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上り特急停車中の線路に下り特急が進入、緊急停止 佐賀

 22日午後0時20分ごろ、佐賀県白石町坂田のJR長崎線肥前竜王駅で、上りの特急かもめ20号が止まっている線路に、下りの特急かもめ19号が進入し、運転士が手動で緊急ブレーキをかけて止まった。JR九州によると、列車同士の距離は約90メートルで、正面衝突する危険があったという。2本の特急の乗客計約230人にけがはなかった。

 同社によると、19号は線路の分岐点から約40メートル進んで止まった。速度は「最大で時速35キロ」としている。ATS(自動列車停止装置)は異音で停車した場所より手前にあり、作動する状況になかった。運転士が気付かなければ正面衝突の可能性があったという。

 19号と20号はもともと、隣の肥前鹿島駅ですれ違う予定だったが、19号の異音トラブルでダイヤが乱れたため、肥前竜王駅ですれ違うことになった。当初は、両列車とも肥前竜王駅の2番線を通過することになっていたため、JR九州の博多総合指令(福岡市)は、上りの20号が1番線に入るようプログラムを変更。20号は先に1番線に入って停車した。

 JR九州によると、19号は異音トラブルの際、線路の分岐点の手前にある信号を数メートル過ぎて止まったが、総合指令は信号の100メートル手前で止まったと認識していた。このため、総合指令は列車を信号まで進ませてから、分岐点を1番線から2番線に切り替えるつもりで進行を指示。しかし実際は信号を過ぎていたため、19号はすぐ分岐点を過ぎ、1番線に進入したという。

 国の運輸安全委員会は、このトラブルを深刻な事故につながりかねない「重大インシデント」と認定し、鉄道事故調査官2人を現地に派遣した。23日に、JR九州関係者から詳しく事情を聴き、現場を視察する。

(朝日新聞電子版より)

 米国で大きな列車事故が有ったが、日本の鉄道では久々の「ヒヤリ・ハット」事故ではないかと思う。

単線区間なので、列車は駅ですれ違う。すれ違いのために停車していた上り列車のいる線路に下り列車が進入し、あわや衝突という所で緊急停止した。

本来、もう一駅上り寄りの駅ですれ違う予定だったのが、下り列車の運転手が異音に気付き停車、10分遅れたため、一駅下り寄りの駅ですれ違う事となった。

上り列車を肥前竜王駅の1番線に入線させ、下り列車を2番線を通してすれ違うようダイヤ変更をした。しかし上り側のポイントが1番線側になっていたため下り列車が1番線に入線してしまった。

現場直前のATSの列車検出器で下り列車を捉え、その後に肥前竜王駅手前のポイントを2番線側に切り替える予定で準備していたが、異音点検で停車した位置が列車検出器を通り越していたので、通過信号が得られず、ポイントの切り替えが出来なかった、と言うのが新聞記事から読み取れる事故の経緯だ。

しかし何事もなければ、一駅下り寄りの肥前鹿島駅ですれ違いを済ませ、上り下り列車ともに、肥前竜王駅の2番線を通過することになっていた。従って何もしていなければ、肥前竜王駅上り側のポイントは2番線側になっていたはずだ。

上り列車を1番線に入線させる際に下り側ポイントを1番線側に倒せば、上り側ポイントも1番線側に自動的に切り替わる、などの事情が有るのかも知れない。残念ながら鉄道マニアではないのでこの辺りの事情は不明だ。

いずれにせよ、普通ならば下り列車が10分遅れたくらいで大騒ぎせず、上り列車を予定通り肥前鹿島駅で待機させておくだろう。日本の鉄道でなければ、この様な事をしないと思う。現場が臨機応変に対応し、遅れ時間を最小に出来る。そして現場が、遅れ時間を最小にしようと言う情熱を持っているからこそ発生した事故だと思う。

しかし憂慮しなければならない事は、我々が信じて疑わないJRの現場力が健在なのか?と言う事だ。日本の鉄道はATS/ATCシステムによって、安全運行が行われる様になっている。都内の列車は3分間隔と言う過密ダイヤでも事故が発生しない。以前工事車両が原因で事故が発生したが、工事車両はATS/ATCで制御出来ない。システムに頼りすぎて、本来現場力で対処出来ていた部分が脆弱になりつつ有るのではなかろうか?

JR西日本のぞみ破損

「異音後も運行、JR西謝罪 のぞみ破損、運転士マニュアル守らず」
朝日新聞デジタルの記事だ。

記事によると、のぞみ176号の運転士は博多―小倉間を走行中の6月14日午後2時5分ごろ、「ドン」という衝突音を聞いたが、東京指令所に報告せず。小倉駅でも点検せずに出発した。

JR西日本では昨年のぞみ34号で異常に気が付きながらそのまま運行すると言う重大インシデントを発生させている。

過去のメルマガ記事:
「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」
「のぞみ34号トラブル」
「組織事故」
「福知山線脱線事故」

今回の事故は、落下した先端部分に車両が乗り上げ脱線、と言う最悪シナリオもあり得ただろう。

報道によると、JR西日本の平野副社長は記者会見で以下の様に述べている。
異常時対応マニュアルで、運転士は走行中に異音を聞いた場合、東京の指令所に報告しなければならないと定めている。今回、運転士は「通常と全く違う音」を耳にしながら報告していなかった。「マニュアルを誤認したか、気が動転して伝える行為を抜かした可能性がある」という。

さらに、のぞみが人をはねた後、最初に停車した小倉駅では、駅員が先頭車両の連結器カバーに血が付き、ひびらしいものを目にして「違和感」があったが、報告したのは出発後。「(駅員は)そこまで重要な事象であるという思いはなかった」と説明した。

平野副社長は、破損した連結器カバー部分は運転士から見えず、駅員からもホーム柵があって見えにくいうえ、客の動きに気を取られていた事情があるとしながらも、「直ちに連絡すべきだった」と指摘。「運転士と指令員が話していれば、『小倉で下りて点検してくれ』ということになったと思う」と反省した。

JR西では台車亀裂問題を受け、再発防止のため、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」事を決めた。平野副社長は「迷った時は直ちに列車を止めるということを定着させる働きかけを、継続したい」と語った。

記事を読んで以下の様に感じた。
「異音」「違和感」を見逃した、と言う点ではのぞみ34号の重大インシデントとなんら変わりはない。のぞみ34号の事例は組織内に活かされていない、と言わざるを得ないだろう。

以前のコラム「福知山線脱線事故」で指摘した様にJR西日本には「組織事故」を発生させる組織文化がまだ残っている様に思う。

運転士が報告を怠った理由を
・マニュアルを誤認
・気が動転して伝える行為を抜かした
としか分析していない。

マニュアルにどう書かれているのかわからないが、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」と書いてあるのだとすれば、今回の事例では運転士は音しか認識していない。これを誤認と考えると、さらにマニュアルの文言をいじり回すと言う不毛な対策しか浮かばないだろう。

「気が動転して報告できなかった」などと言う分析を聞いた乗客はどう思うだろう。「気が動転してブレーキ操作ができなかった」と言うこともありうるだろう。そんな運転士の列車に乗りたいと思うか?その程度の信頼しか置いていない運転士に列車の運行を任せているのだとすれば、経営トップとして失格だ。

報告しなかった理由は他にもあるはずだ。
停車判断は、運行遅延に対する罰則「日勤教育」を避けたいと言う心理障壁を越えられないだろう。

日勤教育に関しては前述のコラム「福知山線脱線事故」を参照いただきたい。

孔子はこう言っている。
子曰:“過而不改。是謂過矣。”
子曰く、過ちて改めざる、是を過ちと謂う。

過ちそのものは、改善のチャンスだ。
過ちを改めない、それが本当の過ちだ。

「過ち」をチャンスと捉える文化を組織内に定着させなければ、こう言う事故は防げないだろう。


このコラムは、2018年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第682号に掲載した記事に加筆しました。

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停車駅誤通過

JR彦根駅を800m行き過ぎ 運転士「通過駅かと」

 17日午後1時50分ごろ、滋賀県彦根市のJR琵琶湖線彦根駅で、姫路発近江塩津行きの新快速電車(12両)が停車位置を約800メートル行き過ぎて止まった。

 JR西日本によると、車掌が停車予定駅の通過に気づき、非常ブレーキをかけた。乗客約300人にけがはなかった。電車が停車したのは踏切上で、後退すると故障の恐れがあったため、次の米原駅まで進んで、彦根駅で降車予定だった約90人には乗り換えて折り返してもらったという。通過した彦根駅では20人ほどが乗車できなかったという。30代の男性運転士は「通過駅と思い込んだ。眠気がなかったとは言い切れない」と社内の聞き取り調査に話しているという。

 JR西日本京都支社は「お客様に大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。指導を徹底することで再発防止に努めてまいります」としている。

(朝日新聞デジタルより)

 定番の「人為ミス」による事故だ。JR西日本は再発防止対策として「指導を徹底する」と発表している。人為ミスに対する「鉄板対策」であるが、毎回指導を徹底し再発している。再発し続ける原因は、事故発生原因の調査を人為ミスで終わりにしてしまうからだ。人為ミスは事故発生原因ではない。事故の現象と考えた方が良い。人為ミスが発生する原因を突き止めなければならない。

JR西日本では停車駅通過防止装置が導入されている。ICカードのデータをATS-P車上装置に読み込ませ、その情報を元に、停車駅であれば「停車です・停車です」の音声を一回流し、それでもブレーキを掛けない場合は「停車・停車」と連続発音する仕組みになっている。

それでも事故は起きている。
■停車駅通過防止装置が機能しなかった。
 ・停車駅通過防止装置が故障していた。
 ・オンにするのを忘れていた
 ・人為的にオフにしてあった。
 ・警報音が聞こえなかった。
■ブレーキが機能しなかった。
 ・ブレーキが壊れていた。
 ・ブレーキ操作ができなかった。

というように可能性のある原因→その原因→その原因……と深掘りする。
そうすれば「指導を徹底して再発防止」などという効果の感じられない対策にはならないだろう。

元々停車駅通過防止装置は、停車駅と認識していなかった、ついウッカリ通過、注意散漫などの人為ミスを防ぐために導入したはずだ。それでも再発している。「指導を徹底」などと言っている暇があったらもっと考えろ、と言いたい。


このコラムは、2019年4月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第814号に掲載した記事を改題・修正・加筆しました。

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