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タカタの巨大リコール 「教訓」置き去り

 世界で累計1億台近い車がリコール(回収・無償修理)となるタカタ製エアバッグ問題。特定の火薬の材料が長く高温多湿にさらされて、水分が浸入すると、作動時に破裂して金属片が飛び散る恐れがある。自動車メーカーが交換を急ぎ、巨額の潜在的な債務を抱えるタカタの経営再建の議論が進む。だが消費者にとって最も大事な安全、業界全体で巨大リコールの再発をどう防ぐかという“教訓”は置き去りのままだ。

(以下略)

全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガでタカタのエアバッグリコール問題を過去3回取り上げた。
エアバック回収
ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

今回のニュースで、事故原因が相当はっきりしたようだ。

エアバッグを急激に膨らませるインフレーターに入れた硝酸アンモニウムが、異常爆発し金属製のインフレータを破壊しその破片が飛散して、死傷事故が発生した。なぜ異常爆発したのかと言うのが核心の問題点だが、温湿度などの環境条件により経年変化した、と言うのが結論の様だ。

ネットに残されている事故の記事を検索してみると、米国で8件、マレーシア5件、日本3件の情報を見つける事が出来た。
マレーシアで5件と言うのを見ると、高温高湿環境による劣化が想起される。
しかし米国ではカリフォルニア州:3件、オクラホマ州、バージニア州、テキサス州、ペンシルバニア州、オクラホマ州、フロリダ州等に各1件点在しており高温高湿気候の場所に偏在しているとは思えない。乾燥気候で年間を通して涼しい気候のカリフォルニア州で3件も発生している。
これは気候要因ではなく、対象車両の台数(分母)の違いと考えた方が合理的かも知れない。

事故車の経年数でまとめてみると、以下の様になった。
17年:1台
15年:1台
14年:1台
13年:4台
11年:3台
10年:1台
8年:1台

カリフォルニア州の3台は、15年、13年、11年使用している。環境要因よりは累積時間が効いているのだろう。
火薬の様な化学材料は、必ず劣化する。普通に考えると経年変化により爆発力が減少又は消滅し事故時に膨らまないと言う不良になると予測してしまう。今回の事故では、火薬が経年変化で爆発力が増加すると言う故障モードがあると分かった。
インフレーター(火薬の金属容器)に欠陥が有ったとすると、火薬の爆発力の変化とは無関係に今回の事故モードの潜在原因となりうる。インフレーターに常に機械的応力がかかり続けているとは考えにくいので、経年変化による劣化ではなく、初めから有った材料欠陥と考えられる。経年劣化の様に見えていた
のは、エアバッグが作動する様な事故発生のポアソン分布に従っているだけなのかも知れない。

いずれの場合にせよ、10年以上交換なしで正常に動作する事を設計仕様に追加するには、コストバランスを考えれば困難だろう。もちろん人身事故の可能性を、コストとトレードオフする事は出来ない。

車検点検などで、エアバッグの定期交換を義務づける。
一定年月が経ったら、エアバッグを交換しなければエンジンがかからない様にする。等の対策を実施したら良いだろう。
もちろん化学材料の改良に取り組むのも良いとは思うが、自分自身の過去の経験(難燃添加剤による絶縁材料の劣化、プラスチック添加剤による耐候特性劣化など)から、本質的解決よりは予防保全を確実にする方が安全だと考えている。

ユーザに安全コストの負担を強いることになるが、これによって安心を買えるのはユーザだ。何が何でもメーカがコスト負担をしなければならないと言う風潮を改めた方が良いと思う。


このコラムは、2017年5月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第530号に掲載した記事に加筆しました。

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ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」

 ホンダが29日発表した2015年4~12月期の連結決算(国際会計基準)は、営業利益が前年同期比3%減の5672億円だった。同日の会見で竹内弘平取締役常務執行役員は「本業は改善したがタカタ(のリコール費用)が全て消してしまった」と述べた。主なやり取りは以下の通り。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 ホンダの役員の発言「本業の改善、タカタが全て消した」をあなたはどうお感じになるだろうか?

私はホンダファンであり、今まで所有して来た車は1台を除いて全てホンダ車だ。先週もホンダのF1復帰にエールを送るコラムを書いたばかりだ。しかし日経新聞に取り上げられた竹内氏のコメントはいただけない。経営者として、業績の善し悪しを「他責」にすべきではない。他責にすれば単なる言い訳だ。

リコール費用がなければ増益だったはずだ、などと言っても何も生まれない。
リコールの責任はあくまでも自分たちにあるはずだ。直接的にはエアバックの不良であっても、それを採用したのは自分たちであり、顧客に販売したのも自分たちだ。

タカタは、異業種から自動車部品に参入し、自社の従来技術を使ってシートベルトを生産していた。ホンダがエアバックの開発を依頼したと聞いている。

ホンダには二重の意味で「自責」が有ったはずだ。

一方でタカタにも当然「自責」がある。
エアバックの開発技術、信頼性技術が不足していたことは否めない。
一番大きな責任は、経営判断だろう。
元々織物メーカとして創業している。織物の技術(生産設備も転用できた?)を使ってシートベルトを生産。自動車業界に参入。同じ自動車業界向けにチャイルドシートなどの新商品を投入。更にエアバックを投入。この時点で新規技術(エアバックの起爆)を開発している。

同じ技術で新規市場を開拓し、開拓した市場に製品のラインアップを増やす、その後同じ市場に対し新規技術で新製品を投入、と言う順序で定石通りに規模を大きくして来た様に見える。

会社を大きくしない「年輪経営」で成功している伊那食品工業の様な例もあるが、資本主義社会のルールは規模を追求し業績を上げることだろう。規模の拡大を急ぐあまり、新規技術の検証がおろそかになっていたのではないだろうか?経営者の判断と決断の責任は重い。

「リストラなしの『年輪経営』」塚越寛著


このコラムは、2016年2月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第461号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ホンダF1復帰

 ホンダのF1復帰1年目の成績は、19戦0勝だったそうだ。
マクラーレンにホンダエンジンを提供して1年戦ったが、1勝も出来なかった。F1レーシングカーのエンジンは、市販車のエンジンとは全く異質なモノの様だ。異質と言ったのは、エンジンの構造やメカニズムだけではなく、開発の方法も、段階も異質と言う意味だ。市販車のエンジンは、量産の段階にあり、設計変更は、よほどの事がない限り発生しない。試作段階で設計は完了しているはずだ。
しかしF1レーシングカーは、レースのたびに改良が繰り返されている。レースの結果を見て、次のレースまでにチューニングされる。従って、試作研究段階のエンジンと言った方が良いだろう。
時間が足りないので、大掛かりな設計変更は不可能だ。基本設計を変えずに、小変更で性能を上げて行く。この繰り返しを毎週やる。

F1総責任者の新井氏は、この状態を「夏休みの最後の日のような濃縮した時間がずっと続く厳しい環境」と表現している。帰宅できない日が何日も続く。24hrs、7daysの仕事が続き家族と一緒に食事をしたのがいつだったか思い出せない。こういう環境を地獄と思っていない人が本物のエンジニアだ(笑)
ついでに言っておくと、暇な時にもとんでもないアイディアを実証するために、コソコソと実験室にこもっているのが、神級のエンジニアだ。

「ワークライフバランス」と言う言葉が軽薄に見えてしまう。
本物のエンジニアたちは、適当なところでバランスをとるのではなく、もっと突き抜けたところに使命感や喜びを見いだしている。

F1と言う「祭り」がこういうモチベーションを引き出す効果を持っている。
つまり日々の業務「日常」の中に「祭」を持ち込むことによりメンバーの結束力や、やる気を高める。このような企業文化がホンダの中には「楽しい事をやろう」という合言葉で組織に浸透している。

ホンダに勤めている私の後輩は以前ソーラーカー開発プロジェクトに参加し、オーストラリアのレースにも参戦してきた。このようなプロジェクトが起きると、俺もやりたいと手を上げ職場を離れてプロジェクトに参加できる。

このプロジェクトで得られた技術も次世代環境対応車に活かされるのではないだろうか。
基礎研究を「コツコツ」やるのではなく、「祭」に仕立て上げて楽しくやる。技術の蓄積だけではなく、こういう企業文化の側面からの効果も大きい。これが企業のブランドになるはずだ。

花王の元会長常磐文克氏は。この「祭り」を「コトづくり」と言っておられる。

  • 刃先の幅が0.005mmで、溝入れが0.03mm間隔で可能という世界一幅の細い超精密切削工具(アライドマテリアル)
  • 一辺が0.3mmの世界最小の真鍮製サイコロ(入曽精密)
  • 厚さ0.05mmのアルミ板に、直径0.008mmの穴を連続45箇所開ける技術(田中製作所)
  • 電子回路を金型とインクジェットシステムで作る技術(クラスターテクノロジー)

これらの会社に共通しているのは、精密加工の切削成型、研磨、溶接などそれぞれの分野で世界一小さい、軽い、細い、薄い、……に挑戦する“コト”をモノ造りの中心におき、職人や技術者を勇気付け、鼓舞していることである。

「コトづくりのちから」常盤文克著


このコラムは、2016年1月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第460号に掲載した記事です。

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ダイソン、ファン吸引術 値下げにも緻密な戦略

 日本の家電大手が「白物家電は成熟市場」として撤退や縮小を決める中、掃除機大手の英ダイソンが快走している。技術者であるジェームズ・ダイソン氏が創業した同社は「消費者調査に頼らない」「広告宣伝費より技術開発に投資」「安売りはしない」という3原則を掲げる。だが、その裏には原則を覆すような緻密な戦略が隠されていた。

全文

(日経新聞電子版より)

 ダイソンは消費者調査をせずに、一般家庭に入り込み消費者を観察している。
技術者が家庭での生活を観察し、商品開発に反映させる。日用品メーカP&Gが実践している手法だ。
ダイソン氏曰く「商品開発では市場調査を先行させない。従来家電に使い慣れている消費者はその『問題』に気付きにくいためだ」

消費者が気が付いていない問題を、メーカが先回りして「問題解決」する。例えばAppleと言うメーカは、消費者がまだ体験したことがないユーザ・イクスペリアンスを提供しようとする。どちらも市場調査では分からない。

白物家電業界が「コモディティ化」しており、業績が上がらない。と言うのは中途半端なメーカの言い訳に過ぎないのではないだろうか?

ダイソンや、先週ご紹介したハイアールの様な商品開発をすれば、市場のハイエンド価格帯を押さえることができる。

日本のメーカは「高品質」「高機能」に対するプライドが高く、コモディティ化した新興国ボリュームゾーンに投入する製品を商品化出来ないでいる。単機能、そこそこの品質の製品を安く販売することでボリュームゾーンを取る事が出来る。
今まで手で洗濯していた人達に、全自動ドラム式洗濯機は必要ない。まずは家事労働の時間を物質的に豊かになる為の活動に充てる。その結果ボリュームゾーンが徐々に上がり、ハイエンド価格帯のマーケットが生まれるはずだ。

日本は自身が、敗戦国から経済大国に成長する過程を、半世紀の間に体験している。その日本の発展のほぼ相似形の新興国市場がなぜ取れないのか?

「高品質」「高機能」で世界を制したと言うプライドが、過去を忘れてしまったのではないだろうか?
天井の白熱電球の横から電熱器の電源を取る為に「二股ソケット」を商品化した。これが大企業パナソニックの最初の一歩だったことを、そして国民の生活向上とともに企業が発展した歴史を思い出す。そうすれば、今発展途上にある国々で必要なのは「高品質」「高機能」ではないことに気が付くはずだ。

その上で「品質」「機能」の他に「感性」に気が付けば、ハイエンド価格帯も制覇出来るだろう。「感性」とは喜び、ワクワク感、感動のことだ。


このコラムは、2015年6月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第429号に掲載した記事です。

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シニアを癒やす南国の風

 日経新聞の記事によると、定年後海外で第二の人生を送る人が増えているという。2013年の推計では、海外に2週間以上滞在した日本人は115.6万人となっている。2013年は2度日本に帰国しているので、115.6万人の内の2人は私だろう(笑)

滞在先として、マレーシア、タイ、ハワイが人気の上位三位となっている。
残念ながら、中国が老後余生を送りたい国のトップ10に入ることはないだろう。

私もそろそろ高齢者と呼ばれる年齢にさしかかって来た。こういう話題が気にかかる(笑)

若い頃は、定年になったら農業をしながら晴耕雨読の生活をするのが夢だった。
しかし今の仕事が楽しくて、当分はそういう生活をする気はない。一応70歳で引退をする予定であるが、中国に住み続けることはないだろう。やはり日本が良い(笑)

家内と二人でニュージーランドに移住して、朝夕は鱒釣り。家内は渓流の脇で客の来ないコーヒーショップを経営。昼間はそのコヒーショップで読書、と言う妄想を抱いたことがあるが、どうも現実味がない。

朝散歩から帰り、納豆と生卵で朝食をする。そんな日本の生活がやはり良い。
しかし日々仕事をしていると、その様な隠居生活がまだ想像がつかない。私の周りにいる年長者達は、会社経営は次の世代にバトンタッチしているが、まだまだ現役で社会活動をされている方が多い。
多分私もそんな余生を送るだろう。南国の風は年寄りには心地よすぎるだろう。


このコラムは、2015年6月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第429号に掲載した記事です。

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試行錯誤

 「試行錯誤」という言葉を見ていて、なんだか変だと感じた(笑)
英語に直せば「Try and Error」試しては失敗する。「Cut and Try」という言葉もある。上手くゆくかどうか分からない事を端から試してみる。

失敗するために試行しているような印象を持つのは、私だけだろうか。

上手くゆく方法をいくつも考え、その組み合わせで最善の方法はどれか検証する。つまり試行が目指すのは「錯誤」ではなく「正解」だ。
実験計画法、タグチメソッドなどの手法も試行錯誤を目指してはいない。効率よく試行、正解に至るための手法と言えるだろう。

つまり私たちが目指すのは、効率よく正しい答えを見つけ成果を得る事。試行錯誤ではなく試行成功だと思うのだ。


このコラムは、2019年6月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第840号に掲載した記事に加筆しました。

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ハイアールの“価電”戦略続々!

 中国の家電メーカ・ハイアールが三洋電機の冷蔵庫事業、洗濯機事業を買収して作ったハイアールアジアの事業戦略説明会が6月2日に開催されたそうだ。
日経トレンディの記事「ハイアールの“価電”戦略続々! 新参社長の新発想を旧三洋技術者が形に」から、家電製品の将来を考えてみたい。

ハイアールアジアの社長・伊藤嘉明氏の経歴を見ると、意図的に家電業界を避けてキャリアアップして来られた様にすら見える(笑)家電業界の「新参者」を自らのアイデンティティとされている。

その新参者が発表した新製品は、

  • 扉が液晶ディスプレイで出来ている冷蔵庫
    冷蔵庫の扉に液晶ディスプレイがついている訳ではない。扉そのものが32”の液晶ディスプレイで出来ている。
  • R2D2型移動式冷蔵庫
    スターウォーズに出て来るロボットコンビのR2D2の形をした小型冷蔵庫。呼ぶとそばまで来て冷えたビールを体内から取り出すことができる。
  • 移動式冷蔵庫
    キャリーバック型の冷蔵庫。冷凍食品を買った後カフェでのんびりお茶する事が出来る。
  • 水を使わない洗濯機
    オゾンのエアシャワーでスーツやジャケットを洗浄。
  • スケルトン洗濯機
    洗濯機の中で洗濯物が水流に乗り漂っているのを眺める洗濯機。

などなど、誰がそんなモノを買うんだ、と突っ込みたくなる製品ばかりだ。しかしそんな製品が有ったら楽しいだろうなぁと自分も思ってしまう(笑)

伊藤社長の説明によると、彼らが造っているモノは「家電」ではなく「価電」であり「可電」だと言う。つまり「冷やす」「保存する」「洗う」「乾かす」と言う基本機能で差別化出来なくなったコモディティ製品の新たな「価値」や「可能性」を提供する、と言うコンセプトだ。

洗濯機の歴史を見ると、洗濯機が商品化されたことにより家庭労働の負担が劇的に軽減された。それまではタライの前に腰を下ろし、洗い板を使って手で洗っていたのだ。それが自動となる。更に脱水機が付く。その上洗濯槽と脱水槽が一つとなり、洗濯物を移すことが必要なくなった。更に乾燥機も一体化し
洗濯物を干す手間すら要らなくなった。

ここまで来ると、もう新たに追加する機能が見当たらなくなる。洗濯物がからまない様に水流を工夫する。夜でも洗濯出来る様に静粛性を上げる。
買ってもらう為に値段を下げる、と言う方向に行かざるを得なくなる。

国内マーケットが縮小方向に向い、成長する新興国市場を目指しても、今までのプライドが有り、そこそこ品質・単機能の新興国ボリュームゾーンに訴求する製品が作れない。そんな所が、従来の家電メーカが抱えている悩みだった。

そこに新参者・伊藤社長が、商品開発に新たなコンセプトを持ち込んだ。
開発設計者は、価格競争に勝つ製品ではなく、自分たちが欲しい物、お客様のワクワクする物を設計することになる。仕事が楽しいに違いない。

三洋電機が中国企業に買われてしまったと聞いた時には、元三洋電機の方々の思いを考え、国の産業に対する憂いが有った。しかしこの記事を読む限りでは、元三洋電機の方々は仕合せに働いておられると言う印象を持った。何よりだ。

そして伊藤社長の考え方は、我々も大いに参考にすべきだと感じる。
基本機能や基本性能では差別化することが困難になり、コモディティ化した製品や部品を生産している企業も、この発想をもって「価値」や「可能性」を高めたいモノだ。

例えは悪いが、製品の機能を上げる、性能を上げるのを、ど真ん中直球勝負とと例えるならば、変化球で目先を変える、更に言えばボール球を振らせる作戦が伊藤社長の発想の様に思える。


このコラムは、6月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第428号に掲載した記事です。

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法輪転ずれば、食輪転ず

 中国人の管理職・監督職の皆さんに「何のために仕事をするのか?」と聞くことがしばしばある。彼らは怪訝な顔をして「家族のため」「生きるため」「金を稼ぐため」など超現実的な事を話してくれる。

「働く事を通して自己成長しよう」という方向に持っていきたい私の下心が満たされることはない(笑)

仏教に「法輪ほうりん転ずれば食輪じきりん転ず」という言葉がある。法輪(仏教の修行)を一生懸命にしていれば、食輪も回る(生活が出来る)と
いう意味だそうだ。

仕事に打ち込むことにより自己成長する。その結果給料が上がり家族を幸せにする事ができる。これが「法輪転ずれば、食輪転ずる」の意味だろう。

つまり「食べるために働く」のではなく「働くために食べる」

昔の打工妹(出稼ぎ女工)たちは、食べるために働いていた。今の中国はもうそういう時代ではない。しかし昔の打工妹の真剣さを、今の若者と比較すると、物足りなく感じる。

「食輪は転じたが、法輪はもう少し」というところだろうか。


このコラムは、2019年6月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第837号に掲載した記事です。

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続・統計の活用

 1月14日配信のメールマガジン「統計の活用」で厚労省「毎月勤労統計」の不適切調査問題を取り上げた。最終的には大臣の俸給返納、担当官僚の懲罰で幕引きとなったようだ。

問題を再度整理すると以下のようになる。

  • 厚労省が発表している毎月勤労統計は、従業員500名以上の事業所からの回答を回収し平均給与などを調査、発表している。
  • 規則では全事業所のデータを収集することになっていた。
  • 東京都に関しては対象事業所の1/3をサンプリング抽出し全国平均を算出。
  • 18年から、東京都のサンプリング合計を3倍して全国平均を算出

この問題の本質は、財務省に正確無比な全数データがあるのだからそれを使うべきだと申し上げた。

この意見は事情を知らぬ者の寝言だったようだ。
税務署が持っているデータは、その他の用途には使えないよう法律で決められているそうだ。役所の縦割り行政の弊害という指摘は正しかったが、法律から変えねばならないというのは、役人にはどうにもできないことだ。

統計を担当する職員が足りなかったのではないか、という予測は正しかったようだ。2004年には6000人いた職員が2000人に減っているそうだ。主に農水省の職員が減ったらしいが、厚労省も300人から200人に減っているという。

4000人もリストラしたのだろうか?
公務員は安定した職業だと思っていたが、それは過去の話なのかもしれない。
しかし統計担当の職員を各省庁が個別に抱えるというのも無駄の多い話だ。統計処理が担当ならばどの省庁の仕事でも同じようにできるはずだ。ここにも縦割り行政の弊害がある。


このコラムは、2019年1月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第778号に掲載した記事です。

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統計の活用

「誰がなぜ、こっそり補正? 厚労省の統計、広がる不信感」

 「毎月勤労統計」の不適切調査問題で、厚生労働省が11日に公表した検証結果では、なぜ不適切な調査が始まり、どうして昨年1月調査分から本来の調査手法に近づける補正がされていたのか疑問点が多く残った。ほかの政府統計への影響もまだ見通せず、野党は追及姿勢を強めている。

 「真実を統計で客観的に伝えることが使命。意図的な操作はまったくない」

 厚労省の中井雅之参事官は11日の検証結果の会見で、昨年1月調査分から補正したのは賃金の伸び率が高く出やすいやり方に変更する意図的な操作だったのではと質問されると、こう強く否定した。

(以下略)

全文

(朝日新聞デジタルより)

 1月12日付の電子版記事だ。
内容をかいつまんで説明すると以下の様になる。

・厚労省が発表している毎月勤労統計は、従業員500名以上の事業所からの回答
 を回収し平均給与などを調査、発表している。
・規則では全事業所のデータを収集することになっていた。
・東京都に関しては対象事業所の1/3をサンプリング抽出し全国平均を算出。
・18年から、東京都のサンプリング合計を3倍して全国平均を算出。

東京都分は1/3の事業所しか調査していないため、全国平均に与える影響が
小さくなる。それを補正するために東京都のサンプリング合計を3倍にして
平均給与を計算する様に変更した訳だ。東京都は給与が高めの企業が多いため、
計算方法変更後に平均給与が上昇した様に見えている。

新聞の論調は、アベノミクスに忖度し計算方法を変更したのではないか、との
論調だ(苦笑)

しかし問題はそこではないと思う。
なぜ東京だけサンプリング調査なのか?更に言えば、基礎データとして事業所
からの回答をそのまま使っているところだ。

ここを指摘すれば、東京都の事業所数が多くて職員を増やさねば対応できない、
などの理由が返ってくるのだろうか(苦笑)

しかし本当の問題は、縦割りの官僚組織にある。
平均給与を計算したいのであれば、税務署のデータを使えば勤労者一人一人の
正確なデータが手に入るはずだ。

厚労省から財務省に一言お願いすればよかったはずだ。
野党に転落しさらに分裂してしまった前政権の「事業仕分け」は何だったのか
と言いたいところだ。

誰だって正確な統計データはすでに有るとわかっていたはずだ。
それをわざわざ人手をかけて不正確な統計情報を公開していた訳だ。


このコラムは、2019年1月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第771号に掲載した記事です。

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