているのである.数%というオーダーではなく数十%も不良になっている.

訳を聞いて更に驚いた.
回路に使用しているICのばらつきによって,このようなことはしばしば起きる.その場合検査外れ品は回路中の抵抗を交換してやれば検査は合格し良品となる.従って工程内に山ほどラインアウトされた半完成品は,後ほど作業者が抵抗を交換してラインに再投入するのである.

私に言わせれば,これは設計不良である.
このような製品はすぐにラインを止めて,設計を変更すべきである.

しかしこの製品は量産開始以来ずっと工場の努力で生産し続けてきたのである.今更差し戻されても,というのが台湾本社設計部門のいいわけである.

ここは100歩譲って,先にICの特性を測っておきランク別にしておく.出庫するICのランクにあわせて抵抗を変更して生産する.このように部品表と製造基準を変えてもらった.

これで不良は1%未満となり通常の生産が可能となった.

更にこの工場には,試作審査と量産移行審査の制度を導入させた.
試作時の生産性の問題を整理し,これがきちんと解決していなければ量産には移らない.これをこの2回の審査できちんと確認をしてゆくわけである.審査を通らなければ,本社の設計部門に差し戻しである.

この制度を導入して一番喜んだのが,工場サイドのエンジニアだった.彼らは毎回本社設計部門の言われるがままに生産するしかなかった.それが自分たちで審査をしてだめなら「設計を受け取らない」「作らない」という選択があることを知り,モチベーションがすごく上がった.

もちろん「作らない」という負の対応ばかりではなく,今まで押し付けられていた生産を,自分たちで改善するという意欲が出てきた.

このように製造現場が変わると,本社設計部門も必然的に変わらなければならなくなる.現場の改革が,連鎖して全社を改革してゆくのである.


このコラムは、2007年10月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第5号に掲載した記事に加筆しました。

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人財品質

 品質月間に合わせ「設計品質」「製造品質」について考えてみた。最後に「人財品質」について考えてみたい。「人の品質」という言葉は奇異な印象を与えるだろう。「人質」という言葉もしっくりしないかも知れない。
企業活動における人のバフォーマンス、とでも理解すれば良かろうか。この定義で人財品質を考えると次の様な式を思いつく。

企業業績=a×全従業員の人財品質の総和×b×その他の経営因子
人財品質=能力×意欲×cosθ

企業業績は全従業員の人財品質の総和と、経営因子(商品力、不景気・好景気などの経営経営で制御できる因、制御できない因子)の掛け算で求められるのではなかろうか。

人財品質は能力と意欲はかけ算と考えるのが妥当だろう。つまり能力が高くても意欲が0ならば、業績に貢献する事はない。逆も然り、意欲ばかりあっても能力がなければ業績貢献は低い。
θは角度を表す数値で、企業が目指す方向と個人の方向の差異をさす。
つまり企業が目指す方向と個人の仕事に対する方向性が一致すれば、θは0°、cosθは1(最大値)となる。この様な人が「人財」と呼ばれる。

企業の方向性と個人の方向性に差異があれば、cosθの値は小さくなり、90°でcosθは0となる。つまり業績に何ら貢献をしない。こういう人を「人在」という。いるだけという意味だ。

θが180°、すなわち企業の目指す方向と個人の方向性が逆向きの場合、cosθは-1となり、業績に負の貢献を与える事になる。こういう人を「人罪」という。業績に害を与える存在となる。

マネジメントの仕事は人を活用し業績を出す事、と考えれば、管理職は部下の能力と意欲を高め,組織に方針を徹底する事が仕事だ。

つまり業績が悪いのは部下のせいではなく、管理職のマネジメントの問題だ。

元々人財品質が高い、もしくは人財品質を高めやすい人はいる。こういう人を「素質」がある人、というのだろう。素質がある人を採用し、人財となる様に育成する事が管理職の仕事だ。

素質の高い人とはどういう人か。私は「3K人材」だと思っている。「3K職場」の「3K」ではない。
好奇心。
向上心。
貢献心。
の3K心を持っている人を素質が高い人だと考えている。

好奇心、向上心が高ければ、能力や意欲を高めやすい。貢献心があれば,方針に対するぶれ(θ)を小さく出来る。

人財品質の根源はこの「3K」だと思うのだがいかがだろう。

こちらもご参考に
設計品質
製造品質


このコラムは、2016年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第504号に掲載した記事に加筆しました。

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