カテゴリー別アーカイブ: 経営

モノ造りの変遷

 日本の大手製造業のモノづくりが最近大きく変わってきているように感じる。

日本は伝統的にモノ造りの職人に対して尊敬の念を持つ心がある。(経済的に優遇されているかどうかはちょっと疑問に思うところもあるが、いかがお感じだろうか?)その伝統が日本の製造業の根っこの所を支えてきたように思う。
近年それが変わってきたように感じている。

明治以降近代化が進み、日本は先進国のモノマネを始める。当時日本製品は世界から「安かろう悪かろう」の代名詞として認識されていた。戦後の復活期にデミング博士から教えられた品質管理を愚直に徹底。小集団活動により改善を繰り返し、品質、コストダウンを追求した。そして「モノ造り日本」という称号を得て、経済大国に成長した。その背景には勤勉な日本人労働者がいる。

ここまでは、先頭ランナーの背中を追いかけていればよかった。
先頭に飛びたしてしまってから、ちょっと勝手が違ってきた。もうマネをする相手がいない。自ら価値を創造しなければならない。そんな時期にバブル崩壊がやってきた。

その時期に、日本的伝統を捨て欧米流の合理主義経営に飛びついた。
製造や設計の外部リソース化により、製造や設計を変動費化し経営を身軽にしようとした。アップルやグーグルなどの優良企業の様に、商品開発による顧客創造を目指したと言えるのではなかろうか?

中堅中小企業がこの様な戦略を取っているとは思えないが、大企業がこの戦略で、製造や設計の現場力を落としている様に思えてならない。

一方中国のモノ造りの変遷は以下の様になるだろう。
先進国の生産委託を受け入れることにより、先進国のものづくり技術や設備を取り込んだ。そして安価な労働力を背景とし、同一規格製品の大量生産により経済成長を果たす。急速に経済発展した中国は労働コストの優位性を失ない、次の展開を目指さねばならなくなっている。

中国の新興民営企業は、独自製品の設計・生産を始めている。しかし残念ながら、中国企業は現場力を極める姿勢がまだ足りない。設計力をつけてきた企業は次の段階(設計品質保証)を目指すことになる。

日本の製造業が進んできた道を、経路は違っても中国企業がキャッチアップしてくる。日本企業も次のステップに向かわねば追いつかれる。


このコラムは、2017年10月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第582号に掲載した記事です。

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コモディティ化

 コモディティ(commodity)とは日用品と言う意味だ。「コモディティ化」と言う時は、市場に流通している商品がメーカーごとの差異が無くなり、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差ない状態のことだ。例えるならば釘やネジがコモディティ化した商品だ。

前職時代電源ビジネスに関わっていた。計測・制御機器やシステムを製造販売している企業であり、電源の様な部品の製造販売には無縁だった。自社製品に使用する電源も、スイッチング電源は信頼性に難点が有るので採用しない、などと言う超保守的な所のある会社だった(笑)

それが協力関係に有った米国のワークステーションメーカから、信頼性の高い電源を作って欲しいと言うオファーが有り、少人数のエンジニアが集まり電源を設計、子会社工場で生産を開始したのが電源ビジネスの始まりだった。我々が生産する電源の品質が高い事を聞きつけた同社のプリンター事業部からも受注し、本格的な量産が始まった。

国内の工場で、異形部品実装ロボットを使った自働化ラインを作り、生産していた。その後、アダプター電源のプラスチックケース組み立てや、PC電源のワイヤーハーネス実装がロボット化できずに、中国の工場に生産委託をすることになる。台湾の電源メーカの中国工場で生産していた。

電源は安全規格部品であり、当初は、信頼性重視のため台湾メーカを採用する顧客は少なかった。台湾メーカの成長で、電源ユニットはコモディティ化し、価格競争が激しくなった。最初の顧客も、インターネットに仕様を公開して、公開入札でベンダーを選定する様になり、我々は受注を獲得する事ができなくなり、撤退することになった。

当初は自社の信頼性設計技術が参入障壁となっていたが、それを乗り越えたメーカが参入を始める。完全自動生産が実現出来なかったので、生産技術については参入障壁を作ることができなかった。

当然経営者としては、もっと儲るビジネスに人員を振り向けるべきだ。
前職の企業は、元々もっと利益率が高く、シェァを取っている市場向けの製品が主力だったので問題は無かった。

しかし自社製品がコモディティ化し、他社と差別化するための、商品開発技術、生産技術が間に合っていない場合どうしたら良いのか考えてみた。極論をすれば、自社のネジや釘をどうすれば売れるか、と言う事だ。

まず、顧客がメーカ指定で購入する場合を考えてみた。

(1)他の企業にはないモノ。
(2)他の企業より圧倒的に品質が高いモノ。
   ただしその品質が顧客にとっての価値でなければならない。
(3)他の企業より圧倒的に価格が安いモノ。

しかし1~3のポイントはコモディティ化したモノには当てはまらない。

では、人はどういう時に、高くてもモノを買うのかと考えてみた。

(4)必要な時に手に入れられる。

例えば、缶コーヒーはスーパーで買えば自動販売機より安く買える。
缶コーヒーよりスターバックスのコーヒーが好きだ。
しかし、今コーヒーを飲みたい時にスターバックスやスーパーが探さず、自動販売機を見つけてコーヒーを買うことになる。

つまり価格も品質も劣っている自動販売機の缶コーヒーが売れる。
当初の「メーカ指定で購入」と言う命題とずれてしまうが、自動販売機の機能を持つメーカと置き換えて考えれば、同じことだろう。

コモディティ化した製品を生産している工場は、お客様の自動販売機になれば良いのだ。
今日電話で注文を貰えば、今日中に出荷する。
これをどうしたら実現出来るのか必死に考える。
材料の調達に○○日かかる。
生産リードタイムに○○日かかる。
などとできない理由ばかり考えていては、絶対に答えは見つからないはずだ。


このコラムは、2015年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第425号に掲載した記事です。

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2018年の抱負

 2018年最初のメールマガジン配信にあたり、今年の抱負について考えてみた。
2018年の折り返し点を迎え振り返ってみたい。

独立して丸12年、今年から13年目となる。改めて自分の使命を整理すると、
What(何を):経営幹部、現場リーダの能力・行動力を
How(どうやって):現場活動の実践により育成・強化することにより
Why(目的):顧客の経営改善に寄与する。

この使命を果たすために製造業の経営環境の変化は
・作れば売れた時代:同一規格大量生産
・売れるものを作る時代:多品種少量生産
・価値を創造する時代:多品種変量生産
・モノ造りからコト造りの時代:製造業から創造業へ

それぞれの時代に要求される能力
・作れば売れた時代:モノマネ・手段の活用・応用
・売れるものを作る時代:商品企画・手段の開発
・価値を創造する時代:商品創造・手段の革新
・モノ造りからコト造りの時代:コト創造・目的の発見創造

それぞれの時代に要求される組織・人財
・作れば売れた時代:命令服従型組織・忍耐力
・売れるものを作る時代:説得納得型組織・問題解決力
・価値を創造する時代:参加型組織・問題発見力
・モノ造りからコト造りの時代:異業種参加型組織・統合力

現在は、売れるものを作る時代から価値を創造する時代になっていると認識している。

そして近いうちにモノの消費からコトの消費の時代がやってくるだろう。
モノ造りからコト造りの時代には、もはや製造業という概念だけでは生き残れないかもしれない。製造業は創造業になると考えている。製造業はモノを造ることにより「体験」というコトを創造する創造業になるだろう。
「創造業」という概念については、今の所具体的なアイディアはない。
例えばバルミューダという家電メーカの寺尾玄社長は「商品そのものではなく、商品を使った時の楽しさを提供する」と言っている。私の考える創造業に一番近いところにいるのがバルミューダだと思う。

以上の経営環境の変化を踏まえ、2018年は中国の工場も「設計の品質保証」を確実にすることがテーマと考えている。


このコラムは、2018年1月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第609号に掲載した記事に加筆しました。

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鵜の夏、歩いてたぐり寄せる 和歌山・有田川

 和歌山県有田市の有田川で1日、室町時代から続く鵜飼(うか)いが始まった。鵜匠(うしょう)が川の中に入って鵜を操る、独特の「徒歩(かち)漁法」。鵜がアユをくわえて川面に現れるたびに、屋形船に乗った約300人の観光客から拍手と歓声が上がった。

 県無形民俗文化財に指定された伝統漁法だが、最盛期に90人いた鵜匠はいま4人。鵜を育て、訓練するのは1年がかりの重労働。生計を立てるのも難しく、後継者はなかなか現れないという。

(asahi.comより)

 私は子供の頃に,父親に連れられ長良川の鵜飼いを見に行ったことがある.長良川の鵜飼いは,鵜匠は船上にいて紐で縛られた鵜を何羽も川に放ち,鮎を鵜呑みにした鵜を船上に引き上げ,獲物を吐き出させる.
何羽もの鵜を紐でコントロールする手綱捌きをする鵜匠の腕は見事なモノだ.しかし鵜匠の本当の力量は,鵜が鮎を獲る様に訓練することだろう.

子供の頃は,単純に鵜の働きに感動したが,大学生なって働くということは,誰かにコントロールされることだと考える様になった.サラリーマンのネクタイが鵜の紐の象徴の様に見え,就職活動に全く興味を持てなかった(笑)多分,全共闘世代のただ中で成長した影響だろう.

人も鵜と同じ様に首に紐を付けられ,働かされている.その紐が目に見えないだけだ,と考えていた.

就職をし,人並みに部下を持つ様になって初めてその考え方が間違っていることに気が付いた.

見えない紐が「給料」であると考えると,会社に対する「忠誠心」と引き換えに給料をもらうことになる.こう考えていると,仕事は金銭を得るための「苦役」になる.

苦役であれば,当然楽しくはない.上司の命令に従って成果を出さなければ,給料がもらえない,給料が上がらないという,ネガティブな動機付けで働くことになる.指示されたとおり仕事をこなすのでは,パフォーマンスは上がらない.

見えない紐が「仕事に対する喜び」だとしたら,どうだろう.
鮎を獲るたびに観客から拍手喝采を得る.
二匹一度に飲み込み鵜匠から褒められる.
鮎を獲るたびに自己成長の喜びを感じる.
鵜がこう感じて喜んで働いていると考えるのはちょっと無理がある(笑)が,人には可能だ.

会社や上司は,仕事に対する喜びや自己成長のチャンスを与えてくれる.「会社への忠誠心」ではなく「自己への忠誠心」が働くことの動機付けとなれば,自ら進んで仕事に取り組むことになる.当然仕事のパフォーマンスは上がる.

上司が持っている手綱は,部下をコントロールするためのモノではなく,部下に動機を与え続けるための,エネルギー補給パイプだ.


このコラムは、2012年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第260号に掲載した記事です。

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答えを教えない教え方

 「教えない教え方」とは矛盾をはらんだタイトルだ(笑)

以前「答えを教えない指導法」というコラムを配信した。

このコラムでは「教える→覚える」という伝統的な教育方法とは違う「自分で考える・調べる」という行動促進型の教育といっていいだろう。
今回のテーマは「答えを教えないで教える」という矛盾をいかに止揚するかに挑戦する。大風呂敷を広げたが大した話ではない、と先にお詫びしておく(笑)

今QCC活動を指導している企業で、生産管理部門のサークルが初めてQCC活動に参加することになった。経営者も、初めて事務部門(間接部門)をQCC活動に参加させることになり、大いに期待している。しかし彼女たちは、何をしたらいいのか見当もつかなかったようだ。

30年以上QCC活動に関わってきている。「こういうことをやるといいよ」というのは簡単だ。そこをぐっとこらえて、「お客様はどんなことに困っているか聞いて見たら?」と質問した。
生産管理部門が服務を提供する直接のお客様は社内の製造部門、検査部門、仕入先だ。お客様のお客様(製品を購入する顧客)の要求は「納期通りに製品を納入する」ことだろう。これは100%達成しているという。

しかし社内の下流工程は、仕入先や前工程の遅延により顧客納期を守るために残業で対応しなければならない。

ではこれを解決しよう!と彼女たちはQCC活動のテーマに選んだ。
大変志の高いサークルだ。直接部門をサポートするのが間接部門なので、理にかなったテーマの決め方だと感心した。

じゃ具体的に何をする?というところで迷路に入り込んだ。
彼女たちは「生産計画の精度を上げれば解決する」というイメージを持っていたようだ。しかし仕入先や、社内工程の遅延は生産計画の精度が悪くて発生しているわけではない。部材の手配遅れや、歩留まりの悪化などの不測の事態で遅延が発生している。

部材メーカの納期遅れや工程の生産歩留まりを、生産計画部門が改善するのは難しい。彼女たちはここでつまずいていた。

製造の生産歩留まりを改善するのは、生産技術や製造部門だ。
歩留まりを見越して余分に生産計画立てることは、生産計画部門にも可能だ。しかしこれは本質的改善ではなく邪道だ。部材の発注を前倒しにするのも経営的に考えれば邪道だ。

では彼女たちに出来ることは何か、答えは喉元まで出てきている。
そこを「寸止め」でこらえている(笑)

教えてしまえば、理解出来るだろうし改善もできるだろう。
しかし考える力は身につかない。自分で考える習慣を身につけ、考える力を鍛錬しなければ、同じ問題は解けても、応用問題は解けない。

これ重要なことだと考えてる。
しかしどうも世間では、答えのない問題を解くことで思考力を鍛錬しない様だ。
高学歴で高成績の優秀な役人たちが「財政赤字は悪だ。消費税を上げて財政の健全化を図らねばならない」と大合唱している。彼らは、試験勉強で「過去の正解」はたくさん記憶しているけど、これから起きることに対する洞察力に欠けているのではなかろうか?

政府は国債をたくさん発行し、日銀はどんどんお札を刷って国債を買えば良い。
これに対し役人は、
過去の事例では、お金をたくさん刷ればハイパーインフレになる。
ギリシャやイタリアの様に、国債をどんどん出せば償還できなくなる。
と考える。

しかし現実を見れば、2%のインフレターゲットすら達成できていない。
ギリシャやイタリアと違い日本の国債はほとんど全て国内で消費されている。
ということを考えれば「過去問」と同じ答えを出しても正解にはならない。

ちょっとこのメルマガのテーマから外れてしまった。
素人の浅知恵とご勘弁いただきたい。

しかし、部下の育成に関しては答えを教えずに思考力を鍛える、というのは間違いではないと信じている。


このコラムは、2018年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第677号に掲載した記事に加筆したものです。

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答えを教えない指導法

 以前「答えのない質問」というタイトルの雑感を書いた。

答えがない質問の例として「フェルミ推定」と「父母未生のお前は何処にいた」という禅問答をご紹介した。

今回は小学校の教室で行われた設問をご紹介したい。
「虹はなぜ七色か?」

この質問には答えがある。
虹は太陽光が大気中の水滴に反射して発生する。
太陽光には全ての波長の光が含まれている(全ての色が含まれている)。
波長の異なる光は屈折率が異なる。
という原理を理解していれば、虹が七色である事を説明可能だ。

しかし、小学低学年の子供達はこの原理を理解していない。その子供達になぜ虹は七色か問い、クラスで議論させるそうだ。

同様に「桜の花は咲く前にどこにあったか?」という設問を与え議論させる。

この授業では、教師は何も教えず議論を聞いているだけ。

この教師の狙いは分からないが、「教える→覚える」という伝統的な教育方法にない効果がある事は容易に想像がつく。

この授業で物理現象や植物に関して興味を持った子供は、図書館に行き調べるかも知れない。自分で答えを求めて調べた事は、容易には忘れない。
自分で調べなかった子供も、後に物理の授業を受けた際に小学校の時の授業を思い出し膝を打って納得するだろう。「腑に落ちた」状態となれば、記憶に定着する。

この様な指導法は学校教育だけではなく、社会人に対する教育にも有効だと思う。企業内で行われる研修や、部下の指導で答えを教えない指導をする。
全てを、答えを教えない方法で指導にする事は、不可能かも知れない。教えてしまった方が手っ取り早い。

しかし、
教えずに考えさせる。考える過程で学ぶ。
教えずに失敗させる。その失敗から学ぶ。
こういう指導法の効果は高そうだ。

命取りにならない失敗をたくさん部下に経験させる事が出来るのが、優秀なリーダの条件かも知れない。


このコラムは、2016年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第496号に掲載した記事です。

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韓非子

 韓非子は性悪説という先入観念があり,今までまったく興味を持たなかった.
しかし日本で,何も考えずに韓非子に関する文庫本を買った.長らく放って置いたが,最近ぺらぺらと眺めている.

韓非子の言葉にこんな説があった.

下君は己の能を尽くし
中君は人の力を尽くし
上君は人の智を尽くす.

自分の能力に頼るのは,下級のリーダ
人の力を活用するのは,中級のリーダ
人の智恵を活用するのが,上級のリーダ
ということだろう.

自分で何でもやってしまえば,部下が育たない.いくら高い能力を持っていたとしても,部下10人分の力を発揮できるリーダはいないだろう.従っていくら能力が高くても,それに頼っているうちは本当のリーダとは言えない.

部下の力を活用して,成果を挙げて初めてリーダと言えるだろう.しかし韓非子はこのレベルでは中級のリーダだと言っている.
つまり部下にいくら力があっても,リーダの指示に従わせるだけでは,たいした働きはしない.命令・指示に従う部下のモチベーションは高くはない.
部下の能力を,いかにしたら100%引き出せるかと,悩むことになる.

上級のリーダは,部下に自ら考えさせる.
自ら考えることにより,部下は成長する.そして命令・指示で動くよりは,自らの考えで動いた方がモチベーションは高くなる.
この場合は,いかにすれば100%以上の能力を部下が発揮するかを,考えることになる.

この話をクライアントの中国人幹部たちに話してみた.
一人がこの話に異を唱えた.彼曰く;
100しか仕事が出来ない人に150の仕事を与えたら,仕事の質が落ちる,本人は疲弊する.
良いことはない,と言う主張だ.

もっともに聞こえる主張だが,仕事に対する能力は仕事を与えることによってしか成長しない,と言うことを忘れているようだ.

100の能力の者に200も300も仕事を与えたらば,彼の指摘のようになるだろう.しかし少しがんばれば達成出来そうな目標を与える,そしてそれを達成することにより,部下は成長するはずだ.
その時に150の仕事をこなすための方法をこと細かく教えてしまうと,中級リーダと同じことをしていることになる.


このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事です。

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工場の匠を引き出す設計

 Tech-On!に連載されたGT-Rの開発ストーリィが最終回を迎えた.

無から新たにモノを作り出す.その過程にはいくつも感動がある.
この連載にも,私の心にぐっとくるところがたくさんあった.

連載コラムの中にあった「工場の匠を引き出す設計」という考え方を紹介したい.

GT-Rは以前のスカイライン派生車種としての位置づけを離れ,独自の車として開発された.
トランスアクスルレイアウト,デュアルクラッチ搭載のトランスミッション等,走ることに特化した車としてデザインされている.

通常量産車は,工場での生産性を考慮して設計される.
つまり工場での造りやすさに配慮し,公差を大きくしたロバスト設計をする.しかし走行性能に妥協を許さず,組み立て精度±0.5mmを要求したのだ.

顧客が感じる価値「走る楽しさ」を実現するためには,コストをかける.従来の同一規格大量生産の考え方とは方向性が異なる.

そこには工場への信頼があった.
GT-Rを従来にない突出した車とするために,工場の「匠」的要素を盛り込む設計をした.工場の潜在能力を引き出す.工場で働く人々の能力を信じ,それを極限まで生かすことが,設計者の使命であり,本来のモノ造りの姿だ.

コモディティ化した車を量産することは,売り上げの確保に貢献するだろう.売り上げが確保できれば,雇用も守れる.しかし価格競争から自由ではいられない.常にコストダウンの努力が強いられる.
モノを造れば造るほど貧乏になる.

しかし顧客の価値観に基準をおいた製品は,高額であっても顧客が喜んで購入する.ランボルギーニと言う会社は年間1,600台の車しか販売していないが,売り上げは348億円だ.高品質高付加価値の製品を少量だけ造る.

薄利大量生産のモノ造りは,設備投資に大きな資本が必要となり,損益分岐点が高くなる.景気の変動によりあっという間に赤字転落することになる.

GT-Rは量産車スカイラインのラインで混合生産されている.従って,2分のタクトタイムで生産しなければならない.この要求にきっちり応えたのが,工場の匠の力だ.


このコラムは、2012年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第260号に掲載した記事です。

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犬から学ぶ

 私は食べ物に関しては,好き嫌いが全くない.唯一食べられないのは犬の肉だ.美味しくないから食べない訳ではない.騙されれば食べてしまうだろう.しかし犬の肉を食べた事を一生後悔することになると思う.私にとって,犬の肉を食べるという事は,人の肉を食べる事と同じだ.許されない行為なのだ.

生まれる前から犬と一緒だった.記憶にはないが,犬と一緒に縁側に座っている赤ん坊の頃に撮影した写真がある.それ以来私たち家族は,ずっと犬と一緒に生活してきた.

犬死,犬のように働く,○○のイヌなどなど,犬は不名誉な例え方をされる事が多いが,昔「犬に学ぶ仕事術」という本を読んで,得心したことがある.犬は何事にも興味を持ち,楽しんでいる,という著者の見解はすごく納得出来る.つまり犬のように働くというのは,楽しんで働くという事だ.

単身赴任の身では,犬を飼う事は出来ない.よその犬を見て楽しんでいる.オフスから見える中庭には,いろんな犬が散歩に来る.
その中の一頭の小型犬は,外に出してもらうと,一目散に走る.ただただ走る事が楽しくてしょうがないという風情で,爽快に走る.その走る姿を見ている私まで楽しくなる.

こんな風に仕事ができたらと思う.部下の誰かが,こんな風に仕事ができたら最高だが,まずは自分が楽しむ事だろう.自分が仕事を楽しんでいる姿を見て部下が楽しそうだと思ってくれたら,部下も変わるはずだ.眉間にしわを寄せて仕事をしていたのでは,誰も真似したいとは思わない.

最近昼休みに食事に出ると,散歩中のゴールデンレトリーバとよく出会う.彼女は,飼い主の言葉がわかるようだ.飼い主が歩道橋の階段を上がれ,と言うと一目散に駆け上がり,飼い主を歩道橋の上から見下ろしている.降りてこい,というとまた一目散に駆け下りて来る.
信頼関係があるから,言葉を越えたコミュニケーションでお互いの気持ちを理解し合っているのだろう.

犬と人間の間にも信頼関係が出来る.同じ人間同士ならば,話す言語が違っても信頼し合えるはずだ.

この一人と一頭の散歩には,もう一頭連れがいる.まだ生まれて2,3ヶ月の子犬だ.この子は,車の通行が激しい商店街をちょろちょろと歩き回る.ハラハラして立ち止まって見ていると,ゴールデンレトリーバが,さっと寄って来て子犬を歩道の方に導く.子犬をあやしながら,帰り道の方向に導いて行く.飼い主はその二頭を見ながら後ろからゆっくり付いて行く.

ゴールデンレトリーバと子犬は母子ではない.しかし彼女には,子犬を守るという意識がしっかりあるようだ.

しばし立ち止まって,犬たちを見ているだけで,いろんな事を教えられる.


このコラムは、2012年9月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第276号に掲載した記事に修正・加筆したものです。

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亢竜の悔い

 「亢竜(こうりょう)の悔い」とは、天に昇りつめた竜は後は下がるだけなので悔いを感じる、という意味だ。栄える者は必ず衰える、盛者必衰の理だ。

では悔いを持たぬ様に天に昇りつめる努力を放棄すれば良いのだろうか?
あるがままの今を受け入れる。そんな禅的な世界観を持てば悔いはないだろう。
しかし現代の企業経営とは相容れないモノがある。
年度目標を毎年達成し続ける。毎年増収・増益を継続する。
変化する経営環境の中で、達成し続けるのは困難だ。達成出来る目標にすり替えれば、悔いの代わりに後ろめたさを感じるだろう。

目標だけを追求する限りこのようなジレンマを感じるだろう。
目標の手前にあるべき目的を明確にすることが解決策だと思っている。
目的とは何か。自社の存在意義と言い換えると分かりやすいかも知れない。

例えば企業経営の目的が「従業員の物心両面の幸せを追求する」であるとする。
この場合「給与」「福利厚生」「労働時間」などに具体的な目標が発生するかも知れない。しかしこの目標を達成しても、「従業員の物心両面の幸せを追求する」という目的は存在可能だ。こう考えれば、亢竜の悔いはない。

違う例を考えよう。
改善活動は不具合が存在する事により成り立つ、というパラドックスを内在している。つまり改善活動を継続すれば亢竜の悔いが発生することになる。
不具合がないのだから、皆で楽しく暮らせば良いではないか、このような考えが、盛者必衰の理を招く(笑)

QCC活動でも、あらかた問題点を解決してしまうと、亢竜の悔いが発生する。
それでも活動を継続しようとすると、どんどんつまらないテーマを考え、活動が形骸化する。QCC推進事務局から年間活動件数のノルマなどが課せられると、この傾向は加速する。

QCC活動の本来の目的「メンバーの成長を通して業績に貢献する」にフォーカスすれば、問題点の解決だけでは無くなる。新しい業務への挑戦、飛躍的な品質レベルの達成など、ありたい姿の実現がテーマになりうる。企業が成長する限りテーマは無くならない。
従来の問題解決型の活動とは違い、ありたい姿を実現すると言う課題達成型の活動となる。

また市場や顧客の要求が変化すれば、製品・サービスも変化せねばならない。
何を、どのように変化するかが活動のテーマとなる。

改善活動には「亢竜の悔い」はない。


このコラムは、2017年3月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第519号に掲載した記事です。

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