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失敗事例

 失敗を失敗に終わらせない。他人の失敗をも経験値として共有し、失敗を未然防止する。そのために失敗原因を特定し、その対策を考え設計や製造法を改善する。そんな目的で毎週このコラムを書いている。

また失敗原因を特定するためには、故障メカニズムや信頼性技術の探究も必要となる。そのために信頼性技術に関わるコラムをホームページに公開している。

例えば半田結合点の信頼性問題や、メッキ処理で発生する水素脆性破壊、電解コンデンサの電解液による発煙事故、電解液の模倣で発生した電解コンデンサ不良、などなど過去の問題を書き留めてある。

例えば電気・電子製品に使われる難燃剤は過去から形を変えて何度も火災事故の原因となっている。
そのような事例を共有する目的で、私自身が経験したことや、間接的な見聞を掲載している。

上記のリンクをアクセスしていただければ、それらのコラムは自由に閲覧できる。

先日ボランティアで活動している東莞和僑会の運営メンバーのミーティングでWeb交流会(月一回金曜日の午前中に開催しているオンライン勉強会)で、信頼性技術に関わる話をせよと白羽の矢を当てられてた。提案者は私のコラムの熱心な読者でありすっかいおだてられ、矢は私の背中に相当深く刺さってしまったようで、断りきれなかった(笑)


このコラムは、2021年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1168号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

止める力

社会的には「継続する力」が珍重され賞賛される。
たとえば世界最長の企業は日本の「金剛組」であり創業578年。1500年近く継続している企業だ。寺社建築というニッチな業界で経営を継続している。
日本が誇るべき企業だと思う。

一方で「止める力」も相当の胆力を持って決断をしなければならず、しばしば挫折の憂き目を見ることになる。たとえば禁煙や断酒など相当の決意と忍耐が必要となる。健康に害があるような習慣でも止めるためには相当の努力が必要となる。

悪癖だけではない。たとえばこの記事は、2007年創刊のメールマガジンで配信した記事だ。2021年10月1日にはまる14年となる。小中高校を卒業し大学の教養課程を終了する期間継続したことになる。14年継続して何か良いことがあったかというと、実は自信はない(笑)まれにメルマガに共感のメールをいただくこともあった。これは嬉しい。
しかし書くことにより、思考や文章の鍛錬ができたかというと確かな手応えがない。

惰性で継続しているのならば、止める力を発揮すべきとも思う。
止める力を発揮するためには、止めて空いた時間を有効活用しなければならない。

 実はこのメルマガ以外にもう一本「技術者のための中国語講座」を毎週月曜日朝に配信してる。創刊者が休刊宣言されたときに、読者だった私が引き継いだ。気がつけば15年目に突入している。中国語で技術用語を紹介するのが目的だったが、ネタが尽き論語などの中国古典の紹介に変遷している。

どうも私には止める勇気、止める力が不足しているようだ(笑)
とりあえず止めて空いた時間の活用法が見つかるまでは継続しようと思う。


このコラムは、2021年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1170号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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魂のこもった仕事

 NHKテレビ「仕事学のすすめ」の録画を、まとめ見した。
「建設機械のコマツ会長・坂根正弘氏のダントツ経営」

坂根氏が社長に就任した時に、社内はこんな状況だったそうだ。
販売した建設機械に対する満足度を、毎月社長に報告していた。
そのデータは、サービス部門が顧客に電話を掛け聞き取り調査をしてまとめる。

例えば、自社が販売した建設機械が48時間以上故障で稼動できなかった、など稼働状況も把握していた。しかしこのデータは、経営会議に上げられるだけで、担当営業所、設計部門、製造部門には上がらない。
経営会議で必要だから、データを集め、綺麗なグラフにする。これは「仕事」ではなく「作業」だ。

魂を込めて仕事をするということは、その仕事の意味を理解するところから始めなければならない。

データを集める目的は、顧客満足状況を把握し、顧客満足を高めることのはずだ。経営会議にデータを提供することは、手段であって目的ではない。
このデータを、製品設計の改善に役立てる、生産品質の改善に役立てなければならない。

日々のルーチンワークに陥り、仕事を作業としてしまうと、仕事には魂がこもらない。
コマツといえば、TQM先進企業だ。そのコマツでさえこういう事態に陥っていたのだ。

毎日の生産記録を班長の日報で報告させているが、その記録は誰も見ていない。品質管理部が毎月工程内不良率をまとめて、QA会議で報告するが、製造部門はそれを把握していない。顧客クレーム内容は、製造部門にはフィードバックしているが、設計部門にフードバックしていない。

経営会議、QA会議などでのデータを見ると、きちんと運営できているように見えるが、内実は上記のような事態に陥っているのを見ることがある。

一度ご自分の工場も点検してみてはいかがだろう。


このコラムは、2011年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第225号に掲載した記事です。

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見えないものに対する感度

 先週の「アフターサービスを競争原理に」に対し、読者様からメッセージをいただいた。

※T様のメッセージ

Z様のおっしゃる、「物のコピーは簡単、サービスのコピーは簡単にできない」、全く同感です。見える物に対して、中国人は敏感ですが、見えない物に対しては、概して非常に鈍感であると思います。

コマツの、保守サービスの事例に対していただいたZ様のメッセージに更にメッセージをいただいた。

モノのコピーは大変得意な中国だが、サービスに関しては上手く真似ができない。
保守サービスに関しては、ニュースからに書いたように、サービス以前の問題かもしれない。

レストランなどのサービス産業でも、これでよく客が我慢するなぁと感心する。料理や、店構え、内装には敏感でも、ウェイトレスのサービスには鈍感だ。

サービスだけの問題ではない。
海賊版のDVDやCDを販売している店では、最新映画のDVDが15元、古いCDアルバムが25元ということがざらにある。なぜならCDは2枚組みだからだ。コンピュータソフトなどは、たいていはCD一枚なので、8元だ。

目に見えるハードで値段が決まる。
目に見えないソフトには価値が置かれていない。

中国という国は、経済成長に伴い、インフラなどのハードウェアは急速に充実してきた。しかし、国民のソフトウェアはまだ発展途上だ。
元々儲かることに敏感な、人たちだ。ひとたびソフトウェアが儲かると分かれば、急速にキャッチアップしてくると期待しているのだが。


このコラムは、2011年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第228号に掲載した記事です。

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アフターサービスを競争原理に

 先週のメルマガに、読者様からメッセージをいただいた。

※Z様のメッセージ

坂根社長のお話、確かにNC旋盤の操作では、機械加工の原理は理解できません。僕自身も汎用旋盤で学びました。汎用旋盤ならどうにか使えこなせますが、NC旋盤はお手上げです。(笑) 
また、「コマツの競争力の源泉は、アフターサービス力にある。」この言葉に、日本企業の将来のヒントがあると思います。モノは簡単にコピーできますが、サービスのコピーは簡単にはできません。

基礎から理解しなければ、応用はできない。
NCマシンの操作ができても、それは職人ではなくプログラムオペレータに過ぎない。中国の工場を見ていると、最新設備を操作できる者が「上」とみなされているようだ。

3D-CADが使えても、金型が設計できるわけではない。基本ができていなければ、ただのお絵かきだ。NCマシンも3D-CADも、素材を加工するという最終目的の手段だ。手段が目的化しては本末転倒だ。

建設機械を購入されるお客様の目的は、工期どおり建設物を依頼主に引き渡すことだ。最新の機械を買うことが目的ではない。それを効率よく運用することがお客様の期待だ。

お客様の期待に応えられる様に、サービス体制を整える。修理・整備を迅速にすることにより、機械のダウンタイムを短くする。建設機械というものは往々にして、交通の不便な所で使うものだ。建設機械がどこで稼動しているか正確に把握してすることにより、サービス時間を短縮することができる。

そのためコマツの製品にはGPSが装備されており、コマツのサービスセンターは販売した製品がどこで稼動しているか正確に把握している。
この情報が、保養部品をどこのサービスステーションにどれだけ準備すれば良いかの基準となる。ムダやムラを排除した効率の良いサービス計画を立てることが出来る。

このデータは、営業活動にも活用できる。

業種、業態が異なっても、アフターサービスによるお客様の利便性や安心を付加価値とすることが出来れば、価格競争に巻き込まれないビジネスができる。常に「顧客目線」で、顧客の期待を上回る価値を提供し続ければ、価格勝負の企業と十分競争ができるはずである。


このコラムは、2011年10月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第227号に掲載した記事です。

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知行一致

 先週日本で録画のまとめ見をしたNHKテレビ「仕事学のすすめ」から気付きをシェアしたい。

建設機械のコマツ会長・坂根正弘氏のダントツ経営

坂根氏は、人材育成のポイントは以下の4点だと、指摘している。

  • 基本から学ぶ
    コマツの加工機は全てNCマシンになっているが、新人の技能研修には敢えて手動式の旋盤を使用している。手動操作をした方が、旋盤という加工機械の原理が理解しやすいからだ。NC機では機械が勝手に動いてしまう。
    手で加工することにより、頭だけでなく体に切削を覚えこませる。
  • 学びの場を与え、モチベーションを与える
    坂根氏は、コマツの教育機関・小松高専を復活させている。
    在職中の従業員も、ここで勉強しなおすことが出来る。「自己成長機会」は、モチベーション向上の大きな動機付け要因となる。
    その他にも、ここで学んだ同級生は、社内に、横・斜め方向のネットワークを持つことになる。上下方向の関係しか持たない組織と比べ、縦・横・斜めの関係を持つ組織の優位性はいうまでもないだろう。
    大きな企業ほど、このような非公式組織の存在が必要となる。
  • 競争力を高める教育
    坂根氏は、コマツの競争源泉はアフターサービス力にあると考えている。
    そのため社内研修もアフターサービスに重点が置かれている。教育は、予算が決まっているから、ISOの年度品質目標に入っているからやるのではない。
    企業の事業戦略にフォーカスした、教育研修をしなければならない。
    市場の景気が悪くなり、売り上げが減ると真っ先に教育予算を削るような会社は、これが理解できていない。このような会社は、活況時にも忙しい事を理由に教育研修の時間を削る。
  • 後継の育成を意識する
    コマツでは、課長職からトップリーダとしての選抜教育をしている。
    当然各部署から優秀な人材が集まってくる。しかし毎月丸一週間、50日間に及ぶ研修に、ナンバーワンの部下を出すのをためらう上司もいる。こういうところから、後継者育成の仕組みが崩れてくる。
    研修対象者の選抜方法を工夫する。研修対象者の人事権を所属上司から取り上げる。などの仕掛けを用意し、仕組みがうまく機能するようにしている。

これらのポイントは「知行一致」に収斂する。
つまり、単に知識を教え込んだだけではだめ、その知識に基づいて、行動するところまで育てなければだめだ、という意味だ。

上述のトップリーダ選抜研修の最後は、現場で行った研修発表をすることになっている。

  • 学びにより知識を得る。
  • 知識を行動に移す能力を得て自信を持つ。
  • 行動により成果を得る。
  • 成果と過程に対し誇りを持つ。

というステップで人は成長する。

誇りを持たせることで成長が血肉となる。
競争力源泉に集中することにより、業績に直結させる。
これが「戦略的人財育成」だと考えている。


このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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知ってる。出来る。教えられる。

 今週のコラムに「知行一致」を書いた。「知ってる」と「出来る」が一致するレベルとなって初めて教育訓練の意味がある。

ISO9001の6.2.2章にあるTrainingは、日本語では教育・訓練と訳している。
英語ではTrainingと一単語で表現できるが、日本語では教育が「知」を表し、訓練が「行」を表すのであろう。

工場で中国の若者に指導した時に、「知りました」とか「知っています」と返事が来ることがある。多分、本人は『知道了』の意味でそう言っているのだろう。

「知っています」などと言われると、ちょっとムッとする。しかしこのような時制のミスは、しばしばあることだ。それよりも、知っただけではだめ、理解して今後の行動を改めてもらわねばならない。日本人としては「分かりました。注意します」と答えてもらえると安心する。

小さな問題、言葉の問題と片付けてはいけない。
知行一致は、言葉ではなく行動で評価しなければならない。
小さな問題で知行一致が出来なければ、経営理念と自分の行動の知行一致は望めない。

そして、知っている・出来るでもまだ不十分だ。
それを教えられなければならない。
知っていることは教えられる。出来ることは教えられる。と考えるのは早計だ。

例えば5S。
私の観察によると、5Sを「知ったつもり」になっている人が随分いる。そういう私自身も、前職時代に会社や上司から5Sについて系統立てて教わった経験は無い。しかし職場では、当たり前のように5Sの話が出る。
生産委託先の指導をすることになり、何冊も本を読んで勉強し実践した。知ったつもりになっているだけでは、教えることは出来ない。

例えば作業方法。
流れるような動作で、全く無駄のない作業をしている作業員を見ることがある。
しかし彼女(彼)がそのやり方を教えられるかというと別問題だ。多くの場合、現場リーダがその作業を観察し作業のポイントを分析・抽出して、他の作業員に教える事になる。
教えるためには、観察・分析能力が必要となる。

例えば改善。
自分で改善ができる。その改善内容を皆の前で発表することも出来る。しかしその改善をどうやって発想したか。その発想過程を教えることは、難易度が1ランク上がる。モノ事を、抽象化して汎用化する能力だ。


このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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経営者の姿勢

 先週開催した「中国華南モノ造り交流会」に参加いただいた経営者様から、大変含蓄のあるお話を聞いた。

経営者として、利益を追求する事は当然だ。しかしずっと利益の追求だけに終始している経営者は、大成出来ない。経営者として一皮剥けるのは、企業経営はお客様の感謝を集める事、従業員を幸せにする事と悟った時だ。
これに気が付いた経営者はより多くの利益を手にすることができ、企業は永続する。

利益を得るために、顧客満足、従業員満足を追求する。利益があるから、株主、従業員、社会にも貢献が出来る。
こういう考え方をしている経営者は「並」の経営者であり、その企業は短命だ。

顧客満足、従業員満足を追求する。その結果利益が得られる。顧客に必要とされ、従業員に必要とされる企業は、必然的に社会に必要な存在となる。こういう考え方で経営されている企業は、永続する企業となる。

私はこのような経営姿勢を「21世紀型企業経営」と呼んでいる。

2008年に、牛乳にメラミンを添加するという事件が中国で発生した。
メラミン生産業者は、メラミンを添加すると淡白質量が高まるから、水で希釈した牛乳でも売れる、と酪農家をそそのかす。その結果、今までにない販路・マーケットを手に入れることができる、

酪農家は、生産量を上げるためにメラミンを添加する。その結果投資も労力もかけずに、利益を向上出来る。

小売店は、「メラミン非検出」というラベルを勝手に作り、商品に貼って売る。その結果、倉庫にあるメラミン汚染在庫品を売り払うことができる。

こういう経営は、お客様の安全・健康より自分の利益を優先させた経営だ。この様な経営をすれば、日本ならば即座に市場から退場させられる。

従業員の幸せを願って、本気で育成をする。こういう企業は、人材の流動性が低い。かつ、必要な人材しか残らない。経営者と従業員は愛情と感謝で結ばれた信頼関係を築く事が出来る。金銭よりも価値のある自己成長が得られると理解出来る従業員は、転職する事がなくなる。

売り上げを上げる事より、顧客に貢献する事を第一に考える。こういう企業は顧客から愛され、事業が継続する。顧客から必要とされる企業は、社会からも必要とされる。

利益第一主義の企業は、ビルド&スクラップを繰り返すことになる。こういう企業の経営者を、時代の変化を先取りし、次々と業態を変えて行く機敏な経営判断が出来る経営者と評価するか、利益しか見えない「並」の経営者とみるか。答えは時間が出してくれるはずだ。


このコラムは、2012年9月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第273号に掲載した記事です。

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中国小売り流通業の実力

 中国の流通業は、組織化のレベル、流通効率、物流コスト、ロスプリベンション及び人員体制の方面で、先進国との間の差が明らかである。
 欧米先進国の商業流通業は既にチェーン経営の時代に入っており、チェーン経営販売額は全ての販売額の60%以上を占め、アメリカでは80%に達している。これに対し、中国の2010年チェーン小売企業売り上げは社会消費品小売総額の17.2%にすぎない。
 流通効率の面から見ると、違いが明らかである。中国の一定額以上の卸売小売企業の在庫商品総額は年間販売額の7.38%を占めるが、アメリカ、日本、フランス等の非製造業の同様の指数の最高はわずか1.29%である。
 中国の物流コストは、2010年は対GDP比17.8%、2011年は18%へ上昇した。
これに対し、アメリカ等の物流コストは多年にわたり対GDP比10%前後である。

西部商報2011年4月5日より

 私は小売り流通業には門外漢だが、中国流通業の効率の悪さを感じる。
中小の小売業者ではなく、ウォールマートやカルフールなどの大手の業者だ。ウォールマートは、衛星通信技術を駆使して全世界4,000余りの店舗管理をしていると聞く。
その先進的な管理は、中国には行き届いていないようだ。

在庫商品の割合を見ると、中国の大手小売業者は約28日分の在庫を持っている。一方米国、日本、フランスなどでは5日分余りしかない。

どういう仕入れ管理をしているのかわからないが、牛乳など鮮度が問題になる商品をまとめて仕入れており、運が悪いと数日前の商品ばかり売り場に並んでいる。期限切れ間近の商品を「買1送1」で投げ売りする。仕入れコストをケチって、より大きな損失を出している。

そして店員が大量にいる。
売り場ごとに専門の店員がいて、何を探しているか聞いてくる。そしてお勧め商品を紹介してくれる。考えようによっては、スーパーでもハイタッチ接客サービスを提供しているようにも思える。しかし中国人の友人に聞くと、店員が勧める商品は絶対買わないという。早く売り切りたいから客に勧めているのだそうだ。

2008年にメラミン入り牛乳が問題になった時に、「当店の牛乳は安全」というポップとともに、「メラミン検査済み」のシールを貼付けて販売していた。商品をみると、メラミン混入が報道される以前の生産品だ。在庫品に問題があろうがなかろうが、早く売り切りたいという意図にしか見えなかった。

また大量にいる店員が、通路を閉鎖し棚卸しや、品出しをしている。
顧客の少ない時間帯ではない。週末の夕刻などのピーク時間帯でも顧客を通路から閉め出して作業をしている。

棚の上に積まれた商品を、ヘルメット姿の店員が脚立に乗っておろしている。作業の安全を確保する意味では、ヘルメットの着用は良いことだろう。しかし棚からドサドサと落とされた商品がそのまま陳列棚に並ぶ。客は粉々になったインスタントラーメンを買うことになる。

「顧客目線」を持たないビジネスは、うまく行くはずがない。
しかし、ウォールマートもカルフールも、連日多くの客が来店しており、レジで10分待たされるのは当たり前だ。「当たり前のサービス」を提供できる業者が出てくれば、即淘汰されるだろう。

中国生活者としては、早くその日が来ることを願うばかりだ(苦笑)


このコラムは、2012年5月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第257号に掲載した記事です。

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中国、牛乳も汚染 粉ミルク混入は行政が隠ぺいか

 【北京=峯村健司】中国の国営中央テレビは18日、国家品質監督検査検疫総局が大手乳業メーカー「蒙牛」「伊利」「光明」の3社の製品サンプルの約1割から、化学物質メラミンが検出されたことを明らかにした。牛乳へのメラミン混入が判明したのは初めて。国民の不信感は乳製品全体に広がり始めた。

(asahi.comより)

 三鹿集団が粉ミルクにメラミンを混入して生産・販売、これにより多くの乳幼児が健康被害にあっている。この事件を受けて中国当局は109社の粉ミルク工場の製品を調査し22社の製品からメラミンを検出している。その中には『蒙牛』『伊利』『光明』など中国最大手のメーカも入っている。

この事件は事故でメラミンが混入してしまったのではなく、水で薄めた原料の蛋白質量を補うためにメラニンを故意に添加したというところに戦慄を感じる。

昨年中国産のペットフードにメラミンを混入させ世界中からたたかれたばかりである。今回は自社の利益のために自国の幼い命を危険にさらした。

四川大地震以来、私は中国人の他人を思いやる心や貢献心を見直していたが、今回の事件は大変失望した。

日本人は一人では何も出来ないが、チームを作ると大きな力を発揮する、といわれている。
中国人は一人ひとりは良い人でも、集団になるととんでもない悪い事をする、ということなのだろうか。

いずれにせよ、近所のスーパーには『蒙牛』『伊利』『光明』の牛乳しか売っていない。今回の事件は私の食生活にも直接影響を与えており、憤りと困惑を禁じえない。


このコラムは、2008年9月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第53号に掲載した記事です。

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