カテゴリー別アーカイブ: コラム

継続力

以前5Sの継続力についてコラム「継続力」を書いた。今回は少し違う視点で継続力について考えてみたい。

 事業を起業する事と、経営を継続する事は、異なる能力だと思う。
プロジェクトを起こす事と、プロジェクトで得たモノを継続する力も、異なる能力だ。

5Sを始めたけど継続出来ない。
改善提案を始めた時は皆提案書を書いてくれたが、最近は催促をしても集まらない。
お金をかけてCRMシステムを開発したけれど、営業職員がめんどくさがって使わない。
こんな状況の会社が多い様だ。よかれと思って始めたのに、従業員アンケートをとってみると、不満足要因になっている事すら有る。

うまくいっていない最大の理由は、経営者や経営幹部が率先垂範をしない事だろう。「5Sをやれー!」と経営者が号令をかけても、推進役の品証部長にまる投げでは上手く行くはずがない。経営者も経営幹部も一丸となって取り組まなければ上手く行かない。その上で推進役が機能する。

物理的な障害がある。
営業職員が定時後に帰社し、その上でCRMシステムを開いて報告書を入力する。従業員に頑張りを要求するシステムでは長続きしない。経営者や経営幹部がまず自分で使ってみて、不便な所を修正しなければ使われない。

従業員が、メリットを感じない。
こういう理由で、こうやらなければならない、と言う事を理解させるのは当たり前だ。更にココロで感じるメリットを理解させなければならない。
賞罰制度は効果はないとは言わないが、効果は継続しない。
自分の仕事が、誰かの役に立っている、自分の成長の役に立っていると実感出来る事が、継続のモチベーションとなる。

ある中国企業は、工場見学が有ると職場の班長が見学者に説明している。
見学者は皆経営者であり、自分の父親ほどの年齢だ。その見学者達が自分の説明を聞いて、しきりに感心して帰って行く。当然班長は、その気になり毎日5Sに励むことになる。この企業の経営者はそれが分かっている様で、積極的に工場見学を受け入れている。顧客だけでなく地方都市の役人まで来ると言う。

逆に、他の工場を見せる事も効果がある。
この時の秘訣は、相手の工場の良い所を探して報告する様に予め課題を与える事だ。ただ見学させても、課題が無ければ得られるモノはない。自分たちが優れていると言う思い込みで見学しても、相手のあら探ししかしなくなる。相手の良い点を探すことにより、自分たちは何が足りていないのか考えることになる。

なぜ継続出来ないのか、どうすれば継続意欲が上がるかが理解出来れば、継続は容易になる。


このコラムは、2015年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第410号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力

 先週の経営相談室では、社内研修に関するご相談をご紹介した。
その後思い立って、『「やる気を出せ!」は言ってはいけない』を読み直した。
この本は行動科学の石田淳氏の著作で、部下育成について書かれた本だ。

『「やる気を出せ!」は言ってはいけない』石田淳(著)

石田淳氏とは以前香港でお目にかかったことがあり、以来何冊か著作を読ませていただいた。

「部下のモチベーションを上げたい」と言うリーダの願いは、どんな業種でも共通のモノだろう。しかしモチベーションとか、やる気と言うのは人の内側にあるモノであり、外から見ることができない。つまり色々な工夫を凝らし、部下のモチベーションを上げようとしても、その成果は計測不可能だ。
この様な状況では、努力の結果が目に見えず、改善すべき点も見つからない。

石田氏のマネジメント手法は、モチベーションが上がっているときの行動に焦点を当て、その行動が自発的に発生する回数をモチベーションの代用特性とする。これでモチベーションが計測可能となり、何をすればモチベーションが上がり、何をすればモチベーションが下がるかが分かる。

いわゆる計測とフィードバックによる改善のループが出来る訳だ。

彼の書籍の中に、好ましい行動が継続出来ない理由に関する記述がある。
このメルマガ読者様の参考になると思い、ご紹介したい。

継続することにより、好ましい結果が得られる行動は強化したい。
例えば、禁煙とかダイエット。仕事で言えばコツコツと毎日積み上げる様な作業だ。
これらの作業行動は、何度も積み上げる事に意味がある。しばしばおろそかになり継続する事が難しい。目標に対して行動が不足してしまうので「不足行動」と言う。

一方、過剰に発生する行動により、本来期待した行動が出来なくなってしまう行動を「過剰行動」と言う。ダイエット中に間食をする。仕事中にムダな休憩をしばしば取る。こういう行動が「過剰行動」に当たる。
好ましい結果を達成するためには、過剰行動を減らす必要がある。

従って目標を達成するためには、不足行動を増やし、過剰行動を減らせば良い。
モチベーションとかやる気と言う不可視のモノではなく、目に見える行動で評価出来ることになる。

しかし評価出来る様になっても、なぜ好ましい行動が不足し、なぜ好ましくない行動が過剰になるのかを知らなければ、改善出来ない。

不足行動は通常長期間の行動の積み上げで成果が見える。
禁煙やダイエットは一日で達成出来るモノではない。長い間継続して初めて効果が現れる。

一方過剰行動の方は、すぐに成果が得られる。
イライラしている時に1本煙草吸えばすぐに、好ましい精神状態になる。空腹の時に間食をすれば、満腹感と言う成果がすぐに手に入る。

つまり、
 不足行動により成果が現れる時期>過剰行動により成果が現れる時期
もしくは
 不足行動による短期メリット<過剰行動による短期メリット
と言う不等式が成立し、不足行動を起こさずに過剰行動を起こすことになる。

不足行動を起こす動機付けには「恐怖」もあり得る。
例えば、明日までにこの仕事をやらなければクビになる、と言う状況になれば必死になって仕事をするだろう。
医者に煙草をやめなければ明日死ぬと言われればすぐに禁煙出来るだろう。

しかし恐怖による動機付けが有効になる事は余りない。有効になったとしても効果は短期的だ。

ではどうすれば、不足行動を継続することができるのか?
上記の不等式が成り立たなくすれば良いのだ。

不足行動により得られる短期メリットを付加してやる。
又は過剰行動により得られる短期メリットを小さくしてしまう。
こういう工夫ならば出来ると思うがいかがだろうか?


このコラムは、2013年11月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第336号に掲載した記事に加筆しました。

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社内研修について

 先週は読者様から社内研修についてご相談のメールをいただいた。
いただいた相談にはメールで、私の考えをお伝えしたが、他の読者様にもシェアしたいと思う。

※F様のご相談
 メールマガジンかセミナーだったか覚えていませんが、以前林先生から教育は計画を立てて、計画通り実施しなさいと教わりました。以来毎年年初に教育計画を立てて実施する様にしています。ISOの品質計画に入れているので、年末のレビューで計画の実施状況を確認しています。

計画時には、達成目標と担当者を決めています。
具体的には、目標:現場監督者の研修を年に2回開催する。
責任部署:総務・人事部
としました。
昨年の目標は達成しましたが、効果の実感が余りありません。何処かやり方が間違っているのでしょうか?

仕事を、重要・非重要、緊急・非緊急の2軸で分類し、4つの象限に分ける。
それぞれの象限ごとに、対応の仕方を変える。教育は「重要、非緊急」の象限となり、計画を立てその通りに実行する。と言う考え方を何度かお話したことがある。
重要だが緊急ではない仕事は、しばしば延期することになり、結局やらずに終わってしまう。と言う事が多いのではないだろうか。教育はその典型だ。忙しいから時間がない、などの理由により延期される。

これを覚えていてくださり、実施されたのはすばらしいと思う。

しかし「年に2回研修をする」と言うのは目標として適切ではない。
教育の目的は、知識を与える事、意欲を向上させる事、その結果対象者の行動が変わる事だ。知識や意欲が高まっても行動が伴わなければ、何も変化は起きない。その結果教育の成果を実感出来ないことになる。
目的に合わせて目標を設定しなくてはならない。

従って、教育の成果目標は研修の回数ではなく、受講者の能力向上、行動の変容としなければならない。

計画には、誰に何を教える、その結果能力を何処まで高める。と言う内容が必要となる。そのために各自に要求される能力と現状能力を知る必要がある。個人ごとに「スキルマップ」を作る。「スキルマップ」とは余り適切な名前ではないかもしれないが、その職位に要求される能力と、現有レベルを個人ごとに一覧表にした物だ。

これがOJTを含めた教育計画の大元になる。
先輩の仕事ぶりを見せておけばOJTになると考えるのは、あまりに楽観的だ。

例えば品質部門のメンバーに要求する能力の一つとして「パレート図」を作る、と言う能力を考えよう。
要求されるの応力のレベルは、

  1. 上位者の指導によりパレート図を作図出来る。
  2. 自主的にパレート図を作図し分析が出来る。
  3. パレート図の作成と分析方法を指導出来る。

の三段階に分けることができる。
このレベルは、具体的な仕事を任せることにより確認出来る。

この様なスキルマップを作成することにより、OJTにより教育する内容、研修により教育する内容を分け、研修の計画を立てる。
この計画を立てると、既に能力のある者に集合研修を受けさせると言う無駄もなくなる。
スキルマップを公開することにより、メンバー各自が何を学べば良いか理解出来る。メンバー自身が学習に積極性を持つと言う効果もある。

研修の回数とか研修への参加人数などを研修成果の目標としてしまうと、研修担当者は、研修業者と相談し、余り効果が実感出来ない研修を開催する事になってしまう。その結果研修受講者にも不満が残り、ただ研修業者を喜ばせることになる(笑)


このコラムは、2013年11月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第335号に掲載した記事に加筆しました。

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利己と利他

 「利己」とは自分の利を中心に物事を考えたり,行動する事だ.
一方「利他」とは他人の利を先に考えたり,行動する事だ.

利己と利他を公式で表現すると,以下の様になる.
利己:自分が支払うコスト<相手から自分が受け取る利益
利他:相手が支払うコスト<自分が相手に与える利益

つまり利己とは,相手から受け取る利益よりも自分が支払うコストを減らそうと言う考え方や行動である.自己努力により,相手から受け取る利益を一定のまま,自分が支払うコストを減らす努力は,利己とは言わない.
自分が得る利益(対価ーコスト)を増やすために,相手が受け取る利益を減らす事が利己だ.

利己の人は,相手から利益を奪い取る事を優先して考える.

利他とは,相手が受け取る利益よりも自分が支払うコストが大きくなってもかまわないと言う考え方や行動だ.むしろ相手が利益を受け取れるのならば,自ら進んで自分のコストを支払う,と言う人が利他の人だ.

つまり利他の人は,相手に利益を与える事を優先して考える.

どちらが成功するかと言えば,当然利己の人だ.
利他の方が聞こえは良いが,自分の利益を考慮せずに相手に利益を提供しようと言うのは,ボランティアでしかない.崇高な生き方かもしれないが,ビジネスとしては成功出来ない.

こう考えておられる方が大半だろう.二宮尊徳翁も「経済なき道徳は寝言である」と言っておられる.あなたは,いかがだろうか?

短期的な視野で物事を考えれば,利他の人の利益を利己の人が吸い取る構造だ.
しかし長期的な視野で考えると,利己の成功は短期的であり,大成功するのは利他だと思う.

利己のビジネスは,狩猟型のビジネスであり次々と狩り場(新規顧客)を開発する事が必要だ.

一方利他のビジネスは,農耕型のビジネスであり顧客や市場を育成する.その結果ロイヤリティの高い顧客が増え,顧客からの紹介で更に顧客が増える.

利他とはただ単に,相手に献身的な貢献をする事ではない.
相手に献身的な貢献をすることにより,利を得る事だ.

貢献(相手が受け取る利益)が目的であり利は結果だ.
これを間違えて,利を目的として貢献をしようとするから,利己になる.

営業経験がない私が独立した時に決意したのは「利他」を押し通す事だ.

無料工場診断に出かけると,そこまで教えちゃうの?と同行者があきれる程のノウハウを教えてしまう.訪問先の経営者からは,目から鱗でしたと感謝をいただく.
ある工場では,訪問して1週間後に,ここまで改善出来ましたと,写真入りでレポートを送って来てくれた.

同業のコンサル会社を何社も無料で指導している(時々晩ご飯をご馳走して貰っているが・笑)

このようにして集めた感謝が,後に収入・利益になるはずである.


このコラムは、2013年7月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第320号に掲載した記事です。

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続・見えない不良

 先週月曜日のメルマガでお約束した様に、書籍「『品質力』の磨き方」から、品質工学(田口メソッド)について、シェアしたい。

「『品質力』の磨き方」長谷部光雄著

品質工学に関してはこちらの書籍も大いに理解を助けてくれるだろう。
「技術者の意地」長谷部光雄著

この書籍は、湿度センサーの開発者が製造部門での不安定性、市場不良を解決すべく奮闘する姿が物語として語られている。品質工学を指導する十文字教授が登場するが、この人は品質工学の元祖・田口玄一教授がモデルだろう。田ー口=十だ(笑)

この2冊の書籍を読んでも即「品質工学」を活用出来る訳ではないが、考え方は理解出来る。その上で品質工学の専門書を読まれるのが良いと思う。

若い頃田口玄一教授の講演を聞いた事がある。残念ながら当時は田口教授の言っている事が全く理解で樹なかった(苦笑)田口メソッドは実験計画法の一種だと思っていた。田口メソッドは実験計画法の直交表を使うが、実験計画法とは全く違う理念に基づいた手法だ。

工程内不良や市場不良の原因を分析する時に、よく「分ければ分かる」と言う。
現象を層別したり、原因となる要因を分け、要因ごとに解析し対策を検討する。そんなやり方が一般的だろう。このやり方が悪い訳ではない。しかしこの方法は不良が発生しなければ、活用出来ない。

一方田口メソッドは「いじめれば分かる」という。
設計時に「いじめる」事により、より堅牢な(ロバスティックな)設計をするのが田口メソッドだ。堅牢な設計とは、製造時の変動や市場環境の変動による影響に対して「鈍感」にしておくと言う意味だ。
製造条件の変動に対して「敏感」であれば工程内不良は減らない。
市場環境の変動とは、ユーザの使い方や経年変化を含む。
これらの変動に対し「鈍感」(ロバスティック)になる様に設計パラメータを決める。

通常は設計パラメータを決定する場合、条件を製品仕様範囲内で検討する。
一方、田口メソッドの場合は、製造や市場での環境変動を仕様範囲を超えて極端に振る。これを「いじめ」と言っている。いじめによって、変動に「鈍感」なパラメータを設定し、特性に対して感度の高いパラメータで特性を調整する。

つまり変動に対する感度(SN比)と狙いの特性に対する感度(S)を同時に評価し設計するのが田口メソッドだ。

田口メソッドは「見えない不良」を設計時に先行対策するのに大いに力を発揮する。それだけではない、巨大化するソフトウェアの評価にも力を発揮する。

田口教授の講演を聴いてもさっぱり分からなかったが、その後もずっと気になっており、当時の部下に品質工学会に入会して勉強してもらった。彼はその後全社のソフトウェア評価の責任者になっている。

中国の日系工場は設計は既に本社で完了している事が多いが、徐々に設計を中国に移管し始めている企業もある。

書籍を読む限り簡単に応用出来そうだが、実際には制御因子、信号因子、誤差因子をどのように決めるかの経験智が必要になる。実践して経験を積むことにより活用出来る様になるだろう。

余談だが、本日ご紹介した書籍「技術者の意地」は、本のソムリエさんからいただいた。本のソムリエさんは、読んだ本を毎日一冊づつ紹介するメルマガを配信しておられる。読んで見たけど紹介に値しない本もあるだろう。年間356冊以上本を読んでおられると思う。驚異の読書量だ。

メルマガ:1分間書評!【一日一冊】

さらに読まれた本をメルマガ読者様にプレゼントしている。
すでに3000冊近くの本をプレゼントしている。郵送料だけでも大変な金額だ。時間をかけてメルマガを書き、さらに読んだ本をプレゼントする。ただの本好きではできないことだ。上記のURLから配信の登録ができる。無料配信だ。ご興味のある方はご登録いただきたい。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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見えない不良

 最近大規模な市場クレーム・リコール問題が多く発生している。
昔と比較して日本企業の技術力が低下しているのではないだろうか?私自身もこの様な危惧を抱いていた。技術力と言うのは設計技術ばかりではなく、生産に関わる現場の技術も含む。

バブル崩壊後、日本の製造業の多くが米国流の株主最優先の経営に傾倒し短期業績を追求した結果「現場力」を失ってしまったのが最大の原因と考えていた。つまり現場の職能工を、派遣社員や臨時工に置き換え人件費を変動経費化する事により経営を建て直そうとした。しかしその結果、現場に有ったモノ造りの力が消散してしまったのが原因と考えていた。

しかし、長谷部光雄氏の『「品質力」の磨き方』と言う書籍を読んで得心した。

『「品質力」の磨き方』長谷部光雄著

長谷部氏はリコーで複写機の開発をして来られた方だ。
彼の主張では、リコールの増加は技術力の低下ではなく、社会的要求の変化だ。

市場クレームやリコール問題が発生する製品は、製造過程では良品であった。工程内検査も、出荷検査も全て合格品だった訳だ。(この書籍が執筆されたのは2008年であり、昨今の検査データ改ざんなどの品質問題には触れていない)
出荷後の使用環境(温湿度や経年変化だけではなく、ユーザの使い方、期待等)の変化を予め想定出来なかった「見えない不良」がリコールの原因だと、彼は主張している。つまり現場力の低下が問題ではなく、開発設計力が市場要求の変化に追従できていない事が、リコール問題の根本原因だと言う。

設計の確からしさ、妥当性の確認が不十分だと言う事だ。もちろん設計評価に十分時間をかけていただろうが「見えない不良」(潜在不良)の想定が時代の変化に対して不十分だったと言う考え方だ。

「見える不良」「可視化で切る不良」は製造現場の力で排除出来る。しかし「見えない不良」を解決出来るのは開発設計工程だけだ。長らく開発設計に携わって来た技術者としての見識だろう。私も開発、品証を経験して来た者として、得心を得た。

書籍から判断すると、長谷部氏は「品質工学」(田口メソッド)に精通した方の様だ。近いうちに『「品質力」の磨き方』から得られた知見をシェアしたいと考えている。


このコラムは、2017年8月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第552号に掲載した記事です。

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業務のマニュアル化と業務改革

 今週のメルマガ「ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革」で、ノリタケの仕事改革・間接業務のマニュアル化による業務改革についてコラムを書いた。本日は、業務のマニュアル化と業務改革について考えてみたい。これは間接業務、直接業務を問わず共通の課題だ。

業務マニュアルを作るためには、まず標準作業を決める。その上で作業者に理解しやすい様に作業手順を文章化する。文章化には写真、イラスト、図表等が含まれる。

ちょっと余談だが、業務マニュアルで標準作業を決めても、作業は標準化されない。なぜならば教え方が標準化してないからだ。この点にフォーカスをするのが、TWI-JI(企業内訓練・仕事の教え方)だ。
TWI-JIでは、標準作業を分解し教え方のシナリオを作る方法で教え方を標準化している。

業務マニュアルの作成にしても、TWIの作業分解にしても、ただ標準作業を記述するだけではない。標準作業を記述する際に、本当にこの作業は必要なのか?より効率の良い方法はないか?と言う視点で作業を見直しながら作るべきだ。つまり業務マニュアル作成の過程で、業務改善をするつもりで取り組むのだ。

もう一つ重要な事がある。標準やマニュアルは作ったその日から改訂を考える。標準やマニュアルは、今日ベストな方法を決めただけだ。明日もそれがベストとは限らない。標準やマニュアルを放置すれば、作ったその日から陳腐化が始まる。

無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」は現在13分冊2,000ページある。
ムジグラムは、現場からの要求で毎月20ページ程改訂されている。毎月1%は改善が進んでいると言う事だ。

つまり業務マニュアルを決めるだけではなく、業務改善を継続する。

まずは標準作業を決める。作業の「形」を作ると言う事だ。業務マニュアルが「形」を表現する。これが無いのを「形無し」という。形があるから、改善すべき所が見える。そして業務マニュアルが改訂される。この螺旋上昇循環を作る事が業務改革だ。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革

 ノリタケカンパニーリミテドは営業、管理部門などで担当ごとの業務を
マニュアル化する。家族の急病や子どもの行事で特定の社員が休んでも、いつ
でも他の社員が交代できる体制を整える。今後、育児だけでなく、高齢化を
背景に家族の介護が必要になる社員も増える見込みだ。ホワイトカラーの
「多能工化」を進めることで働き方改革を加速する。

記事全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガで、何度も「働き方改革」が「残業時間の上限規制」問題にすり替えられている、と苦言を呈して来た。日経の記事に有るノリタケの取り組みが本来の意味の「働き方改革」に向かう取り組みだと思っている。

記事にはノリタケの取り組みを次の様に紹介している。

  • 複数の社員で対応可能にする。
  • 営業・管理部門の職員が休みやすくする。
  • 社員の働きやすさを推進する。

その結果残業時間が短縮する事になる。残業時間の上限規制や残業時間短縮は働き方改革の目的でも目標でもない。本来の目的は、仕事の質と効率を上げ業績に貢献する事であり、目標はその目的に沿った指標となるべきだ。働き方改革の結果として残業時間短縮が実現するのだ。

ホワイトカラーの仕事は、能力が必要でありブルーカラーの様に簡単に多能工化する事は出来ない、と考えるのはホワイトカラーの思い上がりだ。製造現場で働く職人の仕事を習い覚える方がよほど難しいはずだ。

「事務処理仕事をマニュアル化し誰でも出来る様にする」と言うテーマでQCC活動をしたサークルが昔有った。これは子供が熱を出しても休めない、という切実な問題を解決したかった女性事務員が一人で取り組んだQCC活動だ。「サークル活動」と言う名前の通り、複数のメンバーで取り組む活動が本来のQCC活動である。それにもかかわらず、たった一人の活動が認められてQCサークル誌に取り上げられていた。
彼女は、課題を解決する過程で、参照しなければならない資料を減らすなどの改善を実施し、業務の効率化も同時に達成している。この活動の結果、彼女は子供の誕生日に休暇が取れる様になった。

こういう事が「働き方改革」だと思っている。

以前メルマガで無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」をご紹介した。
第383号「無印良品のムジグラム」

この様なマニュアルがあれば、人財の流動化は怖くはない。新人でもすぐに作業に習熟出来る。必要な人財を必要な部署に回す事が出来る様になる。

従業員に取っても、職場で「余人を持って換えられない存在」と言う評価は嬉しいかも知れない。しかしそれは該当職場に「飼い殺し」にされていると言う事に他ならない。「余人も持って換えられない」と言う理由で、人生に訪れる何度かのチャンスをつかみ損ねているのだ。

本当に部下の事を考えるのであれば、「余人も持って換えられない」と言う耳触りの良い言葉ではなく、ジョブローテーションに出して成長を促すべきだ。

これが本当の意味の「働き方改革」であり、その結果人財は活性化し、企業の業績は良くなる。「残業時間の短縮」はその結果現れる現象に過ぎない。


このコラムは、2017年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第553号に掲載した記事です。

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中国華南の産業構造変化

 いささか大仰なタイトルとなってしまったが,お許しいただきたい.
私は経済評論家でもないし,マーケットウォッチャーでもない.マクロに市場をみて中国華南の産業構造変化を語る資格も,データも持ち合わせていない.自分の身の回りをミクロに見て,中国華南で産業構造変化が起こっていると感じている.

従来電気電子製品のお客様が多かったが、新規のお客様の業種は自動車産業が多くなっている.長期契約をいただいているお客様は,全部自動車関連部品メーカである.
直近に工場無料診断で訪問したお客様2社は2社とも,自動車産業向けに製品をシフトしているところだ.

中国華南の産業構造は,PCなどの電気電子製品が牽引して来たが,現在は自動車産業にシフトし始めているようだ.

自動車産業は非常に裾野が広い産業だ.
完成車メーカを頂点にして,多くの部品メーカが完成車メーカの生産を支えている.業種も電子部品,金属加工,プラスチック部品,ガラス部品,配線部品などなど多岐に渡る.

多くのメーカは電気電子製品向けの部品生産から,自動車部品の生産にシフトしようとしている.そのようなメーカを訪問して感じるのは,まずは品質要求の違いに戸惑っておられると言うことだ.

例えば電子部品業界では,納入品の不良率は20ppm以下であれば,とりあえず合格点がいただける.しかし自動車部品の世界では,納入不良率を語ること自体がナンセンスとなる.

人の命がかかる部品だから,不良はゼロが当たり前と言う考え方だ.
そうはいっても,ウチの部品は,走行系にも,ブレーキ系にも関係ないからと言う声も聞こえるが,フロアマットが原因で市場回収が発生する業界だ.回収はフロアマットの品質問題が原因ではないだろうが,どんな部品であろうと不良ゼロが当たり前と言うことになる.

そのような業界では,不良発生の予防保全が重要となる.
従って,自動車関連メーカの採用監査や新製品立ち上げの工場監査は厳格なモノとなる.この様な工場監査での指摘は,監査官の意図を正確に理解しないと,自分の首を絞めることになりかねない.

受注欲しさに,何でも対応しますと口先で約束して,不良を出してしまう.指摘事項の意図を理解せずに,検査工程などをどんどん追加して,利益が出なくなる.

いずれも発注側・受注側にとって不幸な結果だ.

厳しい納期要求に応えるために,完成品倉庫を拡大する.中間在庫を大量に抱える.見かけの効率を追求し設備を専用化し,稼働率を下げてしまう.
この様な目に見えないロスや潜在的品質不良を抱えている工場もよく見る.こういう状況に陥ると,受注はあるが利益が出ない,キャッシュフローが回らないと言う,経営的に深刻な状況になる.

こういう状況が,我々コンサルの出番だと思っている.


このコラムは、2012年10月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

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続・まず信頼する事

 先週のコラム「まず信頼する事」にお二人の読者様からメッセージをいただいた。今週は続編を書いてみる。

松下幸之助は、従業員に対する「信頼」が重要だと説いた。
些細な言葉上の問題だが、私は従業員に対する「信用」が重要だと思っている。

「信頼」という言葉を分解してみると、「信じて頼る」となる。一方「信用」は、「信じて用いる」だ。つまり従業員や部下を信じて頼ってしまうのではなく、従業員や部下を信じて用いると言う事だ。

たびたびご紹介している私の工場経営の師匠・原田師は「犬の散歩」といっていた。犬を散歩に連れ出すと、好奇心に任せてあちらこちらと歩き回る。飼い主は、リードを持って犬が行きたい方向に任せ、後ろからついて行く。危ない場面でリードをちょっと引っ張ってやれば良い、と言う意味だ。

犬はどうも不当な評価を受けている様で、「○○の犬」とか「犬死に」などとネガティブな意味の表現で用いられる事が多い。「犬の様に働く」と言うと、主人の言いつけに従い盲目的に働くと言うニュアンスがある。しかし犬は好奇心を持ち、色々な事を調べながら散歩をしている。そしてそれを大いに楽しんでいる。仕事もこのように取り組めば、成果を上げる事が出来、仕事を通して成長する事が出来るはずだ。

極論すれば、従業員や部下に失敗させ、そこから学ばせる事が上司の役割だ。
しかし致命的な失敗をさせてしまうと、部下の心が折れてしまったり、会社に大きな損失を与える事になる。そう言う局面で後ろからリードをそっと引いてやる。これが「犬の散歩」の意味だ。

それを可能にするのは、上司が部下を信じて用いる事だ。
部下を信じる事が出来ず、失敗を恐れれば、全てを上司自身で仕事をせざるを得ないだろう。部下が数人しかいない時はそれでも何とかなる。しかし職位が上がり、部下が増えれば不可能になる。

部下を信用出来るのは、常より部下を育成しその能力を高めているからだ。育成とは座学ではなく、仕事を与え成果を出させる事だ。この過程で部下は、能力と自信を高める。部下が失敗するかも知れないと心配していれば、この境地には到達出来ない。

しかしむやみに部下を信用する事は出来ない。部下を育成出来ていると言う自分に対する自信がなければならない。つまり部下を信用すると言う事は、自分自身を信じる事だ。

従業員や部下を信用し、仕事を任せ能力と自信を高める。その先に「信頼」の境地がある、と考えている。


このコラムは、2017年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第539号に掲載した記事です。

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