暗黙智が苦手な欧米人と形式智が苦手な日本人


 TWI-JI(企業内教育訓練ー仕事の教え方)に取り組んで感じることがある。
日本人は自分たちの暗黙智を形式智化するのが下手だ。元々日本には、生涯をかけて技能を磨くと言う精神性がある。
その様な鍛錬の末に得られた技能(暗黙智)を、簡単に人に教えられる(形式智化できる)はずはない、と言う考えが仕事の形式智化を阻んでいる様な気がする。

以前勤務していた会社で、団塊世代の職能工が定年を迎える年齢になり、技能の伝承を計らねば生産が継続出来ないと言う事態となったことがある。この時生産技術のメンバーが、職場に入り込みベテラン工の作業をマニュアルに落とし込もうとした。しかし頑固親父の職人から「何しに来た」と追い返されている。品証部門の一計により、ベテラン工に素直な若手を弟子入りさせて技能の伝承を受けさせた。

自分の仕事(暗黙智)はマニュアル(形式智)などでは表現しきれない、と言う誇りが職能工に有り、生産技術のエンジニアは拒否する。しかし弟子となった若者には、精一杯自分の技術を口伝する。

これは極端な事例かも知れないが、日本人の心の底にこの様なメンタリティがあり、暗黙智を崇高な物と考え形式智化に抵抗感が有るのではないだろうか。

一方欧米では、作業をする為にはまずマニュアル(形式智)があることが前提となる。職務分掌が有り、マニュアルが有ることが雇用した従業員に仕事をさせる前提となっている。
TWIが米国で開発された理由はここにあると考えている。
作業訓練の効率を高める以前に、TWIの様な手法(形式智)がなければ、作業訓練そのものが出来ないのだ。

欧米企業では、きちんと職務分掌が文書化されており、分厚い作業マニュアルが有る、と言う印象を持つ。素晴らしいことでは有るが、こうしなければ仕事が回らないと言う事情が先に有る。

多くの日本企業は、「一を聞いて十を知る」と言う従業員の質の高さに依存し職務分掌は曖昧なまま、作業マニュアルは「先輩に聞け」で事足りていた。

しかしこの特性を欧米対日本と言う構図で説明したが、実は日本だけが特殊であり、中国でも普通は職務分掌と作業マニュアルがきちんと出来ている方を好む。
「あれやっといて」で話が通じるのは日本人同士だけだ。しかも日本人でも世代が違うと通じない。

日系企業ならば、作業標準、作業指導書が有るはずだ。
しかしこれだけで作業員が全員標準作業が出来る様になるだろうか?
作業指導の方法を班長に「一任」してしまっていないだろうか?
班長に作業の教え方を訓練してあれば、「一任」と言えるが、そうでなければ「放任」だ。

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