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見えないものに対する感度

 先週のコマツの保守サービス事例「アフターサービスを競争原理に」に対し、読者様からメッセージをいただいた。

※T様のメッセージ
 Z様のおっしゃる、「物のコピーは簡単、サービスのコピーは簡単にできない」、全く同感です。見える物に対して、中国人は敏感ですが、見えない物に対しては、概して非常に鈍感であると思います。

コマツの、保守サービスの事例に対していただいたZ様のメッセージに更にメッセージをいただいた。

モノのコピーは大変得意な中国だが、サービスに関しては上手く真似ができない。保守サービスに関しては、ニュースからに書いたように、サービス以前の問題かもしれない。

レストランなどのサービス産業でも、これでよく客が我慢するなぁと感心する。料理や、店構え、内装には敏感でも、ウェイトレスのサービスには鈍感だ。

サービスだけの問題ではない。
海賊版のDVDやCDを販売している店では、最新映画のDVDが15元、古いCDアルバムが25元ということがざらにある。
なぜならCDは2枚組みだからだ。コンピュータソフトなどは、たいていはCD一枚なので、8元だ。

目に見えるハードで値段が決まる。
目に見えないソフトには価値が置かれていない。

中国という国は、経済成長に伴い、インフラなどのハードウェアは急速に充実してきた。しかし、国民のソフトウェアはまだ発展途上だ。

元々儲かることに敏感な、人たちだ。ひとたびソフトウェアが儲かると分かれば、急速にキャッチアップしてくると期待しているのだが。


このコラムは、2011年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第228号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

力士諸君、自粛生活を…相撲協会が「心得17カ条」

 「門限を厳守すること」「外出は師匠の了解を得ること」――。日本相撲協会は9日、春場所の中止に関連して、50ある相撲部屋に、こんな内容の「自粛・奨励17カ条の心得」を通達した。日常生活の指針のほか、ボランティア活動の奨励なども盛り込んでいる。

 心得では、八百長問題の反省から様々な面で、力士に「自粛」を半ば命じている。「各部屋で門限を定め、門限を厳守するように徹底する」「町なかで声をかけられたときは、気さくに応え、あいさつする」など。稽古は「各部屋にて行う」として事実上、旅行や遠出を禁じ、部屋や病院、協会以外への外出は師匠の了解を得るとしている。

 一方で、「老人ホームや施設の慰問は、部屋単位の少人数で積極的に行う」として、ボランティア活動であれば遠出を認めている。

(asashi.comより)

 度重なる不祥事や疑惑のため、相撲協会が力士に対し自粛を求め、自粛の心得を通達したというニュースを見て、「なんだかなぁ」というのが正直な感想だ。

今回の心得17か条は、不祥事に対する自粛のための心得だ。では力士としての心得というのはあるのだろうか?

失望とか怒りというのは、合意されていない期待が満足されなかった時に発生する感情だ。
日本の国技である相撲の力士は、強いばかりでなく日本的道徳を重んじる人格者である。というのが国民大方の期待だろう。この期待が力士側にも合意されているのだろうか?

典型的な例を挙げるとすれば、外国人力士にも「日本的礼儀作法」を期待するのが日本国民であろう。是非はあるだろうが、日本の国技である以上、その期待を持つのは当然であり、その期待に応えてこそ相撲力士といえるだろう。

ファンの期待に応える基準が、「心得」だ。
挨拶をする、門限を守る、と言うあまりにも初歩的な要求も、それが双方で合意されていないのだとすれば、明文化する必要があるだろう。相撲業界も国際化が進んでおり、異文化で成長した力士もいる。日本人の中でも、年代によって多様化が進んでいる。そういう意味で、「自粛心得」ではなく本来の「力士心得」が必要なのかもしれない。

私達のように中国でモノ造りをするということは、中国と言う多様性社会の中に日本的経営と言う異文化を持ち込むことだ。そのためには「心得」を明確にし合意をしておかねばならない。

元来日本では、言われなくても心得ているのが「心得」だったはずだ。そのように、家庭・学校で躾を受けてきた。しかし日本の中でも「心得」と言う基準を明確にする努力が必要となってきているような気がする。

◇自粛・奨励17カ条の心得◇

  1. 自粛の意味を込めて、当分の間(協会が了承するまで)、稽古は東京の各部屋で行う(出稽古は問題ありません)
  2. 当面の間(協会が承認するまで)、巡業は自粛する
  3. 老人ホームや施設への慰問は、部屋単位の少人数で積極的に行う(その際、広報部に届け出を提出する)
  4. 社会貢献活動、ボランティア活動は積極的に行う
  5. 講演依頼については、自粛中であることを自覚して選択する。ボランティアの性格(幼稚園、小・中学校などの教育機関や施設など)があるものは積極的に行う
  6. 「協会員のあり方(日本相撲協会発行)」を再読する
  7. 冠婚葬祭は各自判断で出席する
  8. 各部屋主催のパーティー、激励会、講演会等は自粛する
  9. 特別調査委員会の調査には、積極的に協力する
  10. 「摂生」(健康に注意しながら規則正しい生活をすること)と「節制」(度を超さないよう欲を抑えて控えめにすること)を心掛ける
  11. 「我々(われわれ)は今こそ襟をただして、自分たちのあるべき姿をしっかりと見定め、新しい時代に向かって新しい道を進んでいかなければいけない」ということを自覚する
  12. 各部屋で門限を定め、門限を厳守するように徹底する
  13. 各部屋、自宅、病院・治療院、日本相撲協会以外へ外出する際は、すべて部屋の師匠に了解を得る
  14. 「常に人に見られている。注目されている」という認識を忘れず、責任を持った行動を心掛ける
  15. 相撲を志した初心に帰って、日々努力しよう
  16. 近所に限らず、町なかで声を掛けられたときは、気さくに応え、挨拶(あいさつ)する
  17. 誠実な心を持って、規律ある行動を取ること

  18. このコラムは、2011年2月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第192号に掲載した記事です。

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曲則全

『曲則全,枉則直,窪則盈,敝則新,少則得,多則惑』

老子の《道徳経》に出て来る一節だ。

読み下し文に直すと「きょくなればすなわまったし、がればすなわなおし、くぼめばすなわち、やぶるればすなわち新たなり。少なければすなわち得られ、多なればすなわち惑う」となる。

曲がった木は役に立たず切られることなく命を全うする。
身をかがめていれば真っ直ぐに伸びることができる。
窪地のように凹んだ所には水が満ちる。
ボロボロになれば新しくできる。
持っているモノが少なければ得るものがある。
持ってるモノが多ければ惑う。

逆説的な言い方だが、これが世の中の真理ではないだろうか?

謙虚にしていれば上から重用される。
何も知らなければ素直に学ぶことができる。
捨てることで新たなモノが手に入る。
手が空いていればチャンスを掴める。
たくさん仕事があっても力が分散し成果が上がらない。

仕事がない時にボヤいていないで、次の仕込みをする。暇な時こそ飛躍のチャンスだ。
私の友人は金融危機の時に徹底的に改善活動をした。例えば現場のレイアウトを変えて二機あったエレベータを一機で賄えるようにすることで、エレベータの保守点検費用を半減する。このような改善活動の積み重ねで年間300万元の間接費用が節約ができ、筋肉質の経営体質になった。


このコラムは、2018年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第653号に掲載した記事です。

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徳を持って導き、礼を持って斉うる

yuē:“dǎozhīzhèngzhīxíng(1)mínmiǎnérchǐdǎozhīzhīyǒuchǐqiě”。

《论语》为政第二-3

(1)格:きたると読む時は「なついて来る」と訳す。ただしと読む時は「正しくなる」と訳す。いたると読む時は「善に至る」と訳す。

素読文:
いわく:“これみちびくにまつりごともってし、これととのうるにけいもってすれば、たみまぬかれてはじし。これみちびくにとくもってし、これととのうるにれいもってすれば、はじりてかつただし。”

解釈:
孔子曰く:“法律だけで民を導き、刑罰で秩序を維持しようとすると、民は法の網目を避けそれを恥じることもない。徳を持って民を導き、礼によって秩序を整えれば、民は恥を知り正しい行いをする。”

世界中が孔子の教えを守れば私たちの世界は平和で豊かになるはずです。
残念ながら、指導者に徳も礼もない国があり、争いごとが絶えません。

中国自動車メーカー、ボルボ買収か 

 【ロンドン=尾形聡彦】英紙タイムズ(電子版)は10日、米自動車大手フォード・モーター傘下のスウェーデンの高級車ブランド「ボルボ」が、中国の大手自動車メーカーの長安汽車(本社・重慶市)に売却される可能性があると報じた。実現すれば、中国メーカーが、高級車市場に大きな足がかりを得ることになりそうだ。

 報道によると、フォードと長安の幹部の間で先月、売却交渉が行われたという。両社は中国で合弁事業を行うなどもともと関係が深いという。経営難に陥っている米フォードは、米政府に資金支援を要請する一方、傘下のボルボ売却を検討していることを明らかにしていた。

(asahi.comより)

衝撃のニュースだ。
以前聯想(レノボ)がIBMのPC部門を買収した時より驚きだ。この時は中国は既にPC生産の世界拠点として機能しており、周辺産業を含めて成熟していた。中国企業がIBMのブランドを買ったということで衝撃はあったが、モノ造りの面では既に中国企業も十分PCの世界的メーカになる力を持っていた。

しかし今回は自動車メーカである。
自動車メーカを支える部品メーカを含めて、中国自動車メーカの実力はまだ2歩、3歩遅れていると感じている。人の命を乗せて走る自動車に不良があってはならない。品質面でまだ中国の自動車メーカが世界に製品を輸出するのは早いだろうと思っていた。

クライスラーとの提携解消で奇瑞汽車は政府から1350億円の資金援助を取り付けたという報道もある。この資金で奇瑞汽車は米国市場への進出を独自に狙うことになるのだろう。

米国自動車産業の落ち込みが中国自動車メーカの成長を助けた形になっている。自動車産業の世界勢力に中国企業が割って入ってくるのはそうは遠い先ではなさそうだ。


このコラムは、2007年12月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第70号に掲載した記事です。

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日本総研、生産改善技術で17社と交流組織

 日本総合研究所はグンゼや自動車部品製造の住野工業(広島市)、ブラザー精密工業(愛知県知立市)など17社と生産改善の技術交流組織「TOCユーザー会」を立ち上げた。相互に工場見学や改善事例を紹介し、生産性向上につなげる。

 日本総研が生産工程の最適化などの改善技術を指導しているメーカーが参加する。グンゼの宮津工場(京都府宮津市)や住野工業の本社工場など参加企業の36工場では、生産納期の短縮や仕掛かり在庫削
工場との価格競争で毎年コスト削減を求められるなか、生産性向上が続かなかったり、改善活動が停滞するといった課題も抱えていた。

(NIKKEI.NETより)

「TOC」というのはゴールドラットが「ザ・ゴール」で書いた制約理論の事だ。Theory of Constraintsを略してTOCといっている。

企業活動の全工程の中でボトルネックとなっている工程を制約条件として定義する。この制約条件が企業の利益を増やす鍵となる。TOCでは制約条件のスループットを上げる事により生産性を改善しようという考え方である。

非制約工程を制約工程に従属させる、すなわち制約工程の能力以上には生産投入しない。制約工程に着目してバッファを持つと言う考え方である。在庫ゼロ、リードタイム半減を狙う。

更に異業種間の交流が改善を加速するだろう。昔からある「NPS研究会」とは手法が違うが、同じ発想である。

TOCの詳細に関しては「在庫ゼロリードタイム半減TOCプロジェクト」という書籍にTOCを導入した3社の事例が紹介されている。こちらを参照されると良いだろう。

TOCやNPSに限らず異業種間で改善の切磋琢磨をすると言うのは大きな効果が期待できる。中国でもこういう活動を広めてゆきたいと考えている。


このコラムは、2008年12月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第66号に掲載した記事です。

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失敗学

 今週の《ニュースから》「大阪市の電車型おもちゃに不具合 電池が60度まで過熱」では他社の失敗事例を自社の失敗未然防止に役立てようという趣旨で書いた。

たまたま先週は「失敗の予防学」という本を読んでいた。
著者の中尾政之氏は元々エンジニアだった人で、今は東大工学部の教授である。

失敗から予防保全につなげないと、毎回同じような失敗ばかりしていることになる。良く失敗は授業料だと思えば良いというが、授業料だけ払っていてはいけない。今回のように他人が支払った授業料で予防保全ができれば大変お得である。

同じ現象を見てもそこから改善のヒントや、そこにある失敗のリスクを見分ける事が出来る人と、できない人がある。この能力は天性の能力ではなく、訓練で身につく能力だと思っている。
書物からも勉強できるがこの手の能力は実践訓練が一番身につきやすい。


このコラムは、2008年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第48号に掲載した記事です。

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米FDA、中国に初の海外事務所 食の安全問題に対応

 【シカゴ=毛利靖子】米食品医薬品局(FDA)は16日、今年末までに中国に初の海外事務所を開設する計画を明らかにした。インドや中南米にも事務所を新設する。新興国から輸入した食品や薬品に有害物質が混入する事件が相次いでおり、議会が安全対策を求めていた。

 中国ではまず北京に設け、来年には上海と広州にも拠点をつくる。係官を常駐させ、中国政府の協力を得ながら現地の工場を監視し、衛生管理が米国の安全基準に適合しているか調べる。インドにも複数の拠点をつくる方針で、ニューデリーへの進出を決めた。

(NIKKEI.NETより)

輸入時の抜き取り検査で保証するのではなく、現場に出向き保証をする体制を作ろうという考えであろう。

すばらしい考え方だと思う。
品質保証も同じ考えが適用できる。受け入れ検査を実施しても抜き取り検査であり、どんなにがんばってもAQL=0.45%の検査をするのがせいぜいだろう。これは言い方を変えれば、0.45%の不良は許すということだ。

製品の安全に影響を与える部品は不良率0%を保証したい。例えば電気製品の安全規格関連部品や自動車に使われる部品などに不良があれば、火災事故、人身事故につながりかねない。このような部品を0.45%まで不良を許容するという考え方そのものが相容れないモノだ。

それを防ごうと思うと全数検査となり、大きな検査コストがかかる。
そのため生産現場に行き、製造工程が品質を保障できるものになっている事を保証する、という考え方を取った方が合理的だ。

具体的には定期的に生産現場を監査し、生産工程が品質を作りこめる様になっていること、不良を流出させない仕組みが機能している事を確認・保証することになる。


このコラムは、2008年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第56号に掲載した記事です。

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モチベーション維持

 本日のテーマの中で小さな目標設定の話を書いた。
以前勤務していた会社で開発チームのリーダ(係長職)をしていた時の事を紹介したい。当時も自分はまだ未熟であり必ずしもよい例だとは思わないが、昔話にお付き合い願いたい(笑)

当時はシステム製品のマンマシンインターフェイス周りのハードウェア設計と周辺装置を担当するチームのリーダとして仕事をしていた。6人の小さなチームだった。

主力製品の大きなモデルチェンジ開発の最中であった。大きなプロジェクトで構想から製品リリースまで3年くらいかかったと記憶している。我々ハードウェア設計チームも1年以上このプロジェクトに投入された。全体ではアーキテクチャ設計、ソフト開発、電気設計、機構設計のメンバーだけで300人ほどのビッグプロジェクトだ。

我々ハードウェア設計チームは、アーキテクチャ設計をブレークダウンした設計仕様に従ってまずプロトタイプを作る。これをソフト開発チームに開発環境として引渡し開発を進めるのである。

この間に回路設計、プリント基板の設計、試作品の製作、製造図面の出図、ハードウェア仕様書の出図、新規採用部品の登録作業、試作品の評価作業、ソフトチームに渡したプロト機のメンテナンスなどなど膨大な作業があり、来る日も来る日も残業の毎日である。

その内に基本設計に破綻があるところが見つかったりして振り出しに戻ったりすることもあった。このような大きな変更は何度も発生はしないが、ソフト開発チームからの変更要求はちょくちょく来る。

ハードチームのメンバーは一生懸命積み木を組み立てている最中に下の方から崩されてしまうような感じがして、モチベーションが下がってしまう。下手をするとソフトチームとの対立感情にまで発展する。

正直自分もそういう感情を持った事があったが、メンバーにはシステム全体から見た立場で物事を判断しようと諭していた。

来る日も来る日も同じような作業をしているので、今自分がどこにいるのか見えなくなったりしてモチベーションが下がる。
そこでスケジュール表の目標のたびに飲み会をした。
「出図記念飲み会」とか「デバッグ完了飲み会」若手が担当している作業が終了するたびにメンバーで飲みに行くのである。

開発チームメンバーはあまり皆で飲み会をしたりしなかったので、初めのころは夜遅くまで飲み会が続き、翌日休みなどというメンバーもいた(笑)

今日が「○○作業の完了納期」という日の定時後に飲み会を設定するので、担当者は数日前から頑張って仕事を終わろうとする。「○○飲み会」が設定してあるので、今時分たちが開発のどこまで来ているか実感できる。という程度の効果はあったと思っている。

今だったらもう少し違う方法(財布と肝臓に優しい方法・笑)をすると思うが当時はこんな事をしてチームメンバーのモチベーションを維持するようにしていた。


このコラムは、2008年11月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第64号に掲載した記事です。

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トヨタリコール問題・部品共通化について

 今度ばかりはさすがにヤバイ。
世界一の自動車メーカ、超優良企業のトヨタといえど、今トヨタは存続の危機に直面している。1950年労働争議により直面した経営危機以来の大ピンチだ。

世間では、一連のリコール問題の深層を探り、問題の真因を捉えようとする動きが活発になっている。

今回目にしたコラムは、部品の共通化とリコール問題について検討している。『「大型リコールの原因は部品共通化」のウソ、真因は製品の品質検証体制』では、筆者の日野氏は部品共通化擁護の立場でコラムを書いている。

トヨタは、設計効率の向上、生産効率の向上のために部品の共通化を強力に推し進めて来た。今回のリコール問題の拡大は「部品の共通化」にありとする一部の議論に対し、日野氏は「部品の共通化」は表層の問題点であり、真の問題点は「部品の共通化を品質保証できていない点にある」と評論している。

私流に言わせてもらえば、品質保証が出来ていない部品の共通化などありえない。ただ同じ部品を使いまわしているだけである。部品の共通化というのは、適用できる設計要件を明確にした上で、その品質を保証できるということだ。共通化は、設計の標準化、部品の標準化のプロセスを経て達成される。

元々部品・モジュールは特定の動作環境の下で設計され、検証・評価されている。それをそのまま共通化部品として取り扱うわけには行かない。当然動作環境の変動により、見えていなかった問題点が顕在化することがありうる。

部品・モジュールの機能に着目してブラックボックス化してしまうと、大きな過ちを犯す。動作環境、製造環境などの設計要件を明確にしておき、共通部品を選択する設計手順を標準化しなければならない。

この様な過程を経て、部品の共通化は設計ミスの排除、設計効率の向上、生産効率の向上、在庫量の削減、コストダウンに貢献することが出来る。

しかし極度の共通化は、設計の自由度を奪う。
また共通化をするということは、進歩をいったん停止するということである。

車を嗜好品として考えたとき、部品の共通化はデザインの自由度を奪うことになる。車は単なる移動手段ではない。所有する喜び、運転する喜びをユーザに与えるべきものだ。

元々トヨタはそのような車造りが下手だ。レクサスからトヨタの名前を排除しているのもその現われだろう。
トヨタよりはホンダ、Panasonicよりは(昔の)Sonyの製品の方が、ワクワクするのは私だけではないだろう。

インドや中国メーカによる車の価格破壊に付き合う必要はない。
消費者の価値観に対しきちんとコストをかけるモノ造りをすれば、高くても売れるはずだ。

トヨタは量の追求で大きくなった。一定の量を生産していないと利益が出ない構えを作ってしまった。残念ながら、低価格車にも対応してゆかなければならない体質が出来てしまっている。

車が単なる移動手段であったときは、安い車を市場投入すれば右肩上がりに売り上げも利益も伸びる。しかしそのような市場で利益を上げ続けるのは困難だ。コストダウンに明け暮れ疲弊する。そしてある日金属疲労が限界点に達したように、ポキッと折れてしまう。品質不良による損失は、直接利益の部分をマイナスする。それをカバーするための売り上げは10倍以上は必要だろう。

日本の時計メーカは、高品質・高機能な時計を大量に生産し、同時に貧乏も量産してしまった。その間スイスの高級時計メーカは、顧客の価値観にしっかりコストをかけ、高級品を少量だけ作り生き残っている。

日本はこの様なモノ造りがうまくできていない。
大量同一規格製品の市場は中国にくれてやり、魅力的品質製品のモノ造りに転換してゆかなければならないだろう。


このコラムは、第143号2010年3月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第143号に掲載した記事です。

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