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従業員教育

 直接ご相談を受けた訳ではないが、先週いただいたメールの中に、多くの読者様が直面していると思われる課題があったので、皆さんとシェアしたい。

“従業員の教育育成は重要だと分かっているが、大手企業と違って中小企業はしっかりした教育体系も無く、日常業務に忙殺されて十分教育が出来ない。”
多くの方が、このような問題点を抱えておられると思う。

私が知る範囲では、大手企業と言えどしっかり教育システムが機能している所ばかりではない。
日本本社には、社内研修を専門にしている部署があり、別会社として独立している。日本本社にグローバル品証部門があり、世界中の拠点の教育企画を立てている。その様な会社も存じ上げているが、必ずしもうまくいっていない。

もっとも大きな問題は、日本本社と現地工場経営者の温度差だ。日本本社はよかれと考えて色々な施策を提供して来るが現地の感覚とずれており、現地経営者から受け入れられない、と言う事例を何度も見た。

現地生産工場のトップについている方は製造のプロである事が多く、本社から出て来る教育企画を有効に落とし切れていない、と言う事例もよく見る。

例えば、昇格者に研修をすると言う規定がある。毎年の品質計画に昇格者研修も入れてある。しかしその目標が「参加率100%」となっていると、本来研修の目的である効果を保証する事が難しくなる。

元々大手企業の経営者・経営幹部は、4,5年の任期を終えれば帰任出来る。その間大過なく過ごす、などと言う「大企業病」もあるだろう。

中小企業の場合は、違う意味で、難しいところがある。
絶対的なリソースが少ないので、一人何役もこなさなければならない。特に日本人幹部に対する負荷が高くなっている。また中国工場に赴任して来ている方は、製造部門のプロばかりだ。

余談だが、中国に工場を出して初めて品質保証部門を作ったと言う方もあった。
日本本社では、製造部門の品質係で十分だったが、独立した品質保証部がないと中国では機能しないと、気が付かれた様だ。

その様な背景があり、人材育成は重要だと実感しているのだが、どうしたら良いか、そのための時間をどう捻出するかが分からない。こういう問題を抱えておられる方は、多いだろう。

私が独立して最初にお手伝いした台資工場での事例をご紹介しよう。
当時、他にお客様がなかったので(苦笑)毎日この工場で指導をしていた。
経営者には、半年で顧客不良を半減、一年で三分の一にすると言う目標を示していた。指導を始めて感じたのは、まず現場の班長のレベルをあげなければならないと言う事だった、

この会社には教育システムはない。むしろ教えてもムダだと考えているフシがあった(苦笑)ISO上必要なので、技能認定の教育と、新入社員に会社の規則を説明する半日の入社時研修があるだけだった。従って、朝採用された新人達は午前中の研修(会社や寮の規則説明会)を終えると製造現場に新しく貰った作業服を持って上がって来ると言う状態だ。
(念のために申し上げておくが、今はちゃんと個人スキルに合わせた教育計画がある……はずだ)

従って現場の班長さんと言っても、他の女工さん達と同じ様に採用され、作業が他の人より上手に出来るので班長さんに抜擢されているだけなのだ。
班長としての知識は何も教わっていない。

この班長さん達を二班に分けて、毎朝30分ずつ研修した。
二班に分けたのは、現場に班長さんがいなくなると問題が起きた時に面倒を見る人がいなくなるからだ。一度に一テーマ、30分以内で終わりにする。
初期は、5S、ホウレンソウ、識別管理、4M管理などの基本が理解出来る様に、簡単に事例を多くして教えた。
その後は、毎日現場で見つけた問題点をフィードバックする方式で指導を継続した。

「教育研修」と大げさに考えると、一歩が踏み出せない。毎朝始業前の30分幹部を集めて話をする、こういう感覚で始められたら良いと思う。幹部は教えられた内容を部下に教える。
そして、毎朝の話題をA4一枚にまとめておく。これが蓄積すれば、立派な教育資料となる。これを使って中国人幹部が社内研修をすることができる様になる。

大変な様に見えるかも知れないが、毎日1テーマなので、隙間時間で十分準備出来る。夕食後の時間で準備すると決めてしまえば、習慣になる。
何よりも、班長さん達の熱心な態度や、自分に対する信頼感を感じることができ、自分自身のモチベーションが上がる。

こちらもご参考に
景気と改善コンサルの仕事
教育投資


このコラムは、2013年12月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第339号に掲載した記事に加筆しました。

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モノ造りの誇り

 先週は品質道場にて「統計的品質管理」を中国人、日本人に教えていた。
品質道場の門下生の中に、非常に熱心な日本人駐在員Oさんがいる。Oさんはギターを生産する協力工場の指導で中国に来ておられる。彼は元々フォークギターを演奏することが趣味で、この職業に就いたそうだ。

品質道場の後の懇親会では、持参のギターで弾き語りをしてくれた。日本食レストランで突然開催された一人ライブに、ウェイトレスや厨房のスタッフまでが集まり彼の演奏に耳を傾けた。

Oさんは、指導先の生産委託工場でもしばしば作業員に演奏を聞かせ、一緒に歌を歌っているという。一緒に歌を歌うことにより一体感が生まれる。しかしその効果はそれだけにとどまらない。
自分たちが生産している楽器が、どのように使われ、どのように人々の心を豊かにしているのか実感することが出来る。

それは、自分が生産している製品に愛着を持ち、誇りを持つことになる。
そしてそれが作業員自身の職人としての誇りとなる。

ギターというのは、工業製品というよりは工芸製品といった方がよいだろう。
この種のモノ造りは、作業員の質が直接製品の品質につながる。
製品に愛着、誇りを持った作業員が造り出した製品には魂がこもる。
彼の活動は、製品の良品不良品といった品質を超えた「質の向上」に大いに貢献しているだろう。

こういう指導は、技術的指導を超えた、職業人としてのココロの指導だ。
Oさんがこのような指導が出来るのは、製品に対する愛着・愛情と、それを生産する作業員に対する愛着・愛情があるからだ。

量産工業製品も同様だ。
先週指導した自動車部品工場のリーダは、自分の仕事が車社会の繁栄に貢献しているのが誇りだと話してくれた。
中国の生産現場でまだ足りていないのは、作業員一人ひとりがこのような誇りを持って仕事をすることだと感じている。

あなたの工場が生産する製品は、どのように人々を豊かにしているだろうか?
どんな製品でもそれが必要とされている以上、必ず誇りを持てる製品のはずだ。
そしてあなたの工場の作業員はその誇りを、自分自身の誇りとして感じているだろうか?


このコラムは、2010年12月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第185号に掲載した記事です。

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仕事の報酬は仕事

 98号のニュースから:「受かって何になるん?」 大阪検定、逆風でオマケまでに読者様からメッセージをいただいた。

☆S様のメッセージ
(前半省略)
そんな中で今日のメルマガのまとめ文には、いささかの違和感を感じました。
違和感というより、消化不良といったほうが正しいかもしれません。

 「仕事の報酬は仕事」であり、それによって得られる能力向上が「長期的な実利」であることをしっかり教えてやる事が正しい対応だと考えている。

これは、中国人に限ったことではありませんね。
日本人の最近の若年層の考え方も似たようなものです。
企業規模が大きくなるにつれて、個々の社員は狭い領域の仕事だけが己の職務すなわち、給与の対象と考えている。
 能力評価を上げて上級職を目指し、結果的に給与水準を上げる。そんな考え方よりも、先月の残業代のほうが重要だと…。

『自己の能力向上が長期的な利益』と教えるには、対象とする部下の今現在の能力が実はたいしたことは無いレベルなのだ。とある種の評価否定から入らなければなりません。
 この点が、中国人にはもっとも難しい点ですね。中華思想というべきか、ほんのちょっとの能力を、ことさら誇大に自己主張する。
その背景には、大陸性の民族としての習性もあるのでしょうが、この部分の指導方法こそが、最大の課題なのではないかと、日々感じています。

【林のコメント】
S様がご指摘の通り、日本の若者も「仕事の報酬は仕事だ」ということを学ぶべきだと感じる。特に昨今のフリーターという働き方が生活の糧を得るためだけに働く、という貧しさを感じる。
7日間のうち5日間を働かなければならないとすると、週末に「自分」を取り戻すよりは仕事を通して「自分らしさ」を実現したほうが幸せなはずだ。

「自己の能力向上が長期的な利益」であることを教えるのに部下に否定的評価をする必要はないと考えている。「現在の実力がたいしたことない」という評価は原点が現在にある。それよりは評価の原点を将来の夢(目標)に置く。その目標と現在の差を埋める行動を取るようにする。

やることは同じかもしれないが、原点が現在にあるのか、将来のありたい自分にあるのかに大きな違いがある。

現在の能力を否定された形でのスタートはココロがネガティブになる。
将来の夢を原点として物事を考えればココロはポジティブになる。
ポジティブなココロがポジティブな行動を生む。

自己の能力を最大限に誇張表現する、と言うのは中国人にしてみれば生活がかかっているので当然の行動原理だと思う。

しかし一緒に仕事を開始しすれば誇張表現はなくなる。
こちらからお前はダメだと否定するより、自分からその差に気がつき学ぼうと思ってもらったほうが効果は高い。

一緒に仕事をしてなおかつ誇大表現が止まらない人は、
 自分の能力を適正評価できない
 世の中で通用する能力レベルが理解できない
という欠陥がある可能性がある。
こういう人にはいくら教えてもムダだ。むしろ教える側のモチベーションが下がると言う弊害がある。


このコラムは、2009年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第99号に掲載した記事に加筆しました。

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「受かって何になるん?」 大阪検定、逆風でオマケまで

 ご当地検定ブームから遅れること3年、大阪でもようやく「なにわなんでも大阪検定」(6月21日実施)がスタートする。各地の検定が受検者の減少にあえぐなか、主催者側は合格者の特典を充実させ、受検者集めに躍起だ。大阪検定の第1回の申し込み締め切りは5月13日。検定界にナニワの新風が吹くか――。

 (中略)

 来場した同市の主婦吹留あきさん(47)は「大阪検定なんて初耳。受かったら何になるん?」と首をかしげ、「大阪人に訴えようと思ったら、豪華な景品とか、仕事に就けるとか、何かいいオマケがないと」と注文を付けた。

(asahi.comより)

 2007年に久し振りに金沢に行ったときに「ご当地検定」というのを知った。
大学の時の先輩が金沢に住んでおり、「受験勉強」をしていた(笑)市役所の職員でも合格できないほどの難関だそうだ。

このニュースにある大阪のオバサンのコメントが面白い。検定に合格すると言う名誉よりは、実利優先だと言う。

この「大阪人気質」って中国人にも似たモノがあると思う。もちろん13億もいる中国人を一括りに考えるのは。間違いを犯す元だが。

自分に実利があることに対しては一生懸命に取り組むが、実利がないと判断したことに対しては見向きもしない。例えば自分の給与を決定している上司の指示に対しては忠実に従うが、給与決定権のない幹部の言うことは耳も傾けない。こんな傾向がある。

これを「拝金主義」として退けるところからは何も生まれない。むしろ相互の信頼関係を損なうだけだ。

大阪人にしても、中国人にしても「実利」に対する欲求がとても分かりやすい人たちだ。相手がちゃんと見せてくれているのだから、こちらは正しく対応する事が出来るはずだ。

例えば職務分掌に仕事を追加する。多くの場合中国人従業員は、ではいくら給与が上がるのか?と聞いてくる。この要求に対して正しく対応する方法は、要求どおり給与を上げてやることではない。

「仕事の報酬は仕事」であり、それによって得られる能力向上が「長期的な実利」であることをしっかり教えてやる事が正しい対応だと考えている。


このコラムは、2009年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第98号に掲載した記事に加筆しました。

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連合モノ造り

 一つの製品を生産するのに、素材を購入して全て一から作るというのは困難であり、合理的ではない。
例えば電源装置を生産するために、プリント基板、プラスチックケース、金属シールド版、金属放熱器、トランス、ワイヤハーネス、主銘版の印刷、梱包材料などを全て素材から加工すれば、高い付加価値を付けられる。しかしそれに必要な生産設備や人員を考えれば賢明な選択とはいえない。

そこでそれぞれの製品の生産に特化した工場が、水平分業してひとつの製品を完成させることになる。しかし「水平」とはいっているが、往々にしてパワーバランスで上下関係のようなものが出来上がってしまう事が多い。

以前電源装置を生産していたときに、自虐的な戯言として「士農工商電源屋、その下を行くトランス屋」などと言っていた。もちろんこれは戯言であり本心ではない。時としてパワーバランスが崩れると、トランス屋の言い値でトランスを購入しなければ供給を止められることもある。

しかしこのような構造はいかにもいびつである。
水平分業している工場の目的は同じはずである。協力して一つの製品を完成させ顧客、更にその先のエンドユーザの満足を得て利益を上げるのが目的だ。そのような共通目的によって結びついた理想的なモノ造りを連合モノ造りと勝手な名前を付けてみた。

元請が下請けの利益を圧迫して利益を上げるのではなく、それぞれに協力研鑽して利益が出る体質を作り上げる。
今お手伝いしている新製品立ち上げの仕事がまさにそういう仕事だ。部品を生産する工場に出かけると、「顧客監査」という姿勢で構えられてしまう。そうではなくお互いの利益を得るために来ているということから説明することになる。

元請がリーダ的存在となり、協力工場の改善指導ができればお互いにwin-winの協力関係が強くなる。

新規プロジェクトの立ち上げの時は、量産開始まで頻繁にこうした活動を行うことになる。

通常時も協力工場が集まり異業種改善活動をすれば、連合モノ造りの力をつけwin-win関係を深める事が出来るはずだ。


このコラムは、2009年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第98号に掲載した記事に加筆しました。

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現場力

 読者様から「現場力」に関する記事を紹介していただいた。

  問題を解析し、知恵やアイデアを出し、粘り強く改善するのは、あくまで人間である。この現場力こそが、日本の競争力の源泉である

日本企業の競争力は、現場をたんなる「コスト」として見てこなかったことから生まれている
 
困れば知恵が出る。そして、それが現場力強化につながる。その際に、現場だけを困らせるのではなく、経営トップも一緒になって困ることが肝心だと大野(耐一)氏は指摘する

「変動費化」という甘い言葉が、現場の品質を毀損させているという現実を、経営者は直視しなければならない。経営の目的は、変動比率を高めることではなく、現場の競争力を高め、そこから生み出される付加価値を高めることなのである

 ○○と他のスーパーの最大の違いは、仕入れにある。大手スーパーが集中購買を指向する中で、○○は鮮魚、精肉、青果といった生鮮食品の仕入れ担当者は、各店舗に配備されている「競争戦略」と「オペレーション」の両輪が揃ってはじめて卓越した競争力は生み出される

競争戦略が合理的であることの最も重要な要素のひとつは、自社の「身の丈」に合っているかどうかである。ビジネスとしての可能性があるからといって、あれもこれも漫然と手を出していたのでは、資源配分が分散してしまい、優位性構築に結びつかない

人づくりのための投資とは、お金をかけることではなく、経営幹部がどれだけ自らの時間をかけたかである

ボトムアップという現場力のエネルギーは、じつはトップダウンからしか生まれない

企業活動における「よい行動」とは、「しつけ」と「くせ」の2つで成り立っている

「見える化――伝わる化――つなぐ化――粘る化」

サービス業や流通業においては、過度な分業・分散化は、顧客満足の低下をもたらす

 いま、後輩たちに遺さなければならないのは、たんなる機械の使い方や作業手順ではない。「なぜこの機械が生まれたのか」「なぜこの作業手順が必要だったのか」そんな根源的な経験則こそが、継承されなければならない。それこそが「スピリット」である

90年代、バブル崩壊で日本的経営に自信をなくした経営者達が。こぞって米国流経営手法を真似をした。

株主重視主義により短期経営数字を追いかけ現場を変動経費化した。このため現場の力が代々伝承していく仕組みが失われた。
成果主義に偏りすぎたため従業員にOUTPUTばかりを求め、人財育成が不十分となった。

このような問題を抱えた組織が、バブル崩壊以降未だにテイクオフできていないのではなかろうか。

ところで90年代に力を取り戻していた米国は、実は70年代から日本に追い上げられジリ貧状態であった。80年代になり更にそれが顕著になり、日本式経営の強さの秘密が研究された。

そこで注目を浴びたのがデミング博士である。
デミング博士が戦後の日本に統計的品質管理を教え、そこからモノ造りの日本が急成長したのを突き止めたのだ。デミング博士は全米で再評価され多くの経営者がデミング経営哲学を取り入れた。フォードもGMもデミング博士の直接指導を受けて当時復活している。

バブル崩壊時に真似をした米国の強い企業は実はこうして蘇ったのである。シックスシグマ、TQM、マルコムボルドリッジ品質賞など日本式経営を研究した結果米国に取り入れられたものである。

現場の力を大切にしてきた日本式経営をもう一度取り戻す必要がある。


このコラムは、2019年2月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第84号に掲載した記事に加筆しました。

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病院の顧客満足

 病院に行くと何がつらいかというと、延々待たされることである。待たなくて良いように開院前に出かけ受付窓口で並んで待つ。遅くなってしまうと待合室には座る場所もなく立って待つことになる。病人には辛いものがある。健康でないと病院にも行けない(笑)

先日健康診断のために病院に行った。
ここの病院は、患者さんが待っている間快適になるように待合室を大きくし、大型のTVも設置するなど顧客満足を図っているように思える。

しかし何かが違う。

私は胃のレントゲン検査を終え次は泌尿器科の受付で待っているように指示をされた。しかし待てど暮らせど呼ばれない。待っている場所を間違えていないか心配になってきて、そっと診察室をのぞいてみると、医師は文庫本を読んでいる。

これは看護婦さんに待っている場所があっているのか聞いてみなければと思っているところへ、ちょうど事務係がたくさんカルテを抱えて泌尿器科の受付にカルテを置いていった。

単にカルテが回ってこなかったので待たされていたのである。
カルテの運搬をバッチ処理で行っているため、運が悪いと延々待たされることになる。

待っている時間を快適にする事が顧客満足ではなく、待っている時間を短くする事が顧客満足である。

ということに気がついていないのだろうか。

しかも一番給与の高い医師を「手待ち」にしている。工場で言えば、一番高価な設備を遊ばせておくのと同じだ。物の流れをスムースにして、生産効率を上げなければならない。
病院も患者の流れをスムースにして待ち時間を短くして顧客満足を上げなければならない。

大きな病院では天井近くにパイプが通してあり、筒に入ったカルテが空気圧でスーッと跳んでゆくのを見た事がある。また最近ならばイントラネットでカルテを電子化しておけば、紙のカルテを運ぶことなど必要ないはずだ。

中小の病院だってこんな設備投資をしなくても改善できるはずである。患者にカルテを運ばせれば良いだけだ。
ひとつの窓口で診察が終わったらカルテを渡し次の窓口に行くように指示をすれば良い。

こういう方式ならば、待ち時間も少なくなるだろうし、カルテ運搬の事務員も削減できるはずだ。

コストを下げて顧客満足を上げる。
よい方法だと思うのだが。


このコラムは、2013年6月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第315号に掲載した記事に加筆しました。

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早い。高い。美味い。

 普通は「早い。安い。美味い。」という所だ。
飲食店が繁盛するコツと考えられていた。しかし本当にそうだろうか?

業態によっては「遅い。高い。美味い。」の方が繁盛する。
料亭などを考えれば、ご理解いただけるだろう。徹底的に材料や加工技術にこだわり、美味いものを出す。客の方もゆっくりと料理を味わいたいから、「早い」はセールスポイントにはならない。

売り上げ額より、利益額を考えれば、たくさんのお客様に来ていただく必要はない。当然広告費も必要なくなる。

こう言う話は、飲食業だけではないと思う。
我々製造業でも「早い。高い。美味い。」をUSP(Unique Selling Proposition)として成功している企業はある。圧倒的な小回りの良さを実現してしまえば、「安い」を要求される事はない。

例えば、部品を注文したら翌日必要な数量だけ納品される。

お客様に部品を買っていただくと言う発想ではなく、お客様の生産をサポートするサービスを提供していると言う発想に立てば、必要なモノを必要な数だけ必要な時に納入する、と言うサービスになるはずだ。

こう言う小回りの利く部品メーカがあれば、値段で比較され淘汰される事はないだろう。

パナソニックが3Dプリンターを使って、樹脂成型品の金型を作り、家電製品の量産に使うそうだ。

家電製品は既に飽和状態であり、同じ製品が大量に売れる事はないだろう。こう言う成熟製品は、機能競争の次は、デザインなどの嗜好生の方にシフトして行く。つまり多品種少量の方向に行くはずだ。

新製品投入時に、金型製作の期間を短く出来るのは、競争優位の要因になる。また金型が安くなれば、複数のデザインをシリーズ化出来る。

同じ製品を大量に生産するために必要だった金型の寿命は、意味が無くなる。

高くても買っていただけるための方法の一つが、業界で非常識な小回りを達成する事だ。
他にも製品を高く買っていただける方法を、真剣に考えてみよう。


このコラムは、2013年6月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第315号に掲載した記事に加筆しました。

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蚤の跳躍

 先週は、深セン和僑会で居酒屋「てっぺん」の経営者・大嶋啓介さんの講演があった。

元気が出る居酒屋「てっぺん」そしてその元気のもと朝礼で有名な大嶋さんの講演を聞き、ご一緒に食事をさせていただいた。
中国にいて、こんな機会が得られるなんて、夢のようだ。感謝!

大嶋さんから聞いた話を、皆さんとシェアしたい。

蚤というのは、1mの跳躍力がある。
しかし蚤を高さ30cmの箱に閉じ込めておくと、箱のふたをはずしても30cmしか跳躍できなくなってしまっていると言う。

インド象が、小さな杭に繋がれただけで逃げてゆかないのと同じだ。
象の力を持ってすれば、杭など簡単に引き抜けるのだが、力が弱い小象の時からずっと杭に繋がれ逃げられないと思い込んでいるだけなのだ。

蚤も象も、自分の中に自ら限界を設け、それに縛られてしまっているのだ。

この寓話は人間にも当てはまる。
成功した人と、成功できない人の違いは唯一つ、「成功すると信じる」ことだけだ。成功すると信じているから最後までやりとおす。実はこの世に成功しない人などいないのだ。ただ成功を諦めた人がいるだけ。

中国人の若者を指導していて「没方法」とか「没弁法」という言葉を良く聞く。彼らもまた30cmしか跳べなくなった蚤だ。

「没方法」と言う前に方法を考えろと言いたい。
当然彼らは、考えたけど駄目だった、やって見たけど駄目だった、と言う。
100個の違う方法を考え、100回試してみただろうか?

実は、すべての方法を試すと言うのは不可能なのだ。すべての方法を試す前に、うまく行ってしまうからだ。

では跳べなくなった蚤を、再び1m跳べるようにするのはどうすればよいか?

難しいことではない、簡単なのだ。
1m跳べる蚤を連れてきて一緒においておけば、再び1m跳べる様になる。

「没方法」青年も同じだ。
貴方が諦めない姿勢を見せてやれば、きっと彼も跳べる様になる。


このコラムは、2010年11月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第177号に掲載した記事です。

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ホスピタリティ

 上海万博を見学した。前回万博を見学したのは1970年の大阪万博だったので、40年ぶりだ。元々人ごみと、並んで待つのが嫌いなので、めったにこういう機会はない。

今回は、上海和僑会に参加したので、その翌日和僑会参加のメンバーと一緒に上海万博会場まで出かけた。

日本館を見学したが、パビリオンの外で1時間待ち、パビリオンの中に入って更に1時間かかった。元々きちんと列を作って、おとなしく並ぶ習慣が無い中国人に混ざって2時間並んでいるのは、一種の精神鍛錬となった。

スキあらば、前に出ようと体を密着してくる。人の耳元で大声でしゃべる。パビリオンの中では、携帯は使わないように、写真撮影はしないようにと何度も注意しているのに、堂々と悪気も無く使っている。
携帯の使用を注意する職員に、お前だって使っているではないかと、職員のハンディートーキーを指差して食って掛かっている輩までいる。
そういう空気はすぐに伝染する。そんな、目が三角になっている人ばかりが並んでいるのだ。楽しいはずが無い。

こういう空間で列を作って待っているのは苦行に他ならない。

しかしタイランドのパビリオンでは、様子が違っていた。
列をコントロールしている職員が、見学客に向かって拡声器で話しかけているのだ。
「タイには行ったことがありますか?」
「タイ語ではニイハオはサワッディーと言います」
などなど、話しかける。
よく聞き取れなかったが、面白いことも言っている様で、日本館に並んでいる見学客と違い笑顔があふれていた。

今まで日本人のもてなしのココロが世界一すばらしいと思っていたが、すっかりタイ人を見直した。

パビリオンを見学してくれる人に対するもてなしは、列に並んでいる時から始まっているはずだ。いくらすばらしい展示をしていても、展示を見る前に気分を害していれば、その効果は半減する。

サービス業に従事しておられる方は、当然こういうことをしっかり考えておられると思う。ではモノ造りでも同様に、こうした「もてなし」を顧客に提供できないだろうか?
考えてみる価値がある。


このコラムは、2010年5月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第152号に掲載した記事に加筆しました。

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