月別アーカイブ: 2021年5月

PCの品質劣化

ある書籍を読んでいて驚いた。
「工場で正常に生産され検査も合格したのに、市場で不良が発生する。これは出荷後に劣化するのが原因である」当然こういう事例はある。しかし著者はその事例としてパソコンを挙げている。彼の主張は以下の通りだ。

「購入して二年ほどでスイッチを入れてから立ち上がるまでの時間や画面の切り替え時間が目に見えて遅くなる。わずか二年で製品が劣化してしまうのは工業製品のトップグループに入る」

これはパソコンが劣化したのではなく、アプリケーションソフトの機能が進化したためメモリを大量に必要とし、しばしばメモリ領域のスワップが発生するためだろう。これを製品の劣化と言われてはパソコンメーカは立つ瀬がない。

著書の本質はそこではないし、OA機器メーカの開発設計者としての経歴があり、現在も後進の指導をされている方だ。著者を非難するつもりは全くない。

パソコンという商品は単体では何も役には立たない。アプリケーションソフトがあって初めて機能する。そういう意味では二年間で劣化したのではなく、たった二年で進化したと考えるべきだろう。

例はまずかったが、著者の指摘は正しい。
昔から出荷後の環境ストレスで色々な故障が発生している。
出荷時に良品だった製品が環境ストレスで故障する事例は多い。

信頼性問題

または出荷時に機能検査ができない製品もある。タカタのエアーバックも出荷検査で機能検査はできないし、爆発することもない。

環境ストレスによる劣化は製造や検査で解決できない。設計時に環境ストレス耐性を上げておかなばならない。そのためには多くの環境ストレス事故事例とその原因を知らなければならない。


このコラムは、2020年7月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1011号に掲載した記事です。

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笹子トンネル事故から6年

 中央高速笹子トンネルの天井板崩落事故が発生したのは2012年12月2日。先週日曜日には現地で遺族らが慰霊式典を開催した。

6年経った今もまだ事故原因が明確になっていないようだ。

事故を契機にNHKの取材斑が5年間かけて、日本全国のトンネルや橋梁などの安全性を取材している。

笹子事故5年 インフラは安全になったのか?

しかしこの記事は「老朽化」がキーワードとなっている。
重大災害につながりかねない交通インフラの老朽化を取材し明らかにする事に異議はないが、笹子トンネル事故は「老朽化」が原因ではないはずだ。当時の記事からは、不適切な施工が原因と思われる。

ボルト、引き抜ける状態 笹子トンネル、6割が強度不足

笹子トンネル天井崩落事故

当時の調査では、引き抜かれたボルトには先端の一部にしか接着剤が付着していなかったものが多数あった事がわかっている。老朽化により接着剤の強度が劣化することはあるかもしれない。しかし硬化した接着剤の量が、経年変化で少なくなるとは思えない。

NHKの取材そのものは意味があるにせよ、記事タイトルに「笹子トンネル」を入れることにある種の「作為」を感じるのは私だけだろうか?どこかに真実を隠蔽する力が働いていると言う疑惑を感じざるを得ない。


このコラムは、2018年12月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第754号に掲載した記事です。

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リアサス連結プレート誤装着

 ホンダは4月8日、『CBR1000RR-R』のリアサスペンションについて、不適切に組付けたものがあるとして、リコール(回収・無償修理)を国土交通省へ届け出た。対象となるのは2020年3月31日~7月23日に製造された439台。

今回、リヤクッションアームとスイングアームを連結するクッションコネクティングプレートの表裏を逆向きに組付けたものがあることが判明。そのため、凹凸路面等を繰り返し走行するとプレートが折損し、最悪の場合、走行安定性が損なわれるおそれがある。

改善措置として、全車両、クッションコネクティングプレートの組付け状態を点検し、該当するものはクッションコネクティングプレートとダストシールを新品と交換する。

不具合は2件発生、事故は起きていない。市場からの情報によりリコールを届け出た。
                        

carview.yahoo.co.jp/news/より)

 リヤクッションアームとスイングアームを連結するプレートの裏表を逆に取り付けてしまったという不良だ。
不具合を二件発見している、と記事にある。このような作業ミスの対象範囲を約4ヶ月、439台とどうやって特定したのだろうか?同じ作業員がプレートの組み付け作業した製品を全て回収対象としたのだろうか?
それにしても、回収対象範囲を特定するのは相当困難だっただろう。

この手の作業ミスによる不具合は、何度も発生する。裏表を勘違いしていたらその作業者が作業した分は全て対象となる。しかし「うっかり」間違えたのならば問題のない製品まで回収し確認をしなければならなくなる。非常に厄介な問題だ。従ってこの手の不良を「作業ミス」と考えるべきでない。

設計ミスと言ってしまうと設計者に気の毒かもしれないが、設計配慮が足りていなかったと考えるべきだ。今回の事例を設計FMEAの潜在故障モードに追加し、「裏表のない設計」「裏表逆には取り付かない設計」となるようにしなければならない。

「失敗から学ぶ」という事は知識を増やすことではなく、失敗が二度と発生しないように標準を作る(または変える)ということだ。

回収対象製品を知らないので「プレートを逆に付けるとプレートが破損する」という故障モードのメカニズムが理解できない。しかし裏表が逆だと取り付かない構造にする事は可能だろう。


このコラムは、2021年4月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1123号に掲載した記事です。(タイトルを変更しました)

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蕭墻内の憂

 shì(1)jiāngzhuān(2)rǎnyǒu(3)(4)jiànkǒngyuē:“shìjiāngyǒushìzhuān。”
 kǒngyuē:“qiúnǎiěrshìguòzhuānzhěxiānwángwéidōngméngzhǔqiězàibāngzhīzhōngshìshèzhīchénwéi。”
 rǎnyǒuyuē:“zhīèrchénzhějiē。”
 kǒngyuē:“qiúzhōurényǒu yányuēchénjiùliènéngzhězhǐwēiérchídiānérjiāngyānyòngxiàngqiěěryánguòchūxiáguīhuǐzhōngshìshuízhīguò
 rǎnyǒuyuē:“jīnzhuānérjìnjīnhòushìwéisūnyōu
 kǒngyuē:“qiújūnshěyuēzhīérwéizhīqiūwényǒuguóyǒujiāzhěhuànguǎérhuànjūnhuànpínérhuànāngàijūnpínguǎānqīngshìyuǎnrénxiūwénláizhīláizhīānzhījīnyóuqiúxiàng
yuǎnrénérnéngláibāngfēnbēngérnéngshǒuérmóudònggānbāngnèikǒngsūnzhīyōuzàizhuānérzàixiāoqiángzhīnèi

《论语》季氏第十六-1

(1)季氏;魯国の大夫・季孙
(2)颛臾:魯国の属国
(3)冉有:姓はぜん、名は求。あざなは子有。
(4)季路;姓はちゅう、名はゆうあざなは子路。

素読文:
季氏きしまさせんたんとす。冉有ぜんゆう季路きろこうまみえていわく、季氏きしまさせんことらんとす。こういわく、きゅうすなわなんじあやまてることきか。せんは、昔者むかし先王せんおうもっ東蒙とうもうしゅせり。邦域ほういきうちり。しゃしょくしんなり。なんつことをもっさん。冉有ぜんゆういわく、ふうこれほっす。われ二臣にしんものは、みなほっせざるなり。
こういわく、きゅうしゅうじんえるり。いわく、ちからべてれつき、あたわざればむと。あやうくしてせず、くつがえりてたすけずんば、すなわいずくんぞしょうもちいん。なんじげんあやまてり。虎兕こじこうよりで、ぎょくとくちゅうやぶれなば、たれあやまちぞ。冉有ぜんゆういわく、いませんかたくしてちかし。いまらずんば、後世こうせかならそんうれいとらん。
こういわく、きゅうくんこれほっすとうをきて、かならこれすをにくむ。きゅうく、くにたもいえたもものは、すくなきをうれえずしてひとしからざるをうれう。まずしきをうれえずしてやすからざるをうれうと。けだひとしければまずしきことく、すればすくなきことく、やすければかたむくことし。くのごとし。ゆえ遠人えんじんふくせざれば、すなわ文徳ぶんとくおさめてもっこれたす。すでこれたせば、すなわこれやすんず。いまゆうきゅうや、ふうたすけ、遠人えんじんふくせずして、しかたすことあたわず。くに文崩ぶんほうせきして、しかまもることあたわざるなり。しこうしてかん邦内ほうないうごかさんとはかる。われそんうれいは、せんらずして、蕭牆しょうしょううちらんことをおそるるなり。

解釈:
李氏が魯国の顓臾を攻めようとしていた。李氏に支えていた冉有と季路は孔子に相談した。
孔子曰く;求(季路)よ、それはお前達が間違っているのではないか?颛臾は、昔周王が東蒙に開いた国だ。今は魯の支配下となっている。したがって魯の臣下だ。同じ魯の臣下である李氏が勝手に攻めるわけにはいかないだろう。
冉有曰く:君主は颛臾を責めたがっております。我らは二人とも賛成はしてないのですが。
孔子曰く:求よ、昔周任という人があった。力を尽くして任務にあたり、結果を出せなければその地位を辞する。危うきを助けず、倒れたものを助けなければ、任官できない、と周任は言っておる。求よ、お前の言うことは間違いだ。もし虎や野牛が檻から逃げたら、それは誰の責任だ?亀甲や宝石が箱の中で壊れていたら、それは誰の責任だ?
冉有曰く:顓臾は守りが固く費(李氏の領土)の近くです。今顓臾を取っておかないと後世の不安材料となります。
孔子曰く:求よ、君子は自分の本心を語らず、言葉を飾ることを避けるものだ。私はこういう話を聞いたことがある。国を治める者は、領内の人々が貧しいことを憂えず、人々の格差を憂う。貧しさを憂うのではなく安心できないことを憂う。富の格差がなく和すれば貧しいことはなく、和すれば人が減ることもない。遠方の人が帰服しないのであれば、文徳を高めれば自ずと人々は帰服する。既に領土にいる人々には、安心して暮らせるようにする。今冉有と季路が季孫を助け、遠方の人々を帰服させることができず、国内を分裂させ、戦争を引き起こそうとしている。私には季孫の憂は顓臾ではなく、国内にあるように見える。