月別アーカイブ: 2020年7月

日替わりヒーロー

 プロ野球は今週末日本シリーズが始まるらしい。中日ドラゴンズファンの私は、2019年シーズンも早々にペナントレースへの興味を失った。

今季は3季連続優勝の広島カープが散々の成績となり、読売ジャイアンツが5季ぶりのリーグ優勝となった。両チームの躍進と蹉跌の原因を考えてみたい。

両軍の監督の違いを考えると、
 原監督:10季中6季リーグ優勝
 緒方監督:5季中3季リーグ優勝
両軍互角だ。

やはり選手の戦力差のように思われる。
象徴的なのは、昨シーズンまで広島で主力選手として活躍した丸選手が巨人に移籍している。
ということは、今期限りで丸選手を手放す巨人は来季のリーグ優勝は危ういかもしれない。アンチジャイアンツの個人的たわごととお許しいただきたい。

本日のメルマガで言いたかったことは、ヒーローが固定化している組織は脆弱性を内包している、という仮説だ。ここまで長い前置きを置かずとも、普通に考えてもこの仮説は真実のように思える。

会社という組織も同じだろう。
経営トップのカリスマ性、有能な幹部のずば抜けた能力だけでは、限界がある。
毎日ヒーローが入れ替わるような組織の方が強いはずだ。
こういう組織は、常に2番手3番手が競い合っており相互成長がある。同様に部門間でも相互成長があるはずだ。

もちろん日替わりヒーローが互いに競争相手を潰し合うような競争関係であれば、組織力が上がるはずはない。


このコラムは、2019年10月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第888号に掲載した記事に加筆したものです。

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医療事故

 航空機は一番安全な乗り物だ。空を飛ぶという危なげな航空機の方が地上を走る列車、自動車と比べても安全だ。それは、事故や重大インシデントを徹底的に業界全体で共有し、再発防止・未然防止を図っているからだ。

その対極にあるのが医療業界だろう。
医療事故が公表され業界で事例共有されることはほとんどない。

厚生労働省大臣官房秘書課付技官・医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長・白鳥圭輔、愁訴外来科医師・田口公平が活躍する小説「チーム・バチスタの栄光」が発表されたのが2006年。2008年には映画化され、TVドラマも放映されている。
現実には2014年の医療法改正により医療事故調査委員会が設置されている。
よほど医療業界の抵抗が大きかったのだろう(苦笑)

「失敗の科学」という書籍には、2005年米国で発生した医療事故を紹介している。

「失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織」

副鼻腔炎の手術で入院した患者を医療ミスで死亡させてしまった事例だ。
手術の前に麻酔技師が麻酔をかけ、酸素吸入のため気管挿管をしようとするが、うまくゆかない。執刀医、麻酔主任が集まって気管挿管を試みるが、うまくできない。気管挿管に手こずったまま時間が経ち患者は脳死状態となった、という事故だ。気管切開によって気道確保すれば事故には至らなかったはずだ。実際看護師は気管切開のための準備を完了していた。

医師たちは目の前の問題に囚われ、別の解決方法が見えなくなっていた。チームの上下関係により看護婦は代替え解決案を発言できなかった。チームが自由闊達な組織文化を持っていれば、このような視野狭窄を防ぐことができたはずだ。医療界そのものがこういう組織文化を持っているのではなかろうか?

コミュニケーション、上下関係が硬直した組織では、事故事例の共有・再発防止は難しい。


このコラムは、2020年7月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1000号に掲載した記事に加筆したものです。

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ポカミス

 以前作業ミスに関する記事を書いた.

「作業ミス対策」

作業ミスの中でも「ポカミス」分かっているけどついうっかりやってしまうミスについて今回は考えてみたい.

ポカミスが発生する原因として

  • 疲労によるミス
  • 注意力散漫に夜ミス
  • 非熟練によるミス

などが考えられる.

人が作業をすれば必ず疲労やそれに伴う注意力の散漫が発生しうる.また作業環境によっては注意力が散漫になることもありうる.

そのため作業のムダ取りをして作業者の疲労を軽減する.
職場環境を整え,集中力が落ちないようにする.
といったことは必須であるが,これだけでは十分では無い.

ポカミスが発生しないようにする.万が一発生しても次工程に抜けてゆかないようにする.いわゆる「ポカよけ」と「ダブルチェック」が必要だ.

「ポカよけ」というのはミスができないようにすることだ.
例えば取り付け方向を間違えないように,取り付けネジ位置を非対称にする.こうしておけば反対方向に取り付けようと思っても組み付かない.

コピー機を開けるとやたらレバーがあり,それを解除しないと感光ドラムやトナーを交換できないようになっている.このレバーを戻し忘れると扉にぶつかって閉まらないように設計されている.これもポカよけだ.

「ダブルチェック」というのは文字通り2回チェックすること.
作業をした本人がチェックをし次工程の作業者がもう一度チェックする.一人だけでもダブルチェックは出来る.しかし単純に2回見ただけでは「ダブルチェック」にはならない.

例えばネジ締めをする場合,必要なネジをあらかじめ取りおいて作業完了後にネジの過不足が無いことをチェックする.こういう確認が「ダブルチェック」になる.

旅客機に乗ると駐機スポットから切り離される際に「乗務員はドアをオートモードにして相互確認してください」という機内放送が流れる.これが「ポカよけ」と「ダブルチェック」だ.

旅客機は万が一の際に扉を開けると脱出用のシューターが飛び出してくることになっている.しかし駐機スポットで扉を開けるたびにシュータが飛び出すとちょっと厄介だ.
そのためマニュアルモードというのが設けてあり,通常時扉を開けるときはマニュアルモードにしておく.飛行中はオートモードにし万が一に備えている.

このモード切替レバーにポカよけピンがあり,オートモードにしなければこのピンが取り付けられないようにしてある.駐機時扉が開いているときはこのポカよけピンを開閉レバーにタスキ掛けにかかっている帯にくるみこまれている.扉を閉めるためにはこのタスキを取らなければならない.タスキを取るとポカよけピンがでてくるという仕掛けだ.

更に乗務員は一連の動作が終わると,自己確認後別の乗務員と立てた親指を見せ合う.これが「ダブルチェック」だ.

もちろん全ての作業に「ポカよけ」「ダブルチェック」を入れているわけではなく,ポカミスが発生すると安全運行に重大な支障がある作業だけだろう.

非熟練によるミスは作業訓練で補えばよいのだが,それでもしばしばミスが発生する.

ある方から製品ラベルが傾いて貼られるというミスがなかなか無くならないというご相談を受けた.
この場合はラベルが傾いているという不良が工程内で見つかっているので「ダブルチェック」はできていると考えて良いだろう.(理想はラベル貼り工程で「ダブルチェック」がかかること)

またラベルを貼る位置には目印枠をつけてある.不完全だが「ポカよけ」もあるといってよいだろう.

それでもミスが発生する.
いくら作業訓練をしても発生する.
中にはものすごく不器用な人がいて,いくら練習しても上手にならない人はいる.こういう人を作業員として採用するのが間違いだが,まずは教え方を見直してみる必要があるだろう.

こういう作業の下手な人と上手な人(早くしかも正確に貼れる)との差を良く観察すると作業方法の違いが分かる.下手な人は目印線を水平または垂直にして非常にぎこちなく貼る.
上手な人は貼り付けるモノを少しナナメに置いて,目線も真上からではなく少し傾けて目標を見ている.

ただまっすぐ貼りなさいと言うだけではなく,上手くできる人のやり方を教える.それでもだめなら仕事を変わってもらうしかないだろう.


このコラムは、2009年7月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第105号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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少くして賎し、故に鄙事に多能なり

tàizǎi(1)wèngòngyuē:“shèngzhěduōnéng。”

gòngyuē:“(2)tiānzòng(3)zhījiāngshèngyòuduōnéng。 ”

wénzhīyuē:“tàizǎizhīshàojiànduōnéngshì(4)jūnduōzāiduō。”

láo(5)yuē:“yúnshì。”

《论语》子罕第九-6

(1)太宰:官吏の名称
(2)固:まことに
(3)纵:ほしいままに許す
(4)鄙事:卑賤な事柄
(5)牢:孔子の弟子。司馬遷・史記の「仲尼弟子列伝」には見当たらない

素読文:
太宰たいさいこういていわく:“ふう聖者せいじゃか。なんのうなるや。”
こういわく、“もとよりてんこれゆるしてまさせいならんとす。またのうなり。”
これきていわく、太宰たいさいわれるか。われわかくしていやし。ゆえ鄙事ひじのうなり。くんならんや、ならざるなり。”
ろういわく、“う、われもちいられず。ゆえげいあり。”

解釈:
太宰が子貢に問うて言う「孔子こそ聖者と呼ぶべきでしょう。実に多能だ」
子貢が答えて言う「まさに天より許された方であり聖者と呼ぶべき方でしょう。その上多能です」
孔子はそれを聞き言う「太宰は私のことをよく理解されている。幼い頃から貧しかったので、つまらぬことに多能である。しかし君子たる者、多能であれば良いのだろうか。多能であれば君子である、とは言えないだろう」
孔子の弟子・牢はこう言っている。「孔子は世に用いられなかったので、多芸になったとおっしゃっていた。」

最後の一節は中国では《論語》子罕第九-7としています。

孔子は魯国の下級官吏に任官しますが、その後弟子とともに諸国を遊説するも、どこからも任官の要請はありませんでした。そのため一国の雑事にとらわれることなく、儒教の昇華と弟子の育成に専念できたのでしょう。

人材の下には人材が隠れていても育たない

人材の下には人材が隠れていても育たない

一倉定

「社長の教祖」と呼ばれる経営コンサルタント一倉定の言葉である.

実は年末から年始にかけて今春創刊される雑誌のための原稿を書いていた.私に与えられたテーマは「人材育成」そんなわけでこんな言葉を思い出した.

トップから外に出しなさいと,私もよく言っている.
トップを外に出すとその組織の二番手三番手にチャンスが回ってくる.彼らはチャンスをつかもうとモチベーションを上げてがんばる.これで組織が活性化し成長パワーを発揮する.

トップが居座っていると二番手三番手が上に行くチャンスがなくなる.こういう状態の組織は閉塞感が漂い停滞するものだ.

組織のトップを移動させるのは大変勇気のいることだろう.
トップを動かす(または離職する)ことを恐れて組織を停滞させてしまっては元も子もない.それよりは勇気を持って組織を活性化させたほうが良い結果につながるはずだ.


このコラムは、2008年1月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第15号に掲載した記事に加筆したものです。

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モノ造りの心

 先月無料工場診断でヨーロッパ資本の中国工場を訪問した.
ヨーロッパから経営幹部が何人も駐在しておられた.しかし驚いたことに殆ど現場を見ていないように思える.

品証担当のドイツ人と話をしたが,どうも我々と論点がずれている.
顧客から作業ミスの不良が多いとクレームを受けているのに,現場には作業指導書もない.
この点を指摘すると,作業指導書はあるといって,秘書に持ってこさせて見せてくれた.作業指導書は現場ではなく彼のオフィスにあったのだ.

ヨーロッパ資本の中国工場を訪問するのは初めてだったので面食らった.

日本の企業は「現場起点」で物事を考えていると思う.
そういう言い方をすれば,米国の企業は「マーケット起点」だろうか.
ヨーロッパの国々は古くからマイスター(職人)を大事にする文化があると思っていた.日本よりも職人に対する評価は高いように思う.

職人が現場から離れてしまっては,陸に上がった河童のようなものだ.

いずれにせよ,この工場の中国人社長さんは危機感を持っておられるようで再度打ち合わせに呼ばれた.社長さんには改善活動を通して改善リーダの育成をしましょうと提案してきた.


このコラムは、2008年11月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第61号に掲載した記事に加筆したものです。

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明治乳業のビン牛乳、さび混入 159万本回収

 明治乳業(本社・東京都江東区)は25日、大阪府貝塚市の関西工場で製造された瓶入りの牛乳とヨーグルトに赤さびが混入していたとして、関西2府4県の宅配用の5商品計約159万本を自主回収すると発表した。混入は微量で、健康への影響はないとしている。

 22日に顧客から指摘があり、関西工場を調べたところ、回収した瓶を洗浄する作業で、仕上げのすすぎに使う水のタンク内で赤さびが見つかったという。

(asahi.comより)

この手の事故の報道を見るたびに,どうして未然に防げなかったのかと思う.

生産設備は毎日点検しているはずだ.
すすぎ水のタンクの点検が行われていなかった.
または点検は行っていたが,赤錆を見逃した.

すすぎ水のタンクが点検項目から漏れていたのならば,点検項目に追加をすれば良い.
しかしそれだけでは不十分だ.製品に影響を与える可能性のある潜在事故を洗い出して,見直しをする必要がある.

点検項目に入っているが見逃した,この場合の対策はどうすれば良いであろうか.
「作業員に対して点検作業の教育訓練をする」という対策では不十分である.点検の基準はきちんとしていたのか,点検方法に問題はなかったのか,見逃した原因をきちんと解析をして対策を打たなければならない.

作業者が不慣れなためのミスだったとしても「教育をする」で十分とはいえない.
教育方法・資料,教育の時期・頻度について改善すべき事がないか検討しなくてはならない.

以上の対策が出来てもまだ不十分である.
これらは錆の発生を見逃すという流出に対する対策でしかない.
錆が発生するという原因に対する対策が足りていない.

あなたの工場では同様の問題が発生するリスクがないだろうか.
一度こういう問題を出してしまうと,回収のための費用損失が発生するばかりか,顧客の信頼を失うという致命的なダメージを受ける.

致命的な品質不良が発生する可能性のある事故を洗い出してFMEAなどを活用してあらかじめ対策を打っておく必要がある.
業種が違ってもこのような事故は社内を再点検する良いチャンスである.


このコラムは、4月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第31号に掲載した記事に加筆したものです。

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