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列車逆走事故

 メールマガジン829号「失敗から学ぶ:列車の制御、新時代へ」で鉄道の自動運転システムをご紹介した。
「列車の制御、新時代へ」

その後間もなく自動運転の列車事故が発生した。
「逆走列車側に不具合か 「駅の合図は正常」 横浜の事故」(朝日新聞ディジタル)

記事によると「シーサイドライン」の車両が終着駅・新杉田駅で進行方向とは逆向きに走り出し、車止めに激突。乗客14人が重軽傷を負った。

その後の調査が以下のように報道されている。
運行制御装置側には問題が見つかっていない。
列車の電気系統の断線により方向転換の指示が伝わらず、逆走した。

新聞記事から判断すると、
駅側の制御装置と列車の制御装置間の通信には問題はなかった。
列車の制御装置と駆動機器間に断線があり、方向転換がなされず逆向きに走行。

「逆走、電気系統に断線 指示、伝わらず シーサイドライン」(朝日新聞ディジタル)

このようなシステムを設計する場合、中央制御装置と列車制御装置間の通信は司令/確認のプロトコルを入れるはずだ。例えて言うと、中央指令室の運行管理官と運転手の間で司令と確認が交わされるのと同様のやりとりが、中央と列車の制御装置間で行われているはずだ。
このプロトコルが成立しない場合(中央から走行方向切り替えの指示に対して確認の応答がない)安全側に動作するように設計する。

同様に制御装置と運行機器間でも双方向のやり取りがあるはずだ。
例えば加速の指示を出すとスピードメーターからのフィードバックが得られる。
今回の事故原因が「断線」によるものだとすると、モータの反転装置からのフィードバックがなくても正常と判断する「設計欠陥」があったはずだ。

自動機がある生産現場でも同様の問題がないか点検してみる必要があるだろう。
例えば非常停止ボタンを押した場合、安全に停止するかどうか。
→主電源を落としてしまうと危険な場合もありうる。

コンベアの駆動モータをオンにしたらコンベアが動いているか。
→なんらかの理由でコンベアが動かなければ、駆動モータが過熱し火災発生。

プレス機などのエリアセンサーが機能しているか。
→エリアセンサーの電源が入っていない場合安全側に動作するか。

シーサイドライン事故の記事を見た時に「サイバーテロ」が最初に思い浮かんだ。IOTにより我々の生活の利便性が格段に上がってる。しかしその裏でリスクも大きくなっていることを認識していなければならない。


このコラムは、2019年6月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第835号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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列車の制御、新時代へ

 以前メルマガに2007年に発生した「福知山線脱線事故」について書いた。
この事故以来ATS(自動停止システム)の導入が加速した。

5月26日付の朝日新聞に新しい列車制御システム・ATACSの記事が出ていた。
列車の制御、新時代へ 位置情報発信、車間保つ 路線データ搭載、脱線防ぐ

従来のATSは750mの閉塞区間に車両が1編成しか入らないように制御していた。
線路は全てつながっているように見えるが、実際には短い線路が1本ごとに電気的に結ばれている。これを750mを単位として閉塞区間が設けられ、車輪で左右の線路を短絡している区間に列車が存在している、と判断する仕組みとなっている。

この仕組みでも問題はないのだろうが、自動車を改造した工事用車両は左右の車輪間に導通がないので、ATSではどこにいるか見えない。都心の通勤時間帯の過密ダイヤでは750mに1編成では乗客輸送が間に合わない。

新たに導入されるシステムは「無線式列車制御システム」といい、位置情報を列車自らが無線で発信する方式のようだ。

しかし「なんとまぁ時代遅れな」という感想を禁じ得ない(笑)

自動車はGPSを頼りに無軌道で自動運転を模索する時代だ。
軌道上しか走らない鉄道の方が、自動運転に近いはずだ。自動運転となれば、運転手がミスを咎められることを恐れて過速度運転することもないはずだ。
乗用車事故が発生すれば数人から十数人の死傷者が発生する。それに対し列車事故が発生すれば数百人規模の死傷者が出る。慎重にならざるを得ないのは理解できる。

しかし過去の不幸な出来事を克服するのが、進歩だ。
我々の生産現場でも「前例がない」「リスクがある」などの言い訳で新しい事への挑戦を避けていないだろうか?前例がないから、画期的な進歩が得られる。リスクがあるなら、事前にリスクを洗い出し未然防止をする。

「失敗から学ぶ」とは失敗を恐れて身を縮めることではない。


このコラムは、2019年5月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第829号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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失敗から学ぶ:「最先端の植物工場 水も肥料も、工場おまかせ」

  • 今日の授業(24日)最先端の植物工場
     クルマの世界で注目される「自動運転技術」。農業の世界でも、誰がやっても高品質の野菜や果物が収穫できる技術の開発が進んでいます。○月△日に収穫したい――。あらかじめコンピューターに入力すれば、栽培管理はお任せの「植物工場」です。
  • 1日の誤差で収穫日指定
     千葉大学園芸学部(千葉県松戸市)の研究圃場(ほじょう)にある植物工場。鉄骨組みで、ガラス張りの建物が20棟近く並ぶ。天井のガラス越しに太陽光が降り注ぎ、トマトが赤く色づく。「工場」といわれるのはコンピューター制御で作業を省力化し、品質の良い作物を安定して収穫できるからだ。

     あちこちにあるセンサーで温度や湿度、日射量などを計測。それに基づいて冷暖房機や送風機が動き、水や肥料の供給、窓の開け閉めが自動で行われる。そうして最適な環境を維持し、光合成を促す。

(以下略)全文

(朝日新聞電子版より)

 前職時代に開発担当していたFAコンピュータは、温室栽培、酒造用のアプリケーションが有った。まさに上記の記事にある様な使い方を1980年代に提案していた。(私はハードウェア担当だったので、アプリケーションに関してはタッチしていなかったが)

「失敗から学ぶ」と言うタイトルなのに、過去の思い出か。とお叱りの声が聞こえてくる(笑)

上記記事の後半に、トマトの収穫後に完熟させる「青穫りトマト」に関する記述がある。完熟するまで圃場を占有しなければ、面積あたりの生産効率を改善出来る。または完熟するまでの時間を制御出来れば、出荷の平準化が可能になる。と言う着想が有ったが、研究に着手する余裕がなかったと言う。

そんな時に、具合よく(笑)卒論の研究が途中で頓挫してしまった学生がいた。彼に「青穫りトマト」の基礎研究として、圃場で完熟したトマトと収穫後完熟トマトの品質の違いを調査してもらった。この研究ならば、短期間で卒論をまとめられる。

研究の結果、ビタミンの一種、アスコルビン酸の含有量は、収穫後完熟トマト・圃場完熟トマトともにほぼ同じで、酸味と甘みのバランスも差がなかった。この研究成果が「青穫りトマト」研究スタートのきっかけとなったと言う。「失敗から学ぶ」と言うよりは、失敗が吉となった。瓢箪からコマ、怪我の功名とでも言う事例だ。

このコーナーの趣旨から言えば「失敗してもあきらめない」事例として考えていただきたい(笑)


このコラムは、2016年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第486号に掲載した記事に加筆しました。

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ボーイング737Max墜落事故

 3月10日エチオピア航空302便(737Max8)が離陸直後に墜落事故を起こした。乗客乗員157人全員が死亡。昨年10月29日にも、インドネシア・ライオン航空610便(737Max8)が墜落し、乗客乗員189人全員が死亡。両事故機は、離陸直後上昇中に何度も機首下げ動作を繰り返し墜落した。わずか5ヶ月弱の間に同様な事件が2件発生している。

公式事故原因はまだ発表されていないがAOAセンサー(仰角センサー)の出力に誤りがあり、失速回避のため機首下げ動作を繰り返したためと報道されている。巡航高度まで上昇中に機体が機首下げ動作をすれば、当然操縦士は機首上げ操作をする。コンピュータによる機首下げ動作と操縦士による機首上げ動作を繰り返した挙句に墜落した様だ。

巡航高度に達する前に上昇、下降を繰り返したわけだから乗客・乗員の恐怖は大変なものだっただろう。コックピットもこの様な状況で冷静に判断が出来たか疑問が残る。

この事故で思い出すのが、1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故だ。

「航空機事故から」

この事故は副操縦士の誤操作により、操作の矛盾が発生し自動操縦に切り替わった状態で着陸やり直しをしたため失速墜落している。

墜落機(エアバス)の設計思想は操作に矛盾があった場合、コンピュータ操作を優先する仕様になっていた。一方当時はボーイング社は操作に矛盾があると、人の操作を優先する設計思想だった。

失速の自動回避はコンピュータ優先にせざるを得ないのかもしれない。

事故原因はまだわからないが可能性を考えてみると、

  • AOAセンサーの故障
  • AOA警報システムのバグ
  • 操縦システムのバグ

が考えられるだろう。
ソフトウェア業界のには「バグはもう一つある」という格言(?)がある。検証・デバッグを繰り返してもまだバグは残っているという警句だ。

我々の製造現場でもIOTが進めば、システムの複雑度が上がりバグによる障害が発生する可能性が上がるだろう。

AOAセンサの点検整備が地上でできるのかどうか定かではないが、もし異常値を示す故障が発生した場合の検出方法を検討する必要がありそうだ。

世界中に737Maxは200機稼働しているという。各機が平均1日1往復フライトの稼働率だとすれば、半年で2回の事故は27ppmの事故発生率となる。家電製品に使われる電子部品の不良率であれば、許されるかもしれない。
運悪く不良品を購入してしまっても、新品と交換すれば済んでしまう事もある。
しかしたった2度の事故で300人以上の人命が失われている。27ppmの事故率でも許されない。


このコラムは、2019年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第799号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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管制官居眠り時、別管制室は無人

 那覇空港で9月、管制塔の管制官が居眠りをして全日空便と連絡が取れずに離着陸が遅れた問題で、同じ時間帯に同空港にある別の着陸誘導用の管制室が一時、無人になっていたことがわかった。

 国土交通省が30日にまとめた調査報告で明らかにした。同省によると、9月13日未明の着陸誘導用の管制室には管制官2人が配置されていた。しかし、午前3時16分ごろ、別の管制施設から管制塔の管制官に連絡をしたところ、管制官が居眠りをしていて連絡がつかなかった。そこで同22分ごろに着陸誘導用の管制室に電話をかけたが、こちらも誰も出なかったという。

 国交省の調べに1人は「別の事務室にいた」。もう1人は「トイレではずした可能性が高い」と話したという。同省によると、午前3時台の着陸便は2機あった。同省は「2人勤務が基本なので、今後は徹底したい」としている。

(asahi.conより)

 別の記事によると,女性管制官(妊娠中)は別室で休憩,となっていた.居眠りをしていた男性管制官の気遣いにより休憩していたそうだ.

部下を思いやる気持ちは重要だが,自らの職務の重要性に対する認識はもっと重要だ.仕事に対する使命感が不足しているから,勤務中に居眠りをすることになる.
中途半端な優しさは,部下の仕事に対する使命感をスポイルすることもある.

今回の問題は,妊婦を深夜3時からの勤務にシフト配置したところにあるのではないだろうか.組織そのものが職務の使命,重要性をきちんと認識していれば,そのような時間帯に妊婦を勤務させないだろう.

妊娠・出産という仕事は男性には肩代わりできない.
子供は人類の未来だ.女性は,人類の未来そのものを身ごもり,産み落としている.
女性を尊重し,妊婦を守ることは人類に課せられた任務だ.当然社会・組織もその責任を負うている.

妊婦の体の負担を軽くしてやる.しかしそれは,職務をいい加減にして良いというわけではない.ただの優しさは,仕事に対する責任感と誇りをスポイルすることになる.


このコラムは、2011年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第225号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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「ヒヤリハット手帳」を作成、ミスを最大限防ぐ

 仕事のミスは防ぐべきものだが、気の緩みや勘違いなどで、思わぬミスをしてしまうことはよくある。そんなミスにすぐ気づき、「ヒヤリとする」「ハッとする」。そこまではいい。問題はその後だ。小さなミスをしたあなたは、ホッと胸をなで下ろして、やり過ごしていないだろうか。やってしまったミスと正しく向き合い、その後のミスを防ぐ方法を紹介する。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 記事は「ヒヤリハット」を個人資産として手帳に蓄積しよう、と言う趣旨だ。
私は「ヒヤリハット」を組織資産として蓄積活用することを推奨している。

「ヒヤリハット」と言うと、ハインリッヒの法則を想起される方が多いだろう。労働災害を調査したところ、1件の重大事故の背後には29件の軽事故が発生しており、300件のヒヤリハットが発生している、という経験則を見つけている。これがハインリッヒの法則だ。

ヒヤリハットをなくすことで重大事故を防ごうと言うのが、災害防止の考え方だ。災害防止と同様に、ヒヤリハットをなくすことで顧客クレームも予防出来ると考えられる。

例えば、作業員が生産中の製品がいつもと違うと言う違和感を持った。それを班長に告げたところ、製造ミスに気が付き全数修復した。もしこの作業員が気が付かなかったら、もしくは気が付いても何も言わなかったら、大量の不良が客先に流出するところだった。
この話は実際にあった例で、この作業員には報奨金が与えられた。詳細は記憶にないが、当時にしては破格の金額だった。

設計でも同じ様なことは有る。検図や設計レビューで気が付けば良いが、生産開始後に気が付くと、相当な損失となる。金額だけではなく、製品リリースが遅れる事が致命傷となることも有る。

この様なヒヤリハット体験を、組織の知恵として蓄積する仕組みを持つ。この仕組みが機能する為には、まずはミスを隠さない組織文化が必要だ。

前職時代には、過去数年間の設計ミス事例を洗い出し、1項目1ページの定型レポートを作った。このレポートを分析し、設計レビューチェックリストを作成した。設計完了後、設計者自身でチェックをし、チームリーダが設計者と面談で確認しながらダブルチェックをすると言う仕組みを作った。設計審査は、このチェックリストが完成しなければ開催出来ないルールとした。

このチェックリストを運用し始めてから、設計ミスは格段に減った。
実際には、チェックリストだけではなく計算機支援でデザインルールチェックも入れた。デザインルールは、上記の設計ミス事例集から抽出している。

プリント基板に後加工でパターンカットやジャンパ線を追加する事はほとんど無くなった。ほとんどと書いたのは、設計後仕様変更があり、プリント基板に後加工をする必要が発生する事が時々有ったからだ。(こちらは別の方法で削減しなければならない。)

しかし、チェックリストを作っても運用が形式的になれば効果は期待出来ない。ルールとは別に、チョットした仕掛けを入れた。
上述したチェックリスト運用ルール中のチームリーダとのダブルチェックは設計者に対する教育効果を狙っている。若手の設計者が、先輩の失敗と言う「財宝」から学ばなければ、それこそ宝の持ち腐れだ。

製造のミスも同様だ。工程内不良が事故に於けるヒヤリハットに当たる。
工程内不良の原因をしっかり分析し、再発防止をする。これを作業指示書に反映するとともに、次の機種の作業指示書には最初から再発防止を組み込むようにしておく。

このようにして組織でヒヤリハットを蓄積共有し、活用する事が重要だと思っている。特にこれからの中国でのモノ造りは、単純に製造部門だけのモノ造りでは無くなって来る。工程設計、製品設計も中国でやる様になるだろう。この様な考え方を導入しておかねばならない。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線再発防止対策

 先週のニュースからに、京浜東北線で発生した工事用車両と回送列車の衝突脱線事故をご紹介した。

同様の事故は

  • 1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも発生。作業員5人が死亡。
  • 2003年10月、JR京浜東北線の大森─大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。

このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。典型的な「うっかりミス」による慢性的再発問題だ。再発防止対策が有効ではないため、期間をあけて慢性的に再発することになる。

この事故に対する有効な再発防止対策を検討する事を、先週のメルマガで読者の皆様に提案をした。お考えになっただろうか?残念ながら私に対策をメールして下さった読者様はお一人しか居なかった。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。
  • 工事用車両は車輪に非電導ため自動列車制御装置(ATC)が効かない。(ATCシステムは左右の線路を電気的に短絡することにより、車両の位置を750m間隔で確かめることができる)

この条件で、再発防止対策を考えてみよう。

このような問題が発生すると、一番気の毒なのは下請け業者だ。
事故で亡くなるのは下請け業者の社員であり、事故によってその下請け業者は指名業者から外されたり、一定期間出入り禁止となったりする。その結果倒産廃業となる事もあるだろう。
国鉄時代からの風習で下請け業者は、お上には逆らえないと言う体質が受継がれている様に思う。

以前の事故に伴い「点検を厳格にする」と言う対策をとってもJR職員は現場にすら居なかったと報道されている。

「うっかりミス」がきちんと防げないのは、なぜうっかりしてしてしまうのかにメスを入れずに、単純に点検を厳格にするなどとするからだ。うっかり点検を忘れる、と言うミスもあり得るはずだ。

点検で「うっかりミス」を防ぐためには、点検動作をしなければ、次の工程に進まない様にするくらいやらねば有効とは言えない。

本事例には上手く適合出来ないかも知れないが、一世代前のボーイング社の旅客機の扉には「うっかりミス」防止対策がしてあった。(先週乗ったB787にはこの仕掛けがなくなっていた)

航空機の扉は、着陸後開ける時にマニュアルモードにしなければならない。オートモードのまま扉を開けると、脱出用シュートが出てしまうからだ。そして離陸する前に扉を「うっかり」マニュアルモードのまま締めてしまうと非常事態の時に扉を開けても脱出シュートが出ない。
マニュアル・オートの切り替えをうっかり忘れない様に、扉の開閉レバーを操作する時に必ずマニュアル・オート切り替えレバーに付いているピンを抜く動作が必要になっている。こういう仕組みが点検動作による「うっかりミス」防止だ。製造現場では「ポカよけ」と呼んでいる。
ただ点検を厳格にすると言っても有効とは言えない。

しかし本事例の本質的対策は、点検ではない。ATCを有効にすれば良いのだ。トラックを改造した工事用車両だから、左右の車輪間で電気的導通がない、だからATCが効かない。その通りだろう。しかしATCが効かない理由を考えても意味はない。ATCさえ効けば、今あるシステムで衝突回避は出来るはずだ。

トラックのタイヤのままでは、左右の車輪で導通を取るのは難しいだろう。
しかしタイヤは、鉄道用の車輪に変更されている。チョットした工夫で左右の車輪の導通が取れ、ATCのシステムが働くはずだ。

※上海のN様の再発防止対策。
ポイントは「下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した」という部分かなと思いました。

つまり、「うっかり手順を間違えてしまった場合」でも事故が起きないような対策を取る事がポイントです。なぜなら「下請け業者」というのは自社ではないので、場合によって変わる可能性があります。

現下請け業者へ対策を講じても、何かの原因で下請け業者が変わってしまい、仮に今回の事故の教訓が伝わらないようなことがあれば再び事故が起きてしまうからです。

私が注目したのは、「ATC」です。本来ATCはうっかり手順を間違えた時に作動する装置のはずです。それが工事用の車両だけ対象外になっていることが問題だと感じました。

「ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外」
この対象外を対象内にする改良を加える事を義務化すると再発防止に繋がるのではと思いました。

満点をさし上げてよい回答だと思う。
私も(多分)N様もJRの仕事をした事はないので、ピントがずれているかも知れないが、今あるシステムで上手く行く方法を考えるのが良いと思う。
問題が発生するたびに個別に対応する再発防止対策を考えると、再発防止対策だらけとなり、管理しきれなくなる。例外処理を作らない様に再発防止を考えるのが肝要だ。


このコラムは、2014年3月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第352号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線、現場の線路閉鎖されず 工事手順ミスか

 JR東によると、線路内での作業は「線路閉鎖」の後で始める手順だった。現場の「閉鎖責任者」の端末から、JRのシステムを経由して運転席に停止信号を送る仕組みだ。閉鎖されれば電車は減速し、現場の手前で止まる。だが京浜東北線の北行きは事故当時、線路閉鎖に向けた確認作業中。乗客がいれば大惨事につながった可能性がある。

京浜東北線の回送電車が横転 川崎で進入の作業車と衝突

 回送電車は横浜市のJR桜木町駅で乗客を降ろし、東京都大田区の蒲田駅に向かっていた。一方、工事用車両(全長5・1メートル、幅2・5メートル、重さ9・5トン)はガソリンを動力に、単体で動く。川崎駅の東側から西側へ、順に東海道線の下り(南向き)と上り(北向き)、京浜東北線の南行きの各線路を閉鎖して横断。同線北行き線路上で、車輪走行の準備をしていた。

 JR東は「本来は工事管理者から、工事用車両の運転手に作業開始の指示があるはずだが、その有無は確認中」としている。

 同様の事故は1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも起き、回送電車にはねられた作業員5人が死亡。2003年10月にはJR京浜東北線の大森―大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。

 今回、電車は自動列車制御装置(ATC)も搭載していた。電車間の位置を検知し、後続列車が停止する仕組みだが、ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外という。

 鉄道アナリストの川島令三さんは「現場に業者をチェックするJR東の担当者が不在なのは問題。コスト削減のためか現場を業者任せにする態勢が続いている。業者への指導にも責任がある」と指摘する。

(朝日新聞デジタルより)

 東急東横線の追突事故に引き続きJR東日本でも衝突事故を起こしている。
乗客が乗っていない車両の事故だったのが、不幸中の幸いだった。しかし反対側に脱線していれば、乗客を乗せた列車と衝突した可能性もある。

工事用車両と言うのは、小型トラックを線路を走らせるためにタイヤをレール用の車輪に交換した改造車の事だろう。

日経新聞の記事も合わせ読むと、事故発生の状況は以下の通りだった様だ。

工事用車両の男性運転手(43)が神奈川県警の聴取に「作業時間を間違え、閉鎖される前の線路に車をのせてしまった」と話している。
事故当時、工事管理者(JR職員)らは現場近くで打ち合わせをしていた。
工事管理者らは、JR東日本の調べに「作業開始の指示は出していない」と説明している。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。

と言うことになろうか?

国交省は、緊急対策会議を招集している。

さてこのメルマガを読んでおられる読者様は、この事故に対してどのような再発防止対策を取ったら良いとお考えだろうか?
本業と関係なくても、この様な人為ミスに対しどう再発防止を立てるか、思考訓練のために考えてみていただきたい。
お考えになった事故再発防止対策をぜひ教えていただきたい。このメールにご返信いただければ、私に届く。

私の再発防止対策は来週のメルマガで発表する。


このコラムは、2014年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第351号に掲載した記事に加筆しました。

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検査不正

スバルは28日、自動車の性能を出荷前に確かめる検査での不正が、ブレーキやステアリング(ハンドル)をめぐって新たに見つかったと発表した。これまでの不正は排ガスや燃費で判明していた。車メーカーではさまざまな検査不正が相次ぐが、安全性能での不正発覚はスバルが初めて。

(朝日新聞より)

社外弁護士による調査で新たに分かったことは以下の2点だ。

  • フットブレーキの制動力を検査しなければならないのに、サイドブレーキを併用して検査した。
  • ハンドルの操舵角が検査規格に入らないので、タイヤや車体を押して検査合格となるようにした。

私は日本自動車業界の品質を信頼していた。しかし業界の闇は深いようだ。

新たな検査不正発覚でスバル中村社長が謝罪会見を行っている。
会見の中で「再検査のためのリコールは行わない」と明言している。その根拠として以下のように説明している。

  1. 道路運送車両法の保安基準には違反しておらず安全性能には問題ない。
  2. ブレーキなどの性能は、「全数検査」の後に別途行う「抜き取り検査」で確認している。

スバルという会社は品質管理、品質保証とは何かを理解しているだろうか?
出荷時の性能が市場で使用される期間変わらないことはあり得ない。そのため保安基準より厳しい出荷基準を設定しているのではないか?
抜き取り検査とは、工程内検査を含む品質管理が正しく行われていることを確認するための品質保証行為だ。工程内の全数検査で不正検査が行われていたのに抜き取り検査で品質をどう保証するというのだろうか?

なぜこのような不正が横行するのか、もっと冷静に分析をしなければならない。

  • ブレーキ制動力の検査規格は、保安基準より厳しく設定されており安全上の問題はないと製造現場が判断している。
  • 制動力検査不合格となるとタイヤを外しブレーキ部品の再調整が必要となり製造現場が混乱する。
  • 操舵角の精度に対する工程能力が不足しており、検査後の調整が常態化していた。
  • 最大操舵角の足りなくても事故に至ることはない、という認識が現場にある。

などの背景があったのではなかろうか?
だから検査不正をしても良いというわけではない。検査をごまかすのではなく、社内検査基準が厳しすぎるのであれば、適正な検査基準に変更すべきだ。または設計改善・工程改善により工程能力を改善すべきだ。

完成車メーカは、下請け業者に納品品質不良を0ppmせよと指導していると聞く。
車や人の安全を守るという自動車業界の理念と理解している。高邁な理念は、この様な不祥事により完成車メーカの下請けいじめに堕落する。


このコラムは、2018年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第727号に掲載した記事に加筆しました。

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大型クレーン車横転

 先週の失敗から学ぶで「神戸製鋼所データ改ざん」を考えてみたが、今週も神戸製鋼所グループ企業の事故事例だ。

「神戸製鋼でクレーン倒れる 1人死亡、3人けが」

 26日午後4時ごろ、兵庫県高砂市荒井町新浜2丁目の神戸製鋼所高砂製作所で、作業員から「クレーンが倒れ、けが人がでている」と高砂市消防本部に119番通報があった。
(中略)
 倒れたのは、神戸製鋼所の関連会社「コベルコ建機」(本社・東京)が製造した移動式大型クレーン。同社が敷地内にある試験場に持ち込んで性能のテストをしていたところ、クレーンが折れて倒れ、近くにあった建物の一部も壊したという。

(朝日新聞より)

 他のニュースも併せて考えると、事故は以下のように発生したようだ。
クレーンはアームを伸ばすと長さは最大約200メートル。最大つり上げ能力は1,250トンあり、事故時は性能テストを行っており、約130トンの重りを下げて旋回していた。2名の作業員が事故に巻き込まれ死亡している。

事故原因はまだ判明していないが、アームが根元から折れ複数箇所でバラバラになっていたようだ。クレーンアームの材料強度が不足していた、設計強度が足りたかった、製造過程のミス、の可能性が考えられる。

該当のコベルコ建機は以前、
クレーン・フォークリフトの分解整備を無認証の工場で行う。
クレーン・フォークリフトの技能講習を時間短縮して実施。
という不正が見つかり、監督官庁から指導・処分が行われたこともある。

先週のメルマガでは、神戸製鋼所のデータ改ざんは「川上企業のおごり」だと論じたが、コベルコ建材は同じ神戸製鋼グループではあるが川上産業ではない。しかし大きな企業グループの一員であるという傲りが有ったのではなかろうか?
「誇り」と「傲り」は一音違うだけであり、表と裏のような関係だ。企業文化根底に「誇り」があるのと「傲り」があるのでは、全く違ってしまう。

ちょうど池井戸潤「空飛ぶタイヤ」を読んでおり、このニュースを見てそんな感想を持った。


このコラムは、2018年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第700号に掲載した記事に加筆しました。

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