JR西日本のぞみ破損


「異音後も運行、JR西謝罪 のぞみ破損、運転士マニュアル守らず」
朝日新聞デジタルの記事だ。

記事によると、のぞみ176号の運転士は博多―小倉間を走行中の6月14日午後2時5分ごろ、「ドン」という衝突音を聞いたが、東京指令所に報告せず。小倉駅でも点検せずに出発した。

JR西日本では昨年のぞみ34号で異常に気が付きながらそのまま運行すると言う重大インシデントを発生させている。

過去のメルマガ記事:
「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」
「のぞみ34号トラブル」
「組織事故」
「福知山線脱線事故」

今回の事故は、落下した先端部分に車両が乗り上げ脱線、と言う最悪シナリオもあり得ただろう。

報道によると、JR西日本の平野副社長は記者会見で以下の様に述べている。
異常時対応マニュアルで、運転士は走行中に異音を聞いた場合、東京の指令所に報告しなければならないと定めている。今回、運転士は「通常と全く違う音」を耳にしながら報告していなかった。「マニュアルを誤認したか、気が動転して伝える行為を抜かした可能性がある」という。

さらに、のぞみが人をはねた後、最初に停車した小倉駅では、駅員が先頭車両の連結器カバーに血が付き、ひびらしいものを目にして「違和感」があったが、報告したのは出発後。「(駅員は)そこまで重要な事象であるという思いはなかった」と説明した。

平野副社長は、破損した連結器カバー部分は運転士から見えず、駅員からもホーム柵があって見えにくいうえ、客の動きに気を取られていた事情があるとしながらも、「直ちに連絡すべきだった」と指摘。「運転士と指令員が話していれば、『小倉で下りて点検してくれ』ということになったと思う」と反省した。

JR西では台車亀裂問題を受け、再発防止のため、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」事を決めた。平野副社長は「迷った時は直ちに列車を止めるということを定着させる働きかけを、継続したい」と語った。

記事を読んで以下の様に感じた。
「異音」「違和感」を見逃した、と言う点ではのぞみ34号の重大インシデントとなんら変わりはない。のぞみ34号の事例は組織内に活かされていない、と言わざるを得ないだろう。

以前のコラム「福知山線脱線事故」で指摘した様にJR西日本には「組織事故」を発生させる組織文化がまだ残っている様に思う。

運転士が報告を怠った理由を
・マニュアルを誤認
・気が動転して伝える行為を抜かした
としか分析していない。

マニュアルにどう書かれているのかわからないが、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」と書いてあるのだとすれば、今回の事例では運転士は音しか認識していない。これを誤認と考えると、さらにマニュアルの文言をいじり回すと言う不毛な対策しか浮かばないだろう。

「気が動転して報告できなかった」などと言う分析を聞いた乗客はどう思うだろう。「気が動転してブレーキ操作ができなかった」と言うこともありうるだろう。そんな運転士の列車に乗りたいと思うか?その程度の信頼しか置いていない運転士に列車の運行を任せているのだとすれば、経営トップとして失格だ。

報告しなかった理由は他にもあるはずだ。
停車判断は、運行遅延に対する罰則「日勤教育」を避けたいと言う心理障壁を越えられないだろう。

日勤教育に関しては前述のコラム「福知山線脱線事故」を参照いただきたい。

孔子はこう言っている。
子曰:“過而不改。是謂過矣。”
子曰く、過ちて改めざる、是を過ちと謂う。

過ちそのものは、改善のチャンスだ。
過ちを改めない、それが本当の過ちだ。

「過ち」をチャンスと捉える文化を組織内に定着させなければ、こう言う事故は防げないだろう。


このコラムは、2018年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第682号に掲載した記事に加筆しました。

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