大局に立ち些事に固執


 企業の経営者たる者は、大局に着眼し、経営の目的・理念を定め、ビジョンを語り、目標を定めなければならない。そして日々の経営には、些事にこだわる事が必要だ。

1%でも可能性があれば果敢に挑戦する。
99%安心でも、1%を心配する。
経営者とは、こうした相反する気質を併せ持たなければならない。

1%を心配するココロが、些事にこだわるという事だと思っている。

哲学者であり教育者である森信三はこう語った。

学校の再建はまず紙屑を拾うことから。
次には靴箱のカカトが揃うように。
真の教育は、こうした眼前の些事からスタートすることを知らねば、
一校主宰者たるの資格なし

細部に神は宿る。
靴箱の靴がきちんと揃っている。
こうした些事を整える事が、全体を整えることになる。

学校経営も企業経営も、人をマネジメントしなければならないという面では同じだ。
学校は学生を育てることにより、社会に貢献する事が使命。
企業は従業員を育てることにより、利益を上げ社会に貢献する事が使命だ。

そのためには、従業員が仕事を通して育ち、その結果利益が上がると言う組織文化を持たなければならない。その基本が5Sであり、5Sの中で最も重要なのが「躾」だと思っている。

森信三がいう、しつけの三原則とは、

  1. 朝のあいさつをする子に。
    それには先ず親の方からさそい水を出す。
  2. 「ハイ」とはっきり返事のできる子に。
    それには母親が、主人に呼ばれたら必ず「ハイ」と返事をすること。
  3. 席を立ったら必ずイスを入れ、ハキモノを脱いだら必ずそろえる子に。

これは、学校、企業を問わず躾の大原則だろう。

挨拶ごときと考えては駄目だ。挨拶が組織の雰囲気を作る。雰囲気が組織文化の基礎となる。淀んだ雰囲気では、人の志気は上がらない。志気が上がらねば生産性も上がらない。

「ハイ」という返事が、コミュニケーションの基本だ。
コミュニケーションがない所には、信頼関係が発生しない。
コミュニケーションの量と質が高い企業では、ストライキなど発生しない。
まずは「ハイ」という返事がコミュニケーションの量を上げることになる。

椅子をそろえる、履物をそろえる、という事は、ただ見た目を整える事ではない。それは次に使う人への思いやりだ。次工程への思いやりがなければ、良い製品は生産出来ない。

これらを些事と考える経営者は、5Sで最も重要な躾が出来ない。経営者としてまず取り組むべきは、躾だ。
躾は、箸の上げ下ろしの様な些事にこだわりを持たなければならない。

躾とは、良い習慣を身につけさせ、決まりを守るココロを育てる事だ。
良い組織文化を作り、組織の中のコミュニケーションの質と量を上げ、相互に思いやりを持つ組織を作る。これが躾の目標だ。

参考図書:
「修身教授録」森信三著


このコラムは、2012年12月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】289号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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