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アップル、iPhone減産継続 4~6月も3割

 米アップルのスマートフォン(スマホ)、iPhoneの減産が長引いている。国内外の部品メーカーによると、1~3月期に続き、4~6月期も前年同期比3割程度の減産を継続する。昨秋発売の主力モデル「iPhone6s/6sプラス」の販売が低調なため。高性能部品を供給する国内メーカーの工場は稼働率が低下しており、収益圧迫につながるのは避けられない状況だ。
全文はこちら

(日本経済新聞より)

 失敗と言えるかどうか少し微妙だが、iPhone旋風が下火になって来たのは否定出来ない。ジョブズ亡き後、iPhone6/6+、iPhone6S/6S+の投入が戦略的に失敗だったのではなかろうかと愚考している。もしジョブズが生きていたら、iPhone6/6+の試作品を見た時に激怒しただろう。

Appleの強みは、消費者のニーズにより商品開発をするのではなく、消費者がまだ気がつかない価値を提供する所に有ると考えている。

例えば「ポケットに音楽を入れて街に出る」と言う価値は、既にソニーがウォークマンで提供していた。それを更にiTunesと言う仕組みで進化させた。
以来カセットテープやCDが市場から駆逐されてしまった。この様なインパクトを持つ商品(サービス)を新たに提供するのがAppleだ。それに合わせてApple自身も進化し、社名からコンピュータがとれた。

しかしiPhone6/6+以降少し様相が変わった。
その変化の影に三星の影響があっと言うのは、穿った見方だろうか?
スマホ市場で覇を争っている間に、Apple本来の「まだ見たこともない価値」を提供すると言う基本的な姿勢が忘れ去られた様に思う。

iPhoneSEが発表されたが、市場の大方の見方は「廉価版」だ。口の悪い人は過去の資産の使い回しなどといっている。確かにiPhone6S/6S+と同等の性能を持ち、価格が安くなっている。しかし私は「原点回帰」と見た。

自社が市場に提供する価値からぶれてしまい、販売不振を招いた。それを元に巻き戻そうと言うのがiPhoneSEの本来の意味ではないだろうか。

アップル教徒の私は、3DタッチはなくともiPhone6SよりはiPhoneSEを選択する。ついにiPhone4S(iPhone For Steve)をiPhoneSE(iPhone Steve Edition)に替える時が来た(笑)


このコラムは、2016年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第472号に掲載した記事です。

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安全事故対策

 工場の中での優先課題は、次の順位だ。1.安全、2.品質、3.効率。
安全を無視して品質を追求することはあり得ないし、品質を無視して効率を追求することもあり得ない。製造業以外でも同様の優先順位だと思う。

その第一優先の安全だが、企業のみならず社会全体でも安全を保証するための予防保全対策がとられている。

曲がりくねった道で事故が多発する。そのため道幅を広くとり見通しの良い直線道路に改修工事をする。
津波による災害を防ぐために防潮堤を高くする。
健康被害を防ぐために、低タール,低ニコチンタバコを販売する。

この様な様々な安全対策が、実は安全を阻害していると言う主旨の本を読んだ。

「事故がなくならない理由」芳賀繁著

著者の芳賀繁氏は、心理学を専攻された方で、ヒューマンエラー、作業安全等の研究をされている。

芳賀氏によると上記に上げた予防対策は以下のようにリスクを増加させる結果となる。
交通事故防止のために道路を拡幅し直線とすると、見通しがよくなりオーバースピードで走る運転手が増え、却って交通事故が増える。
防潮堤を高くすると、油断が生まれ避難行動が遅れる。これは先の3.11東日本震災時に体験したことだ。
タバコを低タール、低ニコチンタイプに換えると喫煙者は、喫煙本数が増える、より深く吸い込む、などの行動変化が起こり却って健康リスクが増える。

予防対策で、増加した「安全」を心の油断により減少させてしまう。むしろリスクを上昇させてしまうこともありうるという。

安全事故予防対策は無意味、もしくは逆効果であるかというと、そうではない。この書籍の主旨を、大雑把にまとめてしまうと次のようになるだろう。
技術的に安全事故予防措置を取っておくことは必要だ。しかしそれよりも重要なことは、全社員の安全意識の向上だ。特定の危険作業をしている作業員だけではない。経営者、幹部を含めた全社員が、安全意識を高めなければならない。

安全意識が低い状態はなぜ発生するのか、まずここを突き詰めて考える。
安全と危険の間に存在するリスクを知らない。
リスクは知っているが、リスクの危険度を正しく認識していない。
そしてそれらについて、どのように対策をすれば良いか全員で考える。
いわゆるKY(危険予知)活動とかKY訓練を呼ばれる活動だ。
朝礼でこのようなことを皆で議論してみてはいかがだろうか。


このコラムは、2017年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第520号に掲載した記事です。

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リーダー像

日本人と中国人は異なるリーダー像を持っているらしい。
深圳日本商工会で、コーチングについて講演をしていただいたコーチ・エイの講師から伺った。詳細をットで調べてみると、講師の方が説明した元データが公開されていた。

15カ国を対象として、組織とリーダーに対する価値観を調査したデータだ。
ご興味がある方は、是非ご参照いただきたい。
「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査

講師による説明は以下の様だった。
日本人はリーダーに対し「戦略性」を重視する。
中国人はリーダーに対し「戦略性」をあまり重視していない。
中国人はリーダーに対し「権限移譲」を重視する。
日本人はリーダーに対し「権限移譲」をあまり重視していない。

調査資料には、各国のアンケート回答者(25~39才一般職員、100名)が考える理想のリーダー像、各自が所属する組織リーダが考えるリーダー像の二通りの分析結果がある。

一般職員100名が考える理想のリーダー像は、以下の様になっている。
日本:
 1位。責任感が強い。
 2位。人の話を聞く。
 3位。決断力がある。
 4位。人を育成する。
 5位。常に学んでいる。
中国:
 1位。責任感が強い。
 2位。人の話を聞く。
 3位。チーム力を高める。
 4位。決断力がある。
 5位。戦略的である。

日本人と中国人が考えるリーダー像は、責任感が強い、人の話を聞く、決断力
がある、が上位5位に入るのは同じ。
違いは日本人は、人を育成する、常に学んでいる、を入れているが、
中国人は、チーム力を高める、戦略的である、を入れている。

各々の実際のリーダが考えるリーダ像は以下の様になる。
日本:
 1位。戦略的である。
 2位。発想が豊かである。
 3位。謙虚である。
 4位。人の話を聞く。
 5位。権限委譲できる。
中国:
 1位。権限委譲できる。
 2位。発想が豊かである。
 3位。ビジョンを示す。
 4位。人の話を聞く。
 5位。指示が明確である。

日本人リーダーは理想のリーダを戦略的だと思っているが、一般職員は理想のリーダーに戦略性より「決断力」「成長(部下も自分も)」を求めている様に見える。一方中国人リーダーは「指示が明確である」ことが理想のリーダ像に入っている。権限委譲がトップであるのと矛盾している様な気もする。

日本人経営者に、中国人は指示をしないと行動しない、と感じておられる方が多いと思うが、この結果がそれを象徴しているのかも知れない。

従って、講師が解説したリーダー像は以下の様に修正した方が良さそうだ。

日本人リーダーは「戦略性」を重視している。(1位)
中国人リーダーは「戦略性」を重視していない。(11位)
中国人リーダーは「権限移譲」を重視している。(1位)
日本人リーダーは「権限移譲」をあまり重視していない。(5位)

日本人も中国人もリーダーに対し「戦略性」を重視していない。
日本人も中国人もリーダーに対し「権限委譲」を求めていない。


このコラムは、2017年3月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第521号に掲載した記事です。

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リーダのあり方

 先週は三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長の退任に関連し、指導者のあり方について考えた。

先週の記事「小売業界の顔、噴出した社内の不信」

書籍から老子のリーダ論についてご紹介した。
「世界最高の人生哲学 老子」守屋洋著

君主四段階。
一番ダメな君主は人民から侮られる。
二番目は人民から畏れられる。
三番目は人民から敬愛される。
最も優れた君子は人民に存在を知られているだけだ。

最も優れた君子の例として、飼い犬に散歩してもらっている老夫婦の事例を紹介した(笑)

この記事に読者様からご感想をいただいた。

※S様のメッセージ
 今週の「亢竜の悔い」は「従業員の物心両面の幸せを追求」する視点を持てば価値の薄い改善活動を強いることもなく、自然にやるべきことが見えてくることに気付かせていただいたようです。

こう言うメッセージをいただくと舞い上がってしまう(笑)

調子に乗って、もう一つご紹介したい。
老子は「暗愚」であれと説いている。リーダは聡明でなければならないが、それを見せつけてはまだ本物ではない。「暗愚」を装うことが本物のリーダであると言っている。

書籍では、日露戦争時の満州軍総司令官・大山巌の事例を紹介している。
大山巌はロシア軍に包囲され全滅に瀕した時に、前線に出て「今日は朝からドンドンパチパチ音がするでごわすが、何かあったとでごわすか」と指揮官に尋ねたと言う。もちろん知らないわけではない。そうやって前線の指揮官を冷静にさせたのだろう。
また、砲兵に向かって「大砲は上に向ければ遠くに届くか」などと質問している。大山巌は砲兵術の研究のためにフランスに遊学したことがあるそうだ。当然知り尽くした内容である。質問することにより、戦闘で混乱している前線兵士を冷静にさせようとしたのだろう。

これが老子の説く「暗愚」だ。
中途半端な指導者は、部下にバカにされまいと「知識」を振り回す。本物の指導者は、暗愚であることを装う勇気を持っている。これは自分に対する自信があるからできることだ。

慌てふためいている兵士に向かって叱責すれば、より慌てふためく。
兵士に砲身を正しく向けるよう指導すれば、言われた通りに動くだけだ。
「質問」によって兵士を冷静にさせれば、自ら考え正しく働く。
これができるのは、兵士を信じているからではない。自分自身を信じているからできることだと思う。普段の指導により兵士が正しく行動できると信じることができる。自分に自信がなければ、兵士の行動を信じることはできないだろう。


このコラムは、2017年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第520号に掲載した記事です。

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粉じん引火か、幹部ら拘束 中国工場爆発、死者69人に

 中国江蘇省昆山市の経済開発区にある「中栄金属製品」の工場で2日朝に起きた爆発による死者は69人にのぼり、約190人が負傷した。工場で、これだけ大規模な惨事が起きることは中国でも珍しく、事態を重くみた習近平(シーチンピン)指導部は陣頭指揮のため、王勇・国務委員を現地に派遣した。

 国営新華社通信などによると、爆発は自動車のホイールの研磨をする作業場で起きた。工場内の粉じんに引火したのが原因とみられる。当局は同社の幹部ら5人の身柄を拘束し、安全管理などに問題がなかったか事情を聴いている。

 爆発があった工場に通じる道路は2日、警察官らが封鎖した。出入りができなくなったものの、多くの人たちが集まっていた。

 隣の工場の男性工員(24)は「大砲のような、ものすごく大きな音がした。働いている工場のガラスが割れた」。近くの工場に勤務する趙東舟さん(28)は、けが人を運ぶなど救援活動に参加。「全身がやけどで真っ黒になった人たちが次々と出てきた。焼けてしまって、服も身につけていなかった」と興奮気味に話した。

 姉が爆発のあった工場で働いているという許雨朋さん(32)はネットで事故を知って駆けつけた。「何が起きたのか、まったくわからない。姉の携帯電話もつながらない。心配でたまらない」と顔をゆがめた。

 ホームページなどによると、同社は1998年に設立された台湾企業。従業員は約450人で、アルミニウムのめっき加工などを手がけている。中国メディアは、同社が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に部品を供給していると伝えた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同開発区には昨年7月時点で、200社以上の日本企業のほか、約2千社の台湾企業などが入居している。

 日本企業の駐在員らでつくる昆山市日本人同郷会は、日本企業への被害は確認していないという。

(朝日新聞電子版より)

 爆発と言うと、引火性の高い物質が原因と考えがちだが、引火性の無い物質が爆発を起こすことがある。それが「粉塵爆発」だ。

引火性が全くない綿や小麦粉でも爆発は発生する。粉塵爆発の条件は、

  1. 空気中に一定の割合で微粒子粉塵が存在する。
  2. 発火エネルギー
  3. 酸素

この3点が揃うと粉塵爆発を起こす。

アルミニウムは引火性も燃焼性も無い。しかしアルミニウムの微粒子が空気中に一定の割合で存在すると、爆発を起こすことがある。

爆発の引き金となる発火エネルギーは、開閉器や電動機からのスパーク、稼働部分の摩擦熱が原因となる。また静電気放電によるスパークですら原因となる。

小さな発火エネルギーでも、局所的に空気中の浮遊微粒子が加熱され、そのエネルギーが近隣の浮遊微粒子に一気に連鎖し、爆発が起きる。

アルミ粉は、水と激しく反応し水素を放出する。放水消化をすると、二次爆発が発生する可能性もある。作業現場に消化スプリンクラーが設置されていると更に被害を拡大することになる。

綿や小麦粉の粉塵で爆発が起きた事例もある。
粉塵が発生する現場は注意が必要だ。

対策は、
清掃、排気により空気中の粉塵を減らす。
粉塵環境の電設設備は、防爆対応品とする。
静電気の発生を抑える。(アイオナイザーはコロナ放電によりイオンを作っているので、逆に発火エネルギーを与えることになるかもしれない)

あなたの工場は大丈夫だろうか?
アルミニウムと言うキーワードではなく、粉塵と言うキーワドに着目すれば、金属加工だけではなく、木工、紙、粉体製品にも、適用範囲が広がる。


このコラムは、2014年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事です。

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工芸連

家具の設計製造販売をしている中国企業の工場を訪問した。
中国の家具工場は何社か訪問したことがある。こちらの工場も、だいたい同じようなレベルだ。

経営者の一番の悩みは、『工芸連』の管理が上手く出来ない事だと言う。工芸連(工艺连)とは、サプライチェーンの生産技術的な側面に焦点を当てて考える言葉の様だ。
つまり、品質、納期に関する顧客要求に応えようとしても、仕入れ先が対応しきれない。しばしば仕入れ先の品質問題や納期問題により、顧客に対し納期問題が発生するそうだ。

自社製品が少量多品種なので、仕入れ先が自社製品の加工をやりたがらない。しかし仕入れ先に加工してもらっている工程を、自社に取り込むと経営は重くなる。

このような問題を解決する『工芸連管理系統』を教えて欲しいと依頼された。
中国人経営者・経営幹部から、しばしば『○○管理系統』を教えて欲しいと、リクエストされることがある。彼らがどういう思いで『管理系統』と言う言葉を使っているのか良く分からないが、ちょっとピントがずれているのではないかと感じる。

この経営者様には、仕入れ先の経営者とメシでも食べて仲良くなりなさいと、アドバイスした(笑)

当然仲良くなっただけでは解決しない。仲良くなって「目的」を共有する。
現状は、こちらは自社製品に必要な加工を対価を払って提供してもらう、仕入れ先は仕事を受注することにより売り上げと利益を確保する。それぞれに別々の目的を持ち、商売上の関係があるだけだ。

自社製品を市場に販売することにより、どのような貢献をしたいのか、仕事を通して、自社、従業員、仕入れ先がどのように成長したいのか、この様な経営目的を共有する。

この様な腹の足しにもならない目的を共有しても無意味だ、とお考えになる方もおありだろう。しかし目的の共有をしないから、金銭の論理だけで動く事になる。少量多品種で利益が少ないから生産を請け負わない、利益の大きい仕事の後回しにされる、と言う事が発生する。

しかし全くメリットがなければ、目的の共有など出来ない。
相手が十分満足する金銭的メリットを与える事は難しい。ならば「成長」と言うメリットを互いに分け合えば良い。

仕入れ先が、少量多品種生産に対応出来れば、今より利益を上げられるはずだ。
お互いの生産改善メンバーが交流し、生産改善を一緒にやる。お互いの工程に参考になる事も有るだろうし、相手の工程を知れば、設計レベルに立ち返った改善も可能になる。

自社の生産改善が出来、仕入れ先も生産改善すれば一石二鳥だ。

こういう活動により、自社と仕入れ先、仕入れ先同士の関係が良くなるはずだ。仕入れ先の中に同業者が有れば、業種ごとに最も意欲の高い仕入れ先を選定すれば良い。
私は前職時代に、自社の子会社2社、生産委託先4社と一緒に年に一回グローバルQA会議を開催していた。全員電源を生産する工場だ。ガチンコの同業者だが、お互いに生産ラインを見せ合ったりしていた。意外と簡単に出来たりする。難しかったのは、実は社内調整の方だった(笑)


このコラムは、2014年9月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第380号に掲載した記事です。

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ビール、2割値上げの店も 安売り規制、戸惑いの声

 お酒の過度な安売りを規制する改正酒税法などが1日施行され、ビールや発泡酒の値上げが相次いでいる。ねらいは街の小規模な酒屋さんを守ることだが、一気に2割の値上げに踏み切る店もある一方、違法な安売りの基準があいまいで、戸惑いの声も広がる。

(以下略)

全文

(朝日新聞電子版より)

 このニュースのどこが失敗なのか?と言う疑問をもたれる方もあるだろう。確かに失敗とは言い切れない。しかし過去から弱者保護の名目で行って来た政策は、うまくいっていない。むしろ弱者をより弱者にしてしまっていると言った方が適切ではなかろうか?

例えば農業。日本程美味い米を普通に生産出来る国は他にはないだろう。農協により農家の経営努力を奪い、日本の農家が世界市場に目を向けるのを妨げていたのではなかろうか。近年、志の高い農業経営者が様々な方法で結果を出している。

町の小さな酒屋さんの経営が難しいのは、想像にかたくはない。資本力,販売力が有る安売り酒販店、スーパーマーケットなど競争相手がどんどん増える。更に異業種のネット通販が参入して来る。この様な経営環境の変化に対応して行くのが「経営」でありそれを放棄してしまっては、成長はあり得ない。

人が物を買う時の判断基準は「価格」だけだろうか?
「あなたから買いたい」と言われる酒屋を目指したらどうだろう。新聞記事には、80代の女性が6缶パックのビールを毎週3回買うと有った。ひとパック2kg以上あるはずだ。他の食材も合わせれば、老齢の婦人には相当の負担になるだろう。毎晩冷えた缶ビールを3缶ずつ届けたらどうだろう。ひょっとすると、本当は瓶ビールを飲みたいのに、重いので缶ビールで我慢しているのかも知れない。酒屋ならこの欲求を満たす事が出来る。

「ご用聞き」と言う昔からの習慣は、顧客の要求をより深く理解するためのシステムだ。コンビニのPOSから集めたビッグデータよりも、対面で聞き取る顧客要求の方がより即効性があるはずだ。その上ビッグデータでは不可能だが、顧客との関係性を深める事が出来る。

最近問題になっている宅配便の再配達問題も、町の酒屋さんが配達を受託する事で、緩和出来る可能性がある。発送品の受付代行は以前からやっている。中元,歳暮の季節に進物として酒類を送る人が多いからだろう。受付代行だけではなく、配達も代行する。酒屋さんが配達のついでに、宅配便も配る。宅配便配達時にご用聞きのチャンスがあるはずだ。

今回の規制で、消費者物価指数を僅かに上げる効果はあると思うが、本当に町の酒屋さんの経営が楽になるだろうか?重要な事は町の酒屋さん自身が経営改善のために工夫を凝らす事だろう。


このコラムは、2017年6月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第531号に掲載した記事です。

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アリの社会

 アリの社会には「2:6:2の法則」があるそうだ。全体の2割のアリが、食料の8割を集めて来る。これはパレートの法則だ。「2:6:2の法則」はよく働くアリは全体の2割、普通に働くアリが6割、遊んでいるアリが2割、と言う比率になっていると言う法則だ。興味深い事に、働かない2割のアリを排除してしまうと、残った8割のアリがまた2:6:2の比率となり働かないアリが2割出て来ると言う。

ひょっとするとこれは人間社会にも共通の事かも知れないと気がついた。
つまり、組織の中で業績に貢献していない2割の社員を解雇しても、再び2割の社員が業績に貢献しなくなる。つまり遊んでいる社員2割は必要悪であり、首にしてはいけないと言う事になる。興味がわいて来て文献を調べてみた。

昆虫学者の研究によると、アリは仕事に対する閾値を持っており、目の前の仕事の緊急度が閾値を越えると行動を起こすそうだ。この閾値は個体ごとに違っており、閾値の低いアリが2割おり、彼らは非常に一生懸命働く。閾値が高いアリも2割おり、彼らはよほどの事がなければ行動を起こさない。残りの6割が普通に働くのだそうだ。

そしてこの閾値は、疲労によっても変化する。つまり疲れてしまったアリは、仕事に対する閾値が上がり働かなくなる。つまりさぼっているのではなく、疲労を回復するために休憩している、と言う事になる。彼らが休んでいる間に二番手の2割のアリ達が一生懸命に働くと言うのである。

もし全てのアリが同じ閾値であれば、皆がワァーと一生懸命に働く。経営者(女王アリ?)にとってはありがたい事かも知れないが、その結果全員が一気に疲労してしまう。これではアリの社会全体が機能しなくなる。閾値が違っており、頑張ったアリから順番に休憩に入る、と言うメカニズムになっているのだそうだ。

これは人間の組織でも同様なメカニズムが働くのではないだろうか?
トップ人財の貢献度が落ちて来ると、二番手の行動閾値が下がり頑張り始める。アリの社会ほど単純ではないかも知れないが、人間の組織でもこういう現象はあり得るだろう。

経営者としては、二番手三番手の社員の可能性を信じて、一番手を積極的に休ませる。休んでいる間に、二番手三番手が経験を積んで能力も上がるはずだ。


このコラムは、2017年6月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第531号に掲載した記事に加筆しました。

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伝承者と継承者

 メルマガの2本のコラムを書いていて、自分の仕事を内省して見た。

「アメーバ経営」
「超巨大恐竜、なぜ急成長 秘密は骨に…」

コンサルタントの仕事というのは、人比例ビジネスだ。コンサルタントの人数で売り上げ額上限が決まってしまう。設備産業と同じだ。設備稼働率の上限で売り上げ額上限が決まる。更に売上額を上げようとすれば、単価を上げるしかない。

昨年は、私の可動率が50%ほどになった。意外にもこの程度で、新規のお客様をお断りしなければならない事態が発生した。単発の仕事ならば受けられるが、長期の仕事となるとスケジュールの調整が困難になる。

コラムに書いた様に、既存の経営資源を活かし、新規のビジネスを立ち上げることが出来ると、レバレッジが効くだろう。しかしコンサル業の経営資源を活かした新規ビジネスとは何だろう?

工場経営の師匠・原田師の声がよみがえって来た。
「君は改善屋だが、工場再生の仕事も面白いよ」
原田師の工場再生手腕や経営哲学に感銘し、原田師に教えを受けた者として、多くの経営者に「原田式経営哲学」を伝えて来た。しかし私にとって、師匠の遺言にも近い原田師の上の言葉は胸の深くにしまい込んだままだ。

原田師も稲盛氏も再生した企業は、経営には失敗しているが、お客様はあった。
営業能力がない私でもこういう状況ならば、工場の再生ができるだろうと根拠のない自信がわいて来た(笑)

今の所、何らあてはない。
私の友人やお客様の経営者は皆優秀で、倒産にひんしている様な工場はない。しかし意思表示をしておけば、何らかの進展はあるだろう。
事業継承者がないなど様々な理由で、工場を閉めたい。
中国から徹底したいけど、撤退に大きな費用と時間がかかる。
等々のピンチがチャンスとなる。

少なくとも意思表示をしておく事により、自分自身の潜在意識が活躍するはずだ。潜在意識は、私を原田式経営哲学の「伝承者」から「継承者」切り替えた。


このコラムは、2017年1月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第510号に掲載した記事です。

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機能検証と妥当性検証

 先週の「失敗から学ぶ:「Galaxy Fold」発売延期」に読者様からコメントを
いただいた。

※I様のコメント

何時も楽しく拝読させて頂いています。
激動の中国で数十年、頑張っていらっしゃる姿に、感動すら覚えます。

さて、今回のメール内容で珍しく「アレ」と思ったのでメールさせて頂きました。

完成を待たずに販売に走る典型と言へば、Windowsが上がると考えます。
当時、某ゲイツらはDOSからの更なるシェアー拡大など狙い、キャラティカルデザインからUNIX系が試していたグラフィカルデザインを模したWindows3.0(もっと前のバージョンもありますが割愛)を無償配布し、市場の反応を見て、間も無くWindows95を販売致しました。
これは、今でも続いている通り、不具合発生毎にバージョンアップの形で、時には有料にて修正しています。
ソフトウェアとハード的に縛りがあるスマートフォンやタブレットを、同じ土俵で考えるのは浅はかかもしれませんが、モノづくりはとりあえずやってみようの精神が大事です。
サムスンのやり方は、顧客を無視していますが、市場で使ってもらい、データーを蓄積させて行く形と考えれば、間違いではありません。
何時もの先生(勝手にそう呼んでいます)の意見なら、そこを突いて来るかなと思ったので、初めてメール致しました。

日本に戻って既に7年経ちますので、感覚に変化があるかも知れませんが、モノづくりの現場は忘れていないつもりです。

これからも有益な情報、よろしくお願いいたします。”

 ご指摘の通り、ハードウェアとソフトウェアは同列に考えるのはむつかしいと思う。

市販ソフトウェアの場合は開発費以外の変動費コストはかなり低くなる。したがってα版、β版と称して市場にばらまき、反応を見る(バグ取りをする)のはアリだと思う。

しかしハードウェアの場合は1台ごとにコストがかかっているのでサンプルバージョンを無料配布して市場の反応を見ることはできないだろう。
以前頻発したリチウムイオン電池の発煙・発火事故などが発生すれば、無料配布なのだから、というのは免責にはならない。

巨大化・複雑化するソフトウェアの信頼性検証は相当困難だろう。どれだけ検証評価をしても「バグはもう一つある」というのが業界の常識の様だ。そんな訳で銀行システムや、航空券発券システムがダウンしても「バグならしょうがないか」という諦めが社会的に許容されているように見える。

しかし今回の事例のようにハード購入後わずか数ヶ月で壊れてしまうというのは、購入者にとって許容できるレベルではないと思う。当然生産者にとっても無償保証期間内の故障なので莫大な品質損失が発生する。

先週の記事は、「そんなことにならないように事前検証をしっかりしましょう」というつもりで書いた。

ソフトウェアのバグも社会的に大きな損失を与える可能性大だが、どうすれば良いか、実は私にもわからない(苦笑)
「10連休後にアクセスが集中したら」の様に過去事例から検証パターンを作ることくらいしか思いつかない。
そういう意味ではI様がご指摘の通り「市場で使ってもらい、データーを蓄積させて行く」ことになる。(業務システムでは不可能だろうが)

しかしハードウェアの機能検証、妥当性検証は、もっと簡単に出来そうだ。

例えばスマホの寿命を5年(機能の進化が激しいのでもっと短い?)とし、1日の開閉回数を10回とすれば、10×365×5=18,250回程度の開閉試験を実施すれば確認できるはずだ。

保護シートを剥がしてしまったために故障したという事例もあった様だが、妥当性検証評価に「ユーザが間違って保護シートを剥がしたら」という仮定を評価項目に加えることはそんなに難しくはないだろう。


このコラムは、2019年5月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第824号に掲載した記事に加筆したものです。

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