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旅客機滑走路逸脱事故

 4月23日に山形空港で名古屋行きフジドリームエアラインズ(FDA)386便が離陸時に滑走路を逸脱した事故があった。
運輸安全委員会の調査結果が報道されている。

「滑走路逸脱のFDA機、車輪操作装置に不具合 山形空港」

 山形空港で4月、フジドリームエアラインズ(FDA)の旅客機が離陸走行中に滑走路を逸脱した重大インシデントで、国の運輸安全委員会は28日、旅客機の車輪を操作するステアリング装置の一部に不具合が見つかったと明らかにした。

 FDAの聞き取りでも、機長は「機体が左にそれたので戻そうとしたが、(車輪を操作する)フットペダルを踏んでも戻らなかった」などと話していた。原因を特定するため、運輸安全委は飛行データや機体を詳細に調べるという。

 インシデントがあったのは4月23日夕。名古屋行きのエンブラエル175型機(乗客・乗員計64人)が離陸走行中、全長2千メートルの滑走路の途中で左にそれて草地で止まった。けが人はいなかった。運輸安全委によると、直後の初期調査でステアリングの不具合が見つかったという。

朝日新聞 DIGITALより

事故機はエンブラエル社製ERJ175。エンブラエル社(ブラジル)はあまり耳にしないが、エアバス、ボーイングに次ぐ世界第3位の航空機メーカだ。カナダのボンバルディアより売り上げ規模が大きいらしい。

実はERJ175より一回り小さいERJ145を、広西省出張時にしばしば利用した。
左1列、右2列という変則的な座席レイアウト。搭乗ドアがタラップになっており、ボーディングブリッジには接続できず沖スポからの搭乗。ひょいと離陸する軽やかさなど印象のある機体だった。

事故機は2016年6月製造、2019年1月に「重整備」が行われている。おそらく何も問題はなかったのだろう。

記事にある「旅客機の車輪を操作するステアリング装置」とは航行中方向舵を操作するフットペダルだ。地上でタキシングする際には前輪の向きを変える役割を持つ。

ここまでの情報で大胆にも「素人考え」で事故原因を推測してみた(笑)

事故機は駐機位置から誘導路を通って滑走路までタクシング出来た。従って離陸開始までは前輪操舵機能には問題がなかったはずだ。
離陸後はフットペダルは方向舵の制御に使う。離陸後のタイミングで、手動または自動で前輪/方向舵の制御が切り替わるはずだ。

離陸開始後から離陸前にこの切り替わりが発生すれば、前輪の方向を制御しようとフットペダルを操作しても、虚しく方向舵の角度が変化するだけとなる。

従って今回の事故は、前輪/方向舵の切り替えに何らかの人為ミスまたは故障があったと推定する。

多分新聞記事になった時点(5月28日)で、事故調査官はすでに答えを知っているだろう。本当の事故原因はわからないし、今後公表されないかも知れない。それでも、原因を考えてみるのは「頭の体操」だけではない。

今回の事例では「モード切り替え」「タイミング」がキーワードとなる。

  • モード切り替えができない。
  • 予期せぬタイミングでモード切り替えが発生する。

という潜在要因の引き出しが増えるはずだ。
これは自社の製品設計、工程設計の時の潜在不具合要因となる。
同様に問題原因解析時に挙げることができる問題要因が豊富になる。


このコラムは、2019年6月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第832号に掲載した記事です。

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初代iPodナノ、過熱のけが4人に なおリコールせず

 米アップル製の携帯デジタルプレーヤー「iPodナノ」の初代モデルが充電中に過熱・焼損する問題で、消費者庁は27日、新たな事故が起きてユーザー1人がやけどをしたと発表した。これで事故は27件目、負傷者は計4人になった。経済産業省はリコール(回収・無償修理)するよう再三求めているが、同社は応じていない。

 問題のモデルは「MA004J/A」「MA005J/A」「MA099J/A」「MA107J/A」の4機種で、2006年9月までの1年間に計181万2千台が販売された。これらの一部のバッテリーは製造不良があり、充電中に最高約200度まで過熱する恐れがある。

 消費者庁によると、新たな事故は今月13日、東京都で起きた。充電中に製品から火花が出て破裂音がし、ユーザーが製品に触れた際に指先にやけどを負ったという。

 事故は07年11月から起きており、うち6件は消防機関から火災と認定されている。しかし、同社はリコールという自主的な対応はとらず、実際に過熱などが起きて顧客窓口(0120・27753・5)に連絡してきた人に限り、バッテリー交換に応じている。同社広報部はその理由について、これまでの取材に対しては「重大な人的被害や物的損害は報告されていない」と説明してきた。この日は「対応できる者がいない」としてコメントしなかった。

 経産省製品安全課は「アップル社の対応は十分でないと考えており、注意喚起のやり方も含めて積極的な対応を促していく」と話している。

(asahi.comより)

 アップル社の対応が理解できない。
火傷、火災の危険性があれば、社告、回収修理をするのが常識だ。

アップルのホームページには以下の告知がされている。

弊社は、ごくまれなケースとして2005年9月から2006年12月に販売された第1世代 iPod nanoのバッテリーが過熱を起こし、使用ができなくなったり、変形していることを確認しました。弊社はこのような事故の報告を何件か受けており(すべて第1世代iPod nanoであり、0.001パーセント未満です)、これらは一つのバッテリー・サプライヤーからの供給であることを特定しています。これまで、重大な人的被害や物的損害は報告されておらず、また他のiPod nanoのモデルについてはこうした報告はまったく受けていません。

第1世代のiPod nanoをお使いでバッテリー過熱を感じられたお客さまは、AppleCare(顧客窓口)にて交換いたしますので、ご連絡をお願いいたします。
 また、他の第1世代iPod nanoをお使いのお客さまで少しでもご不安を感じられた方も、AppleCareにご連絡ください。

回収はしないが、交換修理をする。というスタンスだ。

事故発生率が0.001%(10ppm)未満であると言っているが、安全事故の場合は事故発生率はゼロでなければならない。

また事故が製品出荷開始後2年目から始まっている。
事故が「寿命故障モード」で発生している可能性がある。この場合現在の事故発生率は余り重要な意味を持たない。事故発生率は徐々に高くなるはずだ。

iPodの様なコンシューマ製品は、2、3年で使わなくなる。
私は未だに第二世代のiPodを使っているが、そのような消費者は少数派だろう。5年前の製品の回収を告知しても、ほとんど戻って来ないのが実情だろう。

大事になる前に、回収告知をしてしまった方が、良い結果につながるはずだ。

iPodは、簡単には電池を交換できない構造となっている。
新しいiPhoneは内部電池が接着剤で固定されていると、聞いている。同様に初代iPod nanoの電池が交換不可能な実装形態だとすると、本体ごと新品交換をしているはずだ。この場合、既に初代iPod nanoの生産は終了しているので、完成品在庫の数だけしか対応が出来ない。これがアップル社が自主回収を拒んでいる真の原因なのではないだろうか。

過去の製品でも、月産100台でも、生産可能ならば、アップルのピンチを救い、自らの成長のチャンスとすることが出来る。大量にモノを作るだけではなく、この様なモノ造りが出来る企業に、今後成長のチャンスがあると考えているが、いかがだろうか。


このコラムは、2010年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第164号に掲載した記事です。

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パナソニックのレンジ、発煙・発火事故

 経済産業省は20日、松下電器産業(現パナソニック)製の電子レンジ(NE―AT80)から煙が出る事故が7日に宮城県で起きたと発表した。
事故の恐れがあるとして同社が07年5月からリコール(部品交換など)しているレンジ12機種のうちの一つ。一連の発煙・発火事故は18件目で、いまだに169万台が部品交換していない。

 7日の事故は、レンジ裏側の吸気口にほこりが詰まったまま使い続けたため、内部のはんだ付け部にひびが入って火花が飛び、周りの樹脂に火がついたとみられる。一連の事故でけが人は出ていないが、リコールの実施率は昨年末時点で12%にとどまり、リコール後も今回を含めて8件の事故が起きている。同社は昨年11月から折り込みチラシを全国で4500万部配って注意を促している。

(asahi.comより)

 エンドユーザでの使用環境はメーカ設計エンジニアの想定を越えてしまう事がままある。
電子レンジでは、シャンプーした猫を乾かそうとして電子レンジに入れて事故が発生した話が有名だ。電子レンジの加熱原理を理解しているメーカ側は、猫を電子レンジに入れるという「動物虐待」までは想定していない。

しかし今回の事故は「冷却システムが初期の能力を発揮しなくなった場合」に対する想定が不足していたように思う。
記事だけでは判断できないが、半田付けポイントに応力がかかったまま内部温度上昇により、半田クリープの発生が加速したと推定している。
半田接合点にかかる応力と温度に関する設計基準を見逃してしまったか、製造時に応力が発生することを見逃してしまったのだろう。

設計審査、試作サンプル、初回量産品の評価でこのような不良を事前に洗い出す力が、メーカの「品質力」だと思う。


このコラムは、2009年3月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第90号に掲載した記事です。

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米国でのPhilipsの人工呼吸器リコール

米国でのPhilipsの人工呼吸器リコール、周知も修理キット提供も進まず

Philips は 6 月に同社製 CPAP 装置・ASV 装置・人工呼吸器 20 機種以上のリコールを米国で発表しているが、周知も修理キット提供もなかなか進まない状況のようだ 。

(The Verge の記事)

リコールの原因となった問題は防音用部品のポリエステル系ポリウレタンフォーム素材が劣化して発生する細かい粒子や化学物質を患者が吸い込んでしまう可能性があるというもの。Philipsでは睡眠時無呼吸症候群治療用の CPAP / ASV 装置については即時利用を中止するよう求めている。しかし、このような装置は代替品が用意できなければ使用をやめることはできない。COVID-19 パンデミックで米食品医薬品局 (FDA) が緊急使用許可 (EUA) を出した E30 も即時利用中止の対象となっている。

財経新聞より

 タイミングの悪いリコールだ。コロナパンデミックで人工呼吸器が必要な患者が多くいる。そんな状況でのフィリップスの人工呼吸器使用禁止令は医療従事者にとって最悪の事態だろう。もちろん患者にとっては生き死にの問題だ。

この人工呼吸器がどのような構造になっているのかわからないが、私には設計不良のように思える。呼吸用の空気は病床に設置された専用の空気供給口から取られる。防音装置と、患者が吸入する空気は完全に分離できるはずだ。

人工呼吸器を必要とする患者が多くいる中で人工呼吸器の使用を差し止める指令を出すというのも理解できない。いっそ防音機能を停止してでも使用を継続する方法を模索すべきではないか?音がうるさいくらいで人は死なないだろう。

日本フィリップスは、医療機関に公表した文書で以下のように述べている。
「お使いの機器を使用して治療を継続することのメリットが本書に記載するリスクを上回るかどうか、ご判断ください。」
我々はリスクをちゃんと開示した、決断は医師の責任だ、と突き放しているようにしか見えない。


■■ 編集後記

最後まで読んでいただきありがとうございます。

本日ご紹介した事例を「設計不良」と断じましたが、私は患者の呼吸に必要な空気系統に、消音用ポリエステル系ポリウレタンフォームの微細粉末が混入する理由がわかりません。患者ではなく、医療従事者が吸い込む可能性がある、と言うなら、対応策がありそうです。


このコラムは、2021年8月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1177号に掲載した記事です。

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「音うるさい」点滴の電源切られ、寝たきりに 家族会見

 順天堂大学付属順天堂医院(東京都文京区)で昨年6月、心不全で入院中の岩手県の女性(74)に点滴されていた強心剤が数十分にわたって中断し、低血圧によるショックを起こして寝たきりになったと、女性の家族らが9日、都内で記者会見して明らかにした。家族らによると、看護師が点滴装置の電源を切ったままにしていたと、病院側から説明されたという。

 女性の長女と弁護士によると、女性は手術を受けるために心臓血管外科に入院。強心剤によって血圧が保たれていて、容体が急変したため、点滴装置の電源が切れていることがわかった。強心剤の残量が少なくなり、新しいものを準備中にアラームが鳴るとうるさいので切った、と病院側は話しているという。

 長女らは病院側に損害賠償を求めて提訴する方針。長女は会見で「病院は医療ミスを認めて、正式に謝罪してほしい」と語った。

 病院側は9日、朝日新聞の取材申し込みに対し、「対応できない」としている。

(朝日新聞電子版より)

 点滴中の強心剤の残量が少なくなり、点滴装置の電源を切り新しい強心剤の準備のため席を外した。その後数十分間、強心剤の補給は行われず、家族が容態の急変に気付いている。

「準備中にアラームが鳴るとうるさいので切った」と言う説明が理解出来ない。
この看護士はアラームを切ったのではなく、点滴の機能を止めている。そして数十分間交換には来なかった。

製造業の感覚で言えば、点滴の交換は極力短時間で完了するため工夫をする。
交換用の点滴を取りに行き、数十分経っても戻って来ないなどと言う事はあり得ない。交換用の点滴は「外段取り」で準備してあり、点滴装置の横に置いてある。こうする事で点滴交換時間は1秒以下になるだろう。

医療業界でもこれが常識だと思っていた。
毎日新聞の記事によれば、この患者は集中治療室に入院していた。
「アラームがうるさいので点滴装置をオフにする」
「交換用の点滴薬を探しに行って数十分戻って来ない」

集中治療室勤務の看護士が
なぜ点滴装置の電源をオフにすると言う判断をしたのか?
なぜ交換の事前準備をしなかったのか?
なぜ交換用の点滴薬をすぐに持って来れなかったのか?
こういう事を理解しなければ再発防止は出来ないだろう。

事故から1年経過して、ようやくこの医療事故が明るみに出ている。
これ以上事故の原因に迫る情報が出てくる事は期待出来ないだろう。

工場でも、冷却装置を停止し火災の危険を招く、と言うリスクが考えうる。
操業のオペレータが、誤認識をする、誤判断をする、正しい行動が出来ない、などのリスクを事前に理解し、未然に対策しておく事が必要だろう。


このコラムは、2016年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第484号に掲載した記事です。

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2009年の自動車不具合による事故・火災情報

国土交通省、2009年の自動車不具合による事故・火災情報をとりまとめ

 発表によると、事故・火災情報の総件数は1138件。内訳は、事故154(13.5%)、火災984件(86.5%)となっている。また、装置別の事故・火災情報の上位は、不明342件(30.1%)、原動機191件(16.8%)、制動装置72件(6.3%)の順となっており、原因別では、点検・整備起因321件(28.2%)、原因特定できず273件(24.0%)、現車確認できず157件(13.8%)が上位。なお、製造設計に起因した事故・火災情報は、すべてリコールの届出がされているとのこと。

(中略)

●エンジンルーム内の可燃物置き忘れなどに関する調査結果概要
 事故・火災情報の中で、エンジンルーム内の可燃物置き忘れなどが原因となった火災が72件あり、火災の分析、可燃物の発火温度、実車によるエンジンルーム内の部位別温度測定及び発火試験などについて調査も行っている。
それによると、車種別では、乗用車32件、軽乗用車19件で、原因別では、可燃物(ウエス等)の置き忘れ56件、枯れ草7件、小動物が持ち込んだ可燃物4件、鳥類が持ち込んだ可燃物4件であり、可燃物(ウエス等)の置き忘れが全体の約8割となっている。ユーザーへの注意事項は下記のとおり。

  • 運行前に、エンジンルーム内に可燃物の置き忘れがないことを確認すること。
  • 車両を長期間使用しなかった場合は、小動物や鳥類に持ち込まれた小枝等がないことを確認すること。
  • 走行中、焦げた臭いを感じたときは、走行を継続しないこと。

(Car Wacthより)

 国土交通省がまとめたこれらの資料は、自動車運送業に関わる者だけではなく、車を運転する者も、参考にすべき内容だと思う。運送業ではなくても社内に運転手を雇っている工場、会社の経営者・経営幹部は是非参考にしていただきたい。

今回は上記のCar Wacthに出ていた事例について考えてみたい。
ボンネットを開けエンジンルームを清掃し、ウェスを取り忘れてボンネットを閉めてしまう。工場でもありそうなミスだ。良かれと思ってやっているメインテナンスの結果事故を起こしてしまう。

枯葉や小動物、鳥類が持ち込んだ可燃物もしばしばエンジンルームを点検していれば見つけることが出来るだろう。しかしその点検で、二次災害が起きてしまう。ならば、いっそメインテナンスを止めてしまったほうが安全だ、などという極論にもなりかねない。

しかしメインテナンス後に問題が発生することは意外と多い。
メインテナンスも一つの変化点として、変化点管理をするよう留意すべきだ。

ところで国土交通量が呼びかけている注意事項は、「確認」だけだ。
いわゆる「ポカよけ」がない。
例えば複写機をメインテナンスして扉を閉めようとしても、レバーを戻し忘れると扉が閉まらないようになっている。こういうのを「ポカよけ」という。

ウェス忘れもポカよけが考えられないだろうか?
複写機と同じ方法はちょっと難しそうだ。
発想を変えて、ウェスを置いたままにしても問題ないように、エンジンの表面温度を下げる。
又は、ウェスが燃えても影響がないようにする。エンジンルーム内全てを、耐燃仕様にするのは大変なので、燃える可能性のある部分(コード類、プラスチックケースなど)のそばにはウェスが置けなくする。

更にもう一度発想を変えて、エンジンルーム内の問題が起きない場所にウェスの置き場所を作っておく。そこにウェスを置けるトレーを用意しておく。

置き忘れのチェック方法も工夫したい。
ウェスの置き場所を決めておく。例えばトランク内の決められた場所に、ウェスをエモン掛けに掛けて吊るして置くようにする。これならば洗車後、洗車道具をトランクにしまう時にウェスがないことにすぐ気が付くだろう。


このコラムは、2010年7月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第161号に掲載した記事です。

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透ける可能性ある水着、自主回収 アディダス

 アディダス・ジャパンは14日、今年4月以降に全国で販売した女児用の水着が、着用して水にぬれると肌が透ける状態になると発表した。同社は自主回収する。薄いブルーと、薄いピンクの水着で6モデル、10種類が対象。
問い合わせは、同社の製品回収センター(0120・774・435)。

 同社によると、主に小学校高学年までで、身長100~160センチを対象とした「女児用スイムウェア」。これまでに、約4千着を販売した。生地と色の薄さが透ける原因だとしている

(asahi.comより)

 スポーツウェアの業界では、新製品の「設計検証」「製品の妥当性検証」をどのような手順でやっているのだろうか?今回の様な不具合は、出荷後ではなくもっと早くに発見出来たはずだ。

本来この様な問題は、製品に使う材料を決定する段階で、問題に気が付かねばならない。

電気・電子製品の場合、新規に採用する部品・材料は設計の初期段階で、部材及び、それを供給するメーカの評価を実施する。長期信頼性など時間がかかる評価については、評価計画とリスク回避の代替案を初期設計審査で確認する。

今回の様な、透ける素材を使って水着をデザインするということはありえない。初期評価でサンプルを濡らしてみればすぐに分かることだ。

また、万が一不幸にも初期設計の段階で不適合に気が付かなかった場合も、設計検証で洗い出す仕組みになっている。それでも気が付かない場合は、量産開始前の第三者(普通は品質保証部)の製品妥当性検証で気が付く。この妥当性検証は、完全に利用者の立場で評価を実施することになっている。

電気・電子製品の設計者は安全事故を発生させない様に、最大限の注意を払う。水着メーカにとって「透ける」という不適合は、電気・電子メーカの安全事故と同等の致命的不適合だろう。

衣料メーカにとっては、意匠性が重要なのは理解できるが、基本的な機能の評価がおろそかになったり、手薄になると、今回のような回収騒ぎとなる。

「保証」と「補償」は紙一重。品質保証は「先手必勝」だ。


このコラムは、2010年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第162号に掲載した記事です。

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のぞみギアケース破損、9年前の類似トラブル生かされず

 山陽新幹線で3日、博多発東京行き「のぞみ56号」(N700系)のギアケースが壊れた問題で、上越新幹線でも2001年に同じようなトラブルが起きていたことが分かった。ともにギアケース内の歯車のベアリングが壊れ、部品がケースを内部から破損させていた。JR西日本の担当者は上越新幹線のトラブルを把握していなかったといい、教訓が生かされなかった。

 JR西によると、のぞみのギアケース破損は、ケース内の小歯車の両側にあるベアリングが壊れ、部品が大歯車とケースの1センチのすき間に挟まったためとみられる。ベアリングが壊れた原因は不明だが、モーターの動力を小歯車に伝える軸が何らかの原因でずれたことなどが考えられるとしている。

 JR東によると、上越新幹線のギアケースが壊れたのは01年4月22日。新潟発東京行き「Maxあさひ」(E1系)が高崎駅(群馬県)―熊谷駅(埼玉県)間を走行中、台車の異常を示す警告ランプが点灯した。列車はそのまま東京駅に到着し、折り返して新潟まで運行した。

 車両基地で点検したところ、ギアケースが割れて潤滑油が漏れていた。
その後の調査で小歯車のベアリングが壊れ、その部品がケースを破損していたことが分かった。JR東は、ベアリングを押さえつけていた部品が不良品で、「遊び」ができていたと断定。改善策を講じたという。

 JR東によると、上越新幹線のトラブルの原因は鉄道総合技術研究所(東京)で究明し、国土交通省に報告した。
 

(asahi.comより)

 「のぞみ」の車内に白煙が立ち込めたと言うニュースの続報だ。
このニュースを読むと、以前発生した上越新幹線での事故では、発煙する前に警告ランプが点灯し、故障が認知されている。しかしのぞみの事故の場合は、警告ランプが点灯せずに発煙が発生したようだ。ギアケースの破損と同時に、警告ランプが点灯しなかった原因も究明・改善しなければならないだろう。

乗り物に限らず、発煙・発火は利用者に多大な恐怖心を持たせる。あってはならない事故だ。予防保全、未然防止に最大限の努力を払わねばならない。

昔から、10年に一回同じような不良が再発されると言われている。
それは不良・事故を経験した現場の記憶が薄れて行き、また同じ事故を引き起こしてしまうためであろう。

不良・事故の経験を現場の記憶として継承してゆくには限界がある。
記憶として残すのではなく、記録に残し更に、組織の暗黙智として仕組み・仕掛けに落とし込まなければならない。

上越新幹線の事故の後に、車両保守点検手順、車両の製造手順、設計基準等が改定されただろうか?基準書、手順書の形で組織の暗黙智を形式智にしておくのが、過去の経験を忘れない方法の一つだ。

以前、積層セラミックチップコンデンサに亀裂が入る不良事故を経験した事がある。当時想定していたよりも、はるかに簡単にチップコンデンサには亀裂が発生することが分かった。そのため設計基準を変え、製造での加工方法も変更した。

しかし2年後、別の事業部で同じ不良が発生した。
当時私は大いに反省をし、毎月定例開催されていた全社QA会議の他に、全事業部の品質エンジニアが情報を共有しあうための月例会議を発足させた。そこで議論された内容は、技術資料・議事録として残り、全社に公開する。

これも組織の暗黙智を継承してゆくための仕組みと仕掛けになるだろう。


このコラムは、2010年3月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第144号に掲載した記事です。

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温泉施設、過去2人死亡 硫化水素か、入浴客重体

 北海道足寄(あしょろ)町の旅館「オンネトー温泉 景福」で2014年10月、男性入浴客が浴槽内で倒れて重体に陥る事故があり、道警が業務上過失傷害の疑いで捜査している。事故直後の保健所の測定では、温泉に含まれる硫化水素ガス濃度が国基準を大幅に超えていた。この施設では以前にも2人が同じ浴槽で倒れ死亡しており、道警はこの2件についても経緯を慎重に調べている。

(朝日新聞電子版より)

 この男性は、未だに意識不明で入院中だそうだ。
この事件以前にも2013~2014年に3人が入浴中に倒れ、救急搬送されている。内2名は死亡している。この時の死因は「溺死」、「虚血性心疾患」として片付けられている。同じ温泉旅館で3人が入浴中に死亡している。少なくとも3人目が硫化水素ガス中毒と判明した時点で過去2名の死因が正しかったのか再検証すべきではなかったのか?

「事態を重く見た環境省は今年9月に再発防止に向けた検討会を設置し、硫化水素を含む温泉の安全対策について基準を見直す方向で検討している」と記事にあるが、事故発生後2年経ってもまだ検討段階なのかと行政の行動速度に不信感を覚える。

この事故の原因は何だったのだろか?
直接の原因は硫化水素ガスが浴室内に高濃度で存在した事だ。
温泉であるから硫化水素がすが出る事はやむを得ないのかも知れない。しかし人が入浴するのならば、健康に害がない程度に排気や換気が必要だろう。
この温泉施設にはそのような設備はなかった。
そればかりではなく、硫化水素学の濃度を測定した事すらなかったそうだ。

別の記事によると、温泉旅館の主人は1987年開業以来一度も硫化水素ガス濃度検査を受けていないと言っている。監督官庁である保健所も、事件後初めて硫化水素ガス濃度を測定し、基準を超えている事を把握した。
保健所の監視要領には2年に1度立ち入り監視をする事が定められているが、監視項目に硫化水素ガス濃度の測定は含まれていない。
環境省の基準では都道府県知事が必要と認めた時には、温泉施設にガス濃度の測定を命じる事が出来るとなっている。しかしどのような時に測定を命じるのか基準は示されていないとある。そのため北海道ではガス濃度測定を命じた事はないそうだ。

法律に規定ないからやむを得なかった、などというのは言い訳に過ぎない。福島県、群馬県などは定期的にガス濃度測定を行っている。

少なくとも2人目の死者が発生した時点で、硫化水素ガスによる死亡の可能性を検証すべきだったはずだ。その上で、行政監視に欠陥がないか調べれば、3人目の犠牲者は出なかったはずだ。

工場の安全災害も同様だ。
マニュアルに書いてないから何もやらない、という考えを改めねばならない。
マニュアルは作成された時点で、想定した事態に対応出来る様に書いてある。当然その時点で想定出来なかった事に対する手順は書いてない。
それらを補って行くのは、マニュアルを運用している者の責任だ。日々発生するヒヤリハットから重大事故の潜在要因を見つけ、マニュアルを改訂せねばならない。


このコラムは、2016年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第499号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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続・のぞみ34号トラブル

負の連鎖が引き起こした亀裂『偶然発生でない』

 新幹線のぞみの台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、台車の鋼材が薄く削られた経緯などを検証した川崎重工業の委員会は28日、製造元の同社内のコミュニケーション不足に過度な現場依存が加わる「負の連鎖」が引き起こしたとの結論を明らかにした。新幹線の重大事故に繋がった恐れのある台車の製造不備は、現場任せの企業体質に原因があった。

(以下略)全文

(産経WESTより)

山陽新幹線のぞみ34号の台車に亀裂が入ると言う重大インシデントに関して以前このメルマガでも検討した。

「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」
「のぞみ34号トラブル」

調査によって明らかになった経緯詳細については、上記新聞記事をご参照いただきたいが、概略をまとめると以下の通りとなるだろう。

亀裂が入った「側バリ」を製造していたメーカが鉄道用部品の生産から撤退。代替えメーカに対して現場監督職が「台座鋼材を削ってはいけない」と言う注意事項を伝えていなかった。

台座鋼材を削ったため、強度不足となり軸バネの弾性応力により徐々に亀裂が入った。

製造時の注意事項をまとめた「作業指導票」は、強度に影響が及ぶとして台車枠の鋼材を削ってはいけないと規定してあった。しかし仕入先メーカが削ったのが原因と読める。

生産移行前のメーカは同じ問題を起こしていない。と言うことは、代替えメーカにおける問題点は以下の二通りとなるだろう。

  • 代替えメーカに正しく製造仕様が伝わっていなかった。
  • 製造仕様は正しく伝えたが代替えメーカが正しく作業しなかった。

側バリは列車の安全重要部品と思われる。
生産工程の変更という4M変動に対してきちんとレビューができていなかった、というのがJR側の問題点だ。

代替えメーカを指導した現場監督職にとっては「台車鋼材を削ってはいけない」というのは常識であり、伝達する必要を感じなかったかもしれない。
また「作業指導書」の規定も理由が書いてなければ、その重要性は理解されない。

記事によると、メーカ変更時に設計、製造、品証の各部門がレビューをした様だ。しかしそのレビュー内容が生産指導に出かけた現場監督職に伝わっていなかった。初品生産時に生産現場の監査が適切に行われていなかった、などの隠れた問題点がまだありそうだ。

「初品」の検証は出来上がった製品の検証だけでは不十分だ。その後に生産される製品も品質が保証できるかどうかを検証せねばならない。現場作業員が正しく生産方法を理解している。そして作業員が変わってもそれが保証される仕組みがある、ということも検証せねばならない。


このコラムは、2018年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第730号に掲載した記事です。

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