コラム」カテゴリーアーカイブ

リコールのTDK加湿器が火元か 長崎の介護施設火災

 4人が死亡した長崎市の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」の火災で、電子部品大手のTDK(東京)の上釜健宏社長は22日、長崎市内で記者会見し、リコール(無償回収・修理)の対象になっている同社製加湿器が火元となった可能性が極めて高いことを明らかにした。

 1998年9月に発売した加湿器「KS―500H」で、ヒーターなどに不具合があり、99年1月にリコールを通産省(現経済産業省)に届け出た。販売された2万891台のうち約26%の5509台が回収されていない。上釜社長は「亡くなった4人の方々、遺族の方々、負傷された方々などに、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。

 TDKによると、KS―500Hは長崎の火災のほか、焼損16件、発火14件、発煙16件の計46件の事故を起こしている。火災となったり、けが人が出たりしたケースはないという。

 都道府県別の事故件数は北海道が10件、東京が9件、埼玉が5件、千葉、静岡、三重が各3件、栃木、愛知、京都が各2件、秋田、宮城、群馬、長野、富山、兵庫、宮崎が各1件。

 KS―500Hは内部で蒸気を発生させる蒸発皿にヒーターを十分に固定できていないものがあり、ヒーターが変形して蒸発皿から外れ、底の部品に接触するなどして発煙、発火することがある。異常発熱すると、ヒーターの温度は1000度を超えるという。

 TDKは15日に長崎県警から連絡を受け、21日に火元の部屋にあった焼けた加湿器を確認。ヒーターの一部が蒸発皿から外れ、脱落するなどの不具合があったことから、過去の不具合と同様に脱落部分が異常発熱し、ほかの部品に触れて発火した可能性が極めて高いと判断した。

 TDKは回収への取り組みが不十分だったとして、全国のグループホームなどに加湿器の使用状況を確認する作業を22日から始めた。

 火災は8日夜、ベルハウス東山手が入居する4階建てビルのうち、入所者の居室がある2階から出火。入所者の女性3人と、元入所者で建物3階に住んで
いた女性(82)の計4人が死亡した。

(日経電子版より)

 2月8日に発生した、長崎の認知症グループホームの火災について先週のコラムで、加湿器のショートは「原因」ではなく「現象」だと書いた。
丁度2月22日の日経電子版に、上記記事が出ていた。

記事によると、加湿器内部のヒーターが動作中に脱落、加湿器内部に接触、接触部分が加熱され焼損に至った、という事が判明した。

製品は燃えてしまっているため、ショートして発熱した様に見えるが、焼損の原因はショートではなく、ヒーターの脱落だ。
そしてヒーターの脱落にも原因がある。
ヒーターの固定が不十分だという作業不良が原因であり、作業不良が発生し易いという誘因があったはずだ。

例えば、ヒーターの固定箇所の機構設計が、ロバストになっていなかった。ヒーターの固定作業方法が、作業者によってばらつく様になっていた。

ここまで原因調査を深堀して初めて有効な再発防止対策が検討出来る様になる。

メーカのTDKは、99年1月にリコール届けを出し、回収を告知している。この時どのような「再発防止対策」を施したのかは、外部からは窺い知る事はできない。
残念ながら、TDKはリコール届けを出してすぐに、加湿器事業から撤退している。加湿器を生産しなくても、同じ轍を踏まないための、ノウハウ化は可能だ。

今回の事件を
「発熱箇所が脱落し、機構部品と接触する」
という潜在故障現象として、設計FMEAや工程FMEAで検証レビューをすれば、他社の失敗事例でさえ、共有出来るだろう。

他業界の企業もこのようにして、失敗事例から「未然防止対策」を引き出せば不必要な品質損失コストの発生を防ぐことができる。品質損失コストは、自社が負わなければならないものだけではない。社会全体、被害に遇われた方及びその家族の方々すべてに損失が発生している。その損失は、金銭的な補償で補いきれるものではないはずだ。これらの損失を未然に防止する事は、企業の社会的責任でもあるはずだ。


このコラムは、2013年2月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第298号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

加湿器にショートの痕跡か 長崎グループホーム火災

 長崎市東山手町の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」で高齢女性4人が死亡した火災で、火元の部屋にあった加湿器とみられる電気製品にショートのような痕跡があることが県警への取材で分かった。県警は燃え残りを分析し、出火原因の特定を進める。

 県警は12日、4人の死因を一酸化炭素中毒と発表した。司法解剖の結果、4人に目立った外傷はなかった。火元は2階中央付近の男性入所者の居室と断定した。

 火元の部屋からは、加湿器とみられる焼け焦げた電気製品が見つかっている。この電気製品付近の焼け方が特にひどかったという。施設内は禁煙で、暖房はエアコンのみを使用。加湿器は、希望者に施設側が貸し出していたという。

 一方、長崎市によると、火災が起きた8日午後7時30分ごろ、本来は2人の職員が勤務すべきところ、このホームでは当直の女性職員(56)1人しかいなかった。別の職員1人が出火直前に早退し、交代で出勤予定だった職員が遅刻していたためだった。長崎市による、ホームの運営会社への聞き取りで分かった。

 3階に居住していて亡くなった中島千代子さん(82)を担当していた訪問介護のヘルパーも出火直前に朝食用のパンを買いに出て部屋を離れていた。長崎市は、当時の勤務実態を詳しく調べる方針だ。

(asahi.comより)

 先週に引き続き焼損事故だ。

高齢者のグループホーム火災は、現場調査により、加湿器が火元と判明した。記事には加湿器のショートが原因の様に書かれているが、加湿器のショートは現象であり原因ではない。
しかも、加湿器のショートは火災後の現象であるだけの可能性もある。

例えばAC電源の様に電圧が高い部分の半田付けに不良が発生し、断続的に接触・非接触を繰り返す。接触・非接触のたびに火花が発生しプリント基板の絶縁がじわじわと劣化。最終的にAC100Vがショートし発熱焼損。つまりショートに至る前に、半田付け不良という原因がある。

実はこういう事例が意外と多い。

電源スイッチが使用中に劣化し接触抵抗が上がる。接触抵抗が上がり発熱。ますます接触抵抗の上昇が加速する。最終的に発煙焼損。
結果的に電源スイッチが丸焦げになっているので、スイッチのショートの様に見えるが、原因はスイッチ接点の接触不良である。

電源ケーブルのコネクタが、挿抜による外力でカシメ部分が緩んで来る。カシメ部分の接触抵抗が上昇し発熱、同様のプロセスにより発煙焼損。これもコネクタのショートの様に見えるが、電源ケーブル挿抜の外力が直接カシメ部分にストレスを与える様になっている機構設計のミスだ。

結果的には、製品がショートし発熱焼損した様に見えるが、原因は製造不良であったり、設計不良だったりする。ここまで原因の解析を深める事により、再発防止を検討することが可能となる。


このコラムは、2013年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

入学式前から…「髪型違反」21人を正座3時間

 長崎県五島市の県立五島高校(前田功校長、602人)で今月3日、髪形などに問題があるとして、教諭らが新入生22人に説教し、うち21人を約3時間にわたり正座させていたことがわかった。女子生徒に「男の気を引きに来たのか」と発言した男性教諭もいたという。同校は8日の入学式後、該当する生徒と保護者に「指導の目的を外れ、無用な痛みを与えてしまった」と謝罪した。

 同校によると、3日は学校生活について説明するオリエンテーションがあり、新入生200人が参加した。生活指導担当を含む教諭約20人が髪形などを検査し、眉毛を細くしたり、長髪を結んでいなかったりして校則に違反する22人を校内のホールに残し、反省文を書かせた。

 22人は男子14人、女子8人。教諭らは、このうち足を痛めていた男子を除く21人を板張りの床に正座させた。全員が反省文を提出するまで、正座は約3時間に及んだという。上田克教頭は「厳粛な入学式をすることが指導の目的だったが、それを外れる結果となり残念だ」と話した。

(asahi.comより)

 まず、入学式前のオリエンテーリングでどうしてこの様な指導になるのか理解に苦しむ。生徒たちはまだ入学しておらず、このオリエンテーリングで、初めて校則を聞かされるのではないだろうか。

だとすると、校則に従っていないと叱られるのは理不尽だ。
まず規則を先に明確にした上で、叱らなければなるまい。

この学校にとって、長髪を許さないということが重要な指導であるのならば、入学試験の前にそれを明確にしておく必要がある。それでも従わない生徒には、反省文など書かせる必要はない。退学若しくは、その場で散髪だ。

長髪を禁止することが、指導のための重要な方法論であるというよりは、教頭の「厳粛な入学式をすることが指導の目的だった」という発言から推測すると、入学式で長髪の生徒がいたら見栄えが悪いという「教師の都合」によるものではないか?

反省文を書かせたとしても、将来始末書を書くのが上手になるかもしれないが、他に意味があるとは思えない。反省文さえ書かせれば、反省し二度としないなどと現場で生徒と接している教師が本当に思っているのだろうか?

私が尊敬する経営者・原田師も、同じように長髪の作業員を指導したがその方法は大違いだ。
原田師は禁止するのではなく、自ら進んで散髪に行くように仕向ける。そしてなぜ長髪にしたいのか、そのココロを理解しより健全、建設的な方法でそのココロを満たしてやる方法を提供する。

こういうのを「説得と納得」の指導という。

床に正座させ反省文を欠かせる。
これは「叱責と服従」の指導だ。この様な指導では人のココロは変わらない。


このコラムは、2010年4月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第148号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

「うっかりミス」の再発防止

 先週のメルマガで、うっかり免許証の携帯を忘れたパイロットのニュースを紹介した。この様な「うっかりミス」にはどのような再発防止対策を考えたらよいのであろうか。

「うっかりミス」というのは意外に厄介である。
ルールを知らなかったわけではないので、ルールの再徹底とか再教育は有効ではない。
難しい、やりにくい場合は方法を改善すればよいが、ただ免許証をポケットかカバンに入れるだけである。改善の余地はないだろう。

普通こうしたうっかりミスには「ポカよけ」と「ダブルチェック」と相場が決まっている。

ポカ除けというのは、うっかりミスがあれば仕事が継続できないようにしておくことだ。
例えば今回の事例では、パイロットが出発前にフライト資料を受け取るときに、免許証を掲示しないと、資料をもらえないようにする。免許証にRFIDを入れておき、ゲートを通るときに自動的に免許の携帯をチェックする。

こういうポカよけをしておけば免許証なしでは飛行機に乗務できなくなる。

よく考えると、これだけでは不十分だ。自宅を出るときに忘れていれば、無免許で乗務することはなくなるだろうが、取りに帰る時間が無ければスタンバイのパイロットを出さねばならなくなる。
更に対策を考えなければならない。

免許証を持って帰るから忘れる。ならば持って帰らなければ良いわけだ。
免許証は空港で預かることにし、フライト資料と一緒に受け取り乗務をすればよい。

ダブルチェックのほうは、文字通り二度チェックすること。
この時の二度チェックは、人を変える、時間を変える、場所を変えるなどして二度やらねば意味が無い。

例えば、自宅を出るときに家族に免許携帯の有無を尋ねてもらう、というように人を変える。独り者の場合は、部屋を出たところでもう一度確認する。これで場所と時間を変えて二度チェックしたことになる。

もっとも免許証を自宅に持って帰らないようにすれば、ダブルチェックの余分なコストをかけることもなくなるだろう。


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

全日空操縦士、免許置き忘れた 国際便4時間半遅れ

 12日朝に羽田を出発して金浦(韓国)に向かった全日空便(乗員・乗客254人)の副操縦士(40)が、航空法で携行が義務づけられているライセンス書類を持たないまま乗務していたことがわかった。出発後に羽田の同社スタッフが、事務所に一式を置き忘れているのを発見した。

 この便は予定通り金浦空港に着陸。副操縦士は予定していた折り返し便には乗務できないため、全日空は東京から他社の便で代替の操縦士を金浦に派遣した。この影響で折り返し便の出発が4時間半遅れたほか、その後の往復2便にも2時間前後の遅れが生じた。予約客計913人に影響した。全日空は「迷惑をかけて申し訳ない」としている。

 国土交通省は全日空に再発防止を指示した。

(asahi.comより)

以前免許証を持たずに車を運転していて、交通警察官に見つかったことがある。
この時は、警察官がどこかに問い合わせて、私の氏名が免許証データベースにあることを確認した上で、家まで運転して戻ることを許してもらえた。

旅客機を操縦するパイロットと、自家用車を運転するドライバーを比較すること自体ナンセンスかもしれないが、高々運転免許を携帯していなかっただけで乗務できないというのは行き過ぎではないだろうか。既に韓国までの往路は免許不携帯で操縦済みだ。しかも主操縦士も同乗しているのだ。

多少の柔軟性があってもよさそうな気がする。日本まで戻る途中で、「白バイ」に捕まることも無いわけだから(笑)

とはいえ、規則は規則なのだから従うしかないだろう。
それよりも国土交通省の要求に対し、全日空はどのような再発防止対策を提出するのだろうか?こちらは大変興味がある。

皆さんなら、この様な「うっかりミス」の再発防止にどのような対策を
導入されるだろうか?
久しぶりに皆さんのアイディアをお寄せいただきたい。


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

グーグルでないと作れない日本語入力ツールを作った

 グーグルが12月3日に公開した文字入力支援ツール「Google日本語入力」が、大きな注目を集めている。Googleがクロールした大量のウェブデータ元にした豊富な語彙と、変換語を提案するサジェスト機能が目玉だ。

 開発を担当したのは、Google検索で検索語の誤変換を指摘する「もしかして」機能の日本語版を開発した、グーグルソフトウェアエンジニアの工藤拓氏と、同じくソフトウェアエンジニアの小松弘幸氏だ。2人は「20%ルール」と呼ばれるグーグルの社内制度を使い、勤務時間の20%を使ってGoogle日本語入力の開発を始めた。

(CNET Japanより)

 グーグルが日本語入力ツールを作るというのは意外だったが、考えてみればグーグルの強みである「検索」を活用した見事な発想だ。

グーグルでは毎日気が遠くなる量の検索が行われており、そのたびに日本語が入力されている。インターネットをくまなくサーチした日本語キーワードの蓄積がある。これらが日本語変換辞書のリソースとして役に立つ。

また検索時の「あいまい検索機能」も日本語入力ツールには有効だ。
例えば「クオリティーマインド」とか「クォリティマインド」などで検索をかけてみて欲しい。それらの検索結果には「クオリティマインド」という私のホームページがヒットするはずだ。

それよりも注目したいのは「20%ルール」という制度だ。
詳しくは記事だけでは分からないが、業務時間の20%は業務以外の「アンダーベンチ開発」をしても良いというルールだろう。業務以外の創造的な仕事を就業時間中にすることを許す「企業文化」がすごい。このような「遊び」からとんでもないヒット商品が出てきたりするものだ。

有名なところでは、3Mのポストイット、Sonyのウォークマンもエンジニアのアンダーベンチから出てきた製品だ。

こういうことができるのは研究開発・商品開発の部署だけではないはずだ。
工場の中のエンジニア、管理職も同じように業務以外の創造的な時間を確保すべきだ。

私が尊敬している経営者は、管理職の職位にあわせ一日のうちで、部長は4時間、課長は2時間というように「業務をしてはならない時間」を決めている。この工場では、その時間を利用して作られたマニュアル類が膨大な量となり従業員が次々と育つ環境の土台となっている。

今日のニュースからの気付き

  • 会社の資産を新しい目的に再利用できないか
  • 従業員に創造的な「遊び」をすることを推奨しているか

あなたの会社ではいかがだろうか?


このコラムは、2009年12月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第130号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

工場のR&D

 先週の記事「グーグルでないと作れない日本語入力ツールを作った」に読者様からコメントをいただいた。

※T様のコメント
今の日本では、いい品質で安いものでなければ売れないという、悪い風潮が浸透しています。そこにはコストも何もなく、みんな「安さ」にだけ目が行き、われわれは今後何を、どうしたらいいのか、戸惑っています。

新商品の研究開発には、かなりの研究期間と開発費用がかかります。それら費用を捻出するだけの財源は、私ども中小企業にはありません。

私の記事が舌足らずのところもあり、多くの方がT様と同じ思いを持たれたのではないだろうか。

品質は良くて当たり前、安くなければ売れない、という商品を「当たり前品質」商品といっている。すでにモノがあふれている市場では、「当たり前品質」の商品を量産すれば、貧乏も量産することになる。

「魅力的品質」の製品をお客様の需要に合わせて生産すれば、コスト競争に巻き込まれずに済むはずだ。

当然商品開発には莫大なコストがかかる。
しかし工場のR&Dというのは商品開発とは違うものと考えている。
顧客の価値観を理解してそこを強化するのが工場のR&Dだ。

例えば顧客が、不良が少ないという品質に価値観を持っていれば、徹底的に不良を減らす。もちろん検査コストをかけて不良を除去するという意味ではない。工程で品質を造りこむ上流改善だ。

フレキシブルな納入体制に価値観を持っていれば、徹底的にリードタイムを短くする。
鍋屋バイテックという特殊ネジメーカは「すしバーコンセプト」を実現し、注文生産でネジ1本から翌日納入を可能とした。この様な非常識なリードタイムを実現してしまえば、顧客はコストのことで文句は言わなくなるだろう。

ある電気製品の成型工場では、廃棄処分済の金型を材料として再利用し、金型エンジニアに爪楊枝入れとか、作業員が腰を下ろす小さな椅子を作らせている。
元々金型のメンテナンスしかできなかったエンジニアに対し、金型設計の技能訓練になる。

こういう活動を通して工場の技術力、生産効率、品質を上げてゆくことが工場のR&Dだと考えている。
身近なところにたくさんテーマはあるはずだ。


このコラムは、2009年12月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第131号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

スマイル

 先日は大変気持ちの良い工場を訪問させていただいた。

日系中国工場では就業員が、上司やお客様に挨拶をきちんとするところが多い。しかしこの工場では同じように挨拶をされても、なんだかとても気持ちが
良いのだ。挨拶をされるたびにこちらも思わず微笑が出る。

何が違うのだろうかと考えながら工場を案内していただいていた。ふと見やった工場の壁にその答えがあった。

壁には5Sの標語「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「素養(中国語で躾のこと)」の他に「安全」「微笑」「節約」の3つの標語が掲げられていた。

この「微笑(スマイル)」こそがその答えだった。挨拶をしてくる作業員やスタッフたちは女性も男性も皆微笑みながら挨拶をしているのだ。

笑みをたたえながら挨拶をされれば、こちらも思わず微笑みたくなる。
朝顔を合わせたら微笑みながら「おはようございます」と言う。
仕事がつらくても微笑みながら「お疲れ様」と言う。
上司に叱られても微笑みながら「ありがとうございます」と言う。

スマイルの効果は大きい。
スマイルはココロをポジティブにする。
ポジティブなココロは行動をポジティブにする。
ポジティブな行動はポジティブな成果となりスマイルにつながる。

そしてスマイルは周りに伝染して職場全体が明るくなる。

サービス業ではスマイルが直接顧客満足につながる。工場でもスマイルは従業員満足につながり、規律と生産性・品質の向上に役立つだろう。

以前、私はある工場でこんな指導をしたことがある。
クリーンルーム内で作業者の防塵着の着方に乱れが散見された。不良の原因となっている埃は着衣から出る繊維質のものが大半を占めている。彼らには朝礼のときに2名ずつ向かい合い、お互いに微笑みながら着衣の乱れを直しあうように指導した。

母親が子供のボタンをかけるように、妻が夫のネクタイを直すように、笑みをたたえて着衣の乱れを直してやれば、上司から叱られるより何倍も効果があるだろう。

このような活動の成果は、すぐには見えないかもしれない。しかし確実に良い企業風土を作り上げる。


このコラムは、2009年12月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第132号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

作業標準を守る

 先週のメールマガジンで作業標準について記事を書いた。

せっかく作業標準を決めても守られない。こんな事が往々にしてある。
守られないのには必ず理由がある。「品質意識が低い」の一言で片付けてしまっている例をよく見る。これでは対策の立てようがない。理由を明らかにしてきちんと対策を打つべきだ。

  • 作業標準があるのを知らない
     作業標準どおりに作業をしなければならない事をきちんと指示をするのが大前提である。作業手順書などにきちんと明示して文書化しておく必要がある。
  • 作業標準があるのを知っているが守れない
     知っていて守らないのはちょっと深刻だ。この場合にも理由はあるはずだ。やむを得ず守らない。つまり作業標準を守るのが困難な場合だ。ついうっかり守らなかった。これは作業標準を守る必然性がきちんと理解できていないと考えるべきだ。
  • 作業標準を守るのが困難
     作業標準にムダ・ムラ・ムリがある場合はしばらくの間守れてもいつかは守られなくなる。
    例えば不具合対策として重点目視項目を追加する。しかしタクトタイム以内で他の重点目視項目を検査する事が出来なくなってしまうことは往々にしてありうる。ムダ・ムラ。ムリを徹底的に排除して作業標準を作るべきだ。
    または作業者の技能が不十分で守れない場合もありうる。
    作業者の技能訓練をきちんとする。作業を簡素化する。治具や設備を工夫して誰でも作業できるようにすべきだ。
  • 作業標準を守る必然性が分からない
     作業標準が守られないと、どうなってしまうのかきちんと教えておく必要がある。どう作業すべきか(How)だけではなく、どうしてそうしなければならないのか(Why)をきちんと教えておく。
    それでも人間がする作業であれば、「ついうっかり」というのは発生する。
    作業標準どおりに作業をしなければ次の作業に移れないようにしておくなどの工夫が必要だ。
    例えば4箇所ネジ締めをする作業では、作業前に4本ネジを小皿に取り置き、作業終了時に小皿のネジの過不足がない事を確認する。ちょっとした作業追加で「ついうっかり」を防ぐことは出来る。
  • 故意に作業標準を守らない
     残念ながらこういうこともありうる。
    罰金・減給制度などの手を打っておられるところもあるだろう。しかしそれ以前に自分たちの仕事に対する「誇り」を持たせるところから始める必要があると考えている。
    牛乳を水で薄めメラミンを添加してタンパク質量のつじつまを合わせる、などという行為はこの例に当てはまるだろう。自分たちの仕事は国民の健康生活に貢献しているのだという「誇り」があればこんなことにはならないはずだ。

更に作業標準が守られている事を確実にするための工夫も必要だ。
例えばチェックリストなどは、きちんと作業標準が守られている事をダブルチェックする事が出来る。


このコラムは、2008年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第54号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

作業標準

特に中国の工場では作業員の流動性が高いので、作業標準をきちんと決めておく必要がある。
新人作業者がラインに入るたびに、品質不良が発生したり生産性が落ちたのではやっていられない。

品質が一定のばらつきにおさまるように、品質リスクを排除できる作業方法を検討しそれを作業標準とする。また生産性が一定のレベル以上になるように、モノの置き方、モノの取り扱い方などを含めて作業方法を検討しそれを作業標準とする。

したがって作業標準というのは最低限やらなければいけない作業、やってはいけない作業で構成される事になる。言ってみれば、品質も生産性も要求下限を下回らないようにするようにするのが作業標準である。また作業標準というのは制定した時の最良の方法であるから、その後も最良の方法であり続けるという保証はない。いってみれば「進歩」をある時点でいったん凍結することである。

作業標準を決めた瞬間から、作業を観察しムダ・ムラ・ムリはないか、更に良い方法はないか検討すべきである。

作業標準は通常文章の形で共有されている。
標準作業指導書、作業チェックシートなどのような形にして作業者が理解し共有できるようにする。分かりやすい事が重要である。文章でわかりにくければビデオを利用するなどの工夫が必要だ。

このようにして決めた作業標準はきちんと守られて初めて意義がある。


このコラムは、2008年9月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第53号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】