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企業文化を磨く

 三流企業は、製造力を磨く。
 二流企業は、営業力を磨く。
 一流企業は、企業文化を磨く。

私の友人富田義彦さんの名言だ。富田さんとは、故原田則夫師匠の紹介で知り合った。富田さんは、原田師が亡くなる直前に会った最後の日本人だ。「今富田さんが来ておられますよ」原田師が最後に私に宛てられたメールにこう書かれていた。

原田師が亡くなったあとも、交流させていただいている。彼の工場経営の素晴らしさに感銘を受け、原田式経営哲学勉強会のメンバーと一緒に工場見学をさせていただいた事もある。

富田さんは、東莞工場の立ち上げから10年間、総経理として経営に携わって来られた。顧客を33倍に増やし、売り上げも伸ばした(最後の4年間で2.5倍になっている)そして武漢に二社目の生産拠点も立ち上げた。最後の二年間は、お忙しくてお目にかかる機会が激減したが、今年めでたく定年退職され、また東莞に戻って来ておられる。

日本本社から派遣されたサラリーマン経営者として、毎年の経営目標を達成し続けただけではなく、企業文化をコアコンピタンスとして中国人幹部を育成し企業の成長・発展に貢献された。

富田さんの工場には、なるほどとうならせる、業績を上げる仕組みや仕掛けがあった。

しかしこれらの仕組みや仕掛けは、彼の「企業文化を磨く」と言う経営哲学を抜きにしては、これだけの成果を上げる事は出来なかっただろうと考えている。

その企業文化の核となるのが、微笑、人財、敬業、工場、感恩の五つだ。

  • 微笑
    朝礼で、笑顔で挨拶の訓練をしている。守衛、工場内の職員、作業員全員が笑顔で挨拶をする。
  • 人財
    富田さんご自身も、新入社員研修、日本語研修を担当しておられた。
  • 敬業
     社長を初めとする幹部が率先垂範を示す。優秀な社員を企業文化スターとして選定している。
  • 向上
     モチベーションを向上させる。自主運営を尊重する。
  • 感恩
     恩返しを通して団結を高める文化を築き上げる。

そして富田さんの素晴らしい所は、良いと思った事を即実行する行動力だ。


このコラムは、2014年9月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第378号に掲載した記事に加筆しました。

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設計審査を企業文化とする

 先週のコラムにK先輩の「八つの成功行動」を紹介させていただいた。その中の「設計審査を企業文化とする」を少し解説したい。

設計審査は「予防保全」の中で最高に効果が高い事前品質保証活動だと考えている。

K先輩と私が勤めていた会社では、設計審査がきちんと製品実現プロセスに組み込まれていた。開発技術部が、ISOのためにやる証拠主義の、手打ち式ではない。初期設計審査、中間設計審査、最終設計審査と設計のステージに会わせ、3回の設計審査が行われる。

私は、国内にいる限りすべての設計審査に出席し、将来に禍根を残さぬ様議論を尽くした。事前に設計者達が作成したレポートにはすべて目を通し審査会議に出席したモノだ。私が海外の生産委託先指導に出かけているときは、部下が同じ事をしていた。

新製品ばかりではなく、マイナーチェンジなどの設計変更にも設計審査を開催していた。さすがにこの場合は設計変更規模に会わせ2回又は3回を、初期設計審査で審議決定する。設計変更の場合に限り、初期設計審査は紙上開催可能にする様、事業部ルールを作っていたので、設計変更の場合は、最終審査だけの場合もあり得る。

私がいた事業部は、量産かつ短期立ち上げの製品が多く、量産開始後に問題が発生すると、工場が混乱するばかりでなく、顧客にも迷惑をかける可能性がある。そのため設計審査が、効果的に運用される必要があった。

私たちの事業部は、生産を100%外部に委託するファブレス事業部だったため、特に量産開始後の生産性、工程内不良などに関しては、量産試作審査、量産移行審査等で、事前確認をすることにしていた。

ここまで書くと、利益幅のある付加価値の高い製品を生産していた様に思われるかもしれない。しかし私たちが生産していたのは、電源ユニットであり、納入単価が3$を切り、部品費比率が80%を超える様な薄利製品だ。この様な製品だから、問題を事前に潰しておかねばならない。量産開始後何か問題が発生すれば、利益はあっという間に吹っ飛ぶ。

日系企業の多くが、日本本社で設計をしている。そのため中国工場では設計審査にほとんど口を出せない(もしくは出さない)場合が多いと思う。

台湾企業も、設計は台湾本社で、中国工場は生産するだけという所が多い。中国に設計部隊を持たそうとしても、失敗している例が多かった。

中国工場は、本社の設計の言う通りに造る,と言う主従関係が出来てしまい、生産技術のエンジニアの士気が上がらない事が多い。彼らは何かと言うと、設計が悪いと言い、自分で問題を解決する事を放棄してしまう。

そういう工場に、量産試作審査、量産移行審査,出荷判定会議を導入した。

試作は開発設計者の機能確認のためだけではなく、事前に品質保証計画を立てる、生産性を評価する,と言う名目で、中国工場の責任で行うことにした。その試作中に、設計上の問題点をすべて洗い出し、量産試作審査をする。この時点で、設計が一定レベルを超えていると判断出来る場合は、審査合格。問題点は設計部門にフィードバックする。

量産移行審査では、量産試作審査で上げた問題点がすべて解決しているか確認をする。正当な理由なく問題点が未解決の場合は、設計部門に差し戻し。量産をしない。と言う制度を作った。

台北の設計者達がどう捉えたかは分からないが、経営者も工場も大賛成だ。このシステムを運用して、一番喜んだのは、工場の生産技術エンジニア達だ。彼らは、それまで台北の設計エンジニアの言う事は、どんなに筋が通らなくても「神の声」と同じで従うしかなかった。それが、工場側から量産しない。といっても良いのだと、教えた訳だ。やる気にならないはずがない(笑)

それだけの権限を得れば、当然責任も負わねばならない。
出荷判定会議では、最初の出荷ロットの生産により、その後の生産が問題なく継続出来る事を確認し、以降工場サイドで責任を持つ,とサインアップする。

こういう品質保証システムを、企業文化の一部とする。つまりこの工場には、「台北の声は神の声」と言うのが常識だった。それを品質保証システムを企業文化とすることにより、品質が上がるばかりでなく、工場エンジニアの士気も上げることができた。


このコラムは、2013年10月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第330号に掲載した記事に加筆しました。

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八つの成功行動

 前職時代のK先輩から久しぶりにメールをいただいた。
K先輩は別の事業部の品質保証部長をされており、話をする機会はほとんどなかった。月に一度全社品質会議で顔を合わせるだけだった。

K先輩は定年退職され、私は独立し、互いの接点は無くなっていた。
2年前、私の携帯電話に、突然K先輩から電話があった。中国の民営企業に請われ、工場改革のために1年間の契約で来ているという。

私のオフィスから1時間ちょっとの場所だ。すぐに予定を調整し、着任された工場を訪問することにした。

工場を訪問して、懐かしい顔と再開出来た。最後にお目にかかって既に6年半は経っていた。

工場の中を案内していただいたが、これから一年間Kさんが相当苦労される事は容易に予測出来た(笑)「Kさん、一年では帰れそうもないですね」と冗談を言ったのを覚えている。

しかし、予測に反して予定通りK先輩は帰国された。
それから一年経っていただいたメールだ。
メールには中国での奮闘を小説風にまとめた電子書籍が添付されていた。「中国企業物語 先富の夢」と題された小説を、一気に読んだ。

私の想像した以上の大変な仕事をされた様だ。

K先輩が書かれた本の中に、「八つの成功行動」と言うのが出てくる。
メルマガ読者様にも参考になるはずだ。皆さんとシェアしたい。

人材流動が激しい中国で、ブレのない安定した企業活動を行うためには、良き企業文化を構築しなければならない。その元になるのが「八つの成功行動」だ。

  1. 清潔の文化を作る
     ここで言う清潔とは5Sの清潔の事だ。整理、整頓、清掃を改善する清潔はきちっとした躾から生まれる。
  2. 模範を示す
     上司の率先垂範が、部下の士気を高める。
  3. 月曜メッセージ
     毎週月曜日に、全社員に向けてメッセージを配信したそうだ。末端の作業員には現場の班長から朝礼で伝達。情報の公開により、公平・公明性を高めた。これにより、不具合の再発防止の水平展開も容易になったと言う。
  4. 設計審査を企業文化とする
     製造は設計から言われた通りに生産する、と言う「被害者意識」を取り払い設計の質を量産前に確認し、不良の出ない生産をする。
    これは私も経験がある。製造だけ任されている中国工場で「生産移行審査」を導入した。この審査に合格しなければ、量産をしないと、本社の設計部門に通達した。これで工場の生産技術のメンバーの志気が格段に上がった。
  5. 現場班長のレベルを上げる
     直接作業者を指導している現場班長の役割は大きい。しかし班長のための教育訓練が、蔑ろにされている例をよく見る。作業員の中から筋の良いものが班長に昇格しているだけで、班長としての役割も理解させていない。
    OJTを含む班長研修プログラムが必要だ。思い返してみると、K先輩にいわれ私の班長研修プログラムの骨子を説明したことがある。
  6. システム化で正しく仕事をする
     ミスは、システム化によりプロテクトする。
    ミスばかりではない。顧客オーダーより多めに、生産手配する。生産手配より多めに出庫指示をする。悪意からではないが、此の様な事を繰り返していれば完成品倉庫はすぐにいっぱいになる。この様な「故意による間違い」も防ぐ事が出来る。
  7. データでものを言う文化を作る
     私もしょっちゅう経験したが、組み立て工程でケースが不良で組み立てが出来ないと騒いでいる。現場に行ってみると、誰もケースの図面もノギスも持っていない。これでは何が正しいのか分からない。必ず正しいデータで判断する様にしなければならない。
  8. 改善を文化とする
     改善が行われない組織は、遅かれ早かれ停滞し消滅することになる。
    K先輩は改善提案制度を導入した。しかし全く提案がなく、私も相談を受けた。その後不具合再発防止で、真因にたどり着き対策が出来る様にメンバーを鍛え続けた様だ。

これらの事をたった一年間で達成された。
そのストーリィを一冊の本として楽しませていただいた。

ここにシェア出来たのはほんの一部だ(見開き76ページあるので、普通の本で換算すれば152ページだ)
それでもあなたのヒントになる事をお伝え出来たのではないかと思う。


このコラムは、2013年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第329号に掲載した記事に加筆しました。

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神戸製鋼所データ改ざん問題

 先週の雑感で日産の無資格検査と共に、神戸製鋼所の品質データ改ざん問題についてふれた。
日産不正検査

当初アルミ、銅製品だけの問題としていたが、鋼線、鉄粉などにも品質データ改ざんの問題が発覚。出荷先は自動車、航空機、原子力、電気電子などの業界に拡大し、データ改ざんした製品を出荷した先は500社に上る。

原発用鋼管は径寸を片側だけ測定し、反対側は適当な数値を記入していた。
パイプの作り方を想像すると、片側の径寸が正しければ反対側もわずかな誤差しかないだろう。最初の一本と最後の一本の径を測定しておけば、問題はないだろう。これが保証できるのであれば、顧客に提出する検査成績書には片側の寸法データの記入だけにすれば良いはずだ。これをきちんと顧客に説明せずに片側のデータを適当に記入するというのは、不正だけではなく、顧客に対する不遜だと思う。

強度測定値にも改ざんがあった。航空機、新幹線などに使われる部品の材料だ。
強度不足が人命に関わることもありうる。ユーザ側の設計余裕度を見越して高を括っていたのだろうか?

神戸製鋼所は何度もこの手の前科がある。
1999年11月:総会屋への利益供与
2006年5月:排煙の窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)データ改ざん
2008年6月:JISで定められた検査をせずに鋼材を出荷
2016年6月:バネ用鋼材の強度検査値改ざん
その都度反省し、内部統制を改善したはずだ。企業全体に隠蔽体質があると思わざるを得ない。

仏の顔も三度までという。今回の件で神戸製鋼所は無くなるのではないだろうか。
株価は先週末に年初来安値を更新し、株価総額は2,900億円を割った。もっと下がりそうな予感がする。外国企業に買われてしまうかもしれない。

本件に関して興味深いコラムを見つけた。
『神戸製鋼所も…名門企業が起こす不正の元凶は「世界一病」だ』

「世界一」であり続けることを義務付けられた組織が、本来の目的を忘れ世界一であり続けることが目的となる「病」に取り憑かれているという。筆者は、三菱自動車、東芝も「世界一病」と論評している。さらにその舌鋒は「世界一勤勉な日本人」にまで向かう(笑)

本来「世界一」であることは、顧客の評価によるものだ。したがって本来の目的は「顧客への貢献」であるはずだ。騙した相手から世界一の評価を得る事などできるはずはない。

私に言わせれば、顧客と取り交わした仕様の検査データを改ざん・捏造せざるを得ないような企業が「世界一」であるはずがない。本当に「世界一」ならば、生産した物は全て仕様規格に入っており、検査などしなくても良いはずだ。


このコラムは、2017年10月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第577号に掲載した記事に加筆しました。

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信頼

 人や組織との良好な関係は「信頼」だと言っても間違いではなかろう。
上司は部下を信じて任ずる、部下は上司の信任に応えて働く。これが信頼関係だ。同僚間、チームと個人、チーム間、会社と個人、会社同士に信頼関係があれば、そこにいる人々は仕事を通して幸福感を感じることが出来るはずだ。

では「信頼」とは何だろうか?
最近読んだ本にはこう書いてあった。
「信頼」とは「約束」と「実行」の積み重ね。

「モチベーション・リーダーシップ」小笹 芳央(著)
 

人は、相手の言葉や容姿を通して信頼できる人かどうか判断している。しかしそれは入り口であり、本当の信頼ではない。約束したことが実行されることにより、期待が実現する。この繰り返しにより信頼が形成される。

例えば「企業経営は人財育成だ」と言っている経営者に対して、信頼できる人かも知れないと言う期待が発生する。その言葉を、経営者が実際に行動することにより、期待が実現し信頼関係が生まれる。

「約束」は明示的な約束だけではない。日頃の言動から発生する暗黙的な約束も含まれる。例えば上記の経営者に対し、自分も育成対象だと言う期待を持つ。この期待が暗黙的約束になる。約束が実行されなければ、失望が生まれ信頼が崩れる。

人から信頼を得たければ、約束を実行する。自分の心情や信念から発生する暗黙的約束を実行し続ける。相手方にとって顕在化されていない約束を実行すれば、信頼度は高くなるはずだ。


このコラムは、2016年2月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第462号に掲載した記事に加筆しました。

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リーダーシップの形

 リーダーシップと言うと、あなたはどんな事を連想するだろうか?

人の心をつかむ力
人々を巻き込む力
説得する力
感動させる力
これらの力を使って目指す世界を実現する。これをリーダーシップというのではないだろうか。

youtubeにこんな動画を見つけた。
裸の男とリーダーシップ

動画は、何かの野外音楽祭と思われる場所で、若い男が上半身裸で踊っている所からスタートする。一人きりで狂った様に踊っている。周囲の人は、彼には注意を向けていない。しかしその内もう一人踊り出す人が出て来る。一人一人と増えていくうちに、臨界点を越えた様に大勢の人が踊りに加わり、大きなムーブメントになって行く。

このムーブメントを起こしたリーダーは、最初の裸の男だろうか?
多分彼は、個人的に踊り狂っていただけだろう。二人目、三人目あたりの参加者が周りを巻き込み始め、後は雪崩を打った様に人が集まって来ている。

このムーブメントを起こしたリーダーはこの二人目の参加者といっても良いだろう。踊り狂う怪しげな新興宗教の教祖を担ぎ上げ、信者を集める様な、リーダーシップだ(笑)

実は組織内にこういうリーダーシップは重要だ。
トップにはならずに、参謀役に徹する様な、フォロワー型のリーダーシップだ。
重要な役割ではあるが、ある種割りに合わない部分もあるだろう。

我々の様なコンサルタントも、こういう役割だ。


このコラムは、2017年4月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第524号に掲載した記事に加筆しました。

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リーダーシップ

 仕事がら、何人もの中国人経営者と会って来た。
お目にかかった中国人経営者は、ほとんどが自分で起業し経営している人だ。
親から事業を継承したとか、社内で階段を上がって経営者となったと言う人は、弊社のお客様の中にはいない。改革開放からまだ30年あまり、民営企業の経営者はまだ一代目の人が多いのだろう。

弊社の顧客中国人経営者を見ていると、判で押した様に同じタイプの人が多い。強いリーダーシップでメンバーをがんがん引っ張って行くタイプばかりだ。今月から支援している企業の董事長兼総経理もそのようなタイプの経営者だ。

経営幹部を集めた経営会議ではほとんど自分がしゃべっており、出席者はただひたすら聞いているだけだ。彼らがおとなしい人だと言う訳ではない。自部門の会議では董事長と同じ様に、部課長に向かってしゃべり続けており、部下に発言するチャンスを与えない。

この董事長の悩みは「経営幹部が自主的に動いてくれない」ということだ。私の見立てでは、経営幹部が自主的に働かないのは、董事長がそのようにしているだけだ(苦笑)

残念ながらこの企業には、自由闊達に意見を言い合う文化はなく、上司の意見を黙って聞く(聞き流す)のが美徳になっているようだ。このような組織は、起業したての企業ではうまく回るかも知れない。しかしある程度の社歴や人数規模になったらうまく立ち行かなくなる。経営者一人の力では会社を回せなくなるからだ。

この会社を更に成長させるには、董事長を変えなければならないだろう。
まずは会議ではしゃべるのを半分に減らし、部下の発言に耳を傾けるようにアドバイスした。
機関銃の様にしゃべり続けているので、助手が口を挟む暇がない。こういう時は私が直接話をする様にしている。

私の中国語では、真剣に聞き取らねば意味が分からない(笑)
普段人から叱られる事がない経営者が、日本の年寄りに意見される。この二つが効果があるようだ(笑)


このコラムは、2016年3月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第466号に掲載した記事に加筆しました。

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サーバント・リーダーシップ

 サーバント・リーダーシップと言う言葉を,耳にする機会があった.
リーダー(先導者)とサーバント(従者)と言う相反する概念が一つになっている点に興味を持った.

関連しそうな書籍を検索して読んでみた.
「サーバント・リーダーシップ入門」池田守男・金井壽宏

著者のお二人は,
池田守男氏は,元資生堂社長・秘書として5代の社長に仕えた後,社内改革の任を受け社長となった人だ.
金井壽宏氏は,神戸大学大学院経営学研究科教授.リーダーシップ,モチベーション,キャリアなどを研究する経営学者だ.

リーダーシップと言うと,私と同世代の方は「俺について来い」と言うリーダを思い浮かべるのではないだろうか.1964年東京オリンピックで「東洋の魔女」を率いて,女子バレーボールで金メダルを獲得した大松博文監督の名せりふが「俺について来い」だった.

若い頃,そういうリーダーシップを発揮できる人にあこがれた時期があった.
そういうリーダーの下で仕事をしたこともある.しかしどうも自分のスタイルではないと,感じていた.

自分が部下を持った時は,褒め倒してその気にさせるスタイルだった.
「俺について来い」式のリーダーではなかった.率先してチームの先頭に立って仕事はするが「俺について来い」ではなかった.「俺について来い」と言って後ろを振り向いた時に,誰もいなくなっていたらどうしよう,と言う不安があったのだろう(笑)

ナンバー・ワンのリーダーになるよりは,部下にとってオンリー・ワンのリーダーになりたいと思っていた.

その延長で,前職を早期退職してコンサル業を始めたのも,ナンバー・ワンの経営者になるよりは,経営者にとってオンリー・ワンの支援者でありたいと考えたからだ.

そんな自分のあり方を,スパッと言い表したのが「サーバントリーダー」だ.

サーバント(従者)であるからと言って,部下に対してへりくだったり,おもねったりすることではない.部下の成長・成功を支援することにより,チームの業績を上げることが,サーバントリーダーの仕事だ.

サーバントを従者でなく,支援者と理解した方が分かりやすいかもしれない.
あなたは,組織の中でどのようなリーダーシップを発揮されているだろうか?
サーバント・リーダーシップと言う言葉に興味をもたれたら,是非この本を読んでみていただきたい.


このコラムは、2013年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第282号に掲載した記事に加筆しました。

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企業の存在意義

 先週は内陸部の中国企業に呼ばれ、今年の事業計画発表会に出席した。何社ものグループ企業の董事長、総経理が出席していた。
私たちを呼んだのは、それらのグループ企業を束ねる統括企業だ。
環境関連商品を生産するために、昨年から12社の企業を買収して今年から本格的に操業する。環境関連商品は政府からの補助が有る。しかも販売先は政府関連の企業だ。半ば官制市場であり、景気のてこ入れでますますパイが大きくなりそうな業界だ。

彼らは今年中にホールディングカンパニーとして上場するつもりであり、生産能力の向上や、グループ企業の運営システム導入の指導を、私たちに打診して来た。

買収したばかりでまだ2、3人しかいない工場や、既に生産をしている工場ももあり、1年では到底上場できないだろうと感じる。しかし彼らは、金ならいくらでもある、と言う強いノリで望んでいる(笑)

この仕事はどう見ても2、3年がかりの仕事の様に見えた。
なぜなら、12社のグループ会社が集まっている理由が「金」でしかない様に思えたからだ。実現したい夢を共有している集団とは言いがたい。
各社の経営者の思惑をかいくぐり、外部の私たちが彼らの方向性を一つにする事は至難の業だ。経営トップの強いリーダーシップが必要だ。

環境負荷を減らす製品を生産する訳だから、実現したい夢は、「青い空」や「子供達が安心して成長できる未来」であるはずだ。経営の目的をここにおきグループ会社が同じ「夢」を共有すれば、顧客の顧客である消費者と夢を共有出来、それが社会に対する企業の存在意義となる。

各企業トップの話を聞いても、そのような気概は感じられなかった。
唯一の希望は、統括会社の董事長(まだ30代の若者)だ。彼は「電気自動車を生産している米国テスラと我々の企業集団の違いは何だろうか?」と質問してきた。私はテスラは新しい車社会を作ると言う「夢」を共有した集団であり、その夢を消費者と共有し企業の存在意義を持っている、と説明した。

そしてこの企業集団が共有するべき夢を、宣伝フィルムの様なストーリィにし、即席で語ってみた。少し心が動いたようだ(笑)


このコラムは、2016年1月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第459号に掲載した記事に加筆しました。

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上司の言われた通りに仕事をする

 中国の工場を観察していると、以下の様な風潮を感じる。
作業員は監督職の言う通りに作業をするのが仕事。言われた通りに仕事をしてミスがあれば、それは監督職の責任。
監督職は管理職の言う通りに作業をするのが仕事。言われた通りに仕事をしてミスがあれば、それは管理職の責任。

上司に言われた通りに作業するのが自分の仕事だ、と思い込んでいるように見える。

しかし私の経験から言うと、言われた通りにやるから上手く行かなくて上司に叱られる事の方が圧倒的に多い。上司も、細かく方法を指示する人ほど、結果だけを問うたりする。

創造的な仕事をさせる場合、細かく作業方法を指示するのは、相手の考える力や仕事に対するモチベーションをそいでしまう。むしろ目的や、仕事に対する価値観を共有するための時間を多くとり、方法は部下に考えさせた方が良いだろう。

前職時代に「瞬間湯沸かし器」の上司がいた。しかも説教の時間が長い(笑)
若手の部下達は、叱られない様に言われた通りに仕事をしようとする。そして上手く行かず叱られる。彼らは本来優秀な人間だ。自分の頭で考えれば、出来るのだ。

私も団塊の世代の尻尾の所にいるのだが、団塊の世代には「方法論」の人が多い様に思う。多分先輩世代が「理念派」「理想論派」だったのだろう。その下の団塊世代は、先輩世代の理念や理想を実現する「方法論」が鍛え抜かれた、というのが私の仮説だ。そのままのスタイルで、歳をとり部下に「方法論」で指示をしてしまう。

理念や理想を語る上司の元で、方法論に長けた世代が育った。
では方法論を語る上司の元で、どんな世代が育つのか?と思いを馳せると、明るい未来が見えて来ない。

年齢とともに、立場を変えていかなければならないのだろう。
最近は年齢を重ね、そのような思いに至る事が多くなった。


このコラムは、2017年7月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第524号に掲載した記事に加筆しました。

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