カテゴリー別アーカイブ: 経営

継続力

 継続するという力は,非常に重要だ.
禁煙とか,ダイエットではなく組織の継続力について考えてみたい.
例えば,5Sを継続する力のことだ.

5Sを継続させるのは,意外と難しいのではないだろうか.
初めは皆一生懸命取り組むが時間が経つにつれて,徐々に熱が冷めてくる.5S継続の秘訣を考えてみよう.

まずは敷居を低くする.
中国で工場を経営するW社長は,5Sを始める時に,全員に雑巾を配った.
当然W社長自身もマイ雑巾がある.これで全員が拭き掃除から始めた.誰でもが出来る事から始めようと思った.とおっしゃっていた.

難しくて敷居が高いようでは,継続などは望めないだろう.敷居を低くして,まずは出来るところから入る.

二番目に責任を明確にする.
W社長の例で言えば,全員が雑巾を持っており,拭き掃除をする場所が決まっている.W社長も自分のデスクの拭き掃除は自分の責任になっている.

掃除ばかりではない.
何かを始める時に,担当者を決め期待する成果を明確にしそれに責任を与える.
日本人と違って,責任が曖昧になっているのを中国人は好まない.きちんと誰の責任か決めておく.そしてそれがマンネリにならないように,時々責任者を入れ替える.責任者といっても,管理職のことではない.誰が責任を持ってその仕事をするかということだ.

三番目.コトを造る.
楽しいことは継続できる.これは誰もが同意できるだろう.しかし仕事そのモノは楽しいものではない.仕事を楽しいと感じるのは,仕事を通して得られる達成感,自己成長を実感するからだ.

この達成感や自己成長を,お互いに認め合い,実感するための「コト」を造るのだ.

5Sで言えば,社長の月例巡視で優秀部署を決め,社長が食事会に招待する.これが「コト」だ.

技能を研鑽する継続力を持つために,「技能オリンピック」を年一回開催する.QCC活動を継続する力を与えるために,QCCの成果発表会を開催する.

日常とはちょっと違う「ハレの場」を演出するのが,コト造りだ.

この三つをやれば,継続力がつく.
規則・罰則で継続力をつけようという発想ではうまくゆかないだろう.
イソップ童話に出てくる,北風と太陽が旅人のコートを脱がせようとした逸話と同じだ.
旅人にムリにコートを脱がせようとするより,脱ぎたいと思わせればよいのだ.
継続も同じで,継続したいと皆に思わせるのがベストだ.


このコラムは、2010年9月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第170号に掲載した記事に加筆しました。

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共感力

 個人の成果は、能力×意欲と言う関数になると考えている。能力がなければ成果は出せない。能力が有っても意欲がなければ成果にはならない。
足し算ではなくかけ算だ。能力がゼロならば、いくら意欲が高くても成果は出せないだろう。意欲がゼロならば、能力が高くても行動しない。行動して初めて成果となる。従って、能力と意欲のかけ算で成果の大きさと考えるのが妥当だと考えている。

個人の集合体であるチームや組織の成果を考えると、個人の成果の総和が組織の成果となるはずだ。しかし目指す方向がずれていれば、組織に貢献する成果が少なくなる。組織が目指す方向と同じならば、個人の成果がそのまま組織の成果に足し込まれる。個人の方向が組織の方向と45°ずれていれば、個人の成果のルート2分の1しか組織に貢献しない。90°ずれていれば、組織への貢献はゼロになる。180°ずれていれば、組織の成果はー1になる。

能力も意欲も高い人が、組織が進むべき方向と反対を向いていれば、最悪の結果となる。

組織の成果を関数で表すならば、Σ能力×意欲×cosθとなるだろう。
 Σは総和の記号
 θは組織が目指す方向と個人が目指す方向の角度差

リーダの仕事は組織の成果を最大にすることだから、
・メンバーの能力を高める。
・メンバーの意欲を高める。
・メンバーと組織の方向性を合わせる。
の3点が重要な役割となる。

メンバーの能力を高めるのは比較的容易だろう。教えて練習させれば良い。(もちろん学ぶ意欲がなければいくら教えてもムダだが)
しかしメンバーの意欲を高める、方向性を合わせるのは,教えるだけでは達成できない。能力を高めるためにも意欲の向上は必要だ。

意欲を高め、方向性を合わせる方法が分かれば、成果は上がる。

実現したい目標を具体的に提示することだと考えている。
例えば、今期の売り上げを20億円にすると言う具体的目標が有れば、メンバーの意欲が上がり、方向性が合うだろうか?多分無理だろう。

20億円と言う数値がまず想像出来ない(笑)

売り上げ目標を達成したときの状態が、自分自身のこととしてリアルに想像出来なければ意欲を上げるのは難しいだろう。
例えば、目標を達成したら給料が上がり、毎晩ロマネコンティを夕食に1本空ける生活をしている、と想像したとしよう。そのために一度ロマネコンティを飲んでみる。良いアイディアだと思うが、物欲では上手く行かないだろう。
達成してしまった時に、意欲を継続するための新たな物欲を探さねばならない。
逆にいつまでも達成出来ない物欲を持てば、そのうち心が折れる。

仲間に対する貢献、顧客に対する貢献、社会に対する貢献など、具体的ではあるが終わりのない目標、むしろ生きて行くための目的が出来れば、継続的に意欲を持ち続けることが出来る。

そしてそれが組織の方向性に合っていれば、組織に対する貢献も大きくなる。
メンバーにそのような目的を持たせるのは、統率力とか指導力と呼ばれるモノでは不十分だろう。力を発揮するのは「共感力」だと思っている。
共感力とは、自分たちの仕事の目的に共感させる力のことだ。


このコラムは、2016年3月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第468号に掲載した記事に加筆しました。

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濡れ雑巾でコンピュータを拭き掃除

 今週のテーマ「出来るを叱らない」に登場した濡れ雑巾でコンピュータを掃除する女子作業員は,本当に実在した.

このくらいで驚いてはいけない.

現場をきちんと観察し,想像力を高めれば,当然予測できる内容だ.
例えば,作業員たちが終業後の掃除をどうやっているか観察していれば,分かるはずだ.

びしょ濡れのモップで床掃除をすれば,梱包箱が濡れる.ダンボールは一度濡れると,その強度が落ちてしまい,乾燥しても復活しない.また中の部材,製品にダメージを与える可能性もある.
材料,半完成品や完成品が入った箱を床に直置きしてはならないと,何度も指導するのはそのためだ.

SARSが流行っていた時も,宿舎や工場の消毒をしたと報告を受けて,すぐにヤバイと感じた.塩素系の消毒液が,電子部品にかかれば信頼性上の深刻なダメージを受ける.

この様な感性を,現場リーダは持つ必要がある.

事故の影に「ヒヤリ・ハット」がある様に,物事にはすべて,正常・異常・事故の三つの状態がある.
正常な状態からいきなり事故は発生しない.必ずなんらかの異常があり,それが直接原因,間接誘因となり事故は発生する.

リーダは,正常と異常の中間にある「正常ではない状態」を感知する感性を持たせなけらばならない.

つまり掃除をするのも,消毒液を散布するのも「正常ではない状態」だ.
正常ではない状態が,安全,品質,生産性に与える影響を予測できるようにする.これは机上の一般論だけでは教えきれない.
OJTで教え,それを水平展開する力を持たせなければならない.


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第165号に掲載した記事に加筆しました。

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働く意欲

 フォックスコンの自殺騒ぎを何度かこのメルマガでお伝えした.
農村から出稼ぎに来た若者が,孤独感,未来に対する不安に負けて,大切な命を自ら捨ててしまう行為に走っている.

この様な弱い気持ちを克服するのは,働く意欲だ.
自分は何のために生まれてきて,何のために働いているのかと言う「夢」を持てなければ,働く意欲はわかないだろう.

一昔前の打工妹たちは,弟や妹の学費を稼ぐため,家族の生活を支えるためと言う強い使命感が,働く意欲を支えていた.
しかし農村も豊かになってきており,80后,90后と呼ばれる若者にはその様な使命感は薄くなってきているのだろう.

残業よりは余暇を好む.故郷に仕送りする必要がなく,高価な携帯電話を持っている.中国の若者が変わってきてしまった.
この様な若者たちにどのような「夢」を与えれば,働く意欲を持たせることが出来るのだろうか.

実はそんなに難しいことではないと考えている.
彼らに必要なことは,仕事を通して成長する,仕事を通して会社や同僚から認められる,仕事を通して自己実現することの喜びを知ることだ.

「自己成長」により自分の夢を実現する.そんな夢が持てれば働く意欲は高まるはずだ.

原田氏の経営哲学・人心活用の基本はここにある.

原田社長の最後の秘書だった閻苗苗さんは,作業員として生産現場で仕事をしていた時のことをこの様に回想している.

一週間の新人研修を経て,配属になった生産ラインからはオフィスが見え,そこには社長秘書が原田総経理や部長たちから指導を受けている光景があった.いつかは自分もあそこに座って仕事がしたいと思った.

そして彼女は,作業の合間に猛然と勉強をし内部登用試験に合格し,めでたく総経理秘書となるのだ.彼女の働く意欲を支えたのは,いつかは直接原田氏や部長たちから指導を受けたいと言う夢だったのだ.


このコラムは、2010年6月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第479号に掲載した記事に加筆しました。

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プロフェッショナルとは

ニュースから:コーヒーに浮かぶ妙技 国内初の女性王者、世界へ挑戦

 エスプレッソコーヒーにミルクを注ぎ、ハートやリーフ(葉)などの絵柄を
描く「ラテアート」。ロンドンで6月開かれるその世界大会に、国内初の女性
チャンピオンになった滋賀県近江八幡市、クラブハリエ日牟禮(ひむれ)カフェの村山春奈さん(25)が出場する。繊細な手技と敏感な味覚で、世界に挑む。

 村山さんは、コーヒーを入れるプロの職人「バリスタ」だ。豆から最上の味を引き出すため、産地や焙煎(ばいせん)具合、抽出方法など、広い知識と卓越した技術が必要とされる。お店で接客を担当していたが、2006年に新しいエスプレッソマシンを使いこなすバリスタが必要となり、「やってみたい」と手を挙げた。欠かせないのが、お客さんを目で楽しませるラテアートだ。

 コーヒーに泡立てたミルクを注ぎ、模様を作る。カップまでの高さや揺らし方などで浮かび上がる模様が微妙に違う。「実は絵が苦手」という村山さんだが、見よう見まねでぐんぐん上達。同僚は「手先が器用」と感心するが、マネジャーの玉村亮さん(33)は「仕事を終えてから何時間も練習している」と言う。

 玉村さんが驚いたのは、「実は紅茶党」という村山さんの味覚のセンスだ。「喫茶店でもコーヒーは頼まない」というが、豆の焙煎に応じてひき方を変えると、最もおいしい味を引き出してくる。
(以下略)

(asahi.comより)

 ずいぶん昔のことだが,プロフェッショナルとは何かと言うことを,ソフトウェアエンジニア向けの本で読んだことがある.

プロのすし職人は納豆が嫌いでも「納豆巻き」を完璧に作る.
自分が食べられないものでも,ちゃんとお客様に出せるようにするのが本物のプロフェッショナルだ.

逆に,興味がある(好きな)ソフトウェアのコーディングしかしないのは,「プログラマー」ではなく「アマグラマー」だと書いてあった.
「アマグラマー」と言うのはアマチュアのプログラマーと言う意味だ.

当時ソフトウェアプログラマーが決定的に不足しており,文科系大学卒業生が,いきなりソフト開発部隊に新人配属されたりした.そういうメンバーでも一定の期間の研修を受け,天才的なプログラマーではないにしても,着実なコーディングができるプログラマーになった.
これも一種のプロフェッショナルと言ってよいだろう.

余談だが,私の周りにはロシア語専攻や哲学専攻の女性プログラマーがいた.

もう一つこの記事を読んで思い出したのは,10年ほど前中国のカフェチェーン黎明期のことだ.当時東莞市の郡部にしばしば出張していた.その街に,まともな珈琲を飲ませる店が出来たのだ.名典珈琲と言う名前のその店に,時々通っていた.
ある時若いウェイトレスが,さかんに話しかけてきた.
初めは他愛もない話であったが,その内「名典珈琲の企業文化」をどう思うかなどという質問が,まだ20歳にもなっていないであろう若い女の子の口から出てきて驚いた.
彼女は,珈琲は苦くて飲めないと言っていた.しかし珈琲の味を理解するために毎日少しずつ,ブラックで飲むようにしているそうだ.

紅茶党の村山さんが,バリスタチャンピオンになり世界大会に挑戦する.
ロシア語や哲学を勉強した女性が,ソフトウェアエンジニアになる.
珈琲が飲めない農村出身の女の子が,珈琲の味を理解しようと努力する.

この人たちは,好きだから一生懸命やると言う「アマグラマー」ではない.この人たちのモチベーションを上げるスイッチはどこにあるのだろうか?
モチベーションスイッチの場所が分かれば,あなたの部下もすぐにプロフェッショナルと呼べる人財になるだろう.


このコラムは、2010年6月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第157号に掲載した記事を改題加筆しました。

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ライバル

 ライバルがいると、成長が早くなる事もある。「事もある」とネガティブ気味に書いてみた(笑)

ライバルと競争する事でより成長意欲が高まると言う効果はある。しかしこの効果は万能ではない。負ければもっと頑張る事もあるだろうが、追いつけないと分かると、モチベーションはしぼんでしまう。
社内ライバルの場合は、競争心が激しくなりすぎると具合の悪い事もある。
他人と比較されるのを嫌がる人もいるだろう。

皆が皆一昔前の「企業戦士」ではない。今時「24時間戦えますか?」などと言っていると「社畜」扱いされかねない。

やたら部下同士の競争心をあおる様な指導は、限界があるだろう。
順位が固定化してしまうと、競争心だけでは組織全体が停滞する。つまり上位の者はいつも上位なので安心する。下位の者は上位に行けないのであきらめ感を持つ。こうなると競争心をあおっても動かなくなる。最悪なのは、競争心がある優秀な者(組織運営上都合のいい人)は競争環境を求めて出て行く事になる。

成長し続ける組織では、メンバーのライバルは昨日の自分自身だ。メンバーは相互の成長を支援し、昨日の自分自身と競争する。
こういう組織ならば、どこと戦っても勝てると思うがいかがだろうか。


このコラムは、2016年6月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第479号に掲載した記事に加筆しました。

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掃除の効果

 「掃除をすれば業績が上がる、と言うけど本当ですか?」と言う方は意外と多い。中には掃除と業績には因果関係はない、と言い切る人までいる。

しかし私の周りには、

  • 総経理自らトイレ掃除をして生産性が4倍になった。
  • 製造部長が職場のゴミ拾いをして工程内不良が激減した。

掃除と業績に直接的な因果関係は見いだせないかも知れない。
掃除を通して従業員の心が変わっている。従業員全員の心が変われば、当然業績も変わる。従業員全員の心が変わっても業績が上がらないのであれば、経営者の腕がよほど悪いと考えざるを得ない(笑)

従業員の心とは、仕事に対する積極性、自己成長意欲、仲間に対する感謝と貢献意欲、不良の兆候を見分ける感性などの事だ。これらが改善されれば、業績が上がらないわけがない。

重要な事は、従業員全員の心が変わるまであきらめずに継続する事だ。

トイレ掃除の総経理は、従業員全員が掃除をする様になるまでトイレ掃除を継続し、従業員全員が掃除を継続する様に社内制度を整えている。

ゴミ拾いの製造部長は、部下が真似をしてゴミを拾う様になる、誰もゴミを捨てない様になるまで継続した。

掃除をする事により、落ちているゴミや部品、汚れている床や設備に気がつく感性が養われる。毎日掃除をすれば、設備のわずかな変化にも気がつく。毎日掃除をする事により、汚れない工夫も生まれる。

ある経営者は、全員が取り組む蹴る活動として雑巾がけをする事を思いついた。
彼は従業員全員にマイ雑巾を配り、毎朝雑巾がけをする事にした。当然彼自身も自分の机の周りを雑巾掛けする。

従業員のマイ雑巾が職場ごとに並べて干してあるのを見て、これがこの会社の「埋蔵金」だと実感した(笑)

掃除の効果を実感出来ない方、部下に納得させられない方はこちらの書籍も参考にしていただきたい。

「なぜ『そうじ』をすると人生が変わるのか?」志賀内泰弘著

「ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる」鍵山秀三郎著


このコラムは、2016年6月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第480号に掲載した記事に加筆しました。

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企業文化を磨く

 三流企業は、製造力を磨く。
 二流企業は、営業力を磨く。
 一流企業は、企業文化を磨く。

私の友人富田義彦さんの名言だ。富田さんとは、故原田則夫師匠の紹介で知り合った。富田さんは、原田師が亡くなる直前に会った最後の日本人だ。「今富田さんが来ておられますよ」原田師が最後に私に宛てられたメールにこう書かれていた。

原田師が亡くなったあとも、交流させていただいている。彼の工場経営の素晴らしさに感銘を受け、原田式経営哲学勉強会のメンバーと一緒に工場見学をさせていただいた事もある。

富田さんは、東莞工場の立ち上げから10年間、総経理として経営に携わって来られた。顧客を33倍に増やし、売り上げも伸ばした(最後の4年間で2.5倍になっている)そして武漢に二社目の生産拠点も立ち上げた。最後の二年間は、お忙しくてお目にかかる機会が激減したが、今年めでたく定年退職され、また東莞に戻って来ておられる。

日本本社から派遣されたサラリーマン経営者として、毎年の経営目標を達成し続けただけではなく、企業文化をコアコンピタンスとして中国人幹部を育成し企業の成長・発展に貢献された。

富田さんの工場には、なるほどとうならせる、業績を上げる仕組みや仕掛けがあった。

しかしこれらの仕組みや仕掛けは、彼の「企業文化を磨く」と言う経営哲学を抜きにしては、これだけの成果を上げる事は出来なかっただろうと考えている。

その企業文化の核となるのが、微笑、人財、敬業、工場、感恩の五つだ。

  • 微笑
    朝礼で、笑顔で挨拶の訓練をしている。守衛、工場内の職員、作業員全員が笑顔で挨拶をする。
  • 人財
    富田さんご自身も、新入社員研修、日本語研修を担当しておられた。
  • 敬業
     社長を初めとする幹部が率先垂範を示す。優秀な社員を企業文化スターとして選定している。
  • 向上
     モチベーションを向上させる。自主運営を尊重する。
  • 感恩
     恩返しを通して団結を高める文化を築き上げる。

そして富田さんの素晴らしい所は、良いと思った事を即実行する行動力だ。


このコラムは、2014年9月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第378号に掲載した記事に加筆しました。

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設計審査を企業文化とする

 先週のコラムにK先輩の「八つの成功行動」を紹介させていただいた。その中の「設計審査を企業文化とする」を少し解説したい。

設計審査は「予防保全」の中で最高に効果が高い事前品質保証活動だと考えている。

K先輩と私が勤めていた会社では、設計審査がきちんと製品実現プロセスに組み込まれていた。開発技術部が、ISOのためにやる証拠主義の、手打ち式ではない。初期設計審査、中間設計審査、最終設計審査と設計のステージに会わせ、3回の設計審査が行われる。

私は、国内にいる限りすべての設計審査に出席し、将来に禍根を残さぬ様議論を尽くした。事前に設計者達が作成したレポートにはすべて目を通し審査会議に出席したモノだ。私が海外の生産委託先指導に出かけているときは、部下が同じ事をしていた。

新製品ばかりではなく、マイナーチェンジなどの設計変更にも設計審査を開催していた。さすがにこの場合は設計変更規模に会わせ2回又は3回を、初期設計審査で審議決定する。設計変更の場合に限り、初期設計審査は紙上開催可能にする様、事業部ルールを作っていたので、設計変更の場合は、最終審査だけの場合もあり得る。

私がいた事業部は、量産かつ短期立ち上げの製品が多く、量産開始後に問題が発生すると、工場が混乱するばかりでなく、顧客にも迷惑をかける可能性がある。そのため設計審査が、効果的に運用される必要があった。

私たちの事業部は、生産を100%外部に委託するファブレス事業部だったため、特に量産開始後の生産性、工程内不良などに関しては、量産試作審査、量産移行審査等で、事前確認をすることにしていた。

ここまで書くと、利益幅のある付加価値の高い製品を生産していた様に思われるかもしれない。しかし私たちが生産していたのは、電源ユニットであり、納入単価が3$を切り、部品費比率が80%を超える様な薄利製品だ。この様な製品だから、問題を事前に潰しておかねばならない。量産開始後何か問題が発生すれば、利益はあっという間に吹っ飛ぶ。

日系企業の多くが、日本本社で設計をしている。そのため中国工場では設計審査にほとんど口を出せない(もしくは出さない)場合が多いと思う。

台湾企業も、設計は台湾本社で、中国工場は生産するだけという所が多い。中国に設計部隊を持たそうとしても、失敗している例が多かった。

中国工場は、本社の設計の言う通りに造る,と言う主従関係が出来てしまい、生産技術のエンジニアの士気が上がらない事が多い。彼らは何かと言うと、設計が悪いと言い、自分で問題を解決する事を放棄してしまう。

そういう工場に、量産試作審査、量産移行審査,出荷判定会議を導入した。

試作は開発設計者の機能確認のためだけではなく、事前に品質保証計画を立てる、生産性を評価する,と言う名目で、中国工場の責任で行うことにした。その試作中に、設計上の問題点をすべて洗い出し、量産試作審査をする。この時点で、設計が一定レベルを超えていると判断出来る場合は、審査合格。問題点は設計部門にフィードバックする。

量産移行審査では、量産試作審査で上げた問題点がすべて解決しているか確認をする。正当な理由なく問題点が未解決の場合は、設計部門に差し戻し。量産をしない。と言う制度を作った。

台北の設計者達がどう捉えたかは分からないが、経営者も工場も大賛成だ。このシステムを運用して、一番喜んだのは、工場の生産技術エンジニア達だ。彼らは、それまで台北の設計エンジニアの言う事は、どんなに筋が通らなくても「神の声」と同じで従うしかなかった。それが、工場側から量産しない。といっても良いのだと、教えた訳だ。やる気にならないはずがない(笑)

それだけの権限を得れば、当然責任も負わねばならない。
出荷判定会議では、最初の出荷ロットの生産により、その後の生産が問題なく継続出来る事を確認し、以降工場サイドで責任を持つ,とサインアップする。

こういう品質保証システムを、企業文化の一部とする。つまりこの工場には、「台北の声は神の声」と言うのが常識だった。それを品質保証システムを企業文化とすることにより、品質が上がるばかりでなく、工場エンジニアの士気も上げることができた。


このコラムは、2013年10月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第330号に掲載した記事に加筆しました。

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八つの成功行動

 前職時代のK先輩から久しぶりにメールをいただいた。
K先輩は別の事業部の品質保証部長をされており、話をする機会はほとんどなかった。月に一度全社品質会議で顔を合わせるだけだった。

K先輩は定年退職され、私は独立し、互いの接点は無くなっていた。
2年前、私の携帯電話に、突然K先輩から電話があった。中国の民営企業に請われ、工場改革のために1年間の契約で来ているという。

私のオフィスから1時間ちょっとの場所だ。すぐに予定を調整し、着任された工場を訪問することにした。

工場を訪問して、懐かしい顔と再開出来た。最後にお目にかかって既に6年半は経っていた。

工場の中を案内していただいたが、これから一年間Kさんが相当苦労される事は容易に予測出来た(笑)「Kさん、一年では帰れそうもないですね」と冗談を言ったのを覚えている。

しかし、予測に反して予定通りK先輩は帰国された。
それから一年経っていただいたメールだ。
メールには中国での奮闘を小説風にまとめた電子書籍が添付されていた。「中国企業物語 先富の夢」と題された小説を、一気に読んだ。

私の想像した以上の大変な仕事をされた様だ。

K先輩が書かれた本の中に、「八つの成功行動」と言うのが出てくる。
メルマガ読者様にも参考になるはずだ。皆さんとシェアしたい。

人材流動が激しい中国で、ブレのない安定した企業活動を行うためには、良き企業文化を構築しなければならない。その元になるのが「八つの成功行動」だ。

  1. 清潔の文化を作る
     ここで言う清潔とは5Sの清潔の事だ。整理、整頓、清掃を改善する清潔はきちっとした躾から生まれる。
  2. 模範を示す
     上司の率先垂範が、部下の士気を高める。
  3. 月曜メッセージ
     毎週月曜日に、全社員に向けてメッセージを配信したそうだ。末端の作業員には現場の班長から朝礼で伝達。情報の公開により、公平・公明性を高めた。これにより、不具合の再発防止の水平展開も容易になったと言う。
  4. 設計審査を企業文化とする
     製造は設計から言われた通りに生産する、と言う「被害者意識」を取り払い設計の質を量産前に確認し、不良の出ない生産をする。
    これは私も経験がある。製造だけ任されている中国工場で「生産移行審査」を導入した。この審査に合格しなければ、量産をしないと、本社の設計部門に通達した。これで工場の生産技術のメンバーの志気が格段に上がった。
  5. 現場班長のレベルを上げる
     直接作業者を指導している現場班長の役割は大きい。しかし班長のための教育訓練が、蔑ろにされている例をよく見る。作業員の中から筋の良いものが班長に昇格しているだけで、班長としての役割も理解させていない。
    OJTを含む班長研修プログラムが必要だ。思い返してみると、K先輩にいわれ私の班長研修プログラムの骨子を説明したことがある。
  6. システム化で正しく仕事をする
     ミスは、システム化によりプロテクトする。
    ミスばかりではない。顧客オーダーより多めに、生産手配する。生産手配より多めに出庫指示をする。悪意からではないが、此の様な事を繰り返していれば完成品倉庫はすぐにいっぱいになる。この様な「故意による間違い」も防ぐ事が出来る。
  7. データでものを言う文化を作る
     私もしょっちゅう経験したが、組み立て工程でケースが不良で組み立てが出来ないと騒いでいる。現場に行ってみると、誰もケースの図面もノギスも持っていない。これでは何が正しいのか分からない。必ず正しいデータで判断する様にしなければならない。
  8. 改善を文化とする
     改善が行われない組織は、遅かれ早かれ停滞し消滅することになる。
    K先輩は改善提案制度を導入した。しかし全く提案がなく、私も相談を受けた。その後不具合再発防止で、真因にたどり着き対策が出来る様にメンバーを鍛え続けた様だ。

これらの事をたった一年間で達成された。
そのストーリィを一冊の本として楽しませていただいた。

ここにシェア出来たのはほんの一部だ(見開き76ページあるので、普通の本で換算すれば152ページだ)
それでもあなたのヒントになる事をお伝え出来たのではないかと思う。


このコラムは、2013年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第329号に掲載した記事に加筆しました。

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