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失敗事例

 失敗を失敗に終わらせない。他人の失敗をも経験値として共有し、失敗を未然防止する。そのために失敗原因を特定し、その対策を考え設計や製造法を改善する。そんな目的で毎週このコラムを書いている。

また失敗原因を特定するためには、故障メカニズムや信頼性技術の探究も必要となる。そのために信頼性技術に関わるコラムをホームページに公開している。

例えば半田結合点の信頼性問題や、メッキ処理で発生する水素脆性破壊、電解コンデンサの電解液による発煙事故、電解液の模倣で発生した電解コンデンサ不良、などなど過去の問題を書き留めてある。

例えば電気・電子製品に使われる難燃剤は過去から形を変えて何度も火災事故の原因となっている。
そのような事例を共有する目的で、私自身が経験したことや、間接的な見聞を掲載している。

上記のリンクをアクセスしていただければ、それらのコラムは自由に閲覧できる。

先日ボランティアで活動している東莞和僑会の運営メンバーのミーティングでWeb交流会(月一回金曜日の午前中に開催しているオンライン勉強会)で、信頼性技術に関わる話をせよと白羽の矢を当てられてた。提案者は私のコラムの熱心な読者でありすっかいおだてられ、矢は私の背中に相当深く刺さってしまったようで、断りきれなかった(笑)


このコラムは、2021年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1168号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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タイヤ直撃事故 ボルトすべて破断、一部は以前から?

 東名高速の吉田インターチェンジ付近で11日午前に起きたタイヤ脱落事故。トラックにタイヤを固定するボルト8本はすべて破断し、うち2本の破断面にはさびが付いていた。専門家は、2本は事故以前から折れていて、残ったボルトに過大な力がかかった可能性があるとみている。

(asahi.comより)

脱落したタイヤが対向車線に飛び出してバスの運転台に激突し運転手さんが亡くなっている。大変気の毒な事件である。

トラックの運転手は始業点検をきちんとしていたのだろうか?
そして運送会社はどのように始業点検を指導していたのだろうか?

タイヤを固定するボルト2本は破断面に錆が発生していたというのであれば、始業時、休憩時の点検で見つかったはずである。ナットの頭をハンマーでたたいてみれば異変に気が付いていたはずだ。

運転手は、顧客と会社の財産を安全に運行する義務、自分自身と社会に対して身体人命の安全を図る義務がある。
また会社も同様に、顧客の財産を守る義務、従業員とその家族の生活を守る義務、社会に対する安全義務がある。
日常点検という作業がこれらの義務から発生しており、重要な予防保全活動であることをきちんと認知をする必要がある。

あなたの工場でも日常点検作業が確実に行われなかったときのリスクをきちんと評価して、従業員に再度徹底してみてはいかがだろうか。

ところで金属破断はそのメカニズムによって破断面が大きく異なる。
最初に折れていた2本のボルトは、長期間にわたって「疲労破壊」をしたものと推定できる。この場合破断表面は滑らかな表面になる。
一方最後に折れたボルトは、本来8本に分散していた荷重が1本に集中したため、過大な荷重に耐えられず破断したはずである。この場合のは断面は荒れたものになる。


このコラムは、2008年4月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第29号に掲載した記事です。

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介護用電動ベッドから出火?

介護用電動ベッドから出火? 83歳女性重傷

 29日午前5時ごろ、横浜市磯子区滝頭2丁目、無職神鳥ハナイさん(83)方の介護用電動ベッド付近から出火。ベッドに寝ていた神鳥さんが下半身に大やけどを負った。

(asahi.comより)

写真を見るとベッドの下半分が焼失している。
記事には出火原因は書いていなかったが、出火原因を推定してみる。

・モータのレアショートによる過電流。過熱→出火
・AC電源取り入れ部分の接触不良によりスパーク発生。付近の可燃物から出火
・タバコ火による失火

現場検証によりベッド下のモータ付近からの出火と推定しているので、「たばこ火」は否定されるが考えうる原因を全て挙げる。
モータのレアショートに関しても駆動回路に過電流保護があるからと簡単に消去しない。
過電流保護回路も何らかの理由により失効する可能性はあるからだ。

こうして列挙した故障モードを自社製品に当てはめてみる。
これらの潜在故障モードの影響を検討し、対策ができているかどうか検証する。

このようによそで発生した不具合事例から自社製品の「不具合未然防止対策」を検討する。
不具合が発生した時に「再発防止対策」を検討するのは当たり前だが、このようにまだ発生していない不具合に対する予防処置ができれば要らない「授業料」を支払わずに済む。


このコラムは、2007年12月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第14号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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レンジから火花、犯人はゴキブリ 掃除で製品事故防止

 火花が出たオーブンレンジの中からゴキブリ4匹の死体が――。製品評価技術基盤機構(NITE)の製品事故の調査で、小動物がしばしば“犯人”とされている。

 「電気炊飯器が過熱して煙が出た」「電子レンジの電源が勝手に入った」。これらの原因は、製品内に入り込んだゴキブリやそのフンが基板に触れたことだった。

 他にも、ネズミがかじって冷蔵庫のコードから火が出たり、エアコンの室外機やパソコンの中にムカデが入ったり。彼らがよく出没する台所などは掃除して清潔に。

(asahi.comより)

 笑い話のようだが昆虫や小動物による被害は結構ある。
私は以前サラリーマンだったころ電源装置を作っていた。お客様(PCメーカ)から黒焦げになった電源装置を返却され、原因の調査を依頼された事がある。

エンドユーザ様からのクレームで、長期休暇の後電源を入れたらPC本体から異臭と煙が上がったという。電源装置の中を開けてみると、プリント基板のパターン面が焼けて殆ど炭化していた。中から黒焦げになった巨大なゴキブリが出てきた。

デスクトップPCの電源はPCがオフの時にも動作し続けている。
PC本体についている起動スイッチは電源スイッチではなく、CPUに起動の割り込みを入れるためのスイッチだ。このスイッチが押されたことを検出するために、PCがオフの時にも5Vの出力だけ供給し続けている。

僅かな電力だが、スイッチング電源は動作しており内部の電圧は400V以上になっている部分がある。この電圧に感電死したゴキブリが原因で発火したと推定した。

当然推定だけではお客様に信じていただけないので、実証実験をした。
事業部のメンバー全員に同報メールを流し、生きたゴキブリを捕獲してくるよう依頼した。さすがにすぐには集まらなかった。数日して知り合いのレストランから貰ってきた(苦笑)というゴキブリが手に入った。

早速スイッチング電源と同じ電圧のパターンの上をゴキブリに歩いてもらった。何度か繰り返すうちに、感電して死んでしまうゴキブリを観察する事が出来た。
ゴキブリは感電死した後も体内に電流が流れ続け、湯気のようなモノが立ち上がる。その後徐々に炭化してゆく事が分かった。

連休中PCがオフになっており、電源のファンが回っていない。
ファンの風孔からゴキブリが侵入。電源装置は動作しているので僅かながら暖かい。暖かいところを求めてさまよっていたゴキブリが内部の高電圧に触れ感電死、徐々にゴキブリ体内の水分が蒸発してしまい炭化してゆく。
そして連休明けにオフィスに戻ってきた人間がPCを立ち上げる。
電源の冷却ファンが回りだし新鮮な空気(酸素)が大量に供給され一気に発火、発煙にいたった。

実験結果からこんな「推理小説まがい」の不具合解析報告書を書き上げお客様に提出した。

しかしこの対策に困ってしまった。
世の中にはゴキブリが寄り付かないプリント基板が存在する。
家電メーカ系列のプリント基板業者がゴキブリが寄り付かないプリント基板を商品化している。昆虫の生態学者かと思われるほどの知識を持った営業マンに色々教えていただいた。

ゴキブリが嫌う臭いを基板に印刷してある。この基板を使うとゴキブリが寄って来ないそうだ。
しかし普通のプリント基板よりもコストが高くなってしまう。
実はこのプリント基板業者の親会社も、一部の高級炊飯器にしか使っていないそうだ。

またゴキブリは温かいところが好きなので、常時通電しておくようなアプリケーションでは暖を求めてゴキブリが寄ってきてしまう。
ゴキブリは平たい隙間ならば難なくもぐりこんでしまうが、円形の孔に対しては体の幅以下の直径ならばもぐりこめない。

など教えてもらったゴキブリの習性から、冷却ファンの通風孔の形状を変更することにした。しかし出荷済み製品には適用できない。既出荷品に関しては長期休暇の間はコンセントを抜いておくように注意をしていただくことになった。

後にも先にもゴキブリによる電源装置の焼損事故はこれ一度きりだった。
当時品質保証を担当していた私は、こういう事故の調査解析が秘かな楽しみであった(笑)


このコラムは、2009年5月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第97号に掲載した記事に加筆しました。

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両エンジンとも脱落 回収急ぎ原因究明へ 

 【ニューヨーク=真鍋弘樹】USエアウェイズ機がニューヨークのハドソン川に不時着した事故で、米国家運輸安全委員会(NTSB)は16日、事故原因の調査を本格的に開始した。野鳥の衝突による事故とみられているが、エンジンは2基とも外れて水没していることが判明し、原因を特定する物証はまだ得られていない。
……
 両エンジンは、機体がハドソン川に不時着した際に脱落したとみられている。水中ソナーで沈んでいる位置を特定する作業を進める。エンジンを回収し、付着物のDNA分析をすることで、バードストライクの有無や、鳥の種類まで分かるという。

(asahi.comより)

エンジンが停止してしまった旅客機を155人の乗客乗務員誰一人犠牲者を出さずにハドソン川に不時着させたチェスリー・サレンバーガー機長はすごい奇跡を起こした英雄としてたたえられている。

別の記事には

「あの機長は男の中の男だ。事故後、フェリーターミナルに座り、何ごとも起きなかったかのように制帽をかぶってコーヒーをすすっていた」
救出後の機長を近くで見た警察官は、そう米メディアに語った。

と紹介されている。まるでアメリカ映画のような話だ。

まだ事故の原因は判明していないが、このバードストライクというのは何とかならないものだろうか。鳥が飛行機のエンジンに巻き込まれるのは、奇跡的な確率だろう。航空機の事故も車の事故と比較したら発生確率はうんと低いだろう。
しかし発生確率だけで考えてはいけない。

人命がかかっており、更に1回の事故での犠牲者が自動車事故の100倍もある。
「重大性」という概念からすれば、航空機事故の発生確率は自動車事故の1/100でなければならない。
人命がかかっているという事を考慮すれば、発生確率は限りなくゼロでなければならない。

私たちのように工場でモノ造りにかかわっている者も、業界の水準がこの程度だからと不良率という概念に甘えるのではなく。不良ゼロを目指すべきであろう。


このコラムは、2009年1月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第78号に掲載した記事です。

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生産委託先指導

 住友ゴム工業は30日、加古川工場(兵庫県加古川市)で生産する防舷材と、南アフリカ子会社で生産するタイヤにおいて、品質管理の不正があったと発表した。タイヤでは顧客仕様と異なる製品を最大40万本出荷していた。防舷材では定められたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータ変更を500物件(5389基)で行っていた。発覚後に社内で検証し、安全性には問題はないという。

 品質管理のばらつきや管理体制が孤立していたことで不正が発生したとしている。南ア子会社で1月に品質調査を実施したところ、不正が発覚。対象は2017年8月~21年5月までに出荷していたタイヤで、寸法や重量、剛性などの均一性、一部製品のビード部形状が顧客と取り決めた仕様と異なった状態で出荷していた。

 南ア子会社は、13年にアポロタイヤ南アフリカを買収して子会社化したため、品質管理をアポロ社のシステムのまま継続していた。今回対象の製品は南アフリカ製の新車向けへの供給分で、車両8万台分に相当する。

 防舷材は、港湾岸壁用ゴム防舷材で不正が発覚した。船舶接岸時に発生する防舷材の圧縮状態を再現して圧縮性能を確認する試験で、国際航路協会の定めたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータの変更を行っていた。同製品はハイブリッド事業本部が手がけており、同事業本部以外から品質チェックできる体制がなく、今回の不適切事案につながったとしている。

(YAHOOニュースより)

 なんともお粗末な事件だ。
南アフリカの子会社を買収する際に、社内の管理体制や品質保証システムを監査しなかったのだろうか?さらに買収後も現地のマネジメントのまま放置、ということのようだ。

買収した工場とは言え、自社工場と同等の品質管理システムを運用し、同等の品質水準を持たねばならない。加古川の自社工場ですら適切に管理できないのでは無理もないかもしれない。

前職時、電源装置の品質保証を担当していた時、生産コスト的に国内生産が維持できなくなり、マレーシア、中国、メキシコ、インドネシアに生産委託をしていた。インドネシア工場は自社の孫工場だったので、我々の生産技術・品賞メンバーが立ち上げからサポートした。

その他のマレーシア、中国(4社)、メキシコは事前に生産委託先の採用監査を行い。生産立ち上げの支援・初ロットの生産確認をし出荷可否を判定する。生産開始後も工程内品質の日報・週報の報告を受けるほか、年間計画を立てて委託先工場の指導訪問をしていた。

採用監査では、特殊工程に従事する従業員の教育・技能認定制度をはじめ、品質管理・保証の仕組み、実施状況、生産現場の管理状況まで監査して、生産委託先の採用可否を判断していた。
もちろん監査で見抜けず後で苦労したことはあったが、本日の事例のような事は採用監査時に採用可否判断できることだ。監査時に品質管理システムに不足があれば、生産開始前に補わなければならない。

たかだか単価3US$の電源ユニットでも、愚直に同様の品質保証体制を構築した。
当然コストもかかる。しかしこういう泥臭い努力を重ねた結果、中国の生産委託先工場で、新機種生産開始3ヶ月以内で直行率99.99%以上を達成することができた。上述の3US$の電源ユニットだ。かかった間接コストは、不良損失コストの削減でカバーできたはずだ。


このコラムは、2021年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1174号に掲載した記事に加筆しました。

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新規・珍奇技術

 以前ご紹介したプラスチック製インペラの燃料ポンプのリコールが拡大している。

「デンソーの燃料ポンプ」

通常はプラスチック材料をグリースなどの油脂が付着する環境では使用しない。ガソリンもプラスチック材料を侵し、膨潤、破断などの不具合を発生させる。
今回の回収の燃料ポンプはインペラに耐油脂製プラスチック材料の強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用している。ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有しガソリンが付着しても問題はないはずだ。だが、成形時の温度が低いと、樹脂密度が低くなりガソリンにより膨潤する。

市場不良発生により、初めてこの現象に気がついたというのではお粗末だ。当然新規材料なので分からなかったということはありうるだろう。

燃料ポンプに使用することを決定した時点で、使用環境で変形などの変化が発生しないことを確認すべきだ。なぜなら燃料ポンプのインペラに関して過去から、燃料ポンプの寸法制度、ゴミの巻き込みなどで回収騒ぎを起こして
いる。このことに着目すれば、「プラスチック・インペラの寸法精度」というキーワードが出てくるはずだ。もちろん加工精度には問題は無かろう。
しかし使用中の変動も考えるのが設計者の役割だ。

新規・珍奇技術を採用する時は十分な検討が必要だ。
新規技術を採用すれば、同業者の一歩前に出られる。この誘惑に勝つのは困難だろう。
珍奇技術を採用してしまうと業界標準とはならず、供給性や価格で不利になる。

しかしナーバスになるだけでは、競争力のある製品は作れない。事前に想定できる事態を列挙し、事前に対策することで問題を回避したい。

全日空系機長、客室乗務員らを操縦席に 操縦桿触らせる

 全日空グループのエアーセントラルの機長(51)が飛行中2度にわたり、客室乗務員ら計3人の女性を操縦席に座らせていたとして、国土交通省は4日、口頭で再発防止を指導した。うち2人は操縦桿(かん)も触っていたという。
同社は記者会見し「信じられない事態で遺憾」と謝罪した。

(asahi.comより)

 勉強のために運行支援者、客室乗務員を副機長席、機長席に座らせたという。
この機長さんは教官の資格を持っており、普段から教育熱心であったのだろう。
しかし乗員・乗客の生命安全、会社の資産安全に責任を持つ機長が規則に違反してまで行う行為ではない。

これをあなたの工場に当てはめて考えてみよう。OJT(現場教育)の名の下に未熟な作業者を工程に投入していないだろうか?
ライン外で十分に教育・訓練しても実ラインでのOJTは必ず必要である。
ライン外と違い実ラインでは、タクトタイムのプレッシャーの中で部材の欠品、不良の発生などなどさまざまな事が発生する。これらの実経験を経て一人前の作業者になる。

しかしお客様(または次工程)に対する品質責任はきちんと保証しなければならない。上記のニュースのような品質の危機が発生しないように手を打つ必要がある。

OJT期間中の作業者の作業品質をどう保証するか一度見直されてはどうだろうか。
事前のライン外教育・訓練の効果確認方法。ベテラン作業員とOJT作業員を組み合わせて作業品質を保証する。などいくつも考えるべきテーマがある。


このコラムは、2008年4月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第28号に掲載した記事に加筆しました。

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エレベーターに一時閉じ込め 中津駅、昨秋から6回目

 16日午後0時5分ごろ、大分県中津市のJR中津駅で、3階のホームと2階を結ぶ斜行型エレベーターが途中で止まり、60代の女性客が閉じ込められるトラブルがあった。女性は約30分後に救出され、けがはなかった。
JR九州大分支社が同日発表した。昨年9月の設置後、過去5回、乗客が閉じ込められるなどの故障があったという。

 同支社によると、故障したエレベーターは長さ約20メートルの斜行型(定員9人)で、階段横に設置している。女性1人が3階から乗り、数メートル下ったところで停止。エレベーターの異常を知らせるブザーなどで駅員が駆けつけ、約30分後に業者がドアを開けた。駅員らが階段から、
ガラス張りの同機の横で中の女性を励ましたという。

 過去5回の故障では、計6人の乗客が3~12分間閉じ込められた。
11月末の定期点検で異常はなかったが、12月12日にも同様の閉じ込め故障があり、部品を交換したばかりだったという。中津駅は今回の原因が判明するまで同機の使用を中止する。

(asahi.comより)

 私は中国のアパートで2度エレベータに閉じ込められたことがある。
しかしこのニュースは中国ではなく日本だ。15ヶ月の間に6度も同じような事故があるというのは、根本的な問題が未解決のままだということだろう。しかも定期点検後2週間で事故が発生している。点検方法にも問題があると考えた方がよさそうだ。

事故が発生した時は当然事故に対する処置は行われる。そして問題点の修復も行われたであろう。しかし再発防止が行われなかったのではなかろうか。

これは工場で生産した製品がお客様で不具合を起こしたときと同じだ。
以下の不具合に対する処置が必要だ。

  • 現品処置
     不具合発生現品に対して問題を収束させる。
  • 不具合の修復
     不良品を修理または交換し修復する。場合によっては問題が拡大しない様に同一ロット品に対し処置を行う。
  • 再発防止
     不具合の発生原因を突き止め、不具合が再発しないように対策を実施する。
  • 水平展開
     他機種でも同じ問題が発生する可能性があるか調査し、未然防止対策を実施する。

これらの一連の処置が終わって初めて不具合対応が収束する。

JRはこれらの処置をエレベータメーカに対してきちんと要求しなければならない。ただエレベータの保守要員が来てエレベータの中から人を救助しただけでは、上記の現品処置が行われただけだ。


このコラムは、2009年12月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第131号に掲載した記事に加筆しました。

当時エレベータに閉じ込められたのは2回だけでしたが、その後何度も閉じ込められ閉じ込められた回数をカウントするのをやめました(笑)

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水虫薬に睡眠剤誤混入

水虫薬の誤混入、健康被害113件に 交通事故も14件」

 福井県あわら市の製薬会社「小林化工」が製造した爪水虫などの皮膚病治療薬に睡眠導入剤の成分が混入していた問題で、健康被害を訴える人が、新たに29人増えて計113人(8日時点)となった。北海道から熊本県まで約20都道府県に及ぶという。福井県と同社が取材に明らかにした。同社によると、運転中に意識が薄れるなど服用の影響とみられる交通事故が14件あったという。

全文

(朝日新聞より)

 誤混入というより、間違った薬剤で水虫薬を生産したようだ。
本来主成分の「イトラコナゾール」を入れるところを睡眠導入剤を投入し錠剤を生産した。

睡眠導入剤を投入してしまった原因を、「作業員が勘違いで量ってはいけないものを量り、袋に入れた」と作業員の人為ミスと説明している。

しかし人為ミスを原因とすると「作業員に注意した」「作業員に再指導した」「ミスした作業員を解雇した」などという効果の期待できない再発防止対策しか出てこないだろう。

「なぜミスをしたか」を分析しなければならない。

  • 薬剤の瓶に名前ラベルがなかった。
  • 薬剤の瓶の名前ラベルが消えかかっており読みづらかった。
  • 配合指示書が間違っていた。
  • 配合指示書が読づらく読み間違えた。
  • イトラコナゾールと睡眠導入剤の保管棚が同じで取り間違えた。
  • 睡眠導入剤がイトラコナゾールの代用として使えると思った。
  • イトラコナゾールと睡眠導入剤がそばに置いてあり、間違って取った。
  • イトラコナゾールを正しく準備したが、別の調剤中の睡眠導入剤を配合した。
  • などなど

これはありえないだろうと思える原因もたくさん挙げる。
それぞれの原因を消滅される対策をする。

今回の原因ではないと思われる原因にも対策をする。
今回の問題は、運転中に眠くなったり、意識を失えば直ちに人身事故となる。過剰な対策と思えても実施すべきだ。

皆さんの仕事でも人為ミスで大きな事故が発生することもありうるだろう。事故が起きる前に対策を実施すれば問題は発生しない。
小林化工は取り返しの効かない問題を発生させてしまった。せめて我々はこの事故に学び未然防止をしたいものだ。

原稿を書き上げた後に、本件により死亡事故が発生したという報道があった。

『水虫薬の製造で「名ばかりチェック」 社長らの一問一答』

この記事により以下が明らかとなった。

  • 投入すべき薬剤と間違えて投入した薬剤は、形状の異なる容器に入っていた。
  • 薬剤の名称・ロット番号は容器に表示されていた。
  • ダブルチェックは名ばかりで機能していなかった。

社長が発言した「厳密なるチェックができなかった」の意味を問われ、社長は「最終試験」について述べている。記事からは読み取れないが、薬が完成後その成分分析をしなかったようだ。

医薬品業界の常識はわからないが、完成品の出荷検査はやらないのだろうか?

ダブルチェック記録、作業記録だけを品質管理の記録として品質保証するのは無理だろう。今回の事故は、製品ロットごとに成分分析を実施し出荷の可否を判定していれば防げたはずだ。


このコラムは、2020年12月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1072号に掲載した記事です。

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