品質保証」カテゴリーアーカイブ

一点集中力

 「みやざき中央新聞」と言う新聞をご存知でしょうか?
普通の宮崎県地方紙という訳ではない。「美しい郷土を子どもたちに」と言う理念がタイトルに添え書きされている。毎週月曜日発行の新聞だ。
新聞と言ってもニュースなどは載っていない。社説やコラムが2ページの紙面に掲載されている。
みやざき中央新聞
かなり変わった新聞だが、日本全国の読者に支えられている。
その新聞社の社長・松田くるみ氏の書籍↓からこんな話を紹介したい。
「なぜ、宮崎の小さな新聞が世界中で読まれているのか」松田くるみ
書籍の中に田中真澄氏の講話が紹介されていた。
「凡人は、一点集中しかありません。コツコツ、コツコツといくしかないのです」
「足の裏をかなづちで叩いても痛くありません。ところが、針でつつかれると飛び上がるくらい痛いでしょ。一点に集中しているからです。仕事も同じです。凡人は一点集中で勝負するしかないのです!」
なるほどと感心した。
「一点集中」を針に例える。これは分かり易い。
経営資源がわずかしかなくても、一点に集中すれば大きな力となる。
逆に経営資源が豊富でも、一点集中しなければ力は分散される。
特に中小企業は、アレもコレもと力を分散させてしまえば、少ない経営資源を有効に活用する事は出来ない。
そして、一点集中した上で、コツコツと継続する。
継続は、後から来た人には克服出来ない力となる。例えば、このメルマガは今年の10月1日で丸7年となる。7年間継続していると言う事実は、後から来た人には絶対克服出来ない。
みやざき中央新聞も松田くるみさんが、コツコツと飛び込み営業を続け、読者を増やして来た。6月16日には2558号が発行される。
私のメルマガと同じ様に毎週月曜日に発行しておられるが、私のメルマガは366号なので、7倍近い差がある。この差は絶対に埋められない。

このコラムは、無料メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載したコラムです。

チームとグループ

 社内でプロジェクト活動をする時は、活動メンバーはプロジェクトチームと言う。プロジェクトグループとは言わない。
会社のメンバーと一緒に旅行に行くときは、グループ旅行と言う。チーム旅行とは言わない。
このチームとグループの境目は何だろうか?
Wikipediaの定義によると、
“グループの目的はメンバー個々の業績水準を底上げする事であり、その成果は個人の成果の総和にしかならない。
一方チームには、他人の意見に耳を傾け建設的に反応し、時には他人の主張の疑わしき点も善意に解釈し、彼らの関心ごとや成功を認める、と言った価値観が集約されたチームワークが存在し、その成果は集合的作業成果による共同の貢献が含まれるのでグループのそれより大きくなる。”
とある。
例えば、作業員数人で単純作業をする事を考えてみよう。
一人ひとりで作業をする場合、疲れたり飽きたりした場合作業効率が低下する。
一人で作業しているため、さぼる事も可能だ。
グループで作業をすると相互監視が抑止力となり、さぼる作業者はいなくなる。
チームで作業をすると、作業達成の価値観を共有し、疲れた者や飽きた者を励まし合いながら作業をする。
と言うことになるだろうか。
グループのメンバーは自分の責任を果たせばメンバーとして認めてもらえる。
チームのメンバーはチームへの貢献が有ればメンバーとして認めてもらえる。
どうもこの辺がグループとチームの境目ではないだろうか。
こう考えると集団旅行もグループ旅行ばかりではないと思い至る。
冒険を伴う旅行、目的を持った旅行などはチーム旅行と言っても良かろう。
例えばワンピースの麦わら海賊団は間違いなくチームであり、ワンピースを求める彼らの船旅は、グループ旅行ではなくチーム旅行だ。
違う側面からグループとチームの境目を考察すると、
グループのメンバーは、場所と時間を共有する。
チームのメンバーは、目的と成果を共有する。
グループのメンバーは、一緒に居る事がまず第一義となる。一緒に居る事によりテンションが高くなる。その結果成果につながる事も有るだろう。
一方チームのメンバーは、目的と成果を共有しているので、成果につながる事が優先される。テンションよりはモチベーションの高い集団となる。
居酒屋で盛り上がっているのはテンションの高いグループ。
残業時間も黙々と頑張っているのがモチベーションの高いチーム。
チームの成果にコミットしているチームメンバーは、自分の仕事が終わっても仲間の仕事を助ける。
以上を整理すると、
◆グループとは;
メンバーがそれぞれ自分の責任にコミットしており、場所と時間を共有した、テンションの高い集団。
◆チームとは;
メンバーがそれぞれチームへの貢献をコミットしており、目的と成果を共有した、モチベーションの高い集団。
となるだろう。
グループの方が居心地が良い場面も多いだろう。
しかし本当に私たちに必要な組織はチームだと思うがいかがだろうか?

罰金制度

 中国で工場経営をしておられる方々と会話する時に,しばしば「罰金制度」に関する話題が出る.日本ではあまり聞かないが,中国の工場では,つばを吐いたら50元,遅刻は10元など事細かく罰金が決めてあることがある.
「躾」の要素もあるのだろうが,業務に関しても罰金を決めてある.
不良が発生したら,その不良の責任部署に対して罰金をする.部門長と,部門全員に罰金が科せられる.
好ましくない行動に対して罰金をすることにより,好ましくない行動を減らす.
好ましい行動に対して褒賞を与えることにより,好ましい行動を増やす.
いわゆる「飴と鞭」の政策だ.
ほとんどの工場の罰金制度は,「飴なし鞭」政策になっている.
飴はあっても,年に一度模範従業員として表彰されるだけ.金一封も付くが,全従業員の中のほんの一握りだけ,忘れた頃に貰っても効果は薄い.
これでは「飴と鞭」とは言い難く,罰金による恐怖統治だ.
不良発生に対する罰金は,私に言わせれば,全く効果はない.
以前経験した事例では,作業員がミスをして不良を発生させたので,罰金を科料したいと班長さんが申請書類をあげていた.
わざとミスをする作業員がいるのであれば,罰金など科すよりもクビにすべきだ.
しかしそんな作業員はいない.ミスが出ない様に,作業方法を工夫したり,作業員を指導するのが,班長の仕事だ.罰金科料申請書を書く暇があったら,改善しろと言いたくなる.
最悪なのは,不良が発生した時に誰の責任なのかを追及するだけとなり,再発防止の議論が起きない事だ.
罰金を払わなければいけないので,当然自分の非は認めない.問題の原因を明らかにする事は非常に困難となる.
其の様な状況で,部門間の協力体制が出来るとは思えない.
不適合是正には,部門間の協調が必要となる.
例えば作業者が単純ミスをして客先に不良品を出荷してしまった.
この様な状況では,製造部門と検査部門に罰金が科せられる.
ミスをした作業員に罰金を科した所で,別の作業員がミスをする可能性は無くならない.検査員を注意しても不良を見逃す可能性は無くならない.
本当に不良を無くしたいのならば,ミスが発生しない様に設計を変更する,又は作業員によってバラツキが出ない様に治具化する,など製造部門以外の助けがなければ効果は期待出来ない.
罰金制度によって,この様な協調性が損なわれる.
鞭を使っても,不良は減らない.
飴を与えても,モチベーションは上がらない.
ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」を持ち出すまでもなく,罰金制度は百害あって一利無しだと思っている.
参考文献:
「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」
著者:ダニエル・ピンク

B787型機、定期便の運航を再開 4カ月半ぶり

 全日空と日本航空は1日未明、ボーイング787型機の定期便の運航を4カ月半ぶりに再開した。バッテリートラブルで運航停止が続いていたが、全機の改修が終了。両社とも初便はほぼ満席となり、午前1時過ぎに東京・羽田空港を離陸した。
 全日空の復帰第1便はフランクフルト行きで、146人が搭乗。搭乗口では、篠辺修社長が「十分な安全対策と入念な準備をして定期線に投入した。安全を第一にこれからも努力する」とあいさつし、出張のためそのまま機内へ向かった。
 日航はシンガポール行きに乗客184人が乗った。搭乗口から見送った植木義晴社長は「4カ月半の運航停止は長かった。実績を作り、お客様に(安心を)感じてもらうしかない」。
 全日空機で出張する東京都の会社員女性(24)は「日程上この便に乗るしかなかった。再開して最初の便なので不安はある」。日航機で娘を訪ねる横浜市の無職男性(67)は「787型機だとは知らなかった。十分に点検されていると信じるしかない」と話した。
 全日空は5月26日、臨時便として国内線で787型機の営業運航を再開した。
    ◇
 全日空によると、787型機で1日午前6時35分に羽田を出発した鹿児島行き619便(乗客・乗員計235人)は、上空で右前方ドアから空気が漏れるような異音がした。鹿児島に定刻通り着陸後、点検したが、異常はなかった。
この影響で折り返しの大阪行きが約1時間10分遅れた。

出典:朝日新聞電子版

 ついに原因はうやむやのままB787の就航が再開された.
日本航空のホームページに,今回の事故の顛末が掲載されている.
ホームページの記述には,あたかも原因が解明されたかの様に書いてある.

今回、当社ならびに国内他社で発生したバッテリー不具合は、青く塗られたバッテリーケース内に収められている「セル」と呼ばれる8個のリチウムイオン・バッテリーのなかの1個が何らかの理由で過熱したことから始まったことが解明されました。

バッテリーセルが過熱したと言うのは,不具合原因ではなく「不具合現象」だ.
なぜ過熱したのかと言うのが原因となる.
これを突き止めて初めて原因が解明されたと言う.
社外向けの発表では原因が解明されておらず,対策は以下の様に書かれている.

プロジェクトチームは、洗い出した約100項目の原因を、1つ1つ詳細に分析、評価したところ、約20項目については、「理論上は起こりうるが、現実的には起きえないもの」、もしくは「既に対策が講じられているもの」であることを確認しました。
 そこでプロジェクトチームは、残る約80項目の原因に対策を講じました。
つまりこれは、想定しうるあらゆる原因を網羅した対策になっています。
後日、運輸安全委員会によって当社事例、もしくは国内他社事例の原因が特定された場合でも、既に対策は講じられていることになります。同時に、バッテリーからの発煙、熱損傷など、いかなる不具合にも対応した対策となっています。

約100項目洗い出したのは「原因」ではなく「要因」だ.
「絞り込んだ約80項目の中に今回の事故の原因があり,その他はバッテリーセルが過熱すると言う不具合モードの潜在要因だ」この仮説が成り立つのは,全ての要因を洗い出すことができた,と言う条件が必要となる.

今回、ボーイング社が講じた全18項目の対策は、多階層の防護構造となっています。すなわち、1層目の対策として「1個のセルの発熱防止対策」を講じたにも関わらず、万一1個のセルが過熱状態になったとしても、その過熱状態を周囲のセルへの伝播させない「セル間の伝播に対する対策」(2層目)が過熱の拡大を止める構造となっています。
この2層目の対策により、バッテリーシステムの信頼性は、さらに改善されます。

一つのセルの過熱状態が周囲のセルに影響を与えない様にする,と言う対策はバッテリーシステムの信頼性をあげる対策とは言わない.
つまり一つのセルが故障発熱した時点で,バッテリー全体の機能は失われている.バッテリーシステムの信頼性をあげているのは,バッテリーの冗長化だ.
バッテリーシステムの信頼性に関しては,全4セットのバッテリと発電機で冗長化出来ており,4セット全て壊れても風力発電機で電力をまかなう様に信頼性設計が出来ている.
今回発生した問題は,バッテリーシステムの信頼性の問題ではなく,火災につながる可能性のある重不適合だ.
 

今回の対策策定にあたってボーイング社は、想定されるあらゆる原因を洗い出しました。ボーイング社は、さらに「想定外を想定」し、万一の場合でも発生した煙が操縦室や客室内へ流入したり、バッテリーが設置されている電気室で火炎が発生するのを防止するため、3層目の対策を追加しました。

第二層の対策と第三層の対策を合わせて,バッテリーセルの過熱が発煙発火につながらない様にする対策だ.
つまりバッテリーが故障して発熱しても,火災の可能性がある重不適合になるのを防ぐ対策だ.
バッテリーシステム全体としては,

  • バッテリー単体が故障しない様にする対策
  • 万が一バッテリー単体が故障しても,バッテリーシステム全体では機能を失わない様にする冗長化対策
  • その上で,バッテリー単体の故障が火災などの重不適合に発展しない様にする安全対策

と言う三段階の対策が必要だ.
ホームページに記述されている2層対策,3層対策と若干違っているのが,ご理解いただけるだろうか.記述にある2層対策はバッテリー内部の類焼防止対策,3層対策はバッテリー外部への類焼防止対策だ.
残念ながら,今回の対策には上述の一番目バッテリーの故障対策が含まれていない.

具体的にはバッテリー全体をステンレス製の強固な容器に格納し、電気室のほかの機器からバッテリーを完全に隔離しました。万一、バッテリー内の1個のセルが過熱状態となり、さらに周囲のセルまでが過熱状態となって煙が発生した場合でも、その煙は容器内に閉じ込められ、新設した専用配管を通じて、直接機外に放出されるため、操縦室や客室内に煙が漏れ出すことはなくなりました。また、このステンレス製の容器は密閉されていますので、仮に火炎が発生しても容器内は酸素が不足し、自然に鎮火することになります。

上記は,外部類焼を防ぐ(ホームページ上の記述では3層対策)だが,矛盾している様に思える.
密閉容器内で発火しても酸素の供給が無ければ,自然鎮火する,と言う理屈だ.
しかし,容器内に閉じ込められた煙を専用配管で機外に排出する,と言う事は密閉容器と外気の流通があるはずなので,外部の酸素が遮断出来ている状態とは考え難い.
ところでここであげた問題は,実は些細な事でしかない.
本当に重大な問題点は,バッテリーの発煙事故だけで,未対策の潜在故障要因が80件もあったと言う事だ.
乗用車の設計には,FMEA(故障モード影響分析)を義務づけられているのに,航空機の設計には,FMEAは義務づけられていないのだろうか?
乗用車の事故による人員の死傷リスクは10人程度であるが,航空機事故の場合,そのリスクは10倍となる.しかもほとんどの場合が死亡事故となる.
航空機の設計は,事前に潜在リスクの洗い出しと,対策を実施すべきだ.B787の最大の問題は,バッテリー発煙で80項目もの,潜在不良原因が未対策だと言う事だ.今回はバッテリーに関しては,潜在不良原因に対する対策が出来た.
その他の部位についても,再度見直しをする必要があるのではないか?
余談だが,JALの解説ページを見て,全発電・バッテリーシステムが故障した場合に,風力発電機が登場することを知った.
優れた冗長化設計だと感心した(笑)

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X-Rs管理図

以前xbar-R(エックスバーアール)管理図についてご紹介した.
今回はX-Rs管理図をご紹介したい.
xbar-R管理図は,計量値データで工程に異常が発生していないことを管理する方法だ.製品からサンプルを数個抜き取り,その測定データの平均値(xbar)とデータの範囲(R)が工程の実力範囲±3σに入っているかどうかで,正常か異常かを判断する.
しかし,サンプルの計測が複数個出来ない場合もありうる.
例えば,サンプルの計測にコストがかかる場合.
または連続生産の様に,サンプルが集まるのを待っているとどんどん製品が完成してしまう場合は,極力早く合否判定をしたい.
このような場合にはサンプル1個だけのデータで,管理図を描きたい.
そこで力を発揮するのが,X-Rs管理図だ.
管理図の作り方は,xbar-R管理図とほぼ同じだが,データが1個しかないために,平均値も範囲も計算が出来ない.
平均値の代わりに,サンプル1個のデータ,範囲の変わりに一つ前のサンプルとの差分Rs(移動範囲)を使う.
データが少ないので感度は低いが,サンプリングにかかるコストは少なくて済む.
また連続プロセスのように製品がどんどん出来てくる場合は,1個のサンプルで直ちに管理状態か否かが判断できるので,異常が見つかった場合に廃棄しなければならない不良が少なくなる.
X-Rs管理図の作成手順は以下のとおり.
【手順1】データを時間順に並べる.
【手順2】移動範囲を求める.
 Rsi=|Xi-1-Xi|
【手順3】Xの平均とRsの平均を求める.
【手順4】管理線を求める.
 X管理図
X管理図

 Rs管理図
Rs管理図

【手順5】グラフ用紙にX管理図とRs管理図を描く.
中心線(実践)と上下の管理限界線(点線)を入れる.(図には管理限界線を赤色線,中心線を黄色線で示した)
X管理図
X管理図

Rs管理図
Rs

見えない部分の品質

 プロジェクター用のスクリーンを購入した.
文房具市場を探しても見つからず,店員に聞くと電脳城に売っていると教えられた.バスで電脳城に行きスミからスミまで探しても見つからない.
なんとカメラを売っている店の奥にひっそりと展示してあった.74インチのスクリーン(三脚付き)が500元で買えてしまう.
オフィスに戻り実際にプロジェクターを投影してみる.良い感じだ.
三脚の高さを調整してみてびっくりした.
スクリーンの周辺は黒く塗られている.スクリーンを目いっぱい引き出すと,枠部分の黒が途中でフェードアウトしている.それもきちっとこの部分までは塗っておく,という意思が全く感じられない.
途中まで塗っておいて,この辺でいいかと中断したような形になっている.
プロジェクタースクリーン
プロジェクタースクリーン
半ばあきれて,この製品の製作図面はどうなっているのかと想像してみた.
我々の常識から言えば,スクリーンを目いっぱい引き出したときに塗られていない部分が見えないように,設計するはずだ.
コストダウンのために黒く塗る範囲を小さくするとしても,あらかじめ見えている部分と同じ幅だけは黒く塗るよう設計するだろう.そして工場はその指示範囲をマスキングなどをしてきちんと塗る.
しかし私の手元にある製品は,マスキングをした様子もなく,適当にこの辺で終わりにした,という感じだ.このようにモノを作るためには,どう図面を書いたらよいのか見当も付かない.
500元でプロジェクタースクリーンが買えた,という喜びは,あっという間に500元ならこんなもんか,という諦めに変わった.
見えない部分の品質が,製品の品格を作る.
品格がある製品は,値引きとは無縁だろう.
品格がなければ値引きをしなければ買ってもらえない.
こういう事例はいくらでもある.
製品の取扱説明書が,並行直角にきちんと折りたたんで入れてある.これが普通だ.取扱説明書が,いい加減に四つにたたんで入れる.
これを見た顧客はどう感じるか?
以前指導していた中国ローカル企業で,これを何度指導しても理解してもらえなかった.
きちんと折りたたむには時間(コスト)がかかる.自分たちの製品はそんなに厳格でなくても大丈夫,というのが現場リーダの「言い訳」だ.
自らどうしたらコストをかけずに済むかという思考を停止し,製品の「品格」を落としている.
彼らは1枚両面印刷の取扱説明書をまとめて四つに折りたたみ,それを1枚ずつ製品梱包箱に押し込んでいる.従ってほとんど丸めて突っ込んだといった方が良い状態だ.
コストをかけずに「品格」を保って取扱説明書を添付することはいとも簡単だ.
折りたたむのを止めればよいのだ.
製品を入れる前に,A4サイズの取扱説明書を折りたたまずに梱包箱に入れる.
この方がコストが安くなり且つ「品格」は格段に上がる.


このコラムは、2010年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第172号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

5S:整理

 私が住んでいる広東省東莞市は,激しい雨が降るとすぐに冠水してしまう.
 下水道の排水能力が決定的に不足しているようだ.普通なら道路の端に側溝があり,雨水はここに流れ込み下水へと排水される.しかしここいらの道路には側溝が無い.従って雨水は道路を川のように流れ,低い場所に一気に流れ込んでしまう.
 そんな訳で激しい雨の後は,こんな風景が散見される.
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 これは,洪水で流されてしまった犠牲者たちの靴ではない.この辺りには靴の小さな工場がたくさんある.
 その工場の,材料や完成品が冠水してしまったため,バスケットコートに持ち出して干してあるのだ.朝並べて,夕方またしまう.運悪くまた雨が降り出すと,総出で取り込むことになる.
 全く無駄な作業だ.
こちらの工場は屋上に干したのだが,
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 雨が降っても回収する人手が無いようで,雨ざらしのままだ.
 雨が降って濡れてしまって不運と考えないで,この際全部捨ててしまえば良いのだ.工場といっても家族経営に毛が生えた程度の零細企業だ.こんなにたくさん材料の在庫を持っていたら,一年分ぐらいは材料を買う必要もないだろう.
 全て整理(捨ててしまう).そのうえで今要らないモノは買わない.今出荷できないモノは作らない.これを徹底すれば,こんなにたくさんの材料をぬらしてしまうこともないし,干すための無駄な作業も要らなくなるはずだ.

【統計的品質管理】pn管理図

二項分布に従う計数値で,統計的品質管理(SQC)統計的工程管理(SPC)をするためのpn管理図の作成方法を紹介します.

pn管理図の作り方

毎ロット同じ数だけ生産する場合に使います.
pはロットの不良率,nは検査台数です.
従ってpnは不良の個数です.
不良の個数(pn)は二項分布に従います.
不良台数は,pn管理図

P:工程の不良発生率の実力値.

つまり毎ロット発生する不良個数は,μを平均とし標準偏差σでばらつくということになります.
小文字pで表記する場合は,不良率がPの実力を持つ工程で生産した場合の,毎ロットの不良率の観測値ということになります.
ここで
nP≧5と(1-nP)≧5が成り立つ場合は,二項分布を正規分布に近似しても実用上問題ありません.
例えば,検査工程で0.5%の不良が発生する場合1ロットの大きさが1000個であればnP=5,n(1-P)=995となり両者とも5以上なので,正規分布に近似出来ます.
つまり不良個数が平均±3σの中に入る確率は99.7%であり,正常と判断する.
不良個数が平均値±3σを外れた場合は,工程に何か異常があったと判断する.
という計量値の統計的品質管理と同じ考え方です.

【手順1】
ロットのサイズnが同じ検査データを20組以上取り,不良個数pnを調べる.
検査データは実力(不良発生率)が同じと判断できるデータでなければなりません.
また実力が同じと判断できても,違うラインの不良個数を一つの管理図で管理するのは,管理の趣旨から外れます.

【手順2】
平均不良個数,平均不良率を求める.
不良率

pn:ロットの不良数
k:ロットの数
n:ロットの大きさ

【手順3】
pn管理図の上側管理限界(UCL*1),下側管理限界(LCL*2)を求める.

*1UCL:Upper Control Limit 上側管理限界
*2LCL:Lower Control Limit 下側管理限界

上限・下限管理線

【手順4】
pn管理図を作り,エックスバーチャートと同じように毎ロットデータを記入する.
photo_5

【手順5】
pn管理図の変動をモニターして,問題があれば原因を究明して処置・対策をする.
判定方法はエックスバー・アール管理図の判定方法を参照下さい.

ところでpn管理図に下側管理限界(LCL)があるのに違和感をもたれる方があるかも知れません.不良が少なければ少ない方が良いわけだから,下側管理限界に意味があるのかという質問を受けることがあります.
統計確率理論の考え方では,毎ロットの不良率は一定の幅の中にばらついている,という考え方をします.従って工程改善などにより,実力値(不良率P)が変わっていなければ,下側管理限界(LCL)を割ることは無い.もし下側管理限界(LCL)を割った場合は,検査に不備があり不良品を良品として判定してしまったと,考えるのが合理的です.

【統計的品質管理】計数値による工程管理図

長さ,電圧,重量,時間など量として測定できるデータを「計量値」と言います.
計量値を使った統計的品質管理(SQC*1),統計的工程管理(SPC*2)の方法として,以前「エックスバーアール管理図」について説明しました.

*1SQC:Statistical Quality Control
*2SPC:Statistical Process Control

一方,不良の数,事故数など一つ,二つ……と数えるデータを「計数値」と言います.
例えば,サイコロを何度か振って一の目が出る回数が計数値です.サイコロを振って一の目が出る確率は,1/6です.従って60回サイコロを振れば10回一の目が出るはずですが,実際にはそうならない.10回を中心にばらつきます.このばらつきを二項分布に従ったばらつきと言います.
サイコロを振る回数をうんと増やしてやると,ばらつき方は正規分布に近づきます.
この性質を利用して「計量値」で使ったエックスバーアール管理図と同じように,計数値でも統計的品質管理,統計的工程管理が出来ます.
統計的に品質管理する場合に,不良数を使うのがpn管理図,不良率を使うのがp管理図です.
次にpn管理図,p管理図による統計的品質管理,統計的工程管理の方法について説明します.
pn管理図
To be continue
p管理図

モノ造りの分担

 日本の発展を支えてきたのは,間違いなく製造業だった.しかしモノ造り日本の地位を中国に奪われた感がある.GDP(国内総生産高)第二位の地位も中国に明け渡すことになりそうだ.
 日本のモノ造りは,高品質・高機能の物を,コストダウンし大量に作ることに精力を集中してきた.
 その結果,物と一緒に「貧乏」も大量に生産することになった.
 日本におけるモノ造りの戦略を考え直す必要がある.
モノ造りの分担
 図はモノ造りを,設計技術(商品を設計する技術)と製造技術(製品を製造する技術)の2軸で考え,4つのカテゴリーに分けてみた.
 つまり商品,マーケット,ビジネスを作り出す創造的技術と,生産方式やモノ造り技能などを作り出すテクノラート技術だ.前者はR&D(研究開発),後者をT&M(テクノラート&マイスター)と言ってよいだろう.
領域1:
 高度な設計技術と高度な製造技術を必要とするモノ造り.例えば,モノを作るための生産設備などである.先端のモノ造りをするための設備には,先端の先を行く設計技術と,モノ造りをするための精度の1桁2桁上を行く精密な加工技術が必要になる.この分野は,日本で死守したい領域だ.
領域2:
 設計技術は高くないが,高度な製造技術を必要とするモノ造り.例えば,日本の職人が代々受け継いでいる技能・技術である.日本にはこの領域の優れた技能・技術がある.これは日本で伝承して行くべき領域だ.
領域3:
 設計技術は高いが,製造技術は高くないモノ造り.例えば,CPUの設計には高度な設計技術が必要だが,PCの生産にはたいした技術は必要ない.必要な生産設備を買ってくれば生産可能となる.この様なモノ造りはどこで生産しても同じである.大きな市場を持つ中国で生産するのが合理的だ.
領域4:
 設計技術,製造技術ともに低いモノ造り.例えば,規格大量生産品などのコスト勝負の製品だ.この様なモノ造りは,ローコスト生産国で生産しなければ,利益が出ない.
 領域2のモノ造りは,日本では職人が代々技能・技術を伝えてきた.しかし一方で,高度な加工技術の「大衆化」が起こっている.ノートPC・MacBook Proの筐体はアルミ削り出しであるが,中国で生産している.NCマシンを持っていれば加工可能となった.
 例えば金属の鏡面加工.iPodの鏡面加工は,新潟の小林研業が加工していた.しかし今では中国の職工でも加工可能だ.
 小林社長は発想を転換する.

「私のところは、もっと難しい研磨に挑戦するだけよ。要求以上の品質で磨いて、製品のグレードを高める付加価値商売なんです。誰でもできる汎用品ばかりを手がけていたのでは、とうに潰れていたからね」

そして小林社長は,事業を少量高付加価値の生産に切り替えた.

「ナベ、カマの汎用品をやっていたんじゃ、中国に負ける。もっと複雑で小ロットの工業部品の研磨に転じよう。これだったら、高度な手わざが生かせるはずだ」と決めると、4000万円をかけた自動機を売り飛ばしてしまった。機械による工程の自動化を突き詰め、現代的な大量生産を推し進めるか、それとも、家内制手工業の枠にとどまりながら、精緻な技術を強みにするか、それは大きな岐路だった。

 この様に明確にモノ造りの領域を絞り込んで,職人が持っている技能・技術を日本に伝承してゆかねばならないと考えている.
引用は「あっぱれ!ニッポンの技術 頭は帽子をかぶるためにあるんじゃない――技能とアイデアの「磨き屋」魂 小林 一夫氏」から.