品質保証」カテゴリーアーカイブ

QCC道場

 私が初めてQCCと出会ったのは、地方都市の超零細企業から東京の一部上場企業に転職した時です。今から37年前です。超零細企業で、当月の給料を稼ぐ仕事をしていましたが、大企業は2年3年後の製品開発をやっている。その格差に愕然としました。今お金になるわけでもないQCC活動を仕事時間中にやっているのにも驚きました。

電子回路の公差設計に疑問を持っていた先輩が電子部品の公差ランクを下げても大丈夫であることを証明したい、という思いが私の初めてのQCC活動テーマになりました。
当時私は、8ビットのパソコンでプログラムを作りシミュレーション実験で証明するアプローチを取りました。統計数学を理解していれば一言で済む話です。今思い出すと赤面します(笑)我々のQCC活動の発表を聞いた大先輩が見かねて、私たちに統計理論の講義をしてくれました。

その後、設計から品質保証に異動となりQCC活動の推進・指導が任務となり、20年ほどQCC活動と関わり続けています。

2005年に独立して中国工場の現場で品質改善・生産性改善のお手伝いをしていますが、QCC手法を応用しています。問題を解決改善するだけではなく、現場リーダの問題発見能力、問題解決能力を高めておけば改善が継続するからです。

昨年(2017年)からQCC道場を始めました。異業種、異業界のサークルが集まり、一緒にQCC活動の方法を学びながら活動を実践する研修です。研修と言っても本物の課題に取り組むので現実の成果が出ます。第一期第二期を通して最高の年間効果金額は350万元を超えています。また一緒に参加しているサークルとの競争意識や、学び教え合う環境は、サークルメンバーの学習効果を上げるための工夫です。

2018年4月12日から第三期QCC道場を開始します。
第三期QCC道場

安全教育

 どの企業も事故の未然防止の一環として安全教育を実施しておられるだろう。
例えば粉塵爆発。アルミニウムの粉塵や、小麦粉の粉塵は一定の条件がそろうと爆発する。当然そのような業界で仕事をしておられる方には、既知のことであり、対策をしっかりし、新人にも安全教育をしておられると思う。
しかしそのような事故は、門外漢には分からないことだ。事故は繰り返し発生している。

失敗学の大家、畑村教授も学部に進学してきた学生にご自身で安全教育をしておられる。学生にとって思わぬところに危険があることを知ることは重要だ。
しかし教える側にとっては、毎年同じことを話しておりマンネリ化してしまうと、畑村教授は自省しておられる。毎回同じことを話す繰り返し作業をする者の気持ちが、教育対象者に伝わってしまうものだ。

教師は毎年新しい学生に同じことを教え続けなければならない。10年間同じ講義ノートを使い続けるなどということもあるだろう。こういう教授の講義を受ける学生は退屈を感じる。(これは畑村教授のことではなく、私の体験であることをお断りしておく)

企業の安全教育も同様な事に陥る事があるはずだ。しかし安全事故は絶対に防止しなければならない。

私の工場経営の師匠である原田則夫師は、新入社員教育を入社2年目の社員にさせていた。新入社員は一つ上の先輩から教わる。下手をすると教育係が年下になることもありうる。しかし教育係を買って出た社員は、昨年学んだことを自分の目線で話をする。講義に先立ち昨年学んだことを再学習する効果もある。教わる側も、はるかに年長の部長さんから教わるより、同年輩の先輩から学ぶ方が、親近感を持てるだろう。

参考:原田則夫

教育係に丸投げしたのでは、効果は期待できない。
教育係をチームにし、教え方を研究させる。研修内容・効果を確認しフィードバックする。このようなやり方で研修効果を上げるだけではなく、意欲のある班長候補が育っていくはずだ。


このコラムは、2018年3月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第640号に掲載した記事に加筆修正しました。

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QCC活動の成果

 現在QCC活動を3組(7社、14サークル)同時に指導している。今週末に最終発表会を合同で行う事になっている。この発表会には日本本社の役員も参加する。
チームメンバーだけではなく、各社の経営者も相当意欲が高まっている(笑)
各組とも最終発表会に送り込む代表チーム選抜の審査を行っているところだ。

先週は2組の選抜審査発表会を開催した。
1組は今回初めてQCC活動を実践した。もう1組は2回目だ。

QCC活動の成果で一番明確なのが活動テーマによる改善効果だ。

今回2回目の取り組みとなった組は、1回目の活動で年間改善効果金額数百万元を出すサークルが2チームあった。これはビギナーズラックというより、今まで何もしていなかったから改善の余地がたくさん残っていたという事だろう(笑)
2回目の今回は年間改善効果金額が数万元から数十万元となっている。

活動メンバーの成長もQCC活動の大きな成果だ。
原因分析は特性要因図(魚骨図)を書いて要因をたくさんあげ、その中から主要要因を探す、という手法をとるチームが多い。
しかし今回初めて参加したサークルは、要因を実験により、原因かどうか検証する方法をとった。検証にはχ二乗検定という統計手法を使っている。
実はこの手法は1回目の活動時から、こういう方法があるよ、と教えていたがどのサークルも尻込みして使わなかった。新参サークルが活用した事で他のサークルも統計手法の活用に意欲を持ち始めている。サークル間の競争意識が、成長意欲につながる。

改善そのものによる成果は一度きりだ。
しかしメンバーの成長や改善意欲の向上により、改善成果は継続する。

QCC道場は4月から第三期を開始する。


このコラムは、2018年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第636号に掲載した記事です。

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続・未然防止

 先週は御巣鷹山のJAL機墜落事故から、自社の未然防止対策に活かす事例を考えてみた。今週も公開されている失敗事例から未然防止を考えてみたい。

2004年3月26日六本木ヒルズの回転ドアに6才の男児が挟まれ死亡する事故が発生している。

失敗知識データベース

この事故にはいくつかの背景が有る。
見栄え重視:回転ドアの重量が2.7t有りオリジナル設計の3倍程度あった。
効率優先:訪問者の出入り効率を優先させるため回転速度を上げてあった。
効率優先:天井センサーの距離を1.6mからさらに40cm短くしていた。

これらの要因が重なり、身長が低い子供が死角となり挟まれた後も惰性で停止まで時間がかかった事が重大事故の原因となった。

それよりも重大な問題は六本木ヒルズ開業以来この故発生までの1年弱で大小の回転ドアで22件の事故が発生している事だ。事故が発生した大型回転ドアでは8才以下の子供が挟まれる事故が7件発生している。
このヒヤリハット(怪我をしていなくても重大インシデントと位置づけるべきだ)に対して、駆け込みを防止するための簡易ポールを立てるなどの簡便な対応しかしていない。

この対応を我々製造業の立場で考えると、不良発生の根本原因に対策をせずに流出防止対策のみを実施したと言う事になるだろう。工程内で発生する不良を徹底的に原因解析し、根本原因対策をしなければ必ず重大事故が発生する。

安全に優先すべき効率はあり得ない。


このコラムは、2018年2月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第631号に掲載した記事です。

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未然防止

 失敗に対して再発しない様に対策を考えるのは当たり前だ。さらにその上を考え、まだ発生していない失敗を未然に対策する。「失敗から学ぶ」というコラムはそんな思いで書いている。

ところで、品質改善や生産性改善の活動は成果を計測できる。しかし未然防止は、まだ損失が発生していない段階での活動だ。当然成果を計測することが出来ない。

しかし安全事故が発生した場合の損失、不良が顧客や市場に流出した場合の損失は莫大なものになる。不良が市場に流出し安全事故につながれば、回収、賠償など莫大な損失が発生する。即倒産の危機に瀕することになる。

ハインリッヒの法則によれば重大事故一件の陰にヒヤリハットが300件ある。
重大事故の損失コストは、ヒヤリハットの300倍では足りないだろう。効果を計測できないからといって軽視するわけにはゆかない。効果を考えるより未然防止を「文化」として全社に定着させることが重要だ。

ヒヤリハットから未然に事故防止を考える。
工程内不良を徹底的に再発防止する。
この様な活動が、安全事故、不良流出を防止すると考えている。

自社事例ばかりではない。
例えば御巣鷹山のJAL機墜落事故は、安全隔壁の修理方法が不適切だったことが原因だとわかっている。
この事例から、製造工程で発生した不良品のリワークがどの様な作業手順になっているか確認する。リワーク作業者の判断やスキルに依存している作業があれば標準化する。この様な活動が未然防止活動だと思う。地味ではあるが、おろそかには出来ない。この様な活動を称賛することで未然防止文化が醸成されると思うが如何だろうか。


このコラムは、2018年2月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第628号に掲載した記事です。

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続・因果関係と相関関係

 先週のメルマガ「因果関係と相関関係」では、相関関係を因果関係と間違えてしまうと問題は解決しない、と書いた。当たり前のことだが、ではそうならないためにどうするか、という肝心な部分が抜けていた。

もう一度先週の事例で検証してみよう。

“アイスクリームの売り上げ高と森林火災はどちらも夏に増えるので相関関係 がある。しかしそれは因果関係ではない。”

森林火災が発生する(結果)→アイスクリームの売り上げが高いから(原因)これはどう考えても成立はしない。因果関係を逆から読んでみると分かり易い。“アイスクリームがたくさん売れると森林火災が発生する。”これは論理的に成り立たない。

アイスクリームの売り上げが高い時に森林火災が多い。
森林火災が多い時にアイスクリームの売り上げが高い。
因果関係を逆にしても両者ともに成り立つ。
つまり相関関係はあるが、因果関係はないということだ。

不良発生(結果)→新人が作業したから(原因)
因果関係を逆から読むと、新人が作業をすると不良が発生する。一見因果関係のように見える。しかし新人が作業しても不良が発生しない場合もある。原因と結果を逆から読んだ時に原因→結果として成り立たない。

新人作業と不良発生の因果関係の間に、作業がやりにくい、作業に熟練か必要などの要因が隠れているから、相関関係はあるが直接の因果関係はない。

相関関係と因果関係を見分けるのは、相関関係は逆にしても成り立つ。因果関係は逆にすると矛盾する。と覚えておくと良いだろう。

しかし相関関係があるということは、因果関係が潜んでいる可能性がある。

森林火災とアイスクリームの例で言えば、
夏になると高温になる→アイスクリームが売れる。
夏になると高温低湿度になる→森林火災が起きやすくなる。
気候は制御できないかもしれないが、夏に火災予防活動をすることはできる。

新人作業と不良発生の例で言えば、
作業しにくい→作業不良が発生し易い→不良が発生する
新人→作業に不慣れ→作業不良が発生し易い→不良が発生する
つまり「作業しにくい」「作業に不慣れ」を解決すれば不良を減らせる。


このコラムは、2018年1月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第614号に掲載した記事です。

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因果関係と相関関係

 問題解決のための必須条件は正しい原因分析だ。一時的に問題が解決した様に見えても、正しい原因に対策出来ていなければ、問題は必ず再発する。

例えば「作業ミス発生」という問題の原因を調査した時に、作業ミスをした作業員の勤続年数を調査して見た。明らかに勤続年数と作業ミス件数に負の相関が見られる。特に1年未満の作業員の作業ミス件数が多いことがわかった。
従って作業ミスの原因は新人が作業をしたことにある。
ちゃんとデータにより確認をして、正しい分析をした様に見える。しかしこの調査で明らかになったことは、因果関係ではなく相関関係だ。

原因は「〇〇作業がやりにくい」「〇〇作業に習熟度が必要」となるはずだ。
そして対策は〇〇作業の改善となる。新人作業が原因となれば、新人には作業させない、とか教育訓練という非現実的または効果の期待できない対策となる。「〇〇作業がやりにくい」と原因が特定できれば、作業改善ができなくとも具体的な教育訓練方法を改善案とできるはずだ。

今「ジョブ理論」という書籍を読んでいるが、この書籍にもわかりやすい例で因果関係と相関関係の取り違いが紹介してあった。

アイスクリームの売り上げ高と森林火災はどちらも夏に増えるので相関関係がある。しかしそれは因果関係ではない。「ハーゲンダッツを買ったからといって誰もモンタナ州の森に火をつけたりはしない」

参考:「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」クレイトン・クリステンセン著


このコラムは、2018年1月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第611号に掲載した記事です。

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空自の復唱「気づかず」 重複の可能性も 那覇管制官

 沖縄県の那覇空港で航空自衛隊のヘリコプターと民間機2機が絡んだ離着陸トラブルで、離陸許可が指示されたと誤認したヘリが指示を復唱したが、管制官が「気づかなかった」と話していることが分かった。直後にヘリは離陸して民間機の離陸を妨げており、国の運輸安全委員会は交信状況を調べる。

 国土交通省によると、トラブルは3日午後1時23分ごろ、滑走路脇にいた航空自衛隊那覇基地のCH47が管制官の許可なく離陸し、滑走路上空を横切ったため、離陸滑走中だった全日空機が急ブレーキをかけて離陸を中止。さらに着陸態勢に入っていた日本トランスオーシャン航空(JTA)機に管制官が着陸やり直しを指示したが、全日空機の後方に着陸した。

 管制官は全日空機を指名して離陸許可を出し、ヘリにはその直前に待機指示を出していたが、ヘリは「全日空機に出された離陸許可を自分に出されたものだと思った」と説明していた。

 国交省関係者によると、管制塔には9人の管制官がおり、3機との交信は同じ1人が担当。管制官は、全日空機への離陸許可に対する同機からの復唱は確認したが、ヘリからの復唱は「確認していない」と説明している。一方、防衛省関係者によると、ヘリの操縦士は自機の識別番号とともに「了解。すぐに離陸する」と英語で返答。管制官から訂正を求める返答はなかったため離陸したという。

 離着陸する航空機は同じ周波数の無線で管制官と交信している。安全委は、全日空機の復唱とヘリからの復唱が重なった可能性や、全日空機との交信に集中してヘリの復唱を確認できなかった可能性などがあるとみて、交信記録を調べる。交信記録を聞いた関係者は「復唱が重なったようにも聞こえる」という。

 また、JTA機に対して管制官が着陸やり直しを指示したとき、同機はすでに滑走路の進入端から内側に入っていた可能性があることが分かった。管制官は全日空機から離陸中断の連絡を受け、直ちにJTA機に指示を出したという。JTA機のパイロットは「管制官から着陸やり直しの指示があったのは滑走路に接地した後だった」と説明している。

(朝日新聞電子版より)

 重大事故に直結する「ヒヤリハット」だ。
人為ミスによる事故と考えていたが、記事を読むと構造的な問題が有りそうな気がする。

無線通信によるコミュニケーションは、復唱が必須だが、複数の通話が同じ周波数チャネルで使用していれば、指示や復唱が干渉して伝わらない事が有る、と言うのは前提条件として考えなければならないだろう。
例えば管制官からの指示に対し、機長からの復唱と管制官からの指示取り消しが同時になると、双方の通話は聞こえない。
復唱に対し管制側からの応答が有って初めて指示が有効になる様なプロトコルが必要なのではないだろうか。

時系列を考えてみると、ANA機が離陸したのを確認する前にJTA機に着陸許可が出ている様に見える。離陸機の助走時間、着陸機の下降時間を節約せねばならない程離着陸頻度が高いのかも知れないが、安全に優先すべき効率は無い。

離着陸機の数だけを考えれば、香港空港の方が遥かに多いだろう。しかし沖縄空港は、国防の要的位置にある。自衛隊機と民間機が共用する空港であれば、有事のイレギュラーなオペレーションも有るはずだ。今回のヒヤリハットを十分に検証し、潜在要因を洗い出しておかねばならないだろう。


このコラムは、2015年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第427号に掲載した記事です。

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技術を伝承する仕組み

 先週の雑感「トラブルは繰り返す」で、世の中で発生している不具合は殆どが再発問題だ、と書いた。

技術が正しく伝承されていないから、何年おきかに形を変えて同じ不具合を繰り返すことになる。

東京大学大学院・中尾 政之教授の
「失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する」
東京大学名誉教授・畑村 洋太郎氏の
「失敗に学ぶものづくり」
にあるように、不具合や事故などの「失敗」を次世代に継承してゆく必要がある。

以前SMT積層セラミックコンデンサにクラックが発生する不具合を経験したことがある。メーカの説明書には「応力を加えるとクラックが発生する」と書かれている。
しかし製造工程の、思いもよらない作業がSMTコンデンサに応力を加えていた。そのため、製造作業の工法を変え、SMTコンデンサに応力が加わらないようにした。
更にSMTコンデンサにかかる応力を考慮し、設計基準を作成。設計基準が守られていることを確認するチェック項目を、設計レビューに導入した。

しかし数年後に別の事業部の製品で同じ不良が発生した。
当時不具合の再発防止が、全社に行き渡っていないことをおおいに反省した。

そこで事業部単位で埋もれてしまっている「信頼性技術」を全社で共有する定例会議を作った。この会議では、設計者や品質エンジニアが「失敗」を共有し、再発を防止するために、純粋技術的に発表・議論することとした。

当初私の意図を理解できていない役員が、失敗を責める局面が何度かあったが、それらを極力排除し、技術の共有・伝承に努めた。失敗したエンジニア本人が発表するのではなく、品証エンジニアが、事実を伝えるようにする。失敗を発表することが「栄誉」であるように動機付けをする。などなど「明るく」失敗を語り合える場を作り上げた。

このような仕組みや仕掛けを作ることが、技術を伝承する仕組みになるはずだ。


このコラムは、2012年2月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第246号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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トラブルは繰り返す

 私は、技術用語に特化して中国語を紹介するメールマガジンを配信している。そのメールマガジンで、ウィスカーは中国語で『晶須』と言うことを、2年前に紹介した。
そのバックナンバーをご覧になった読者様から、先週メッセージをいただいた。古い記事でも、誰かの役に立っていると分かると大変嬉しい。

ウィスカーと言うのは、単一分子が髭状に成長したものだ。
カーボンウィスカーは、強度の強い素材として利用されている。
しかし錫ウィスカーは、歓迎されざるトラブルの原因となる。

初めて錫ウィスカーが見つかったのは、Dip ICのリードの肩の部分から、ウィスカーが成長しリード間を短絡する不具合だった。当時ウィスカーが信頼性問題の原因になることがまだ知られておらず、錫メッキをしたリードフレームにICチップを乗せた後、肩の部分をプレス成型で曲げていた。

メッキ層に機械的適応力がかかると、ウィスカー発生の加速要因となる。

したがってプレス曲げ加工をした後に、メッキをすれば問題はなくなる。
しかしICの場合は構造上リードを成型した後にメッキをすることは困難だ。錫メッキに、鉛を添加してウィスカーの発生を抑えた。

その後、ウィスカーによる不具合はぽつぽつとあったが、大きな問題になることはなかった。

しかし環境問題で、鉛の添加が出来なくなり、また業界全体で問題となった。
セットメーカは部品メーカに対し、鉛の使用を禁止したにもかかわらず、鉛フリーの錫メッキは認めないなど、矛盾した対応で混乱した時期があった。

一度解決したと思われたウィスカーが、鉛を使えなくなり、また問題としてクローズアップしてきた。

世の中の問題は、殆どこのような「再発問題」なのだと思う。今まで知っていた不具合現象が、何年かの周期で再発する。
ウィスカー問題のように、環境問題に起因して再発することもある。技術の進歩に伴い、再発することもある。
一番情けないのは、技術の伝承がうまくゆかずに再発するケースだ。

あなたの会社には、技術を伝承する仕組みがありますか?


このコラムは、2012年2月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第245号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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