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修理ミス原因、社員を書類送検へ 山形・松下温風器事故

 松下電器産業製の石油温風機で一酸化炭素(CO)中毒事故が相次いでいる問題で、山形県警は山形市の男性(84)が意識不明の重体となった05年12月の事故について、同社の無償修理(リコール)の際の給気ホース交換ミスが原因と判断した。修理した山形ナショナル電機(山形市)の社員(52)を業務上過失傷害の疑いで山形地検に書類送検する。

前回のメルマガではメンテナンスのミスについてお話したが、今回は修理ミスである。

給気ホースの交換作業が不適切であり、作業後の確認も不十分だった。このため給気ホースが脱落、不完全燃焼により一酸化炭素が発生し事故に至った。

記事では交換作業後の安全確認を怠ったと報道している。しかし作業そのものがきちんと品質を保証できるようになっていなかったことが問題である。誰がやっても同じ品質を確保できるように作業標準を決め、作業手順を作成する。これがトラブルの未然防止である。

今回のようにリコールによる作業は作業品質の保証を事前に作りこんでおくことが特に重要だ。

皆さんの工場では工程内で発生した修理品の確認をどうしておられるだろうか。不良と判定した工程に戻しライン復帰させる。これでは不十分と考える。

たとえば電気製品の組み立ての場合不良と判断する工程は電気検査工程が主である。ここで不良と判断されたものはラインアウトし修理されて工程に再投入される。

当然修理には半田付け作業も含まれるわけであるから、半田付けの目視検査から再投入しなければならない。不良が発生した電気検査工程に戻したのでは、修理工程での半田付け作業の品質は検査されないことになってしまう。

通常半田槽を出た直後のタッチアップ工程に「修理品再投入口」と表示をしておき、ここに再投入する。半田付けのタッチアップ、目視検査の後に電気検査を実施するように指導している。こうしておかないと修理作業の品質確認が十分とはいえない。

皆様の工場の修理作業とその確認作業を見直してみてはいかがだろう。


このコラムは、2007年12月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第10号に掲載した記事に追記しました。

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ボーイング737Max墜落事故

 3月10日エチオピア航空302便(737Max8)が離陸直後に墜落事故を起こした。
乗客乗員157人全員が死亡。昨年10月29日にも、インドネシア・ライオン航空610便(737Max8)が墜落し、乗客乗員189人全員が死亡している。両事故機は、離陸直後上昇中に何度も機首下げ動作を繰り返し墜落している。わずか5ヶ月弱の間に同様な事件が2件発生した。

公式事故原因はまだ発表されていないがAOAセンサー(仰角センサー)の出力に誤りがあり、失速回避のため機首下げ動作を繰り返したためと報道されている。
巡航高度まで上昇中に機体が機首下げ動作をすれば、当然操縦士は機首上げ操作をする。コンピュータによる機首下げ動作と操縦士による機首上げ動作を繰り返した挙句に墜落した様だ。

巡航高度に達する前に上昇、下降を繰り返したわけだから乗客・乗員の恐怖は大変なものだっただろう。コックピットもこの様な状況で冷静に判断が出来たか疑問が残る。

この事故で思い出すのが、1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故だ。

「航空機事故から」

この事故は副操縦士の誤操作により、操作の矛盾が発生し自動操縦に切り替わった状態で着陸やり直しをしたため失速墜落している。

墜落機(エアバス)の設計思想は操作に矛盾があった場合、コンピュータ操作を優先する様になっていた。一方当時はボーイング社は操作に矛盾があると、人の操作を優先する設計思想だった。

失速の自動回避はコンピュータ優先にせざるを得ないのかもしれない。

事故原因はまだわからないが可能性を考えてみると、

  • AOAセンサーの故障
  • AOA警報システムのバグ
  • 操縦システムのバグ

が考えられるだろう。

ソフトウェア業界のには「バグはもう一つある」という格言(?)がある。検証・デバッグを繰り返してもまだバグは残っているという警句だ。

我々の製造現場でもIOTが進めば、システムの複雑度が上がりバグによる障害が発生する可能性が上がるだろう。

AOAセンサの点検整備が地上でできるのかどうか定かではないが、もし異常値を示した場合の検出方法を検討する必要がありそうだ。

世界中に737Maxは200機稼働しているという。各機が平均1日1往復フライトの稼働率だとすれば、半年で2回の事故は27ppmの事故発生率となる。
家電製品に使われる電子部品の不良率であれば、許されるかもしれない。運悪く不良品を購入してしまっても、新品と交換すれば済んでしまう事もある。
しかし300人以上の人命がかかっているとすると27ppmの事故率でも許されない。


このコラムは、2019年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第799号に掲載した記事です。

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出来る出来ないではない

 久しぶりに「カンブリア宮殿」を見た。
TVを見ていると、本を読む時間や睡眠時間が短くなるので用心している。アマゾンプライム、アベマTVなど映画やTV番組を見だすとキリがなくなる。さらに、フジTV、TV東京のオンデマンドサービスも入れてしまった。今まで以上の自制心が必要な状況となった(笑)

伊賀焼きの土鍋を作っている窯元経営者永谷氏(77)の言葉が心に刺さった。
「出来るか出来ないかではない、やるかやらないかだ」

陶器の特性を活かし、新たな機能を持った土鍋を次々と商品化した。その結果倒産寸前だった下請け仕事を脱し、人気商品を持つメーカになった。

私自身も改善活動を指導している時によくこの言葉が口から出そうになる(笑)
このメルマガでも、同様な事を何度か書いた。

“出来ない”を叱らない

出来ない理由が解決課題

出来ない理由を言うのは簡単だ。
出来ない理由を言ってしまうと、出来る方法を考えようとしなくなる。そして行動しない。行動しなければ何も改善はない。

出来るか出来ないかわからないときは、まずやると決める。やると決めれば、方法を考えねばならなくなる。

改善活動を指導していて、こうすれば改善出来ると方法を教えることは簡単だ。
しかしより重要なことは、出来ないと考えずにやってみようと行動することだ。出来る方法を教えてしまえば、効果は一度きりだ。
ダメな理由を考える前に行動して見る習慣が身につけば、自分で改善方法を見つけることができるようになる。つまり効果が再生産される。

改善活動の目的は、目の前の問題を改善することではない。改善の実践を通し、改善リーダを育成することだ、と考えている。


このコラムは、2017年4月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第522号に掲載した記事です。

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働き方改革

 最近「働き改革」と言う名の下に、残業を減らす、余暇を増やすと言う方向に社会が向いているような気がする。昭和世代の我々は「24時間戦えますか?」「企業戦士」と言う言葉が社会の風潮であった。今はそう言う働き方を「社畜」と言うらしい。高度成長期であり、社会がどんどん豊かになる。それに合わせ個人の収入が増える。しかし私たちの欲望は金銭にあったわけではない。仕事の範囲が広がることに生きがいを感じていた。

バブル崩壊後「ゆとり」「自由」と言う口当たりのいい言葉に騙されているように感じる。成長が感じられない閉塞感が人の心を変えた。

成長企業で働く人は、今でも生き生きと働いていると言う印象を持っている。グーグルで働いている人は、グーグルには残業しない人はいません、と言っている。過労死や鬱に追い込まれてしまう人々は、意味のない仕事をやらされ、仕事の意義を感じられず、希望を失い心が疲れ果ててしまうのだろう。

個人的なことを言えば、150時間残業をしていた頃も、毎朝出社するのが楽しみだった。

「働き改革」は残業を減らすことが目的ではなく、より付加価値の高い働き方を模索し、より高い付加価値を創造することだと考えている。そのような働き方をするためには、仕事の目的、ビジョン、価値観を共有しなければならない。これが理解できない経営者はどんどん淘汰されるだろう。そして働く者自身もAIやロボットに仕事を奪われていくことになる。


このコラムは、2017年3月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第521号に掲載した記事です。

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続・現場改善

 先週のメルマガで「部品の組み付け作業が時間がかかる」という問題に対しQCサークル手法で改善に取り組み始めたと、コラムに書いた。

現場改善(先週のコラム)

作業は、パスの前後の車軸をフレームに組み込む作業だ。製造,設計、生産技術、品証のメンバーでチームを作り,現状把握をした。

現状把握結果
前部調整時間:68分
後部調整時間:62分
合計調整時間:130分

作業を観察した結果、調整後の前後左右のホイールアライメントの測定結果が基準ないに入らないと再調整が必要になる。現状把握時には6回再調整・測定を行った。従って調整を1回で済ませる事が出来れば、調整時間を減らす事が出来る。

改善目標を調整時間130分→55分とした。

彼らは現状把握に際し、エース級のベテラン工員を投入した。実は現状把握の130分は、過去の実績より半分近く短い時間だった。作業員の経験や能力に回数が決まるという事だ。改善方法は、人に依存しない方法としなければなない。

QCC活動指導者としては、従来の作業時間を基準に改善目標を設定したい所であった(笑)

時間がかかるという抽象的な問題を、調整を1回で済ませる、と言う課題に置き換えることにより、対策のアイディアが簡単に出る様になる。現状把握の翌日には即対策実施となった。

対策の効果確認結果:
前部調整時間:32分
後部調整時間:15分
合計調整時間:47分

目標超過達成、64%短縮。
一発調整は達成出来なかったが、調整時間は約1/3になった。
次の取り組みは、一発調整、更に無調整化が出来れば一段高いレベルとなる。

実はこの活動は、指導日程の都合で対策検討、対策実施はサークルメンバーだけで行った。自分たちだけでここまで出来たというのは、メンバーにとって大いに自信となっただろう。


このコラムは、2016年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第504号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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統計的思考

 私の世代は、高校3年の時に数学で統計と確率を勉強した。全員ではなく、理系クラスだけだった。大学に進学して電子工学を勉強したが統計確立理論とその応用は、夏期集中講座があっただけだ。それらの教育を受けて、統計確率理論を応用する統計的思考が身に付いたとは言い難い。工学部にいた時でさえ、どのように応用出来るかよく理解できず、単位取得が最重要目的だった(笑)

就職して、回路設計エンジニアとして仕事を始めた。製品の精度を決める回路部品の精度を決定する際に、部品の最大値・最小値を使って計算していた。最大値・最小値で設計すると、必要以上に高精度の部品を使うことになっているのでは?と言う疑問があり、当時普及し始めたPCでプログラムを組み、シミュレーションで証明しようとしたことがある。

それを見た先輩が見かねて、「バラツキ」について教えてくれた。
今思い出せば「大数の法則」を分かり易く教えてもらった。これが私にとって最初の実践的統計思考との出会いだった。

その後、品質保証の仕事をすることになり、40代にして統計確率理論を再勉強した。この時に身につけた統計的思考が今でも役に立っている。

統計数字は、身近な所にもある。
例えばTV番組の視聴率。先週のニュース番組の視聴率は20.2%だった、と言う会話がよく出て来る。ほとんどの人は、自分がどの番組を見ていたかを報告した記憶は無いはずだ。放送局の方も、今何人の人が番組を見ているかを知る方法はない。視聴率は、無作為に選ばれた家庭をサンプルとして、全体(日本の視聴者)を統計的に計算し推定している。本来視聴率は幅を持っている。

こういう統計的思考法は、品質管理に大いに役に立つ。
例えば、工場で生産した製品は全て全く同じに出来ている訳ではない。バラツキがある。生産したモノを全て計測出来れば、そのバラツキの範囲を知ることができ、製品規格の範囲に入っているかどうか検証出来る。しかし、計測にコストがかかる。または計測をすると出荷出来なくなる場合もあり得る。製品強度とか、アンプルに入った薬液の量などは、計測が破壊試験となるため、全数検査は出来ない。サンプルの計測により、全体を推定する統計手法が必要になる。

製品のバラツキを減らす工程改善をした。改善の前後のデータから、改善の効果があるのかないのか、こういう判断をするのを「検定」と言っている。

実は統計的思考は、ギャンブルにも応用可能だ。
長・半ばくちをする場合、10回やれば5回は偶数が出る、こう考えるのは平均値だけを考えているのと同じだ。統計的思考を使えば、10回の内8回長の目が出るのは、偶然のバラツキなのか、イカサマなのか判断出来る。

外貨投資に出て来るボリンジャーバンドは、過去の値動きのバラツキを示している。例えば2σのボリンジャーバンドを越えるのは、過去のバラツキから判断すると、2.3%となる。

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竹槍の戦い


このコラムは、2012年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第287号に掲載した記事です。

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統計データ

 3月12日付けの朝日新聞に原真人論説委員が、有効求人倍率の上昇に対して「生産年齢人口が480万人減少しているのだから有効求人倍率が上昇しているのであり、アベノミクス効果ではない」という記事を書いていた。

たとえば有効求人倍率が代表的である。倍率がバブル期超えの高さとなったことを、首相は「アベノミクスの成果」と誇ってきた。それが何度も繰り返されるうちに、国民の意識に「アベノミクスは成功」とすり込まれていく。

首相の説明には直近6年間で生産年齢人口(15~64歳)が480万人減ったという事実は、いっさい出てこない。それこそ雇用統計が好転している主因なのに、でる。
全文

朝日新聞「波聞風問」より

有効求人倍率の上昇が景気回復の効果であるという政府見解に対して、統計データを元に反論を展開した記事だ。分母になる生産年齢人口が減っているのだから、分子の求人数が変わらなくとも、その答えは上昇するというわけだ。多くの人がもっともな意見だと感じたのではなかろうか?

世論と違った視点を提供するのは、ジャーナリストの姿勢として間違ったものではないだろう。しかし正しく統計データを見なければ、間違った答えを導くことになる。

有効求人倍率の分母は生産年齢人口ではなく、有効求職者数だ。
したがって有効求人倍率は(有効求人数)÷(有効求職者数)であり、有効求人数が増加すれば求人倍率は大きくなる。当然有効求職者数が減少しても求人倍率は大きくなる。景気が悪く諦めてしまった人たちが求職活動を止めてしまったのなら別だが、働き口が見つかって求職活動をする人が減っていると解釈する方が正しそうだ。

恣意的に統計データを使えば、世論を間違った方向に導くことになる。
経済記者である原真人論説委員が有効求人倍率の定義を知らなかったとは思えないのだが。

世の中にはこの手の「ウソ」が結構見られる。
相関関係があるだけなのに、それをあたかも因果関係のように見せかける。
例えばバスケット選手は背が高い、というのは相関関係があるだけで、因果関係があるわけではない。このウソは簡単にみやぶれる。
「背が高い人がバスケットをやる」
「バスケットをやると背が高くなる」
文章をひっくり返すとすぐにわかる。


このコラムは、2019年4月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第804号に掲載した記事に加筆しました。

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竹槍の戦い

 顧客企業の技術部門を指導している。技術的な解決課題を挙げてもらった。
10項目の課題が上がった。そのほとんどは彼らの固有技術で解決可能な課題だ。
それぞれの課題は製造部門の努力でなんとかしのいでいる状態であった。そのため生産効率が上がらないでいる。

一般的に言って、私自身がそうであった様に(笑)設計者という人種は新しいモノ好きで、過去に設計した製品のメンテナンス(設計改善)を嫌がる傾向がある。そこをなだめて、今製造が困っている課題を設計の力で解決するというテーマに取り組んで貰っている。(彼らを納得して動かすコツがある・笑)

ほとんどの課題は1ヶ月以内にほぼ解決しており、改善の効果確認待ち状態となった。これで製造部門は相当生産性が上がるはずだ。設計者が見積もった改善効果は、かなり過小評価してあった。意外にも、彼らは遠慮がちだ(笑)

しかし1点だけ、プレス部品の不良が解決の見込みが立っていない。
このプレス部品は、深絞り加工で加工時に亀裂が入ってしまう。不良が大量にあり溶接で亀裂をつなぎ研磨をしてなんとか形状を出している状態だ。強度が必要な部分ではない。外観意匠を保つために後の工程でも追加工が必要になっている。この加工は彼らにも技術はなく、ベンダーに加工してもらっている。しかもベンダーにも技術がなく、亀裂が入っており明らかに不良でも納入して来る。

そのような状態なので、ベンダーとともに改善をしようにも手探り状態だ。
手当り次第に良いと思われる方法を試して一喜一憂している。いきなり金型を修正してみて、不良が半分になってたと報告して来た。半分になったと言っても、サンプルが少ないので有意差は認められない。
まさに「竹槍の戦い」状態だ。

統計的に評価をするアプローチを教え、不良が発生する要因を全て挙げる様に宿題を出して今回の指導を終えた。プレス加工に関しては私も素人同然だ。しかし問題解決のための管理技術は分かる。次回は彼らの検討をどう確かめ、不良を減らすかというステップに入る。相当困難が予測される。万が一好ましい効果が上がらなくても、この経験はきっと彼らの成長につながるはずだ。竹槍だけではなく、管理技術という新しい武器を実装する事が出来る。

久しぶりに骨のある課題と取り組んでいる。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事です。

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統計思考力

 以前「統計学が最強の学問である」という本を空港の書店で発見し、一気に読んだ。

「統計学が最強の学問である」西内 啓著

先週末は「統計思考力」という本をBOOK OFFで見つけ即買いした(笑)

不透明な時代を見抜く「統計思考力」神永 正博著

どちらも数式を使わずに、統計学の意味を伝えようという趣旨で書かれている。

私は製造現場で統計学を応用できる様に指導をしている。
統計学の意味を理解するだけではなく、実際に活用しなければならない。
しかし私も、極力数式を使わない様にしている。
数式はExcelが勝手に計算してくれるので、その意味を理解してもらう様にしている。数式で説明してしまった方が簡単だが、その数式を見て理解するにはある程度の素養が必要となる。

そんな訳で、この二人の著者の努力には大いに共感できる。

私の場合は現場で応用するという必然性がある人に教えているので、彼らより楽だろうと思う。統計理論や確立理論となじみのない人に対して、統計学に興味を持ってもらう様に書かねばならない。このつかみがなければ、本は手にとられない。

神永氏は「ゆとり世代は学力が低い」は本当か?という問いでつかみに成功している様に思う。少なくとも「統計力」などというマニアックな分野で出版し、文庫化を果たし
ている。多分多くの人がこの本を手にしたのだろう。

じっくりこの本を分析し、どうしたら数学に興味がない人をこちらの世界に引き込めるか研究したい(笑)


このコラムは、2015年10月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第445号に掲載した記事です。

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「うそには3種類。うそ、大うそ、そして統計」中国の信頼性に疑問

 経済規模で世界一に上り詰める勢いの中国。だが、同国の経済関連統計の信頼性には相変わらず疑問が付きまとう。

 事前予想と大きくかけ離れた中国の月次貿易統計に今年、エコノミストらが異議を唱えた。3週間ほど前には、景気の先行きを示す指標のひとつ、製造業購買担当者景気指数(PMI)で、中国国家統計局と金融機関の数字が正反対の内容を示した。さらに、インフレ率の計算方法についても疑問が投げ掛けられている。

 中国の統計の信頼性については、ほかならぬ李克強首相がかつて疑問を呈したことがある。内部告発サイト「ウィキリークス」が10年に公開した米外交公電によると、今年3月に首相に就任した李氏は、遼寧省で党委書記を務めていた07年、当時の駐中米国大使に、中国の一部の統計は「人為的なもの」で信頼できないと話した。

 米外交公電によれば、李氏は遼寧省の経済動向を判断する際に注目するのは電力消費、鉄道貨物取扱量、銀行融資の3つだけで、「他の統計、特に国内総生産(GDP)は参考にする程度だ」と笑いながら話したという。

■データ粉飾の強い動機

 統計上では中国の経済規模は10年に日本を抜いて世界2位となった。アナリストらは、米国が100年以上守ってきた世界首位の座を中国に奪われるのも時間の問題だとみている。

 北京大学の教授(財政学)で、米シンクタンク、カーネギー国際平和財団の上席研究員でもあるマイケル・ペティス氏は、中国が統計を集計するスピードについて、経済規模がはるかに小さいフランスよりもずっと速いと指摘。フランスの統計は中国の統計に比べて質がかなり高いとされている。

 中国についてのコンサルタント会社の代表で、在中国日本大使館経済部参事官を務めた経歴も持つ津上俊哉氏によると、中国の地方政府トップの評価は主に実績に基づいて行われる。地方の経済をどの程度、発展させたかという点が最も重視され、発展の度合いの指標とされるのがGDPだという。津上氏は「地方政府のトップは昇進のため、GDPを増加させようと過酷な競争を繰り広げている。彼らは統計も扱うため、データ粉飾の強い動機が生まれる」と説明した。

■公式GDPは実態より大きい?

 中国の地方政府が発表するGDPの合計が、国全体のGDPを大きく上回ることはよく知られている。

 中国のGDP成長率は公式統計で11年が9.3%、12年が7.8%とされているが、英銀スタンダード・チャータードのエコノミスト、スティーブン・グリーン氏は今年発表したレポートの中で、同じ年の中国のGDP成長率をそれぞれ公式統計を大きく下回る7.2%、5.5%と算出した。

 北京大学のHSBCビジネススクールで教えているクリストファー・ボールディング氏は今月発表した論文で、歪められた消費者物価指数(特に住宅関連)は、中国の経済規模を実態よりもかなり大きくみせていると論評した。

 英ロンドンのキャピタル・エコノミクスの中国エコノミスト、ワン・チンウェイ氏はAFPに、「データが信頼できるものでなければ、どんな政策や改革の意思決定も間違ったものになるだろう」と述べた。

(AFP BBNewsより)

 統計がウソであると言う論調には肯首し難いものがある。統計が不正確(もしくは恣意的に操作がある)、もしくは統計を使ってウソをつくと言うのはあり得るが、統計そのものがウソだと言う事はない。

中国の経済指標に対し、世界中のエコノミストから疑問符を投げかけられているのは、上記の統計データが不正確だ、と言う事だ。しかもその不正確さは恣意的なものがある、と言う疑惑をもたれている。(公開の秘密と言ってよいレベルだと思うが・笑)

中国の場合は、国家経営が事業部制の会社の様になっており、各省長は業績により評価され、中央からの考課・査定が決定する。
中国のソーシャル・クライマー(社会登山家?笑)たちは、人民の幸福よりは共産党内での自分の地位に関心がある。粉飾決算まがいの事が行われていても不思議ではなかろう。

日本でも少し大きな会社では、似た様な事が発生しているだろう。
もっとも本当にウソをついてしまえば、背任行為になるので、仕入れ先に支払い延期のお願いをしたりする。利益が出ている様に見えれば、来期の予算割当が増え、事業部の経営自由度が増える。こんな事情で、経営データが操作される。
その結果、期末を高収益で終わっても、期初の四半期は大赤字なんて事を繰り返すことになる。

李首相は、経営判断の指標として電力消費、鉄道貨物取扱量、銀行融資の3つを使っていたそうだ。最終的には、総収入から総支出を差し引いた利益で判断すれば良いのだが、たいていの場合タイムラグがあり、リアルタイムに判断する材料にするのは難しい。業績の「代用特性」として電力消費、鉄道貨物、銀行融資を使う、と言う事だ。

この代用特性が間違っていると、経営はあらぬ方向に行く。
例えば売上額を、業績の代用特性にすると、売り上げを確保するために値引きをする。売り易い商品を、原価率に関係なく拡販する。と言うことになる。

同様に、長期的指標、短期的指標の違いも重要だ。
短期売り上げを重視すれば、無理な販売をすることになり、顧客は疲弊する。そして、顧客の生涯売上額を減らすことになる。その結果,新規顧客開拓に多額の経費が必要となり、収益体質が悪くなる。

ところで、正しい統計データであっても、嘘をつく事は可能だ。
データのバラツキを無視してデータを恣意的に分析する、と言うのがよくある手口(笑)だ。

例えば、既に2,3年生産している製品でも工程内不良率は,生産のたびに変動する。特に問題が発生していなくても、毎回同じ工程内不良率と言う事はまれだ。平均工程内不良率が0.9%、今回生産の工程内不良率が0.8%だったとき、これがバラツキによるモノか、不良率が改善したのかは判断出来ない。統計的に検証する必要がある。
不良率の実力は0.9%ではなく、0.9%±○%と表現しなければならない。

テレビの視聴率も同様だ。
視聴率の算出は、全世帯で計測している訳ではない。モニターとなっている世帯に取り付けられた機械で計測する。いわゆるサンプリング調査だ。サンプル数は関東一円で300世帯だそうだ。従って発表される視聴率には大きな誤差が含まれることになる。
視聴率のコンマ何%の上下で一喜一憂する事は、意味がない。


このコラムは、2013年8月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第324号に掲載した記事です。

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