月別アーカイブ: 2021年12月

会員制ビジネス

 中国で通っているジムを紹介しよう。
私が住んでいるアパートの2階にジムがある。狭いのと料金が高いのか難点だが、同じ棟の中にあり便利である。設備もまぁまぁである。

しかしここのジムの経営者は、「会員制ビジネス」のメリットをあまり認識していないようだ。
いまだに大量の営業員を街中に送り出して、新規顧客の勧誘に精を出している。
「会員制ビジネス」の大きなメリットは、会員の紹介で会員が集まる、と言う営業いらずの部分にあると思う。

従ってビジネス拡大に一番重要なことは「既存顧客の満足」であるはずだ。残念ながらこのジムはこの点に関して二流以下である。

まず第一に経営者が顧客に何も挨拶をしない。私がジムに行く時間帯にはよく経営者が顔を出している。しかし経営者は私と目が合っても会釈すらしたことが一度もない。

シャワールームの工事中、工事のための資材がロッカールームに山積みされてロッカールームに入ることできなかった。シャワーが使えないだけでも不満なのに、ロッカールームにすら入れない。

スタッフに工事に今不要な資材を撤去してロッカールームに入れるようにしてほしいと何度も提言したが、話を聞くだけである。顧客の利便性よりは工事業者の利便性を優先している。

経営者に私から話をする、と言っても一向に取り次がない。
顧客の声を殺してしまい、成長のチャンスを見逃しているとしかいえない。

不届きな会員が共有のロッカーに自分の鍵をかけて占拠しているのも「没方法」と言いまったく改善しない。

これでは友人にこのジムを勧める気にもなれない。
従っていまだに新規顧客獲得のために大量の営業員を雇用し続けている状態である。

日本にいたときのジムも、東莞の田舎町のジムでも営業員などほとんどいなかった。たまにキャンペーンをやるときにトレーナなどの職員を動員する程度である。

営業員を雇うお金を顧客満足に回せばもっと経営は楽になるはずだ。
少なくとも費用のかからない顧客満足作戦はいくらでもある。


このコラムは、2008年6月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第39号に掲載した記事です。

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教育

 「モノ造りは人造り」とよく言うが、品質改善・生産性改善を極めてゆくと必ず人事制度、人材育成問題に突き当たる。

人の能力にはIQ、EQ、SQがある。
IQ、EQはご存知の通り、Intterigent Quotient。Emotional Quotientの略である。
SQは私の勝手な造語でSkill Quotientの意味。

すなわちIQは頭、SQは体、EQは心を鍛えるという図式である。

まずは知識を教え込みそれを現場教育(OJT)を通して技能として体に叩き込む。
更にこれらの成長が加速継続するように行動開発を通してモチベーションを上げる、というわけだ。この行動開発がEQを高める教育に当たる。

知識や技能は教育訓練するのは比較的易しい。またその効果を確認する方法も比較的簡単である。

一方道徳研修、リーダシップ育成などの行動教育はその教育効果を計測するのが困難である。教育後のテストでは知識面の評価しかできない。EQを高める教育の効果は、やはり現場での行動発揮で評価するしかなかろう。

あなたの工場ではどんな教育・訓練を実施しておられるだろうか?


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第30号に掲載した記事です。

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介護用電動ベッドから出火?

介護用電動ベッドから出火? 83歳女性重傷

 29日午前5時ごろ、横浜市磯子区滝頭2丁目、無職神鳥ハナイさん(83)方の介護用電動ベッド付近から出火。ベッドに寝ていた神鳥さんが下半身に大やけどを負った。

(asahi.comより)

写真を見るとベッドの下半分が焼失している。
記事には出火原因は書いていなかったが、出火原因を推定してみる。

・モータのレアショートによる過電流。過熱→出火
・AC電源取り入れ部分の接触不良によりスパーク発生。付近の可燃物から出火
・タバコ火による失火

現場検証によりベッド下のモータ付近からの出火と推定しているので、「たばこ火」は否定されるが考えうる原因を全て挙げる。
モータのレアショートに関しても駆動回路に過電流保護があるからと簡単に消去しない。
過電流保護回路も何らかの理由により失効する可能性はあるからだ。

こうして列挙した故障モードを自社製品に当てはめてみる。
これらの潜在故障モードの影響を検討し、対策ができているかどうか検証する。

このようによそで発生した不具合事例から自社製品の「不具合未然防止対策」を検討する。
不具合が発生した時に「再発防止対策」を検討するのは当たり前だが、このようにまだ発生していない不具合に対する予防処置ができれば要らない「授業料」を支払わずに済む。


このコラムは、2007年12月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第14号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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美点凝視

yuējūnchéngrénzhīměichéngrénzhīèxiǎorénfǎnshì

《论语》颜渊第十二-16

素読文:
いわく:“くんひとし、ひとあくを成なさず。しょうじんこれはんす。”

解釈:
君子は人の良い点を称賛し助長するが、欠点につては触れない様にしている。しかし小人はこれと反対である。

美点凝視。部下育成の鉄則です。
こちらもどうぞ「美点凝視」

“扎根”制造業的真義:従一个日本螺絲想到的

 初めて中文のニュースを紹介する。
【“扎根”制造业的真义:从一个日本螺丝想到的】『土巴兎新聞』にあった記事だ。
タイトルを日本語に直訳すると“深く根をおろした製造業の真の意義:1本の日本製ねじから考えること”となるだろうか。記事は日本の高度なモノ造りは、日本中小企業が支えており、そののひたむきなモノ造りに対する姿勢を賞賛している。

(注)残念ながら『土巴兎新聞』の当該記事はすでに削除されている。

 記事は竹中製作所の錆びないネジ、ハードロック工業の緩まないナットを紹介している。

中国の企業は往々にして、すぐに儲かる仕事に飛びついている様に見える。
LED照明が儲かると聞くと、あっという間に雨後の筍の様にLED電球を作る工場がそこいら中にできる。生産設備の設計製造をしている知人(中国人)も自社工場の横に工場を借りてLED電球を生産し始めたが、量産技術も、製品の梱包技術もなく、製品を出荷したはよいが、顧客からクレームを食らっていた。

市場性があり、投資対費用効果が高ければあっという間に工場を立ち上げてしまう。日本の製造業の様に、こつこつと技術や技能を磨いて、納得のいく製品に仕上げると言う姿勢は感じられない。ある意味企業経営としては、中国企業の方が正しいのかもしれない。

しかしそのような姿勢でモノ造りに取り組んでみても、市場のおこぼれを取る程度にしかビジネスにはならないだろう。すぐに安かろう悪かろうの本質が露呈してしまい、顧客が離れて行く。

竹中製作所やハードロック工業の様に、ニッチ市場ではあっても圧倒的なシェアと顧客の信頼を得る事はむつかしい。

日本の中小企業に、NASAからAPPLEまで、世界的な大企業が指名で注文が入る。
そして日本の中小企業が、世界の大企業の製品を支えているのだ。
記事には「このねじが日本を支えとんのや」と言う台詞と共にドラマ「半沢直樹」の一シーンの写真が添えられていた。

一方で多くの日本中小企業が、下請けとして苦しい経営をしているのも確かだ。
ただ技術を磨くのではなく、用途開発にもっと目を向ける事が必要だと考えている。竹中製作所やハードロック工業が、大多数の中小企業と一線を画している所は「用途開発」だろう。

絶対にゆるまないネジ―小さな会社が「世界一」になる方法

1社では無理でも、同じ志を持った中小企業が集まれば、人工衛星だって打ち
上げられる。

まいど! ~宇宙を呼びよせた町工場のおっちゃんの物語

我々も、青木社長の様に面白い事をやってみたい。
中国に進出した日系企業で、力を合わせ世界をあっと言わせる様な製品を
作ってみたい。当然日本の本社からは協力は得られないだろう。
中国でこっそり開発してしまうのだ(笑)


このコラムは、2015年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第449号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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経済成長

 日本の名目GDPは米国、中国に大きく水を開けられているが、世界第3位だ。一方、国民の購買力を示す1人当たりのGDPは30位。

米国から日本バッシングを受けるほど、経済成長をしていた当時とは比較にならない閉塞感がある。上記のデータは2020年のIMFの予測データなので、必ずしもコロナの影響だけとはいえないと思う。

学習院大学の滝沢美穂教授はラジオ番組で、米国並みの資源分配ができていれば、7%の生産性向上が可能だ、と言っていた。

資源とは生産リソースばかりでなく、人的リソースも含まれる。儲からない製造業にリソースを割くのではなく、成長産業にリソースを配分しなければならない。という意味と理解した。

正論だと思うが、果たしてそれで良いのだろうか?
米国流の経営スタイルをまね、株主を優先し、現場の労務費を変動経費化した。そのために、日本の強みであった現場力が失われてしまったのではないか?

我々製造業に関わる者の使命は、7%程度の生産性向上ならば、それぞれの現場努力で達成するべきだろう。


このコラムは、2021年10月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1203号に掲載した記事です。

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正解とは

 学校の試験は、問題に対して基本的には正解は一つしかない。
しかし現実の問題には、複数の答えがあるはずだ。

たとえば工場で製品の不良をなくす、と言う課題があったとする。
この課題に対して一番確実な解は「生産しない」だろう。
これを正解とするかどうかは、それぞれに事情が違う。しかし造らなければ生産不良は発生しない。

あらゆる問題に「制約条件」があるわけだから、「造らない」を解として採用するかどうかは別の話だ。ブレーンストーミングでアイディアがなかなか出てこないのは、「正解」にこだわりすぎているからではなかろうか?

論理的に考えても1+1が2にならないことはいくらでもある。
たとえば、白米1合と小麦粉1合を混ぜても2合にはならない。
水は100℃で沸騰するというが、それは1気圧環境下での話だ。

本来、問題解決時に求めるのは「正解」ではなく「最適解」と考えるべきだ。
従って垂直にナゼナゼを繰り返すのではなく。水平にもナゼを広げる方が多くの答えが見つかり、その中から最適解を選択することができるはずだ。
こういう発想を「水平思考」とか「ラテラルシンキング」という。

先週取り上げた、日本政府の「儲かる産業にシフトする」という方針が唯一の正解ではないと思う。


このコラムは、2021年10月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1206号に掲載した記事です。

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