月別アーカイブ: 2019年12月

貧乏輸出大国・中国

 先日中国で工場経営をしておられる方からこんな話を聞いた.
中国は廉価大量生産品をどんどん作り輸出することにより,世界中にどんどん貧乏を輸出しているというのだ.

非常に面白い論点だと思う.
安い物を更に安くして,自らどんどん苦しくなっている.更に世界中の競争相手も苦しくしている.「貧乏輸出大国」という表現はなかなか言いえて妙だ.

しかし我々はこの競争に巻き込まれるわけには行かない.
良い物を造って,高くても喜んで買っていただける,
こういう戦略で商売をしなければ未来はない.

最低賃金が毎年十数%上昇しても,毎年生産性を30%改善すれば良いだけだ.
工夫に工夫を重ねより高品質・高付加価値の製品を作る.
お客様中心主義で高フレキシビリティ生産をする.
これが日本のモノ造りの心だ.

我々は中国の社会・文化の中でモノ造りをさせていただいている.しかし日本のモノ造りの心だけはローカライズをしてはならない.むしろこういう環境であるからなおさら日本のモノ造りの心を際立たせなければならない.


このコラムは、2008年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第51号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

三味線

 防空圏、日米で対応にズレ 民間機の扱い巡り

【ワシントン=吉野直也】米政府は中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏を巡り、軍と民間で対応を使い分けている。米軍機は従来通り事前通報なしに飛行を続ける一方、航空会社には事前に中国に飛行計画を提出するよう事実
上促した。不測の事態を回避するため現実的な判断に傾いたものとみられ、日本政府は困惑している。

米国務省は29日の声明で「米政府は国際運航する米航空会社は一般的に外国政府の航空情報に従うべきだと期待している」と指摘。一方で「今回の措置は米政府が中国の要求を受け入れたことを意味するものではない」とも強調し、米軍機は従来通り事前通告なしに飛行させる方針だ。

米メディアは連日、中国の防空識別圏設定を報道し、批判が広がっている。民間機の安全を不安視する声もあり、懸念を無視できなくなった。

日本政府は米側の動きについて「全く聞いていなかった」(政府関係者)と戸惑っている。日本航空や全日本空輸は中国による防空識別圏の設定後にいったん飛行計画の提出を始めたものの、政府の求めで26日夜に取りやめた。政府は方針を堅持し「米側は航空会社に指示したわけではない」としている。

日航と全日空は30日、今後も中国に飛行計画を提出しない方針を明らかにした。「日本政府によって安全は担保されている」(日航)というのが理由だ。政府が注目するのは25日の程永華・駐日中国大使の発言だ。外務省の斎木昭隆次官が「従来通りの運用ルールで対応する」と伝え、程氏は「民間航空機を含め飛行の自由を妨げるものではない」と語った。

(日本経済新聞・電子版より)

このニュースは私たち中国で仕事をしている者に取って非常に関心の高いニュースだ。中国は防空識別圏の設定を、習近平が外遊している最中に発表している。この様な外交上の大事を国家主席不在で決定するとは、思えない。

人民解放軍に対するシビリアンコントロールが正常に機能しているのか心配だ。
人民解放軍は元々、陸軍主体の軍隊だ。昨今海軍が増強され東シナ海、南シナ海で国際的緊張を煽る様な行動に出ている。空軍も最近、無人ステルス戦闘機のテスト飛行に成功したと発表しているが、まだ軍内でのプレゼンスが低いのではなかろうか。
そういう状況下で、空軍がクリーンヒット狙いの独走をしているとしたら、相当ヤバい状況だ。

こういう状況で、シビリアンコントロールがきちんと働いていないと、軍のチョットした勇み足が、後戻り出来ない状況に突入し、坂を転げ落ちる様に最悪事態に向かうことになる。

朝日新聞によると、オバマ大統領の指示で米国民間機が事前に飛行計画を中国に出すことになったと、中国国内では報道されていると言う。それに対し、中国人民はネットで盛り上がっているらしい。世論も軍を後押しする様なことになると、第二次世界大戦開戦前夜の日本と酷似しているのではなかろうか。

ところで、オバマの民間機に対する飛行計画提出要請も、米軍機、自衛隊機に対するスクランブル発進も、実は中国政府の「三味線」ではないのか、という論調を朝日新聞も伝えていた。この様な「大本営発表」が世論を間違った方向に導く事を、我々日本人はよく知っている。

この件に関する議論は、本メルマガにはふさわしくないだろう。専門の評論家・論客の諸氏にお任せしたい。

このメルマガでは、中国の三味線外交について考えてみたい。
相手を惑わす事をよく三味線を弾くとか、口三味線などと言う。
麻雀で、テンパっていないのにテンパっている振りをする、またはその逆。実際の手と違う手でテンパっている振りをする、こういうのを口三味線という。これにより相手を不必要に警戒させたり、油断させたりする訳だ。

私が議論したいのは「悪事」に使う三味線ではなく、組織強化に使う三味線だ。

「瓢箪から駒」と言う言葉がある。何も根拠が無いのに言った事が、現実になる、という意味だ。
中国語に『烏鴉嘴』と言う言葉がある。これは不吉なことを言うと、本当になってしまう、という意味だ。

良い悪い、どちらにせよ、口に出した事が現実化すると言う事だ。
昔は「不言実行」と言う四文字熟語があったが、最近はほとんど使われない。元々の不言実行をもじった「有言実行」が使われる事の方が多い。黙っていては実現出来ない、と言う事に多くの人が気が付いたせいだと思う。

だだをこねる子供に「お兄ちゃんなんだから、お利口だよね」と言うと、子供は言う事を聞く様になる。「だだをこねては駄目」と叱るより効果がある。「お利口だ」と言われたことにより、自分の役割に気が付く。そしてお利口に振る舞おうとする。

警察官になる人は正義感が強いから警察官になる訳ではない。勿論正義感が強く、警察官になりたいと思う人はいるはずだ。しかし警察官と言う職業を得た瞬間に警察官と言う自覚で正義感が強くなるのだ。そして見知らぬ人から「おまわりさん」と呼ばれるたびに正義感が強まってゆく。

時々現役制服警察官が、覗き、盗撮、痴漢行為などの破廉恥行為で逮捕されたと言うニュースを見る。こういう人は、制服を脱いだ時の自己モチベーション管理が不十分だったのだろう。制服着用時は、正義感の高い警察官だったのだろうと思う。

まず言葉がありそれが現実化する。
下手をすると中国の三味線もそのまま既成事実となってしまう訳だ。

三味線は善良な方向で利用すると、経営にも役に立つはずだ。
有名なリッツカールトンホテルのクレド(信条)には「紳士淑女をサーブする私たちも紳士淑女です」と書いてある。これを毎朝朝礼で唱えるから本当にベルボーイも、客室掃除婦も紳士淑女になるのだろう。

これは自分自身にも使える。ワイキューブの元社長・安田佳生氏は、起業して新卒採用を始めてから、新入社員に「自分は従業員を愛している」と言い続けたそうだ。本人の告白によると、従業員を愛してなんかいなかった(笑)しかし言い続けることにより、本当に従業員に対する愛が芽生えたそうだ。

崇高な経営目的・経営理念を決めて毎日口に出して言えば、自分自身も崇高な経営者になる。
誇り高く規律正しい従業員の行動規範を決めて、毎朝朝礼で唱和する。これで従業員は誇りを持ち規律に沿った行動をする様になる。

そんな簡単に行くはずがない、と懐疑的な方はぜひ試してみていただきたい。効果が無くても失うモノは何もないはずだ。
口に出して言うことにより、潜在意識を活性化する。その結果口に出した事が現実となる。良い結果を生む口三味線をぜひ実行していただきたい。

安田佳生の新刊「疑問論」


このコラムは、2013年12月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第338号に掲載した記事を改題しました。

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ホンダが品質保証体制を強化

ホンダが品質保証体制を強化、相次ぐリコールを受けて担当役員を配置

 ホンダは2014年10月23日、全社の品質保証体制を強化すると発表した。2013年9月に発売した「フィット」(図1)と同年12月に発売した「ヴェゼル」(図2)のそれぞれのハイブリッド車(HEV)が、リコールを繰り返していることを受けたものである。

 同社の四輪事業本部に「品質改革担当役員」を置き、同役員が本田技術研究所の副社長を兼務する体制にする。担当役員には専務執行役員(現・四輪事業本部第一事業統括)の福尾幸一氏が、2014年11月1日付で就任する。さらに、技術研究所の開発体制を見直し、生産・品質・カスタマーサービスなどの各部門が連携してチェックする体制を整える。こうした新体制によって、品質問題の撲滅を目指すという。

 「フィットハイブリッド」は発売直後の2013年10月と12月、2014年2月と7月の合計4回にわたってリコールを繰り返した。フィットハイブリッドと同じパワートレーンを搭載する「ヴェゼルハイブリッド」についても、2014年2月と7月に2回のリコールを行った。ホンダによるといずれも、「モーターとエンジンを組み合わせて制御するシステムの開発過程において、様々な使い方を想定した検証が不十分だったため」と説明している。

(日経テクノロジーオンラインより)

 この記事を読んで、ホンダに品質保証担当役員がいなかった事に、驚いた。当然品質保証組織は有っただろうが、そのトップが部長・本部長など中間管理職と言うのはいかがなモノだろうか。品質保証が機能する・しないの問題ではない。経営者が品質保証を重視していると言う姿勢を示すために、役員クラスの経営幹部が品質保証部のトップにいるべきだと考えている。

ホンダのような大企業が、そのための人財がいなかったとは考え難い。
営業担当役員、製造担当役員、技術担当役員などはいたはずだ。品質保証担当役員がいなければ、この会社は品質保証を重視していないと、社内外の人は考えるだろう。

人財が豊富にいない中小企業でも、品質保証重視を社内外にアピールする方法は有るはずだ。

ある企業経営者は、技術部、製造部が品証部に協力しないと言う問題に直面した時に、品証部長の給与を他の部長より高くしたそうだ。たったこれだけの事で、各部長が品証部長に協力する様になり、部門間の協調が上手く行く様になったそうだ。これも経営者が「品質保証重視」を社内にアピールする方法の一つと言えるだろう。

 ところで、ホンダのHPのリコール告知は、そこそこ詳しく現象・原因が記述されており、ある程度参考になった。

過去のフィット、ヴェゼルのHEV車リコールを調べ、私なりに二つに整理してみた。

  1. 組み込みソフトウェアのバグが原因となるリコールが大半を占めている。
  2. モジュール化し再利用をするためリコール対象が一気に増える。

最近はあらかたの製品が、マイクロコンピュータによって機能を実現している。
ソフトウェアをバグなしで設計する事は、事実上不可能だ。従って、デバック、設計検証、妥当性検証と言う手段でバグを発見修正することになる。
どこまで使用者の立場で検証出来るかが、検証の優劣になる。属人的なセンスに依存しがちな検証を、漏れなくダブりなく検証項目を挙げる仕組みを作る事が重要だ。

そして、検証に先立ち検証計画を立てる。計画を立てて検証作業に入らないと、ずるずると際限なく検証を続けることになる。この計画書を具体的かつ詳細に作れば、検証作業を外注化する事が可能になる。
しばしば、外注に仕様書を投げ、完成品を社内の若手設計者が検証する、と言うやり方を見る。しかし、検証を外注化し、若手設計者に設計・実装の仕事を与えた方が、設計者の育成効果が高いと思う。

ところでこの様な、検証システムを作ったとしても、設計者はバグゼロを目指して設計しなければならない。
人命の安全が最優先であり、協力工場に対し、不良ゼロは当たり前、と言っている以上、ソフトウェアと言えどバグゼロは当たり前でなければならない。

以前トヨタが、リコールを連発した時に「コストダウン目的のモジュール化」が過度に行われた結果だと言う批判的な記事を多く見た。

モジュール化とは、部品を組み合わせて作った機能ユニット(モジュール)をどの製品にも再利用すると言う意味だ。

しかしモジュール化の本当の狙いは、設計を標準化し、品質を安定させる事だ。その結果設計コスト、品質損失が下がると言う事であり、コストダウンが目的ではないはずだ。

問題は設計のモジュール化ではない。

第一の問題は、モジュールのインターフェイス仕様の定義に曖昧さが有る事。
インターフェイス仕様と言うのは、モジュールを組み込む際の製品との取り合いと表現すれば分かり易いだろうか。
最も単純なインターフェイスは、モジュールを製品に組み込む時のネジ位置だ。
例えば、動力ユニットで言えば、出力トルクや馬力の性能だけでなく、車体に取り付ける方法、タイヤの径、車体の重量等々、どの範囲で再利用出来るかを明確に定義したのがインターフェイス仕様だ。

第二の問題は、モジュールを応用した場合の検証が不十分な事。
当然モジュール自体は設計検証が完了した状態になっているが、組み合わせの検証を省略して良いと言う訳ではない。


このコラムは、2014年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第395号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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小人に仁者なし

yuē:“jūnérrénzhěyǒuwèiyǒuxiǎorénérrénzhě。”

《论语》宪问第十四-6

素読文:
わく:“くんにしてじんなるものらんか。いましょうじんにしてじんなるものらざるなり。

解釈:
子曰く:“君子は仁を志すが、時として不仁な行いをする者もある。しかし小人は仁を志してはいないので皆仁者ではない。”

本物の仁者は一年365日、一日24時間ずっと仁者だと思います。君子たる者一年365日一日24時間仁者であることを目指すべきかと思いますが、時として不仁な考えが心をよぎることもあるでしょう。しかし君子であるべき地位にあっても、私利私欲に囚われ不仁な行いをする者は、小人となります。

上り特急停車中の線路に下り特急が進入、緊急停止 佐賀

 22日午後0時20分ごろ、佐賀県白石町坂田のJR長崎線肥前竜王駅で、上りの特急かもめ20号が止まっている線路に、下りの特急かもめ19号が進入し、運転士が手動で緊急ブレーキをかけて止まった。JR九州によると、列車同士の距離は約90メートルで、正面衝突する危険があったという。2本の特急の乗客計約230人にけがはなかった。

 同社によると、19号は線路の分岐点から約40メートル進んで止まった。速度は「最大で時速35キロ」としている。ATS(自動列車停止装置)は異音で停車した場所より手前にあり、作動する状況になかった。運転士が気付かなければ正面衝突の可能性があったという。

 19号と20号はもともと、隣の肥前鹿島駅ですれ違う予定だったが、19号の異音トラブルでダイヤが乱れたため、肥前竜王駅ですれ違うことになった。当初は、両列車とも肥前竜王駅の2番線を通過することになっていたため、JR九州の博多総合指令(福岡市)は、上りの20号が1番線に入るようプログラムを変更。20号は先に1番線に入って停車した。

 JR九州によると、19号は異音トラブルの際、線路の分岐点の手前にある信号を数メートル過ぎて止まったが、総合指令は信号の100メートル手前で止まったと認識していた。このため、総合指令は列車を信号まで進ませてから、分岐点を1番線から2番線に切り替えるつもりで進行を指示。しかし実際は信号を過ぎていたため、19号はすぐ分岐点を過ぎ、1番線に進入したという。

 国の運輸安全委員会は、このトラブルを深刻な事故につながりかねない「重大インシデント」と認定し、鉄道事故調査官2人を現地に派遣した。23日に、JR九州関係者から詳しく事情を聴き、現場を視察する。

(朝日新聞電子版より)

 米国で大きな列車事故が有ったが、日本の鉄道では久々の「ヒヤリ・ハット」事故ではないかと思う。

単線区間なので、列車は駅ですれ違う。すれ違いのために停車していた上り列車のいる線路に下り列車が進入し、あわや衝突という所で緊急停止した。

本来、もう一駅上り寄りの駅ですれ違う予定だったのが、下り列車の運転手が異音に気付き停車、10分遅れたため、一駅下り寄りの駅ですれ違う事となった。

上り列車を肥前竜王駅の1番線に入線させ、下り列車を2番線を通してすれ違うようダイヤ変更をした。しかし上り側のポイントが1番線側になっていたため下り列車が1番線に入線してしまった。

現場直前のATSの列車検出器で下り列車を捉え、その後に肥前竜王駅手前のポイントを2番線側に切り替える予定で準備していたが、異音点検で停車した位置が列車検出器を通り越していたので、通過信号が得られず、ポイントの切り替えが出来なかった、と言うのが新聞記事から読み取れる事故の経緯だ。

しかし何事もなければ、一駅下り寄りの肥前鹿島駅ですれ違いを済ませ、上り下り列車ともに、肥前竜王駅の2番線を通過することになっていた。従って何もしていなければ、肥前竜王駅上り側のポイントは2番線側になっていたはずだ。

上り列車を1番線に入線させる際に下り側ポイントを1番線側に倒せば、上り側ポイントも1番線側に自動的に切り替わる、などの事情が有るのかも知れない。残念ながら鉄道マニアではないのでこの辺りの事情は不明だ。

いずれにせよ、普通ならば下り列車が10分遅れたくらいで大騒ぎせず、上り列車を予定通り肥前鹿島駅で待機させておくだろう。日本の鉄道でなければ、この様な事をしないと思う。現場が臨機応変に対応し、遅れ時間を最小に出来る。そして現場が、遅れ時間を最小にしようと言う情熱を持っているからこそ発生した事故だと思う。

しかし憂慮しなければならない事は、我々が信じて疑わないJRの現場力が健在なのか?と言う事だ。日本の鉄道はATS/ATCシステムによって、安全運行が行われる様になっている。都内の列車は3分間隔と言う過密ダイヤでも事故が発生しない。以前工事車両が原因で事故が発生したが、工事車両はATS/ATCで制御出来ない。システムに頼りすぎて、本来現場力で対処出来ていた部分が脆弱になりつつ有るのではなかろうか?

福岡航空重大インシデント

 2018年3月24日(土)に福岡空港で関空発のピーチA320-200機が着陸後、前脚タイヤが横を向き動けなくなり滑走路上に停止する重大インシデントが発生。本件に対する調査情報が運輸安全委員会から公表されている。

「福岡空港で発生したピーチアビエーション機の重大インシデントに関する情報提供」

調査報告書によると前輪ユニットを構成する部品・トルクリンクのピンが消失しており、前輪の操舵ができなかったようだ。

報告書の図面によると、上下のトルクリンクを締結するピンはナットで固定され、ナットの緩み止めロックプレートが連結ピンにボルト留めされている。さすがに絶対外れてはいけない部品である。点検用のアイマークが付いているだけでは不十分だ。
どのように点検作業をしていたのかは不明だが、報告書の図面を見るとトルクリンクの締結部はタイヤの直径よりわずかに上にあり、締結ボルトのロックプレートは簡単に点検できる位置にある。

製造業で使用する設備も、締結部分(ボルト・ナット)が緩んでいないか目視点検したり、ビビリ音がないかなどの点検をすることがある。
この重大インシデント情報から我々も以下のことを学ぶことができる。

  • ナットの緩み留めにロッププレートを使用する。
  • 締結部を点検しやすい位置にする。

締結部が緩んだ時のリスクに合わせ未然防止対策を検討すると良かろう。


このコラムは、2018年12月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第757号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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離陸機が緊急停止=日航機、滑走路へ進入―上海

 【上海時事】中国民用航空局によると、上海浦東国際空港で13日昼(日本時間同)ごろ、米デトロイト行きデルタ航空の旅客機が離陸に向け速度を上げていたところ、滑走路に日本航空の旅客機が進入、急ブレーキで緊急停止した。

 中国メディアによると、急ブレーキの影響でデルタ機のタイヤが破損。非常事態に備え、消防車がタイヤに向かって放水した。けが人などは出ていない。中国当局が緊急停止の原因を究明するため、両社のパイロットや管制官から事情を聴いている。 

(時事通信より)

 英国でJAL機副機長飲酒問題が起きたばかりだ。今度はJAL機が上海で離陸中の旅客機の前方を横切るという重大インシデントを起こしている。

中国ではあまり報道されていないようだ。中国百度検索で「上海浦東机場」を検索すると当該インシデントは3件しかヒットしない(15日午前現在)

事故原因調査に国土交通省運輸安全委員会が関与するのかどうかはわからない。いずれにせよすぐには何があったかはわからないだろう。

管制官(中国人)JALパイロット(日本人)DELTAパイロット(米国人)が英語でやり取りをしていて、聞き間違いがあったというのがもっともらしい原因かと思う。しかしこれでJALパイロットが免責となるわけではない。管制官にミスがあったとしても、DELTA機に緊急ブレーキを踏ませたのはJAL機だ。

例えば、信号交差点で横断中に信号無視の乗用車にはねられ即死たとしよう。
当然歩行者には何ら法的な責任はない。しかし一番重い「罰」を命と引き換えに背負うのは被害者である歩行者だ。

いくら管制システムが機械化されようが、自動航行技術が発達しようが、最後の砦は、管制官やパイロットの「勘」だと思う。「勘」というと伝承不可能な属人的能力のように感じるが、事故の予兆とか潜在事故と言い換えれば「勘」は訓練で身につくはずだ。

例えば今回のインシデントで言えば、上海浦東空港では2本の滑走路で離着陸する。駐機場もしくは離陸滑走路にタクシングする場合、他方の滑走路を横断しなければならない。従って離陸機と着陸機が同時にある場合は両機の挙動に注意を払う、というのが上海浦東空港での潜在事故に対する予防保全行動になる。

ベテランの「勘」も言葉に置き換えることができれば、新人に教育可能ということだ。

このコラムを書くためにネット上の情報を検索した。
ドクターヘリの元パイロットの方が「ヘリを離陸させる時は、ホバリングのまま90度旋回して後方確認をした上で上昇するものだ」と書いておられた。なるほどなぁと感心した。

「勘を働かせろ」と指導するより「ホバリングで90度旋回し後方確認せよ」と具体的行動を指導する方が効果があろう。その上でこういう行動が危険を予知する「勘」であると指導するのがよかろう。


このコラムは、2018年11月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第748号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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F1プロジェクト

 設備産業の場合は設備の稼働率が生産性に大きな影響を与える.

  • メンテナンスをきちんとすることにより設備停止時間を減らす.
  • バッチの切り替え時間などの段取り換え時間を極限まで短くする.

これらの改善で生産性が向上する.

また段取り換え時間を極限まで短くすることにより,作りすぎをしない,フレキシブルな生産体制が実現できる.

現在お手伝いしている工場では当初,バッチ切り替えの段取りに1時間半かかっていた.これを1/3にすることを目標に活動している.簡単に1/2まで改善できたが,そこからが意外にも進まなくなってしまった.

作業員たちに私がいっていることの意味が良く伝わっていないと感じ,F1のピットの話をした.
レース中にピットインしたマシンに,さっとクルーが駆け寄り,タイヤの交換と給油を一瞬のうちに済ませサーキットに送り出す.中国でもF1グランプリが開催されるようになったので,この話は管理者たちに良く理解できたようだ.

まず管理者の心に火がついた.
しかしこれだけではまだ改善はできない.そこで段取り換えの作業を全てリストアップしてもらい,タイムチャートを作った.これをチーム作業として誰がどのタイミングで何を準備して,どう作業するかが分かるタイムチャートに作り変えた.

更に段取り換え時間短縮活動にF1プロジェクトを言う名前をつけた.
これで作業者の心にも火がついた.
毎回何分で作業が完了したか大きなグラフで掲示をした.毎回の成績が目で見えることで皆のやる気が出てきた.

実はこれだけで今は段取り換え時間1/3(30分)を達成しており,新たな目標15分で活動を継続しているところである.

実はこのストーリィには経営者の大きな助力があった.
工場の管理者たちは全てF1を知っており,TVなどで中継を見たこともある.しかし作業員の殆どは知らなかった.
そこで経営者は帰国した折に鈴鹿サーキットに出向きフェラーリチームのピットの上からピット作業をビデオに納め,従業員全員に見せたのである.

多分サーキットで一番高い席であろう.サラリーマン経営者としては自腹でビデオを撮ってくるのは大変なことだったと推測している.こういう熱意があるから改善ができるのだと思う.


このコラムは、2008年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第35号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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挑戦しないと新技術なんてできない

挑戦しないと新技術なんてできない

ホンダ社長 福井威夫氏

普通なら会社が大きくなるにつれて管理が厳しくなる。だんだん時間や予算の管理が厳しくなって個人の自由がなくなり,いちいち上司の了解を取らなければならない。しかし,これではダメ。社員が何もできなくなってしまう。

 ホンダの研究所はそうじゃない。決していいかげんなわけではありませんが,かなりの部分が個人の裁量に任されています。かつて私も相当に自由にやらせてもらった。すべてが勝手に決められるわけではないものの,「会社にとってこれが大切なんだ」と自分で判断すれば,かなりの確率でそのテーマの研究開発ができるのです。そのときはもちろん,会社のお金を使わせてもらう。報告するのは成果が出た後。お金を使った後に,「こういうものができました」とやるわけです。それが許される会社なんです,ホンダは。むしろ,そうでなければ新しい技術なんて生まれてきません。

今回は日経BPのコラムから抜粋した.

最近業績主義の風潮があり,プロセスを評価する事が少なくなってきていると感じている.失敗を評価することもプロセスを評価することになろう.同じシリーズのコラムでキヤノン電子社長 酒巻久氏も「失敗・成功事例集」の作成に力を入れておられるのが紹介されている.

失敗を隠すことで次にまた同じ失敗を繰り返すことになる.失敗の中にこそ次の成功の秘訣が隠れている.99回失敗してもあきらめずに挑戦すれば次の1回で成功する.
エジソンの有名な言葉は,発明は99%の失敗と1%のひらめきから生まれると言い換えても良いだろう.

成果のみに着目すると簡単に成果の出る仕事だけに手を出し,困難が予測される仕事に手を出さなくなる.挑戦する心をなくした組織は,衰退が待っているだけだ.

ホンダ研究所に勤務していた友人は以前ソーラーカーのプロジェクトに手を上げて参加した.ソーラーカーの開発,オーストラリアで行われたレースへの参加.通常の業務から外れてこのプロジェクトに参加する事ができた.

挑戦と失敗が許される組織文化が組織を強くする.

上記のコラムは
「経営者12人の原点 日本,ものづくりの真髄」
という本に紹介されている.


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君子は泰にして驕らず

yuē:“jūntài(1)érjiāo(2)xiǎorénjiāoértài。”

《论语》子路第十三-26

(1)泰:落ち着きがある。余裕がある。
(2)骄:驕り高ぶる。威張る。

素読文:
わく:“くんたいにしてきょうならず。しょうじんきょうにしてたいならず。

解釈:
子曰く:“君子は泰然としており驕らない。小人は驕り高ぶるが、泰然としたところがない。”

日本では「実るほど 頭を垂れる 稲穂かな」と言います。
充実した稲穂はその重みで垂れ下がる。中身がスカスカの稲穂はまっすぐ空に向かって立っています。