月別アーカイブ: 2020年11月

エアバック回収

 以前このメルマガで、タカタのエアバック回収問題を論じた事がある。

ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

問題は一向に収束の気配がなく、ますますエスカレートしている様に見える。
メルマガには、タカタに対して厳しめのコメントを書いたが、いろいろな力学が働いているようで、タカタに対して気の毒な印象を持っている。

通常リコール責任は、完成品メーカにあるはずだ。そのためリコールに関してタカタは積極的な発言を控えて来た。これが米国消費者に「消極的な態度」と言う印象を与えたようだ。それが米国自動車業界(もしくはそれに肩入れしている人々)にとって絶好の攻撃対象になってしまったのではないだろうか。
米国にとって自国が自動車産業を生み出し、育てたと言う自負があるだろう。それが東洋の小国に取って代わられた、と言う忸怩たる思いがあるようだ。

巨額にふくれあがったリコール費用や、制裁金でタカタの経営が危ういと聞いている。
自動車部品から撤退して、本業に戻ると言う選択肢はもうないだろう。自動車部品に参入して、構えが大きくなってしまった。撤退は即倒産廃業の意味を持っている。

今更だが、このような事態に至らないために打つ手がなかったのか考えてみた。
タカタは後戻りできないかもしれないが、同じリスクを冒さないために他業界の経営者も考える必要があると考えている。

同じ自動車部品業界のBOSCH社は、顧客に提供する部品に関して「搭載要件書」を提示し、想定外の使用方法による事故から、自己防衛しているそうだ。

これは購入部品だけではなく、設計の再利用を目指す「モジュール化」にも必要な事だ。適用する製品と、設計モジュールのインターフェイスをきちんと定義しておかねば、設計不適合が発生する。インターフェイスとは、取り付け寸法だけの事ではない、環境条件、適用範囲など全てを含む。

以前システム製品の設計をしていた頃、あるメーカのCRTディスプレイを採用した事がある。採用が決定し、サンプル機の提供を受けた時に、先方の品証エンジニアが来社した。当方でCRTディスプレイを組み込む最終製品を見せてくれと要求された。まだ市場リリースしていない製品だ。即諾する訳にはいかない。理由を聞くと、想定外の使用(実装)がされていないか品質保証の立場で確認させてほしい、と言う事だった。
メーカ側の品質保証部門としては、当然の理由と判断し関連部署を説得し、要求に応えた。

品証エンジニアは、CRTディスプレイが組み込まれた状態を確認し、CRTのアノードキャップの端から25mm以内に金属の機構部品があるから、25mm以上の距離を確保してくれと要求して来た。

CRTのアノード電極は25kVの電圧が印火されており、空間距離を25mm開ける様にと言う要求だ。アノード電極には、半径25mm以上の絶縁キャップがついており、過剰な要求だと感じたが、メーカの品質保証の姿勢に敬意を評し、要求通り設計変更に応じた。

当然機構設計者は快諾する訳はない。既に設計は終わっているのだ。従って機構部品に追加工をする事になり、強度計算をやり直し、コストもあがる。そこをなんとか、と説得した(笑)

この時、先方の品証エンジニアから「最終製品の品質保証を確かにしたい」と言う姿勢を学んだ。後に自分自身が品質保証部門に異動した時に、基本理念となった。

セットメーカと部品メーカは、利益対立する存在ではない。顧客の顧客まで品質保証する、運命共同体だ。
セットメーカは、部品メーカを守る気概を持たねばならない。
部品メーカは、セットメーカを支える気概を持たねばならない。


このコラムは、2015年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第449号に掲載した記事に加筆しました。

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ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」

 ホンダが29日発表した2015年4~12月期の連結決算(国際会計基準)は、営業利益が前年同期比3%減の5672億円だった。同日の会見で竹内弘平取締役常務執行役員は「本業は改善したがタカタ(のリコール費用)が全て消してしまった」と述べた。主なやり取りは以下の通り。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 ホンダの役員の発言「本業の改善、タカタが全て消した」をあなたはどうお感じになるだろうか?

私はホンダファンであり、今まで所有して来た車は1台を除いて全てホンダ車だ。先週もホンダのF1復帰にエールを送るコラムを書いたばかりだ。しかし日経新聞に取り上げられた竹内氏のコメントはいただけない。経営者として、業績の善し悪しを「他責」にすべきではない。他責にすれば単なる言い訳だ。

リコール費用がなければ増益だったはずだ、などと言っても何も生まれない。
リコールの責任はあくまでも自分たちにあるはずだ。直接的にはエアバックの不良であっても、それを採用したのは自分たちであり、顧客に販売したのも自分たちだ。

タカタは、異業種から自動車部品に参入し、自社の従来技術を使ってシートベルトを生産していた。ホンダがエアバックの開発を依頼したと聞いている。

ホンダには二重の意味で「自責」が有ったはずだ。

一方でタカタにも当然「自責」がある。
エアバックの開発技術、信頼性技術が不足していたことは否めない。
一番大きな責任は、経営判断だろう。
元々織物メーカとして創業している。織物の技術(生産設備も転用できた?)を使ってシートベルトを生産。自動車業界に参入。同じ自動車業界向けにチャイルドシートなどの新商品を投入。更にエアバックを投入。この時点で新規技術(エアバックの起爆)を開発している。

同じ技術で新規市場を開拓し、開拓した市場に製品のラインアップを増やす、その後同じ市場に対し新規技術で新製品を投入、と言う順序で定石通りに規模を大きくして来た様に見える。

会社を大きくしない「年輪経営」で成功している伊那食品工業の様な例もあるが、資本主義社会のルールは規模を追求し業績を上げることだろう。規模の拡大を急ぐあまり、新規技術の検証がおろそかになっていたのではないだろうか?経営者の判断と決断の責任は重い。

「リストラなしの『年輪経営』」塚越寛著


このコラムは、2016年2月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第461号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ホンダF1復帰

 ホンダのF1復帰1年目の成績は、19戦0勝だったそうだ。
マクラーレンにホンダエンジンを提供して1年戦ったが、1勝も出来なかった。F1レーシングカーのエンジンは、市販車のエンジンとは全く異質なモノの様だ。異質と言ったのは、エンジンの構造やメカニズムだけではなく、開発の方法も、段階も異質と言う意味だ。市販車のエンジンは、量産の段階にあり、設計変更は、よほどの事がない限り発生しない。試作段階で設計は完了しているはずだ。
しかしF1レーシングカーは、レースのたびに改良が繰り返されている。レースの結果を見て、次のレースまでにチューニングされる。従って、試作研究段階のエンジンと言った方が良いだろう。
時間が足りないので、大掛かりな設計変更は不可能だ。基本設計を変えずに、小変更で性能を上げて行く。この繰り返しを毎週やる。

F1総責任者の新井氏は、この状態を「夏休みの最後の日のような濃縮した時間がずっと続く厳しい環境」と表現している。帰宅できない日が何日も続く。24hrs、7daysの仕事が続き家族と一緒に食事をしたのがいつだったか思い出せない。こういう環境を地獄と思っていない人が本物のエンジニアだ(笑)
ついでに言っておくと、暇な時にもとんでもないアイディアを実証するために、コソコソと実験室にこもっているのが、神級のエンジニアだ。

「ワークライフバランス」と言う言葉が軽薄に見えてしまう。
本物のエンジニアたちは、適当なところでバランスをとるのではなく、もっと突き抜けたところに使命感や喜びを見いだしている。

F1と言う「祭り」がこういうモチベーションを引き出す効果を持っている。
つまり日々の業務「日常」の中に「祭」を持ち込むことによりメンバーの結束力や、やる気を高める。このような企業文化がホンダの中には「楽しい事をやろう」という合言葉で組織に浸透している。

ホンダに勤めている私の後輩は以前ソーラーカー開発プロジェクトに参加し、オーストラリアのレースにも参戦してきた。このようなプロジェクトが起きると、俺もやりたいと手を上げ職場を離れてプロジェクトに参加できる。

このプロジェクトで得られた技術も次世代環境対応車に活かされるのではないだろうか。
基礎研究を「コツコツ」やるのではなく、「祭」に仕立て上げて楽しくやる。技術の蓄積だけではなく、こういう企業文化の側面からの効果も大きい。これが企業のブランドになるはずだ。

花王の元会長常磐文克氏は。この「祭り」を「コトづくり」と言っておられる。

  • 刃先の幅が0.005mmで、溝入れが0.03mm間隔で可能という世界一幅の細い超精密切削工具(アライドマテリアル)
  • 一辺が0.3mmの世界最小の真鍮製サイコロ(入曽精密)
  • 厚さ0.05mmのアルミ板に、直径0.008mmの穴を連続45箇所開ける技術(田中製作所)
  • 電子回路を金型とインクジェットシステムで作る技術(クラスターテクノロジー)

これらの会社に共通しているのは、精密加工の切削成型、研磨、溶接などそれぞれの分野で世界一小さい、軽い、細い、薄い、……に挑戦する“コト”をモノ造りの中心におき、職人や技術者を勇気付け、鼓舞していることである。

「コトづくりのちから」常盤文克著


このコラムは、2016年1月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第460号に掲載した記事です。

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道を謀りて食を謀らず

yuējūnmóu(1)dàomóushígēngněi(2)zàizhōngxué(3)zàizhōngjūnyōudàoyōupín

《论语》卫灵公第十五-32

(1)谋:苦労して求める
(2)馁:飢える
(3)禄:官吏として俸禄を得る

素読文:
子曰く:“君子はみちはかりて食を謀らず。たがやすや、うえそのうちに在り。まなぶや、ろくそのうちに在り。君子は道をうれえてひんうれえず。”

解釈:
子曰く:“君子は道を追究するが、食は追求しない。食うために田を耕す者も飢えることはある。学べば禄を得ることもある。君子は道を修められないことを憂うが食を得られないことは憂えない”

道を謀るというのは、ただ知識を蓄えることではなく、得た知識を活用すること。行動があれば成果はあります。