月別アーカイブ: 2018年8月

働く意欲

 フォックスコンの自殺騒ぎを何度かこのメルマガでお伝えした.
農村から出稼ぎに来た若者が,孤独感,未来に対する不安に負けて,大切な命を自ら捨ててしまう行為に走っている.

この様な弱い気持ちを克服するのは,働く意欲だ.
自分は何のために生まれてきて,何のために働いているのかと言う「夢」を持てなければ,働く意欲はわかないだろう.

一昔前の打工妹たちは,弟や妹の学費を稼ぐため,家族の生活を支えるためと言う強い使命感が,働く意欲を支えていた.
しかし農村も豊かになってきており,80后,90后と呼ばれる若者にはその様な使命感は薄くなってきているのだろう.

残業よりは余暇を好む.故郷に仕送りする必要がなく,高価な携帯電話を持っている.中国の若者が変わってきてしまった.
この様な若者たちにどのような「夢」を与えれば,働く意欲を持たせることが出来るのだろうか.

実はそんなに難しいことではないと考えている.
彼らに必要なことは,仕事を通して成長する,仕事を通して会社や同僚から認められる,仕事を通して自己実現することの喜びを知ることだ.

「自己成長」により自分の夢を実現する.そんな夢が持てれば働く意欲は高まるはずだ.

原田氏の経営哲学・人心活用の基本はここにある.

原田社長の最後の秘書だった閻苗苗さんは,作業員として生産現場で仕事をしていた時のことをこの様に回想している.

一週間の新人研修を経て,配属になった生産ラインからはオフィスが見え,そこには社長秘書が原田総経理や部長たちから指導を受けている光景があった.いつかは自分もあそこに座って仕事がしたいと思った.

そして彼女は,作業の合間に猛然と勉強をし内部登用試験に合格し,めでたく総経理秘書となるのだ.彼女の働く意欲を支えたのは,いつかは直接原田氏や部長たちから指導を受けたいと言う夢だったのだ.


このコラムは、2010年6月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第479号に掲載した記事に加筆しました。

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プロフェッショナルとは

ニュースから:コーヒーに浮かぶ妙技 国内初の女性王者、世界へ挑戦

 エスプレッソコーヒーにミルクを注ぎ、ハートやリーフ(葉)などの絵柄を
描く「ラテアート」。ロンドンで6月開かれるその世界大会に、国内初の女性
チャンピオンになった滋賀県近江八幡市、クラブハリエ日牟禮(ひむれ)カフェの村山春奈さん(25)が出場する。繊細な手技と敏感な味覚で、世界に挑む。

 村山さんは、コーヒーを入れるプロの職人「バリスタ」だ。豆から最上の味を引き出すため、産地や焙煎(ばいせん)具合、抽出方法など、広い知識と卓越した技術が必要とされる。お店で接客を担当していたが、2006年に新しいエスプレッソマシンを使いこなすバリスタが必要となり、「やってみたい」と手を挙げた。欠かせないのが、お客さんを目で楽しませるラテアートだ。

 コーヒーに泡立てたミルクを注ぎ、模様を作る。カップまでの高さや揺らし方などで浮かび上がる模様が微妙に違う。「実は絵が苦手」という村山さんだが、見よう見まねでぐんぐん上達。同僚は「手先が器用」と感心するが、マネジャーの玉村亮さん(33)は「仕事を終えてから何時間も練習している」と言う。

 玉村さんが驚いたのは、「実は紅茶党」という村山さんの味覚のセンスだ。「喫茶店でもコーヒーは頼まない」というが、豆の焙煎に応じてひき方を変えると、最もおいしい味を引き出してくる。
(以下略)

(asahi.comより)

 ずいぶん昔のことだが,プロフェッショナルとは何かと言うことを,ソフトウェアエンジニア向けの本で読んだことがある.

プロのすし職人は納豆が嫌いでも「納豆巻き」を完璧に作る.
自分が食べられないものでも,ちゃんとお客様に出せるようにするのが本物のプロフェッショナルだ.

逆に,興味がある(好きな)ソフトウェアのコーディングしかしないのは,「プログラマー」ではなく「アマグラマー」だと書いてあった.
「アマグラマー」と言うのはアマチュアのプログラマーと言う意味だ.

当時ソフトウェアプログラマーが決定的に不足しており,文科系大学卒業生が,いきなりソフト開発部隊に新人配属されたりした.そういうメンバーでも一定の期間の研修を受け,天才的なプログラマーではないにしても,着実なコーディングができるプログラマーになった.
これも一種のプロフェッショナルと言ってよいだろう.

余談だが,私の周りにはロシア語専攻や哲学専攻の女性プログラマーがいた.

もう一つこの記事を読んで思い出したのは,10年ほど前中国のカフェチェーン黎明期のことだ.当時東莞市の郡部にしばしば出張していた.その街に,まともな珈琲を飲ませる店が出来たのだ.名典珈琲と言う名前のその店に,時々通っていた.
ある時若いウェイトレスが,さかんに話しかけてきた.
初めは他愛もない話であったが,その内「名典珈琲の企業文化」をどう思うかなどという質問が,まだ20歳にもなっていないであろう若い女の子の口から出てきて驚いた.
彼女は,珈琲は苦くて飲めないと言っていた.しかし珈琲の味を理解するために毎日少しずつ,ブラックで飲むようにしているそうだ.

紅茶党の村山さんが,バリスタチャンピオンになり世界大会に挑戦する.
ロシア語や哲学を勉強した女性が,ソフトウェアエンジニアになる.
珈琲が飲めない農村出身の女の子が,珈琲の味を理解しようと努力する.

この人たちは,好きだから一生懸命やると言う「アマグラマー」ではない.この人たちのモチベーションを上げるスイッチはどこにあるのだろうか?
モチベーションスイッチの場所が分かれば,あなたの部下もすぐにプロフェッショナルと呼べる人財になるだろう.


このコラムは、2010年6月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第157号に掲載した記事を改題加筆しました。

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ライバル

 ライバルがいると、成長が早くなる事もある。「事もある」とネガティブ気味に書いてみた(笑)

ライバルと競争する事でより成長意欲が高まると言う効果はある。しかしこの効果は万能ではない。負ければもっと頑張る事もあるだろうが、追いつけないと分かると、モチベーションはしぼんでしまう。
社内ライバルの場合は、競争心が激しくなりすぎると具合の悪い事もある。
他人と比較されるのを嫌がる人もいるだろう。

皆が皆一昔前の「企業戦士」ではない。今時「24時間戦えますか?」などと言っていると「社畜」扱いされかねない。

やたら部下同士の競争心をあおる様な指導は、限界があるだろう。
順位が固定化してしまうと、競争心だけでは組織全体が停滞する。つまり上位の者はいつも上位なので安心する。下位の者は上位に行けないのであきらめ感を持つ。こうなると競争心をあおっても動かなくなる。最悪なのは、競争心がある優秀な者(組織運営上都合のいい人)は競争環境を求めて出て行く事になる。

成長し続ける組織では、メンバーのライバルは昨日の自分自身だ。メンバーは相互の成長を支援し、昨日の自分自身と競争する。
こういう組織ならば、どこと戦っても勝てると思うがいかがだろうか。


このコラムは、2016年6月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第479号に掲載した記事に加筆しました。

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仁者孝悌を務む

有子曰:“其为人也孝悌而好犯上者,鲜矣。不好犯上而好作乱者,未之有也。君子务本,本立而道生。孝悌也者,其为仁之本与?”

《论语》学而第一-2

有子:本名は有若。孔子の弟子です。論語に登場する回数は少ないですが、名前に「子」が付いているので、高弟の一人でしょう。

素読文:
有子曰わく:その人とりやこうていにして、かみおかすをこのむ者はすくなし。上を犯すことを好まずして、らんすを好む者はいまこれらざるなり。君子はもとつとむ。本立ちて道しょうず。孝悌なる者は、それじんすの本たるか。

解釈:
有子曰く:人柄が親思いで兄弟思いならば、目上の人に楯突く様なことを好む者は少ない。目上の人に楯突くことを好まない者であれば、世の中を乱す事を好む者はまずない。君子は本をしっかり努める。本がしっかりしていれば、人として生きる道がはっきりする。親を思い、兄弟を思うことが仁の本である。

義侠人の進む道を「仁義」といいます。「仁」は人の進むべき道と解釈すればいいでしょう。

掃除の効果

 「掃除をすれば業績が上がる、と言うけど本当ですか?」と言う方は意外と多い。中には掃除と業績には因果関係はない、と言い切る人までいる。

しかし私の周りには、

  • 総経理自らトイレ掃除をして生産性が4倍になった。
  • 製造部長が職場のゴミ拾いをして工程内不良が激減した。

掃除と業績に直接的な因果関係は見いだせないかも知れない。
掃除を通して従業員の心が変わっている。従業員全員の心が変われば、当然業績も変わる。従業員全員の心が変わっても業績が上がらないのであれば、経営者の腕がよほど悪いと考えざるを得ない(笑)

従業員の心とは、仕事に対する積極性、自己成長意欲、仲間に対する感謝と貢献意欲、不良の兆候を見分ける感性などの事だ。これらが改善されれば、業績が上がらないわけがない。

重要な事は、従業員全員の心が変わるまであきらめずに継続する事だ。

トイレ掃除の総経理は、従業員全員が掃除をする様になるまでトイレ掃除を継続し、従業員全員が掃除を継続する様に社内制度を整えている。

ゴミ拾いの製造部長は、部下が真似をしてゴミを拾う様になる、誰もゴミを捨てない様になるまで継続した。

掃除をする事により、落ちているゴミや部品、汚れている床や設備に気がつく感性が養われる。毎日掃除をすれば、設備のわずかな変化にも気がつく。毎日掃除をする事により、汚れない工夫も生まれる。

ある経営者は、全員が取り組む蹴る活動として雑巾がけをする事を思いついた。
彼は従業員全員にマイ雑巾を配り、毎朝雑巾がけをする事にした。当然彼自身も自分の机の周りを雑巾掛けする。

従業員のマイ雑巾が職場ごとに並べて干してあるのを見て、これがこの会社の「埋蔵金」だと実感した(笑)

掃除の効果を実感出来ない方、部下に納得させられない方はこちらの書籍も参考にしていただきたい。

「なぜ『そうじ』をすると人生が変わるのか?」志賀内泰弘著

「ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる」鍵山秀三郎著


このコラムは、2016年6月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第480号に掲載した記事に加筆しました。

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企業文化を磨く

 三流企業は、製造力を磨く。
 二流企業は、営業力を磨く。
 一流企業は、企業文化を磨く。

私の友人富田義彦さんの名言だ。富田さんとは、故原田則夫師匠の紹介で知り合った。富田さんは、原田師が亡くなる直前に会った最後の日本人だ。「今富田さんが来ておられますよ」原田師が最後に私に宛てられたメールにこう書かれていた。

原田師が亡くなったあとも、交流させていただいている。彼の工場経営の素晴らしさに感銘を受け、原田式経営哲学勉強会のメンバーと一緒に工場見学をさせていただいた事もある。

富田さんは、東莞工場の立ち上げから10年間、総経理として経営に携わって来られた。顧客を33倍に増やし、売り上げも伸ばした(最後の4年間で2.5倍になっている)そして武漢に二社目の生産拠点も立ち上げた。最後の二年間は、お忙しくてお目にかかる機会が激減したが、今年めでたく定年退職され、また東莞に戻って来ておられる。

日本本社から派遣されたサラリーマン経営者として、毎年の経営目標を達成し続けただけではなく、企業文化をコアコンピタンスとして中国人幹部を育成し企業の成長・発展に貢献された。

富田さんの工場には、なるほどとうならせる、業績を上げる仕組みや仕掛けがあった。

しかしこれらの仕組みや仕掛けは、彼の「企業文化を磨く」と言う経営哲学を抜きにしては、これだけの成果を上げる事は出来なかっただろうと考えている。

その企業文化の核となるのが、微笑、人財、敬業、工場、感恩の五つだ。

  • 微笑
    朝礼で、笑顔で挨拶の訓練をしている。守衛、工場内の職員、作業員全員が笑顔で挨拶をする。
  • 人財
    富田さんご自身も、新入社員研修、日本語研修を担当しておられた。
  • 敬業
     社長を初めとする幹部が率先垂範を示す。優秀な社員を企業文化スターとして選定している。
  • 向上
     モチベーションを向上させる。自主運営を尊重する。
  • 感恩
     恩返しを通して団結を高める文化を築き上げる。

そして富田さんの素晴らしい所は、良いと思った事を即実行する行動力だ。


このコラムは、2014年9月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第378号に掲載した記事に加筆しました。

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設計審査を企業文化とする

 先週のコラムにK先輩の「八つの成功行動」を紹介させていただいた。その中の「設計審査を企業文化とする」を少し解説したい。

設計審査は「予防保全」の中で最高に効果が高い事前品質保証活動だと考えている。

K先輩と私が勤めていた会社では、設計審査がきちんと製品実現プロセスに組み込まれていた。開発技術部が、ISOのためにやる証拠主義の、手打ち式ではない。初期設計審査、中間設計審査、最終設計審査と設計のステージに会わせ、3回の設計審査が行われる。

私は、国内にいる限りすべての設計審査に出席し、将来に禍根を残さぬ様議論を尽くした。事前に設計者達が作成したレポートにはすべて目を通し審査会議に出席したモノだ。私が海外の生産委託先指導に出かけているときは、部下が同じ事をしていた。

新製品ばかりではなく、マイナーチェンジなどの設計変更にも設計審査を開催していた。さすがにこの場合は設計変更規模に会わせ2回又は3回を、初期設計審査で審議決定する。設計変更の場合に限り、初期設計審査は紙上開催可能にする様、事業部ルールを作っていたので、設計変更の場合は、最終審査だけの場合もあり得る。

私がいた事業部は、量産かつ短期立ち上げの製品が多く、量産開始後に問題が発生すると、工場が混乱するばかりでなく、顧客にも迷惑をかける可能性がある。そのため設計審査が、効果的に運用される必要があった。

私たちの事業部は、生産を100%外部に委託するファブレス事業部だったため、特に量産開始後の生産性、工程内不良などに関しては、量産試作審査、量産移行審査等で、事前確認をすることにしていた。

ここまで書くと、利益幅のある付加価値の高い製品を生産していた様に思われるかもしれない。しかし私たちが生産していたのは、電源ユニットであり、納入単価が3$を切り、部品費比率が80%を超える様な薄利製品だ。この様な製品だから、問題を事前に潰しておかねばならない。量産開始後何か問題が発生すれば、利益はあっという間に吹っ飛ぶ。

日系企業の多くが、日本本社で設計をしている。そのため中国工場では設計審査にほとんど口を出せない(もしくは出さない)場合が多いと思う。

台湾企業も、設計は台湾本社で、中国工場は生産するだけという所が多い。中国に設計部隊を持たそうとしても、失敗している例が多かった。

中国工場は、本社の設計の言う通りに造る,と言う主従関係が出来てしまい、生産技術のエンジニアの士気が上がらない事が多い。彼らは何かと言うと、設計が悪いと言い、自分で問題を解決する事を放棄してしまう。

そういう工場に、量産試作審査、量産移行審査,出荷判定会議を導入した。

試作は開発設計者の機能確認のためだけではなく、事前に品質保証計画を立てる、生産性を評価する,と言う名目で、中国工場の責任で行うことにした。その試作中に、設計上の問題点をすべて洗い出し、量産試作審査をする。この時点で、設計が一定レベルを超えていると判断出来る場合は、審査合格。問題点は設計部門にフィードバックする。

量産移行審査では、量産試作審査で上げた問題点がすべて解決しているか確認をする。正当な理由なく問題点が未解決の場合は、設計部門に差し戻し。量産をしない。と言う制度を作った。

台北の設計者達がどう捉えたかは分からないが、経営者も工場も大賛成だ。このシステムを運用して、一番喜んだのは、工場の生産技術エンジニア達だ。彼らは、それまで台北の設計エンジニアの言う事は、どんなに筋が通らなくても「神の声」と同じで従うしかなかった。それが、工場側から量産しない。といっても良いのだと、教えた訳だ。やる気にならないはずがない(笑)

それだけの権限を得れば、当然責任も負わねばならない。
出荷判定会議では、最初の出荷ロットの生産により、その後の生産が問題なく継続出来る事を確認し、以降工場サイドで責任を持つ,とサインアップする。

こういう品質保証システムを、企業文化の一部とする。つまりこの工場には、「台北の声は神の声」と言うのが常識だった。それを品質保証システムを企業文化とすることにより、品質が上がるばかりでなく、工場エンジニアの士気も上げることができた。


このコラムは、2013年10月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第330号に掲載した記事に加筆しました。

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