品質保証」カテゴリーアーカイブ

豊洲市場ターレ事故

 東京都江東区の豊洲市場で8日午前0時過ぎ、市場内を走る小型運搬車、ターレット(ターレ)に乗った運送業の男性(50)が、荷物搬送用のエレベーターの扉に頭や首などを挟まれ、搬送先の病院で死亡した。警視庁によると、豊洲市場では昨年10月の開場以降、エレベーターの扉にぶつかる事故がほかに3件起きており、都は業界団体と連携して安全対策の強化を検討するという。

(朝日新聞デジタルより)

 新任の都知事がちゃぶ台返しをして迷走した豊洲市場で悲惨な事故が発生してしまった。

事故現場のエレベータは、高さ3.13m、幅3.75m、奥行き4.5m。扉は上下に開閉する仕組みとなっている。
事故発生時の様子が防犯カメラに残っており、エレベーターの上側扉が下がりつつあるところに男性が乗り込む様子が映っていた。

豊洲市場では昨年10月の開場以降、エレベーターの扉にぶつかる事故が他に3件発生している。都は業界団体と連携して安全対策の強化を検討するという。ターレが関わる死亡事故は今回で2件目だ。

今までの再発防止対策は、貼り紙などによる「注意喚起」だ。
人の注意力に依存する対策が有効だとは思えない。エレベータに乗り遅れれば戻ってくるまで待たねばならない。仕事の効率を考える人ならば、エレベータの待ち時間をなんとか減らしたいと考える。貼り紙など対策にはならない。

製造業の現場で仕事をしておられる方には、どのようにすべきか気がついておられると思う。このメールマガジンを本件の関係者が読んでおられるとは思えないが、有効な対策の考え方を記しておく。

「人の注意力」に依存する再発防止対策は、効果が実感できない対策の最右翼だ。注意しなくても事故が発生しない対策が本当の対策だ。疲労、心配事など様々な要因で注意力が散漫となることを前提として対策を考えねばならない。

記事によるとエレベータの扉は上下に開閉する構造となっている。上扉が下降中にターレが侵入し事故が発生している。

この状況を分析すれば、上扉が下降を開始した時点では下扉は上昇を開始しておらずターレが扉を通過できたはずだ。

したがって扉開閉の順序を変更し、下扉を先に上昇、ターレが通過できない高さとなったのちに上扉を下降させる。エレベータの制御プログラムを書き換えるだけで、変更可能のはずだ。

最初のエレーベタ事故は、ターレがエレベータ扉に衝突しただけだ。この事故が今回の人身事故につながるという「想像力」があれば、事前に対策が出来ていたはずだ。

今回の問題は、エレベータ設計者の安全考慮不足と考えるべきだ。
エレベータの死亡事故は繰り返し発生してる。それらの原因を設計時に排除する仕組みがなかったのだろうか?


このコラムは、2019年4月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第426号に掲載した記事に加筆しました。

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続・異常感度を上げる

 先週のメルマガ記事「異常感度を上げる」では,中国工場での正常と異常の閾値が我々が期待するレベルと大いに異なっている、という事例をご紹介した。この記事にたくさんの方に共感していただけたようで,コメントのメッセージを7件頂いた.
異常を異常と感じない事例を紹介いただいた方もあり,なるほどと,一人で頷いていた.事例を他の読者様とも共有したいと思う.

  • 3本並んだ蛍光灯が「チカチカ」していても、誰も取り換えようとも取り換え依頼をお願しようともしない。
  • 食堂に並んだ蛇口が壊れても、他が使えるので、問題ない。
  • 日本でギァから異音がすれば、大騒ぎになるが中国では、機械が動いている限り問題にならない。
  • 中国の露天でマグカップを買う、自宅に帰ってよく洗うとヒビがある。今のところ中身も漏れず、使用上なんら問題なければ、没問題となる。執拗に交換を迫れば応じてくれるが、交換したヒビのあるマグカップは、再び店頭に陳列される。

私が一番驚いたのは,中国工場で見たトイレのロック.
扉の取っ手の下にくるりと回すレバーがついており,固定部分に引っ掛けて外から扉を引いても開かないタイプのロックだ.
しかし扉は外から押して開くようになっており,ロックは機能しない.この扉が出来てすでに,何年もたっているようだが,そのまま使っていた.

このような代替のない機能不全まで,放置されているのに驚いた.

このような状況を打破するために,TPM(Total Productive Maintenance)の自主保全活動を,導入すると良いだろうと思っている.

I様からはこんなコメントを頂いた.

 小生、中国深せんに赴任中です。小生の専門はTPMです。中国でまさかTPMをやる事になるとは夢にも思いませんでした。日本の仲間は、TPMは中国人にはムリだと言っていましたし、小生もそうだと思っていました。が、違っていました。日本よりすんなり受け入れられたのです。苦労はしましたが、根付きつつあります。

大変心強いメッセージを頂き,私もTPMの導入推進に自信が持てた.


このコラムは、2010年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第167号に掲載した記事に加筆しました。

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ボーイング737Max墜落事故

 3月10日エチオピア航空302便(737Max8)が離陸直後に墜落事故を起こした。乗客乗員157人全員が死亡。昨年10月29日にも、インドネシア・ライオン航空610便(737Max8)が墜落し、乗客乗員189人全員が死亡。両事故機は、離陸直後上昇中に何度も機首下げ動作を繰り返し墜落した。わずか5ヶ月弱の間に同様な事件が2件発生している。

公式事故原因はまだ発表されていないがAOAセンサー(仰角センサー)の出力に誤りがあり、失速回避のため機首下げ動作を繰り返したためと報道されている。巡航高度まで上昇中に機体が機首下げ動作をすれば、当然操縦士は機首上げ操作をする。コンピュータによる機首下げ動作と操縦士による機首上げ動作を繰り返した挙句に墜落した様だ。

巡航高度に達する前に上昇、下降を繰り返したわけだから乗客・乗員の恐怖は大変なものだっただろう。コックピットもこの様な状況で冷静に判断が出来たか疑問が残る。

この事故で思い出すのが、1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故だ。

「航空機事故から」

この事故は副操縦士の誤操作により、操作の矛盾が発生し自動操縦に切り替わった状態で着陸やり直しをしたため失速墜落している。

墜落機(エアバス)の設計思想は操作に矛盾があった場合、コンピュータ操作を優先する仕様になっていた。一方当時はボーイング社は操作に矛盾があると、人の操作を優先する設計思想だった。

失速の自動回避はコンピュータ優先にせざるを得ないのかもしれない。

事故原因はまだわからないが可能性を考えてみると、

  • AOAセンサーの故障
  • AOA警報システムのバグ
  • 操縦システムのバグ

が考えられるだろう。
ソフトウェア業界のには「バグはもう一つある」という格言(?)がある。検証・デバッグを繰り返してもまだバグは残っているという警句だ。

我々の製造現場でもIOTが進めば、システムの複雑度が上がりバグによる障害が発生する可能性が上がるだろう。

AOAセンサの点検整備が地上でできるのかどうか定かではないが、もし異常値を示す故障が発生した場合の検出方法を検討する必要がありそうだ。

世界中に737Maxは200機稼働しているという。各機が平均1日1往復フライトの稼働率だとすれば、半年で2回の事故は27ppmの事故発生率となる。家電製品に使われる電子部品の不良率であれば、許されるかもしれない。
運悪く不良品を購入してしまっても、新品と交換すれば済んでしまう事もある。
しかしたった2度の事故で300人以上の人命が失われている。27ppmの事故率でも許されない。


このコラムは、2019年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第799号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関―伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.そのためブレーキの性能を上げて(欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.
従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.

リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.

対処療法

 先週指導先の生産現場で作業員がペンチの柄で製品をたたいているのを発見した.理由を聞いてみると金属製のケース上下を組み合わせると隙間ができてしまうので修正しているという.

まずはペンチの柄でたたくのを止めさせ,小さなプラスチックハンマーを持ってこさせた.
今回初めて量産試作する製品だ.ナゼ隙間ができるのか聞いても要領を得ない.

現物を見ると,金属ケースの加工が図面どおりでなく隙間ができているようだ.図面を持ってきて調べてみろといってもなかなか図面は出てこない.

そのうち品証の責任者が来て,このくらいの隙間ならばOKと判断して帰ってしまった.この工場では品証の役割は良品・不良品の判定だけのようだ.本来であれば,品証は図面と現物を見て現物がきちんと加工できているのか,設計は正しいのか判定しなければならない.その上で次回の生産からどう対応するか決定する.それが品証の役割のはずだ.

現在加工している製品をどうするか,どのレベルで良品と判断するかはたんなる「対処療法」でしかない.対処療法だけでは次回からの本格量産でも作業員は製品を叩き続けなければならない.これでは生産性を阻害するばかりではなく,新たな不良を作りこむことになる.

特に今回は量産試作なのだから,生産開始から設計,生産技,品証が合同で品質,加工性,作業性などについてきちんと現場でレビューをすべきだ.そうでなければ量産が開始された後も品質・生産性が改善されることなく生産を継続しなければならない.

この工場には,品質保証のあり方,商品化フェーズに合わせて何をすべきかなど初歩から叩き込まなければ,進歩はなさそうだ.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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ユニクロ、女児向けジーンズ6万5000本を回収

ファーストリテが子供用ジーンズ6万5000本を自主回収、内側の金具の一部が突起

 [東京 13日 ロイター] ファーストリテイリング傘下で国内ユニクロ事業を担うユニクロ(山口県山口市)は13日、全国のユニクロやインターネット通販で販売した女児向けジーンズの一部商品約6万5000本を自主回収すると発表した。内側の金具の一部が突起した商品があり、着用時に皮膚を傷付ける可能性があるという。

 回収するのは「KIDS(GIRLS)ストレッチスリムストレートジーンズ」。販売済みの商品から2件、在庫から9件の不具合が見付かっている。 

ロイター東京外為市場ニュース(2008年11月13日)

2008年9月末にもユニクロは回収事故を発生させている.このときは起毛ブラシの折れた金属破片が製品に混入している事が分かり,市場回収をした.
販売済みの16,184点から1件クレームが発生した時点で,倉庫在庫63,189点を総点検し16件の不良を見つけている.

品質保証の実務をした事がある人間にとっては,ユニクロは良く努力をしていると分かる.
しかし市場回収は最善の策ではない.

消費者はそのような努力に対して無関心である.新聞告知や回収作業にいくら金がかかっていようが関係ない.また回収だ,という事実のみである.

回収対象品を購入しなかった顧客までが,やはり中国製は…とネガティブな印象を持つ深刻な問題だ.

最善の策は,工程の中で不良を作りこまないことだ.

問題となった「内側金具の突起」の原因工程リベット打ち作業の治工具,作業方法を工夫して不良を発生させない.治工具の日常点検・メンテナンスを徹底する.

また針やブラシなどが折れたときは,作業が継続できないような仕組みを作りこむ.
折れた針は徹底的に回収する.

針などは金属検知装置で検査可能だが,ジッパー,ホックなど商品に初めから金属が付いていることの方が多いだろう.探知機には感度を調整する機能があるが厳しすぎると全てNG,ゆるすぎると折れ針が混入していてもOKとなってしまう.

何度やってもNGとなると検査員は,装置の技術員を呼んで調整しなおしてもらう.
ありがちだが,技術員はひょいと感度を調整して終わり.これでは何のために検査をしているのか分からない.OKサンプルと故意に折れ針を混入させたNGサンプルを使ってきちんと感度調整をすべきである.
こういうやり方は電子部品・製品の検査では当たり前のようにやる.

しかし衣類の場合は,これでも検査は不完全になるだろう.
例えば金属ジッパーの横に小さな折れ針があったとしたら検出は不可能だ.

従って基本どおり,工程内で折れ針が混入しないことを保証するしかない.


このコラムは、2008年11月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第63号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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戦う品証

 会社員時代の最後の職位は、品質保証部長だった。実は子供の頃から設計の仕事がしたくて電子工学を勉強し、就職をした。品質管理、品質保証の仕事をするぐらいならば、会社を辞して転職しようと考えていた。

しかしある日突然、担当役員の前で事業部長が「明日から林に品質保証部を担当させます」と宣言。何も聞かされていなかったので我が耳を疑った(笑)社内ベンチャーのような小事業部で、ちょっと変わった製品の開発をしていた。その製品が工程内で不良となり、役員に報告が遅れた為大目玉を食らっている最中の事業部長発言だった。

志通り会社を辞めようかとも思ったが、住宅ローンを抱え、守らねばならない家族もあったので、唯々諾々と事業部長の突然の辞令に従うことになった。しかしやってみると、品質保証の仕事が面白い。自分の天職とすら思える。転職せずに天職を得た(笑)

品質保証部門を任され部門のスローガンを「戦う品証」とした。
部外の同僚は「品質クレームを言ってくる顧客と戦う」と考えていたようだ。しかしそうではない。「守り」に対する「攻め」なのだ。

問題が起きてから火消しをするのが「守り」であるとすれば、問題が起きる前に手を打つのが「攻め」だ。守りの戦いではなく、攻めの戦いをしようという発想で「戦う品証」と言う看板を掲げた。

設計や製造の失敗事例から未然防止を考える、と言う発想を事業部内に定着させた。

設計技術者だった頃から、周辺装置を担当しOEMメーカの工場に出入りをし、不具合の再発防止対策をすることが多かった。その経験で信頼性技術が磨かれた。もし自分が一流の回路設計者であれば、周辺装置の仕事は回ってこなかった。

二流の回路設計能力、突然の辞令という不幸、不運があるから天職を得て今の仕事につながっている。
「失敗から学ぶ」と言うより「不運をチャンスに転じる」と言うことだろうか。


このコラムは、2018年5月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第667号に掲載した記事に修正・追記しました。

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品質不良のアフターフォロー

 以前一緒に仕事をした台湾人から久し振りにSkypeでチャットの呼び出しがあった.

生産委託工場の品証部経理をしていた人で,お互い職場が変わっても時々連絡をくれる.
中国語でのチャットは正直疲れるのだが(笑)昔一緒に仕事をしていた人から連絡がもらえるのは楽しいものだ.

今彼は蘇州方面にある,医療器具メーカの品証経理をしている.今回の報告は客先からの不良クレームの件であった.

OEMユーザに出荷した新製品第一ロットの製品の主銘版ラベルの貼り方向が間違っている,というクレームだ.

ちょうど国慶節休暇の最中であったが,彼は休暇中どこにも行くあてがなかったので(笑)即バスと電車を乗り継いで顧客の工場に出向いた.

顧客側はすぐ来てくれるとは考えていなかったようで,休暇中の訪問を大歓迎してくれた.
彼は叱られると覚悟をしていったのが,嬉しい肩透かしであった.
しかも帰りには,次のロットからシェアを上げてもらえる,という約束をもらって帰ってきた.
営業がいくら頑張ってももらえなかったシェアをいとも簡単にもらえた.
そんな事を嬉しそうに話してくれた.

しかし喜んでばかりはいられない.
原因の特定と再発防止が必要である.例によって「作業者に注意します」という報告書を書くつもりだったようだが(苦笑)事情を聞いてみると,最初の仕様決めのときに問題があったようだ.

OEMユーザの図面にはラベルの方向が明示してなかった.

彼には受注時に,顧客仕様が製品設計に十分な情報が揃っているかどうかもレビューするようにアドバイスした.

顧客不良に対するアフターフォロー(後始末)も大事だが,不良を発生させないビフォアフォロー(前始末)はもっと重要だ.

以前開発のエンジニアをしていた時に,新製品に某OEMメーカのCRTディスプレイを採用した事がある.
採用決定後OEMメーカの品証部から最終完成品を見せてくれと申し入れがあった.OEMメーカの品証エンジニアは我々の製品をチェックし,高電圧(25kV)のアノードキャップから25mm以内に金属筐体があるので設計変更をしてくれと申し入れてきた.

アノードキャップは絶縁体でできており,アノード電極(25kV)がむき出しになっているわけではない.従って筐体を設計変更する必要はないと感じたが,OEMメーカの心意気に感心した私は,すぐにメカ設計チームに設計変更を要求した.

こういうのが本当の品質保証活動だと思うのだ.


このコラムは、2008年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第59号に掲載した記事です。

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電解コンデンサの発煙事故

先週インターネットのニュースを閲覧していて「製品評価技術基盤機構」(Nite)という独立行政法人を発見した.ホームページでは製品安全・事故情報を公開している.「安心を未来につなぐナイトです」というキャッチフレーズだ.過去の事故事例から未来に発生するかもしれない不具合・事故を未然に防ごうという趣旨である.

是非このサイトを時々ご覧になって,自社製品の不具合・事故の未然防止に役立てていただきたい↓
製品評価技術基盤機構(Nite)

今日はこのサイトにあった事故ファイルから事例を紹介したい.

【事故通知内容】

 CDプレイヤーを使用していたところ、電源アダプターから煙が出た。

【事故原因】

 電源回路の平滑用コンデンサー製造時に混入した異物がセパレーターに損傷を与え、電極間にスパークが発生し発熱したため内圧が高くなり、防爆弁が作動して内部の電解液が蒸気となって噴出したものと推定される。

【再発防止措置】

 コンデンサーメーカーにおいて、作業者の教育訓練を強化し、作業現場の温度管理を強化して環境の安定化を図るとともに、工程ごとの部品管理の改善を図っている。

アルミ電解コンデンサの不良事故である.
残念ながら事故原因の追及が甘い.コンデンサーに異物が混入した原因までさかのぼる必要がある.
どんな異物であったのかが特定できれば,どの工程で混入したのかが分かるはずだ.
例えばアルミ箔のくずが混入していたのならば,アルミ箔を一定の幅に切りそろえる工程でバリが発生していた事が考えられる.
非導電性の異物であれば,アルミ箔と絶縁紙を巻き取る工程で混入したと考えられる.

このように発生工程と原因を更に特定をしなければ,正しい対策は打てない.

したがって再発防止措置のところに「作業者の教育訓練」がトップに出てきたりする.もちろん作業者に対する教育訓練は必要だがこれだけでは不十分だ.

真の原因に対する対策が不足している.
例えばアルミ箔のバリが混入していたのならば,バリが発生しないようにする.
箔の巻き取り工程で異物が混入したのならば,異物が発生しないようにする.

皆さんの工場では再発防止対策に,
「従業員に注意をした」とか
「従業員に再教育をした」
などという言葉が並んでいないだろうか?


このコラムは、2008年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第51号に掲載した記事です。

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作業員の質

 最近SNSを利用して中国企業の人事部門、品質部門の人たちと議論を始めた。日本人は私一人(笑)他は全部中国人幹部だ。

ある民営企業の品質部門幹部が、こんな悩みをSNSに揚げた。この企業はSMT部品を実装機にかけられる様にテーピングの作業をしている。作業員の60%が臨時工だ。

しばしば異部品を混入させ顧客クレームを発生させている。品証部門は顧客に対しするクレーム処理に忙しい。彼は臨時工の質が悪いからクレームが発生すると愚痴っている。

SNSのメンバーからは様々な意見・アドバイスが飛び交う。

  • 教育が足りていない。
  • システムに問題がある(ミスに対して罰金だけで、褒賞が足りていない)
  • 工程に問題がある(自動化すればミスはなくなる)
  • 経営者の従業員に対する「愛」が足りない。

臨時工の質に問題があるから、教育する、褒賞を与えてやる気を引き出す。
しかし出された対策では、効果が確信できないと私には思える。

例えば、東京ディズニーランドは90%の職員が臨時工だ。それでも一人一人の従業員が自ら工夫し、顧客の感動を目指して仕事をする。だから多くの顧客がリピータとなって業績が上がる。

確かに「教育」は重要だ。東京ディズニーランドでは1日だけの臨時工でも例外なく1日の導入教育をする。スターバックスでは80時間の導入教育をしているそうだ。この教育の目的は、企業の目的を明確にし従業員の役割を理解させる事だ。
今現在顧客クレームを垂れ流している現状には何ら役に立たない。血を流している患者に、健康の意義を説いても始まらない。

この企業に今必要なことは、まずクレームを撲滅することだ。
現場を見ていないので、確かなことは言えないが、作業そのものが異部品混入のリスクを抱えていると思える。

  • 部品置き場の識別管理ができていない。
  • 作業完成品の識別管理ができていない。
  • 同じ作業台に複数の部品が置いてある。

など現場の問題をしっかり見極めれば、自動化(テーピング中にAOI検査)などの設備投資をせずとも、5Sの徹底で解決するだろう。

その上で、自分たちはなぜ働くのかを明確にし、それを企業文化として育てる。
その役割の責任者は経営者自身だ。経営者の心を変えなければ、この企業は「絶望の工場」のままだろう。


このコラムは、2018年6月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第678号に掲載した記事です。

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