月別アーカイブ: 2018年5月

単機能人材

Designed by katemangostar / Freepik

 中国の工場で中国人職員を見ていると,自分の仕事のエリアを限定しその内側で仕事をする傾向があるように見える.私はこれを彼らが効率よく自分のキャリアを上げるための手段だと思っていた.

しかしちょっと考え直さなければならないと感じている.

 いつも通っているジムで,サウナの主電源を入れてくれるように受付の女性に頼んだ.なかなかスイッチを入れに行かないので催促をすると,配電盤のあるほうに出かけた.しかしいつまで待っても電源が入らない.
痺れを切らせてもう一度頼みに行くと「スイッチを入れるように頼みました」と答える.

ここで初めて気がついた.この女性はサウナの主電源の入れ方を知らないのだ.このジムで働き始めて1年近く経っているのに知らない.
この女性の仕事は受付にニコニコして座っていることであり,その他のことは教わっていないし,自分から知ろうともしない.
経営者もこの女性に受付以外の仕事をさせようとは思っていないようだ.

台湾資本の工場を指導していた時に,社内の部署をまたがってプロジェクトを統轄する職位が必要だと台湾人経営者に進言した事がある.
経営者は,ではそういう職員を雇おうという.私は内部登用を考えていたが,彼は新しい職種だから新しい人を雇うという.

職員を仕事を通して育成しようという考えが感じられない.
それに呼応して職員も言われた仕事以外には手を出さなくなるのだろう.

従って自分のキャリアアップを考えている優秀な層は,次々と会社を変わってゆくことになる.

日本語人材の採用面接でどんな仕事をしていたか尋ねても,会議の通訳,レポートの翻訳としか答えられない人が大多数だ.その会議やレポートはどんな内容なのかという本質部分を理解しているようには見えない.

日本語が出来るだけでは社長にはなれない.
一つの部門を任せることもできない.日本語+アルファのアルファの業務能力がすぐれてなければ部門のトップにはなれないだろう.

これからは中国でもマルチタレントの時代になるはずだ.製造現場では多能工でなければ生き残れないだろう.
間接職員はなおさら単機能人材では生き残れない.

これからは通訳という職種を廃止して,日本語が出来る○○職という人材を育てなければならないと感じている.そういう人材が他の会社でも通用する優秀な人財となる.

「雇用の確保」というのは自社で雇用し続けることではなく,他の会社でも高給で雇ってもらえる能力を付けてやることだと考えるがいかがだろうか.


このコラムは、2009年8月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第109号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

善きことはカタツムリの速さで進む

 「善きことはカタツムリの速さで進む」ガンジーの言葉だそうだ。

非暴力、非服従で大英帝国から独立を勝ち取ったインド独立の父・ガンジーらしい言葉だ。何度投獄されても,非暴力を貫いた。暴力を持って戦うより,非暴力で戦う方が何倍も勇気がいる。

この言葉を鬼丸昌也氏から学んだ。

「僕が学んだゼロから始める世界の変え方」鬼丸昌也著


鬼丸氏は、学生時代にNPO法人テラ・ルネサンスを立ち上げ,カンボジアの地雷撤去活動,ウガンダで少年兵士の社会復帰支援活動などをして来られた。
彼は「全ての人に未来を造り出す能力が有る」ことを信念としている。
人は微力だが,無力ではない。と言うことだ。

まだ35歳と言う若さだが,素晴らしい考え方と行動力を持った人だ。

原因さえ変えれば,どんなに時間がかかろうとも,必ず結果が変わる。もしも自分自身の中に全ての問題の原因が有ると考えることができれば,自分自身を変える事で、世の中を変えることができる。自分が変革の主体となる事が出来るのだ。世の中を変えるための第一歩は,問題を認識する事だろう。

先日工場の経営者と話をしていて,現場のリーダに当事者意識が薄くて困る,と言う話題になった。
品質保証部は,検査をする事が仕事ではない。お客様に品質を保証するために仕事の一部として検査をしている。品質保証の重要な仕事に,品質改善も有る。
製造部のリーダは,作業員に計画通り生産をさせる事が仕事ではない。作業員が仕事をし易い様に改善することで,品質や生産量を上げる事が仕事だ。

全ての問題の原因は,自分の中に有り,その問題を解決する主体は自分自身だ、と言う事実に気が付けば,毎日の仕事は楽しくなるはずだ。

ただし、善きことはカタツムリの速さでしか進まない,変化の速度が遅いと成果が見えずに心が折れる。自分自身の成長を俯瞰視出来る様な工夫をする。上司は,部下が自己成長に気が付き,より成長を加速する様に手助けをする。

「忍耐」に期待するよりは、この様な工夫や努力が効果を高める。


このコラムは、2014年7月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第369号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

仕事の意義

 サイモン・シネックという人のTEDトークを聞いた。
“How great leaders inspire action”で検索すると見つかると思う。

我々が製品やサービスを購入する動機は、そのモノ(製品、サービスを総称して「モノ」と記すことにする)自体(What)を欲しいと思う気持ちばかりではない。そのモノがどのような過程で出来上がったのか(How)、そのモノを作る目的(Why)は何だったのか、ということが購入動機になる。

例えば製品の広告を考えてみたい。

  • 製品の機能・性能・デザインそのものが優れていることを訴求する(What)
  • 製品の優れた機能・性能・デザインを作り込んだ苦労・努力を訴求(How)
  • その製品を販売する目的を訴求(Why)

Whatを強調するよりHowを語った方がより顧客の購買意欲は高まり、更にWhyに共感すれば顧客は友人にも勧めてくれるだろう。

サイモン・シネックは、黒人人権運動の指導者キング牧師を例に、優秀な指導者と並の指導者をこう比較している。
優秀な指導者:I have a Dream.
普通の指導者:I have a Plan.

企業や組織の指導者も同様だ。
計画(What+How)を示さねば組織は動かない。
その計画を達成することの意義・実現したい夢(Why)を共有すれば、メンバーのコミットメントは高まるはずだ。

目標管理がWhatとHowならば、方針管理がWhyだ。
方針と目標はともにあるべきだ。


このコラムは、2017年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第584号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】です。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。

サイモン・シネック

先週のメールマガジン「仕事の意義」でサイモン・シネックのTEDトークをご紹介した。
このコラムにお二人からメッセージをいただいた。

※S様のメッセージ
早速TED動画を見ました。
Why(夢)を語れないばかりに、当社も大きな試練にさらされております。
米国市場に於ける主力製品はアジアOEMメーカーの影響が増々大きくなり、参入障壁も低いことからまさに戦国時代。大手販売店のPBだったブランドにシェアを奪われている状況です。

品質、性能では負けていない自負はあるものの、顧客にそっぽを向かれることはサイモン・シネック氏の言うように、Why(夢)が伝わっていないことがよく分かりました。
販売・宣伝部門にこれをどう伝えるか、考えたいと思います。
意義深く、貴重な情報を提供いただき、ありがとうございました。

※T様のメッセージ
 It was just inspired for me
 on how to proceed with the business performance, thanking
 for your opinion.

お二人のメッセージを読んで大変嬉しく思っている。毎週頭を絞ってコラムを書いている意義を感じることができた(笑)

「Why」を共有した顧客は信者になる。顧客が信者になれば企業は必ず儲かる。
「儲」という字をよく観察していただきたい。分解すると「信者」となる。

与太話はおいて、サイモン・シネック語録をご紹介しておく。

  • TEDで語ったAppleとその他のコンピュータメーカの違い。
    「我々のコンピュータは素晴らしいです。簡単に操作できてデザインも美しいです。」たいていの企業はこう言って売ります。
    でもアップルのような傑出した企業は違います。
    「我々は世界を変えるためにこのコンピュータを作りました。その価値がこのコンピュータにはあると私たちは信じています」
    どうです?興味を惹かれませんでしたか?人々は「何を」売っているかではなく「なぜ」売っているかに興味を持つのです。
  • アメリカの海兵隊では下位の者から食事が配られ上官は最後に配膳されます。
    部下全員に食事が行き渡ってからでなければリーダーは自分の食事をとってはいけないのです。
    最初に自分の食事(利益)をとってしまうリーダーに部下はついていきません。
  • 私利私欲を捨てたリーダーだけが一体感のある強いチームを作ることができるのです。
  • あなたが何をしているかは大した問題ではない。
    なぜあなたがそれをしているかが大事なのだ。
    人々がファンになるのは理由に共感したときだ。
  • キング牧師のほかにも運動家はたくさんいました。
    しかしキング牧師だけが圧倒的な支持をあつめました。具体的にどうすればいいのかなにをすればいいのか、彼は有効なアイディアを出していません。
    ただこう言ったのです。「私には夢があるこんな世界を夢見ている」と。
    「そうしなければならない」では人は動きません。
    「そうしたい」と思ったから動くのです。
    命令されたから従ったわけではありません。
    「信念」を語るリーダーにはみな自分の意思でついていくのです。
  • 傑出した企業に共通しているのは、なぜその事業を行っているかを明確にしている。

私の友人は、中国で工場を立ち上げ毎年業績を上げていた。日本本社からの評価も高い。しかし仕事がむなしく感じたという。彼は仕事の「Why」が明確になっていないからだと気がつき、自分自身の仕事の目的「Why」を明確にすることで、より業績を伸ばした。彼の「Why」は従業員の育成。自分自身の役割を「校長先生」と定義していた。

経営とは、従業員を成長させること。業績はその結果だ。


このコラムは、2017年11月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第587号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

相違点より共通点に着目

Designed by katemangostar / Freepik

 中国で企業経営をされているほとんどの方は,中国人の考え方がわからないなどの悩みを持たれていると思う.オペレーションを中国人にまかせて,仕事をする訳だから,種々の困難があるだろう.
そのため世の中には,「日中の文化の違い」「中国人の考え方」「中国人管理法」などの書籍が溢れている.

これらの書籍は,中国文化や中国民族性と日本の違いを例を挙げ説明し,どう中国人を管理したら良いかを説いている.
曰く,中国の若者は「反日教育」の影響で,皆反日感情を持っている.
一人っ子政策のため,大事に育てられ,忍耐力や協調性が弱い.
公より私を重視するため,会社より個人を優先する.その結果条件が良ければすぐに転職する.
利己主義が強く,回りに迷惑をかけても気にしない.
などなど上げたらきりがない.

もちろん,中国文化や生活環境を理解することは重要だろう.特に日本の「特殊性」を理解し自覚することが重要だ.

しかし日中の相違点にばかり注目しても,有効な答えは見つからないだろう.
相違点を理解して,「だから駄目なのだ」と分かったとしても,どうすれば良いかと言う答えは見つからない.

反日教育を変えることは我々には不可能だ.
「私より公を重要視する」「忍耐力」「協調性」「利他主義」などは,日本人が持っている「特殊性」だと思っている.それは日本と言う国が「均一性」を前提として成り立っているからだ.
実はこれらの特性は,日本の中でも我々ロートルの常識であり,若い人たちにとっては非常識なのかもしれない.

相違点を探し,違いに着目するよりは,共通点を見つけ,それをマネジメントした方が,ずっと楽で効率的なはずだ.
つまり中国人と日本人の違いに着目するのではなく,人間としての共通点に着目すると言うことだ.

日本でも,中国でも「幸せになりたい」と言う願望は同じだろうし,そのため「自己成長」を目指すことになる.
この共通点をマネジメントすれば,「自己成長」を求心力として.従業員のモチベーションを高めることができるはずだ.

公より私を重視する人たちに,「愛社精神」を説いても,心には響かない.「愛社精神」は古き良き時代の日本的特殊性だ.それよりは「自己成長」と言う共通性でマネジメントをした方が,より効果的だと考えている.


このコラムは、2012年11月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第284号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

TED Talks

Designed by katemangostar / Freepik

 TEDと言う言葉をお聞きになったことがあるだろうか?
広める価値のあるアイディアを、T(テクノロジー)E(エンターテイメント)D(デザイン)の分野で、世界中の人々がプレゼンテーションをする、という趣旨で活動している人達だ。
年に一度TEDカンファレンスを開催している。
その広める価値のあるアイディアのプレゼンテーションをインターネット上で拡散しているのがTED Talksだ。

先週たまたまPodcastの番組を探していたら、TED Talksの日本語字幕付きの動画を見つけた。その中でアレックス・ラスキーと言う人が「行動科学で電気代が安くなる」と言うテーマで講演している動画を見つけた。彼は米国で、節電を促進する啓蒙活動をしている様だ。

講演の中で面白い事例があったので、皆さんにご紹介したい。

カリフォルニア州サンマルコで行動科学の実験が行われた。
調査を行った大学院生達は、近所の家庭を回り、エアコンを止めて扇風機を使って節電する様に訴えるチラシを配布した。そのチラシは以下の4種類あり、それぞれ同数ずつ配布した。

  1. エアコンを止めて扇風機にすれば1ヶ月で54ドル節約出来る
  2. 環境保護に関するメッセージ
  3. 節電をして善良な市民になろう

1.のチラシは具体的な節約金額も入っており、効果がありそうに思える。
しかしこれら3つのチラシはどれも、全く効果がなかった。

効果があったのは4番目のチラシだけだった。
4番目のチラシにはこう書かれていた。
「調査の結果、ご近所の家庭の77%がエアコンを切って扇風機を回しています」

日本人は個より全体を重視する傾向にある。従ってご近所が皆節電していると分かると、自分もやろうとする。こういう心理や行動は理解出来る。しかし日本人よりはずっと個を大切にする米国人にも、効果があると言うのは意外だった。

余談だが、最近米国の中国駐在大使が辞任して本国に帰国したそうだ。
理由は「家族のため」と公表している。しかし本心は「PM2.5がひどくてもうヤダ」と言う事の様だ(笑)日本人のメンタリティとは随分違っている。

そういう米国人でも「ご近所が……」と言うと行動を起こす、これは驚きだ。
そして、中国人にも、こういうアプローチが有効かもしれないと気が付いた。

好ましい行動を促進するために「周りの人は皆そうしているよ」と動機付けをする。中国人の部下をお持ちの方は、ぜひお試しいただきたい。
バレバレな「皆そうしてる」は逆効果かもしれないが(笑)
ぜひ試してみた結果をお知らせいただきたい。

「皆そうしてる」は、行動心理学では社会的証明と言われており、成果が期待できそうだ、ということを一言付け加えさせて頂く。


このコラムは、2013年11月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第337号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】