タグ別アーカイブ: 失敗から学ぶ

失敗しないとダメ

――リチウムイオン電池の開発に入る前に三つの研究をしていた。その三つの失敗が成功につながった?

 「今日の講義の中でもその話をしました。失敗しないと絶対に成功はありませんよ、と。企業での基礎研究は、1人で2年くらいやる。見込みがあるかどうかみて、ないとなると次に行く。3番目までは見事に失敗しました。
4番目はリチウムイオン電池。それぞれ失敗した理由はある。失敗を生かした。失敗しないとダメだと思う」

朝日新聞より

 ノーベル賞受賞受賞決定後、名城大学で吉野彰教授が記念講義をされた。
その後の記者会見で上記のように答えておられる。

人は失敗しようとして失敗をしているわけではない。もちろん成功を目指している。当然未知のことに挑戦をしているのだから、失敗はする。しかしその失敗は成功するための失敗だ。失敗の原因を調べ再挑戦する。したがってこの失敗は成功のための失敗となる。つまり成功の過程にある失敗は、ほんとうの失敗ではなく、上手くゆかない方法の発見であり、成功への一歩だ。

本当の失敗とは、挑戦を諦めることである。


このコラムは、2019年11月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第901号に掲載した記事に加筆しました。

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無駄を許容する

 青森県沖で訓練中の航空自衛隊機が墜落した。メルマガ執筆時、パイロットは依然行方不明であり、事故原因も不明だ。「レーダーから機影が消えた」という報道があるが、ステルス機がレーダーで捕捉できるのだろうか?墜落の原因は何か?など知りたいことは多くあるが、軍用機なのでその性能や弱点などを含む情報が公開されることはないだろう。

今日は事故原因からではなく、別の角度でこの事故を考えて見たいと思う。

航空自衛隊は、次期防衛戦闘機としてF35を導入することを決めているようだ。すでに150機ほど納入済み(あるいは納入決定)らしい。保守・修理を考えれば、すべて同型機で揃えるのが常識だろう。

整備・修理用の保守部品、機材、修理・メンテナンス中の予備機などの準備は同一機で運用する方が経済効果が高いはずだ。更に整備・修理工やパイロットも単一機とした方が育成コストが安く済む。

しかしもう少し踏み込んで考えると、揃えた戦闘機に致命的な欠陥が発見されると、代替えで運用できる戦闘機は無くなる。過去のF15が再登板する事になれば、戦闘時に性能的に劣勢になるかもしれない。軍備は相手と拮抗している事により「抑止力」となる。明らかに劣勢であれば、捨て身で本当に戦うことになる。

これは工場も同じだろう。同型の設備に統一しておけば、保守・修理などの運用コストは抑えられるが、その設備に固有な致命的問題が発生すれば生産が止まってしまうリスクがある。

組織も同様だと思う。
アリは働き者だという認識が一般的だが、実は一定割合でサボるアリがいる、という研究結果がある。その不埒なアリを集団から排除してしまうと、別のアリが働かなくなり、怠け者のアリの比率は一定となるそうだ。

全てのアリが休む事なく働き続ければ、多くのアリが疲れ切り集団の存続が危うくなる。「種の保存」原理が働いているのではなかろうか?
人間も、効率ばかり優先する集団より、無駄を許容する集団の方が、生産性や創造性が高くなるのではなかろうか?


このコラムは、2019年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第810号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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オンライン点検

 「オンライン点検」などという言葉があるのかどうかわからない。
通常点検・メンテナンスは非稼働時に行われる。稼働中の設備を止めて、又は非稼働時を狙って点検を行い、必要があれば設備を止めてメンテナンスを行う。

以前JR西日本でのぞみ34号の台車に亀裂が入っているのにそのまま運行した重大インシデントについてメルマガに書いた。

メルマガ第607号:運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル

メルマガ第649号:のぞみ34号

メルマガ第652号:組織事故

この事故は、走行中に異常を感知しながら、運行を止めて点検する判断が出来なかったという問題だ。幸いにも何事もなかったが、一つ間違えれば大事故につながる重大インシデントだ。

直接のぞみ23号に関わる記事ではないが、JRは運行中に線路点検をしている、という記事を見つけた。

「鉄道の点検は列車にお任せ、首都圏でハイテク車両活躍中」(朝日デジタル)

運行車両にセンサーを取り付け、線路などの状況を運行中に監視するという。
通常は保線区の職員が、徒歩で線路の状態を点検する。ハイテク車両はレーザ照射、カメラなどの装備を備え、画像診断でレール、枕木、留め具などの異常を発見する。

新幹線でも「イエロードクター」という路線点検用列車が走っているそうだ。
記事のハイテク車両は営業運転中の車両に点検装備が積み込んであるので、リアルタイムで点検が可能になる。更にこういう仕組みがあると保線要員が歩き回る必要は無くなる。

同様の発想で、車両の各部にセンサーを貼り付け振動解析をすれば、今回重大インシデントとなった台車の亀裂は簡単に発見できるだろう。

工場の設備も同様のことができる。
ベテラン保全マンは、設備の稼働音を聞いただけで設備異常の兆候を察知する。このノウハウをセンサーと音声解析に落とし込むことで、故障する前に予防保全が可能になるはずだ。


このコラムは、2018年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第664号に掲載した記事に加筆したものです。

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朝日新聞ヘリの緊急着陸、部品の摩耗が原因 運輸安全委

 東京都健康長寿医療センター(板橋区)の敷地内にある空き地に4月、朝日新聞のヘリコプターが緊急着陸した原因について、運輸安全委員会は17日、「回転翼を操作するスイッチの部品が摩耗していて操縦に障害が生じた」とする調査報告書を公表した。

 報告書によると、ヘリは4月27日午後、取材から戻る途中に板橋区上空で操縦装置に不具合が生じた。機長は速度を上げようと、回転翼の傾きを操作する「コレクティブスティック」を引き上げようとしたが上がらず、空き地を見つけて着陸した。

 安全委がスティックの摩擦抵抗を緩めるスイッチ部分を調べたところ、ねじが緩んでがたついていた。このため、部品の一部が摩耗し、スイッチを最後まで押し込めない状態になっていたことが分かった。スイッチのねじ部分は覆いがあるため、「目視による点検は不可能だった」と指摘。メーカーに「材質を摩耗しにくいものに変えることが望ましい」とした。

 朝日新聞社広報部の話 予防的に緊急着陸しました。今後も安全運航に一層努めます。

朝日新聞ディジタルより

 私はヘリコプターのメカニズムに関しては,まったくの素人だ.従ってこのコラムは,ヘリコプターの事故を題材にした,メンテナンス,予防保全に関するコラムとして読んでいただきたい.

記事によれば,事故はネジの緩みにより部品が磨耗,コレクティブスティックが操作不能になったということのようだ.運輸安全委員会の報告書には,部品の耐摩耗性をあげることをメーカに推奨しているという.

しかし,部品の磨耗がネジの緩みにより発生したのならば,ここに対策を打たねば事故を未然に防ぐことは出来ないだろう.耐摩耗性の向上だけでは,延命になるだけだ.

常に振動がかかっている部分に使用されるネジは,点検増し締めが必要だ.
しかしこのネジは外部から目視不可能という.ネジの緩みがメンテナンス不良などの人為的原因により発生したのでなければ,ネジは点検増し締めが可能な構造にしなければならないだろう.

操縦不能によって発生するリスクは,乗客,乗務員の生命の危険だ.これはトップクラスのリスクであり,最優先で改善しなければならない.

4月の事故が12月に報告されたのでは,同型ヘリの他の機体に対して点検・予防保全をするのが手遅れになる.

工場の設備も同様だ.
万が一事故があったときは,リスク(生命財産への危険,生産継続への障害など)により優先度,緊急度を決定して,すぐにアクションをとるべきだろう.

設備ばかりではない,車載用の電装モジュールなどは,生産時にモジュール内部のネジ締めは厳重に管理されている.ネジ一点ごとに締め付けトルク,斜行によるネジの浮きがチェックしている.これは抜き取りや目視検査によって行われるのではない.工程内で100%自動検査が行われている.


このコラムは、2010年12月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第184号に掲載した記事に加筆したものです。

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ハインリッヒの法則

 このメールマガジンを読んでおられる方で「ハインリッヒの法則」をご存知ない方はおられないだろう。ハインリッヒという名前を知らなくても「ヒヤリ・ハット」といえばご存知であろう。

大怪我を負うような事故1件につき軽傷事故が29件、事故にはならなかったがヒヤリ・ハットするような事象が300件ある、という経験則をハインリッヒの法則とよんでいる。

これは安全災害だけではない。
例えばお客様の苦情を放置していた結果、保険金未払いで金融庁から業務停止命令を受けた保険会社もある。

我々製造業でも同じだ。
ある製品の工程内不良が0.7%あった。特に出荷を止めなければならないほど不良率が高かったわけではない。しかし全て同一部品による同一現象の不良であった。出荷を見合わせ、解析をした結果部品のロット不良と判明した。検査合格品でも動作環境によっては市場で不良現象が出る可能性があった。

以前指導していた中国企業は、『售后服務部』(アフターサービス部門)に寄せられる顧客からの情報は設計部門にも製造部門にも共有していなかった。

製造部門の工程内不良、アフターサービス部門の顧客からの情報、これらはヒヤリハット情報といっても良いだろう。

不良率だけではなく、不良現象別に不良率をリアルタイムに集計していれば異常を早期発見できる。大量の工程内不良が発生する前に対策することが可能になる。その結果不良が市場に流出するという最悪の結果を未然に防ぐことができる。

アフターサービス部門の情報を全社で共有すれば、顧客クレームの無い製品を設計できるようになるはずだ。また修理情報などから部品の寿命データを収集できる。この結果顧客に対する予防保全サービスの提案ができるようになるし、新製品の設計に活かせば、他社との差別化にもつながるはずだ。

製造の不良情報、アフターサービスのクレーム情報、修理情報などネガティブに捉えることなく、社内で共有する体制を作るべきだ。


このコラムは、2018年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第751号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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トヨタ、中国で乗用車68万台をリコール 窓の開閉装置に不具合

 トヨタ自動車は24日、中国で乗用車約68万8000台をリコールしたことを明らかにした。窓の開閉スイッチに不具合があり、熱が発生して部品が損傷する可能性があるという。リコールは現地時間23日の11時に発表した。

 リコールの対象となったのはカムリ、ヤリス、カローラ、ビオスの一部。同社広報によると、窓ガラスの開閉スイッチ設定部にグリースが多く塗布されたことが原因。

(NIKKEI NETより)

 東莞市ローカルタブロイド紙の25日付記事でリコールを知った.68.8万台のリコールというのは中国でも最大規模の回収となった.

スイッチ部分にグリースを塗布するというのが理解できない.
グリース類はスイッチハウジング,ノブなどのプラスチックに悪影響を与え,比較的短期間でプラスチック部品がクレージング破壊を起こす.プラスチック部品やその近くに潤滑油などの油脂を塗布することはまれだ.どうしても必要な場合は,耐クレージング性の高いPOMなどの材料を使用する.
中国ではパワーウインドウの開閉ができなくなっているタクシーにしばしば乗り合わせる.窓の開閉不良など致命故障ではないという考え方だろうか.
後部座席の左側扉が内部から開閉できず,運転手に右から下りろと言われたこともある.

中国の国産車がこの程度の品質なので,故障に対しては比較的寛大な受け止め方をしているように感じる.

日本車は販売価格が高くても,故障が少ないので維持費を含めた総コストは日本車のほうが安くなる.と多くの人が信じているようだ.

今回のリコールに対する地元紙の論調は,「サービスセンターに持ち込めば15分もあればただで修理してくれる」と友好的な記事になっている.今のところ一時期の日本製品バッシングのような動きはなさそうだ.

下手に隠し立てなどするとこうは行かないだろう.
品質保証は「正直が一番」というのが私の信条だ.


このコラムは、2009年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第114号に掲載した記事に加筆したものです。

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三菱重工製エアコン6機種に発火などの恐れ

 経済産業省は21日、三菱重工業製のエアコン室外機が焼ける火災が6月に鳥取県と愛知県で起きたと発表した。同社は経年劣化による発煙・発火の恐れがあるとして、76~81年に製造された一部機種について使用を中止するよう呼び掛けている。

(asahi.comより)

 この記事だけでは,原因が何かまったく分からない.
一般の消費者に対しては,事故の可能性があることを知らせ注意を喚起すれば十分だろう.しかし「当事者」になってしまう可能性があるものづくりに関連している人たちには,不十分だ.事故の原因を知らせ,水平展開を図る情報提供があってもよいだろう.

ということで製品評価技術基盤機構(NITE)のホームページで類似の事故を調べてみた.以下の事故情報がヒットした.

  • 事故内容:エアコンを使用中、突然ブレーカーが落ちた。
  • 事故原因:室外機の内部配線が、冷媒配管と防音材に挟まれていたため、運転中の振動により配線の被覆が摩耗し、露出した芯線が配管に触れて漏電したものと推定される。

ここまで書いてあると,この情報から「未然防止対策」を考えることができる.
具体的には内部配線の経路や固定方法を検討する際の「べからず集」を作ることができる.

さらにこの事故を抽象化して適用範囲を広げる.

「出荷後の動作環境で発生する絶縁不良」という抽象化をすれば,ケーブルによる配線だけではなくプリント基板の配線パターンとプリント基板上に実装された金属部品間の接触も考慮の範囲になる.

また「出荷後の動作環境」は振動による機械的磨耗だけではなく,経年変化による絶縁材料の劣化も対象になる.

高い勉強代(不具合損失)を支払う前に,他山の石を徹底的に学習するのがよいだろう.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事に加筆したものです。

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LG洗濯乾燥機から出火、さらに2件 リコール公表後

 LGエレクトロニクス社製のドラム式洗濯乾燥機から出火する火災が、7月に東京都内で2件発生したことが、東京消防庁の調査でわかった。同型機は3件の火災が起きたとしてリコール(無償交換)されたが、今回の2件はいずれもその後に起きた。これまで回収できたのは販売台数の4分の1にとどまる。同庁は「重大な火災につながるおそれがあり、使用をやめて早く交換を」と呼びかけている。

 同庁によると、7月28日午前10時ごろ、豊島区のマンション1階の部屋で、同型機やブレーカーが焼け、周囲の壁も焦げた。29日午前11時ごろには、台東区のビル1階の診療所で、同型機が焼けた。いずれも接続不良から過大な電気抵抗が生じて発火したという。

(asahi.comより)

 事故写真を見ると洗濯機の操作パネルの部分が激しく焼損している.記事では「接続不良」としか書いていないが,コネクタ部分の接触不良,ケーブルとコネクタのカシメ部分の接触不良,半田クリープによる半田接合点の接触不良などが考えられる.

いずれも工場の製品検査では発見できない厄介な不良である.

接続部分に接触不良が発生すると,接触抵抗(r)が大きくなる.接触抵抗が大きくなるとそこに流れる電流(I)によってr×I^2の電力損失が発生する.この電力損失はほとんどが熱になる.

この場合動作電圧が低ければ接続部分に流れる電流は大きくなり,接続不良による電力損失=発熱も大きくなってしまう.したがって5Vとか3Vの低圧回路のほうが危険な場合が多い.回路電圧が低くても危険な場合もある。

難燃材料を使っていても安心はできない.
空気を遮断した状態で加熱が続くとプラスチックは徐々に炭化して行き,最終的には発煙・発火時を起こす.
火災につながる重大不良である.
製品検査で発見しにくくとも,製品保証をする必要がある.
設計による保証.製造方法による保証が必要だ.


このコラムは、2009年8月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第112号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・ノウハウとノウホワイ

 先週は作業標準を現場の判断で改変して核臨界事故を発生させた事例を紹介した。
「ノウハウとノウホワイ」
今週も同様に作業標準の改変で発生した事故を紹介したい。

城島後楽園遊園地で発生した「スカイショット」(ゴムによって座席を上方に打ち上げる逆バンジー遊具)の事故だ。座席を吊るすワイヤーとゴムの連結部はねじ止めされており、ねじのゆるみを防ぐために割りピンが使われていた。割りピンは、ねじ軸のピン穴に通し折り返して固定する。割りピンは折り返すため、交換すると再利用出来なくなる。メンテナンス作業を効率化するために、割りピンをスナップピンに変更した。スナップピンとはピン材料の弾性を利用し、脱着が可能となっている。一般的には「β」の形をした形状になっており、ベータピンと呼ばれている。

参考:ベータピン(事故事例の物ではありません)

何度も使用している間に、ピンの弾性が弱くなり抜けてしまったのだろう。
当然メンテナンス要員は、安全が第一であり、安全と効率をトレードオフするべきではない事は知っていたと思われる。しかしベータピンが緩んでしまう事を想定出来なかったのであろう。(判断のミス)

「ゆるみ止めピンを交換する」と言うノウハウは分かっていても、ノウホワイが作業者に伝わっていなかった。

設計者は設計FMEAなどにより緩み止めピンの脱落と言う潜在リスクを把握しており、割りピンを使用し定期交換対象としていたはずだ。メンテナンスマニュアルにノウハウ(方法)だけではなくノウホワイ(理由)が記述されていれば、この事故は防げたはずだ。

設計FMEAは設計者だけのモノではない、メンテナンス作業にも展開すべきだ。設計FMEAで検出した潜在故障を、工程FMEAやメンテナンス作業にも展開する仕組みを作り、製造時、メンテナンス時にリスク管理が出来ているかどうかレビューするとよい。APQP(先行品質保証計画)のCP(コントロールプラン)にここまで記述してある例を見た事はないが、APQPをここまで深めておけばベストプラクティス事例になるだろう。

今回の失敗事例は「失敗百選」中尾政之著を参考にさせていただいた。


このコラムは、2017年5月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第529号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ノウハウとノウホワイ

 先週は「悪意」による事故について検討した。今週は「悪意」ではないが、標準作業手順を遵守せずに発生した事故について検討してみたい。

日本で初めて原子力事故で死亡者を出した事例、東海村JCO臨界事故だ。
高速増殖炉の燃料製造工程で、標準作業手順が遵守されずに核燃料が臨界状態となり、多量の中性子線が発生。作業者3名が重篤な被爆を受けた。内2名は治療のかいなく死亡している。

核燃料の製造において、原料であるウラン化合物の粉末を溶解する工程では、標準作業手順では「溶解塔」という装置を使用すると定められていたが、現場ではステンレス製のバケツを用いるという裏マニュアルが存在した。しかも事故前日からは、更に作業の効率化をはかるため、裏マニュアルとも異なる手順で作業がなされていた。具体的には、濃度の異なる硝酸ウラニル溶液を混合して均一濃度の製品に仕上げる均質化工程において、「貯塔」という容器を使用するべきところを「沈殿槽」という別の容器を使用していた。

「貯塔」は臨界が発生しにくい構造に設計されていたが、用途が違う「沈殿槽」は容易に臨界が発生する構造であった。

その結果沈殿槽周辺の冷却水が中性子線の反射材となり、ウラニウム溶液が臨界状態となり大量の中性子線が放射された。

この事故は、現場で作業標準通りに作業がされず、裏マニュアルにより作業が行われていた事に原因がある。現場の監督職や作業員に「悪意」があったわけではなかろう。むしろ現場での作業改善により考えられた「ノウハウ」として裏マニュアルが存在したのだと推測する。

作業標準を定めると言う事は、改善の進歩を止める事になる。従って標準作業は改訂されなければならない。JOCの事例は作業標準の改訂方法に問題がある。製造現場が勝手に改訂をし、裏マニュアルが存在する事が、本事故の管理上の問題点だ。本来作業標準の改訂は、しかるべき組織の審査承認を経なければならない。

しかし現実問題として、なぜそのような作業手順が定められているのか判然としない事例もあるだろう。JOCではそのような事はないと信じたいが、普通の工場では、作業手順を定めた生産技術や設計の担当者が退職し、なぜその手順が定められているのか分からなくなっていると言う事もあるだろう。

作業標準は、作業をどのようにやるのかと言うノウハウが記述されている。更になぜその手順でやるのかと言うノウホワイも記述しておくべきと考えている。

以前生産委託先で、製品に貼付ける小さな表示シールの貼り忘れが発生した事がある。対策として梱包数量単位に表示シールの台紙を分け、表示シールを使い終わったら、製品と一緒に台紙をコンベアに乗せ梱包工程に送る事にした。梱包作業者は、台紙が来たら梱包箱が満杯になっている事を確認する。いわゆる「十点法」と言う定量管理によるシール貼り忘れの再発防止対策だ。

作業者から見れば、余分な作業が発生する。ノウハウと一緒になぜこの作業をやらねばならないのかと言うノウホワイをきちんと作業標準に入れておかねば、この対策はその内遵守されなくなる。

あなたの現場には、裏マニュアルや裏標準作業はないだろうか?
ノウハウとノウホワイが伝わる様になっているだろうか?

JCO臨界事故に関してはウィキペディアを参照させていただいた。


このコラムは、2017年5月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第528号に掲載した記事に加筆修正しました。

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