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統計手法

 先週は、ネジを作っている工場を訪問した。改善アドバイスをした後に、困っているコトありますか?と聞いてみたら意外な質問が来た。

ネジを生産している人たちは、生産を数量では管理していない。重量で管理している。一方顧客の方は、数量で発注をする。当然顧客側は、部品表に指定してあるとおりに、ベンダーに注文するわけだから、ネジを1kg発注することはない。1000本と発注する。

しかしネジの工場では、本数を数えていては、梱包作業に時間がかかりすぎる。したがって、重さで本数を管理している。つまり1本のネジの重さを量り、1000倍した重さで、1000本のネジを梱包する。

バネ、リベットなど小さな部品は、同様な管理をしている工場は多いだろう。

ところがこの方法で出荷すると、顧客から本数が足りないとクレームが来るそうだ。顧客がわざわざ受け入れ検査で、ネジの納入本数を検査しているとは考え辛いが、そのようなクレームがあるという。

やむを得ず、何個か追加して出荷しているが、小さなネジの場合なかなかクレームがなくならないそうだ。どうすれば良いかと聞かれた。

こういう時にこそ統計的なモノの考え方をすればよい。

通常出荷する時に、出荷ロットの山から、1本製品を取り電子秤に乗せる。重量を測定した後、出荷個数を入力すれば、一袋に詰めるべき重量が自動的に電子秤に表示される。その重さになるように、袋詰めする。
これが通常の作業方法だろう。

これを統計的に考えてみる。
ネジは皆同じ重さではない。ある範囲でばらついているはずだ。たまたま秤に乗せた1本が、そのバラツキの軽い方のネジだったら、出荷重量規格は小さめに設定されてしまう。ネジの重量バラツキが1本分の1/1000だとしても、梱包単位が1000本だとすれ
ば、その影響は無視できなくなってくる。

したがって、この問題を解決するには、統計的アプローチを取る必要がある。

生産ロットごとに、ネジ重量の平均値、ばらつきは変化するはずだから、生産ロットごとに、梱包の重量規格を変える必要がある。

生産ロットごとにサンプルを抜き取り、そのサンプルデータから平均値、標準偏差を計算する。この値をその生産ロット全体の、平均値、標準偏差の推定値とする。

検査規格を、(平均値+3×標準偏差)×梱包個数
とすれば、梱包個数未満の袋が発生する確率は、0.15%以下となる。
もしも0.15%もクレームが来ては困る、と言う方は、
検査規格を、(平均値+4×標準偏差)×梱包個数
としていただけば良い。これならば梱包個数未満の袋は30ppmしか発生しない。100万回梱包して30回だけだ。

納入本数が足りないと言うクレームに対し、むやみに余分に出荷する、または、自動機で個数をカウントする、という対策を取れば、コスト上昇を招き、利益は減る。

自動機で個数をカウントすれば、正確になるが、設備投資が必要になり、計数時間は秤を使う方式よりは、遅くなる。

統計的手法を使えば、梱包数量が少ない不良を、統計的に少なくすることになる。本来の梱包数量より若干余分に梱包する可能性があるが、全て作業員が数えたり、自動カウンタを導入するよりははるかに安いだろう。


このコラムは、2012年11月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第284号に掲載した記事です。

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平均値と中央値

 最近コロナウィルス治療薬の治験のニュースで「中央値(メディアン)」と言う言葉を目にした方も多いだろう。

治療薬の効果を確認する場合、2群のサンプル(患者)に対して治験の薬とプラセボ(治療効果がない偽薬)を投与して、効果が出る期間を測定。両群で治癒期間に有意差があれば、効果ありと判定する。この時治癒期間を平均値ではなく中央値を使う。

中央値とはサンプルデータを大きさ順に並べてちょうど真ん中にある値をいう。
治験の場合は、治験薬を処方した群とプラセボを処方した群それぞれの治癒期間を大きさ順に並べ中央の治癒期間で薬効の有無を判定することになる。

なぜ平均値ではなく中央値を使うのか、ちょっと考えてみよう。

治療効果がない場合、治癒期間は長くなる傾向にある。
効果があっても被験者のばらつきによって治療期間が長い治験者がいると、治癒期間の平均値は大きくなる。するともともとプラセボを処方された群との差が小さくなってしまい、治療薬の効果が薄まって見えてしまう。

例えば年収で考えるとわかりやすいかもしれない。
年収300万円の社員が10人、社長が3000万円の年収の会社の平均年収は6000万円÷11≒545万円となる。しかしこの会社には年収545万円の人は一人もいない。
中央値は300万円。この会社の人の年収を代表する値は平均値より中央値の方が適切と考えて良いだろう。つまり分布が正規分布ではなく、離れ値がある場合は中央値でその集団を代表させるのが妥当となる。

治験の場合、薬の効果でなく被験者の自然治癒力で回復する人が混じる可能性がある。この場合治癒期間は長めになると予測される。

集団の特性を代表する値には、平均値、中央値、最頻値があり、目的に合わせて使い分ける必要がある。


このコラムは、2020年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1056号に掲載した記事です。

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改善テーマ

 本日のテーマでお話したお客様でのQCC研修は,次から次へと改善テーマが見つかっている.

QCC手法の講義と,実践活動を同時に指導している.
先週は対策の決定のところで,問題点から系統図を使って対策案を列挙する.それにマトリックス図を併合し,即効が期待できる対策から順に実施していく.という手法を講義した.
講義では,完成品倉庫の削減を事例として手法の説明をした.

その講義に早速生産管理部門の管理職が飛びついて来た.彼の部署では年間のQCC活動テーマとして,完成品在庫の削減に取り組んでいたのだ.研修前の工場診断で完成品在庫の多さが気になっていたので,研修の例題として在庫削減を選んだ.それがストライクだった訳だ.

例題に沿って現状を聞いて見ると,工程内不良を想定して受注数量に大きな係数をかけて,生産投入をしていることが分かる.

また別のサークルは,設備稼働状況の記録の記入漏れ,誤記を削減すると言うテーマに取り組んでいた.さほど大きな改善効果はないと高をくくっていた.
原因分析が甘いので,実際の記録表を見せてもらった.
記録表からは,チョコ停が多いこと,段取り換えに時間がかかっていることが見えてくる.

それぞれにすごく大きな改善効果が期待できるテーマが浮かんでくる.目の前に,水をたっぷり含んだ濡れ雑巾があるのと同じだ.たっぷりと成果が搾り取れそうだ.


このコラムは、2011年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第207号に掲載した記事です。

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「ありがとう」の効果

 先日朝早く東莞の市内バスに乗った.まだ通学時間には早かったが,女子高校生が乗っていた.彼女は学校のあるバス停で降りたが,前方の入り口から降りていった.乗り込んでくる乗客はなかったが,どうして決まりを守れないのだろうか?と眉をひそめかけた.

しかし彼女は運転手に小さな声で,「謝謝」と言って降りていったのだ.

日本では子供達がバスを下車する際に「ありがとうございます」と運転手に声をかける光景はよく目にする.しかし中国では,初めての経験だった.大げさかもしれないが,私にとっては小さな感動だった.この日は一日爽やかな気持ちが継続した.

中国に来た当初,買い物をしておつりを貰った時にいつもの習慣で「謝謝」と言うといぶかしげな顔で見られる.知人にちょっと親切にしてもらった時に,「謝謝」と言うと水臭いと叱られる.
そんなことを繰り返している内に,「ありがとう」と言う言葉を忘れかけていた.

当然「ありがとう」と言う言葉は,自分が嬉しいから発する.そしてその嬉しさは「ありがとう」と言う言葉を発することによりより確かになる.「ありがとう」と言われた人も嬉しくなる.

件の運転手は,「謝謝」と言われて優しい気持ちになったのだろう.その後の運転は明らかに優しくなっていた.彼女の一言は,そのバスに乗り合わせた乗客全員にも,ありがたいことだったわけだ.

ただ横で見ていた私も,一日気持ちが晴れやかだった.ありがたいことだ.
「ありがとう」は伝染するのだ.

「ありがとう」を漢字で書けば「有難う」となる.「難が有る」という意味だ.困難や難しいことに直面した時は,まず「ありがとう」と言う.なぜなら成長のチャンスが来たからだ.

これを聞いた仲間は,困難に負けない貴方の強い精神に感動する.
困難な時にリーダが暗い顔をすれば,メンバーも暗くなる.明るい顔で「ありがとう」と言えば,部下の気持ちも明るくなる.その明るさが,困難な道を進むための灯りになるのだ.

今日から貴方の会社では「ありがとう」を公用語にしてはどうだろうか.


このコラムは、2010年11月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第180号に掲載した記事です。

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景気と改善コンサルの仕事

 私は現場改善の仕事をしている.お客様の工場に出かけ,生産性や品質の改善を現場で進める仕事だ.

面白いことに,景気が悪くなると改善コンサルの仕事が増え,景気が回復すると改善コンサルの仕事は減る.08年11月から徐々に仕事が増え,09年はかなり忙しかった.しかし09年の11月頃から,仕事が減ってきている.

お客様の工場は,受注が増え改善どころではなくなってきた,ということなのだろう.それはそれでめでたいことなのだが,忙しさに負けて改善を後回しにすると後で苦労することになる.
今は作業員が足りていない状況だ.徹底的に改善をし,少人数でも生産できる体制を構築する必要が有る.

最近は改善コンサルの仕事は減っているが,社内研修の仕事が増えている.最近発生した,フォックスコンの連続自殺事件や,自動車部品メーカでのストライキの影響なのだろうか.お客様が,従業員の教育に力を入れ始めているのを,肌で感じる.

改善も従業員教育も,重要な仕事である.しかし一刻を争う仕事ではない,「重要だが急ぎではない仕事」だ.こういう仕事は往々にして,後回しになる.「重要だが急ぎではない仕事」は計画を立て,計画に従って進めるのが良い.
計画なしにいつかやろうと考えていると,時機を逸してしまうことがまま有る.


このコラムは、2010年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第162号に掲載した記事に加筆修正しました。

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改善を阻害する文化

 最近訪問した中華企業で働いている日本人の方から、面白い話を聞いた。彼は香港人経営者、中国人従業員の中で広東語と北京語を駆使して活躍をしておられる。

1台1万元の温度調節設備をオーナーが買おうといいました。
幹部従業員が反対しました。「こんなのは自分で作ったほうがいい!」
自分で作りました。オーナーは大喜び。
オーナーのWIN : 当初1万元のものが8千元で買えた。2千元のWIN!
部従業員のWIN : 実は原価は4000元でした。残りの4000元はWIN!
結局負けたのは“品質”です。業界各社が必死で研究している製品なのに
素人のDIYが使い物になるわけがない。年間数千元の損失でしょう。
もちろん、統計はされていません。だれも‘王様は裸だ’といいません。

私は、この工場を診断した結果、理想像を描き、そこに到達するために、こんな活動をしてはどうですかと提案した。それに対して、彼はこんな事例を紹介し、もっと目先の現実から着手したいと言ってきたのだ。つまり私の描いた理想像を香港人オーナは理解できないだろう。もっと目先の具体的改善を通して、その先を徐々に見せてゆく方がうまく行く。というのが彼の考えだ。

長らく中華系企業で苦労をされた方の、処世術だと思う。
私自身も中華系工場を指導していて、同様の経験をしたことがある。
現場の改善はそこそこ進むのだが、会社全体の企業文化を改革しようとするととたんに抵抗勢力が立ちはだかる。厄介なのはこの壁が現場従業員の壁ではなく、経営者の壁だということだ。

改善のお手伝いをして、大きな成果を得られた会社は、みなこの障壁が低い会社だった。
現場の抵抗勢力は、何とかなるが経営者の壁はなかなか越えられない。

今回は私も彼の処世術を真似て、目先の改善から懐に入る戦術を取ってみようと思う。
現場のリーダたちの心に「改善の魂」を埋め込めば、小さな改善は連鎖的に発生するはずだ。


このコラムは、2010年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第159号に掲載した記事に加筆修正しました。

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改善の成果

 お客様の改善をお手伝いする時に,改善の成果を保証して欲しいと経営者に言われることがある.日系企業でそういう要求を受けることは滅多にないが,中華系企業の経営者はそういう傾向が強い.安からぬ料金を払う訳だから,その費用対効果を考えることは当然だ.

通常私の方から,無料診断などで問題点を見つけ,段取り替えの時間を1/3にしましょう,外に借りている倉庫を半分にしましょう,工程内不良を1/3にしましょう,などと目標を設定して仕事を始めることが多い.

しかし,本当にそんな成果が出せるのか不安に思っているのか,もっと詳細に成果を定義して欲しいと言う要求をよくいただく.では現在の財務状態を調査させていただき,活動後の財務状態と比較し,効果があった分を成果報酬としていただきましょうか?と言うと,財務状態は教えられないと言われる(苦笑)

では中国系のコンサル会社はどうしているのか,時々一緒に仕事をする仲間に聞いてみた.彼らは,こういう研修を何時間しました,現場で何時間改善指導をしました,と「活動の記録」を膨大な資料にまとめて,報告している様だ.そこまでやっても,成果報酬を値切られるそうだ(笑)

それは当然だ.顧客は,何をしてくれたかよりは,いくら儲かったかが問題だ.いくら活動報告をしても,改善出来たと言う実感が無ければ,満足はしない.

例えば,まず5Sから始めなければ,どうにも駄目だ,と言う工場に5Sから始めましょう.と提案すると,では成果を保証して欲しいと言われる.当然5Sが定着すれば,色々な経営指標が改善されるはずだ.従業員の士気が上がる,と言うのは離職率の低下で測定出来るだろう.しかし離職率が高いのは従業員の士気以外にも要因がある.これを士気の要因と,その他の要因に分類することはほぼ不可能だ.

例えば,外部に倉庫を借りている工場に,倉庫を半分にしましょう,と言うと興味を持ってもらえる.問題意識のある経営者ならば,即座に毎月○万元経費が浮くと計算出来るからだ.

問題意識があっても,解決出来ないのは正しい解決課題が定義出来ないからだ.
倉庫が狭い問題に対し,収納効率を上げると言う課題にしてしまうと,在庫を半分にすると言う解は見つからない.または自動倉庫を導入すると言う,対策を考えれば,費用対効果の問題で実現出来なくなる.本当の問題は,必要以上に生産するから倉庫が狭くなるのだ.従って,まとめ生産をしないと言うのが課題となる.社内や業界の常識にとらわれていると,こういう解決課題が設定出来ない.

こういう工場が,しばしば倉庫管理系統(システム)を教えて欲しいと,要求して来る.
それではうまく行かないから,生産改善をしましょう,と提案するのだが,中々理解してもらえない.系統(システム)さえ勉強すれば,魔法の呪文の様に問題を解決出来る訳ではない.

我々が提供するサポートの効果は,目に見える改善効果だけではない.経営幹部から現場リーダに対し,改善能力を育成し,改善意欲を向上することだ.
成果だけを求めると,我々が自分で改善をしてしまえば済む.しかしそれでは改善が継続することにはならない.下手をすれば,改善した結果も維持することが出来なくなる.

我々の仕事の最大の効果は,組織の改善意欲を向上させ,改善文化を定着させることだと考えている.


このコラムは、2012年12月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第286号に掲載した記事に加筆修正しました。

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今月のレジ係明星

 近所の外資系スーパーマーケットの売り場に,「今月のレジ係明星」という掲示板がある.明星というのは,スターという意味だ.優秀レジ係ベストスリーを,写真入りで掲示してある

優秀レジ係の判定基準は,レジに打ち込んだ(バーコードをスキャンするだけだが)点数,間違って打ち込んだ点数で計算する様になっていた.

早くレジ処理が出来れば,お客様がレジで待たされる時間も短くなり,顧客満足につながるだろう.(正確に言えば顧客不満足の解消であり,顧客満足ではない)
そしてレジ係明星に選ばれたいという意欲を,レジ職員が持つという効果も期待出来る.

レジに打ち込む点数を上げるためには,早く処理をする,またはレジに立つ時間を長くする事で達成出来る.
後者によって点数を上げようと考えている職員は,皆無の様だ(笑)食事時は,お客様が長蛇の列を作っていても,誰も空いているレジに立とうとはしない.

レジ処理を早くする方は,それなりに取り組んでいる.商品をスキャンし易い様に,商品を入れたかごを垂直に立てる.確かにこの方が早く商品を取り出せる.しかし中に卵などが入っていると,割れてしまわないかとこちらがハラハラすることになる.

レジの打ち間違いに関しては,自分で修正出来ないので,レジ主任を呼んで修正してもらうことになる.その間入力処理が出来ないので,ダブルで損失となる.従ってスキャンし終わった商品を,買うのを止めたなどと言うと,不機嫌な顔でサービスカウンターで返品処理をしろと言って来る.

残念ながら,この活動は顧客満足に直結しているとはいい難い.

スーパーマーケットでは,接客サービスが出来るのは唯一レジ係である.そういう意味では,顧客満足に直結した評価もすべきだろう.

私は,レジ係明星の作業が,他のレジ係の作業とどのような差異があるのか興味があり,レジ係明星の列に並んでみた.

作業方法に特段の差異は発見出来なかったが,意外な事にレジ係明星のおばさんは,お客に結構話しかけているのだ.作業の手を止めておしゃべりをしている訳ではないが,私が買ったペットボトル入りの飲料を見て,これは「当り」が出るともう一本貰えるから,キャップをよく見てね,と話しかけてきた.何でもない一言を言える人が,接客の仕事に向いているのだろう.以降,私はレジに並ぶ時にこのおばさんを探している(笑)

他の中国人たちも,私と同じ様な気持ちで,このおばさんの列に並んでいるのだろうか?
真相は定かではないが,経営者はただレジ係明星を決めるだけではなく,なぜ彼女の成績が良いのかを研究すべきだ.それを他の職員も出来る様にすれば,業績も上がるだろう.


このコラムは、2012年12月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第289号に掲載した記事です。

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鴻海も苦戦、集まらぬ中国の労働者 若者定着せず

 中国の製造現場で労働者の確保が一段と厳しさを増している。多くの工場が深刻な人手不足に直面し、人件費は右肩上がりで上昇を続ける。安価な労働力を強みに「世界の工場」と呼ばれた中国の変調。世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)会社、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業も直撃している。

 大型工場が集まる中国南部の深セン市(広東省)郊外にひときわ巨大な工場がある。米アップルから携帯電話や部品の製造を受託する鴻海の中国子会社、富士康科技集団(フォックスコン)本部だ。

■閑散とする募集窓口

 12月初旬、同工場の南門にある従業員募集窓口は閑散としていた。並んでいたのは若い男女30人。警備員は「2~3年前は300人以上いたのに」と首をひねる。

 中国国内の従業員は130万人。深セン工場だけで30万人が働く。中国全土の農村から従業員を集め、安価で豊富な労働力を売り物に急成長した。同社の輸出総額は中国全体の約6%を占める。だが、この成長方程式は暗礁に乗り上げている。

 「いつも人手不足だ」。鴻海幹部は打ち明ける。採用担当者は中国各地を行脚し、地方政府や専門学校で採用活動を連日続ける。2012年の基本給は2200元(約2万9000円)と5年前の4倍近いが、労働者は集まらない。トップの郭台銘氏が「100万台のロボットを導入して人間と置き換える」と語るほど深刻だ。

なぜ従業員が足りないのか。「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者の数が不足しているのではない。11年の出稼ぎ総数は2億5300万人。08年より3000万人弱多い。変わったのは農民工の意識だ。

 清華大学の調査によると、1960~70年代生まれの農民工の1社での平均勤続期間は4.2年間だった。だが80年代生まれは1.5年間、90年代生まれは0.9年間だ。鴻海の人事担当者は「若い農民工ほどきつい労働に我慢できない」と分析する。

 同社の深セン工場、四川省成都の工場などで今年に入り、衝突が相次ぎ発生した。多くは警備員が従業員に注意したことがきっかけだ。若い労働者は豊かになりかけた時代に生まれ、甘やかされて育った。出稼ぎに出ても実家に仕送りはしない。短期間の仕事で稼いだ賃金で食いつなぎ、蓄えがなくなったら再び就職する若者が増えている。

 移り気な労働者をつなぎ留めるため給与は右肩上がりで上昇する。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、深セン市の基本給はベトナムの3倍近い。ミャンマーと比べると約5倍だ。

 ■アディダスなど工場閉鎖

 この30年あまりの中国の成長を支えた賃金の相対的な安さは薄れ、世界の製造業は中国での生産見直しに動き始めている。米ナイキは09年に中国の自社工場を閉鎖し、アディダスも今年10月に追随した。

 中国は所得向上やネットの普及で労働者の権利意識が高まる一方、所得格差は拡大した。中国共産党は労働者の不満緩和を狙って所得倍増を打ち出し、これが激しい賃上げ要求につながる。安い労働力に頼った成長モデルは限界が近づいている。

(日本経済新聞より)

 中国では,今ちょうど新卒大学生の就職活動が盛んな時期だ.TVの報道を見ると,大学生の就職先には金融業界が人気の様だ.インタビューを受けた学生は,金融業界志望の理由に「安定」を挙げていた.

出稼ぎ民工に,金融機関に就職の道が開かれているとは思えないが,製造業で働く若者は減っている.東莞市にある人材市場では,三次産業の求人が全体の半分を超えたと言う記事を昨年読んだ.

このメルマガでは何度も,中国は既にローコスト生産国ではないと申し上げて来た.人海戦術によるモノ造りをしようにも,作業員が集まらない.

中国全体が豊かになりつつある.沿岸部と内陸部の格差が問題になっているが,成長率と言う切り口で見れば,ここ数年は内陸部の方が豊かになったと言う実感が高いのではなかろうか?

既に出稼ぎ民工は,マズローの欲求5段階で言う所の,生存欲求と安定欲求をクリアしており,その上の欲求が顕在化していると思われる.「苦役」に耐え,自己を犠牲にしてでも,田舎の家族の生活を支えなければならない若者は激減してしまっただろう.

今の若者が「きつい労働に我慢出来ない」のではなく「きつい労働に我慢する必要がなくなった」と理解した方が良さそうだ.

日本では,「女工哀史」「集団就職」の世界から,徐々に発展し「新人類」と呼ばれる若者が登場した.中国では,この歴史をたった10年で到達してしまった.短期間に激変しているが,我々は日本で既に経験して来たことだ.

「きつい仕事」だから若者が永く働かないのではなく,仕事を通した自己成長を実感出来ないので,働きがいが湧かない.こう考えれば,まだ打つ手はあると考えている.

日本の若者には,清掃員と言う仕事は人気がないはずだ.
しかしディズニーランドに集まる学生アルバイトには,カストーディアル(清掃係)が一番人気の職種だと聞いた.カストーディアルと言う名前であっても,清掃員であることには変わりはない.ここに若者の労働意欲を引き出す秘訣がありそうだ.


このコラムは、2012年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第287号に掲載した記事に加筆修正しました。

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続・相違点より共通点に着目

 先週のコラムに読者様からメッセージをいただいた.

※L様のメッセージ
林先生
 先生のメルマガを購読して、既に3年も超えました。
いつも中国企業に関する経営管理の考え方と手法を日本人の目で斬新な視点を紹介していただき、大変勉強になっております。
今回のメルマガで、「相違点より共通点に着目」というテーマは、大変同感しております。相違点を強調しすぎる協和的に物事を進めていけなくなり、共通点を求めることで不可能なことでも可能になると考えております。中国は、協和社会作りにちからを入れておりますが、中日関係も協和関係を作れるように、両国の国民の共通点を探し、また、相違点を共通点に変化していく方法も研究することも願いたいです。

メルマガ創刊当時からご愛読いただいている読者様からのメッセージだ.
こういうメッセージをいただくと,毎週コツコツとメルマガを配信して来て良かったと痛感する.本当に嬉しい.

本当のことを白状すると,私も以前は「相違点派」だった(笑)
前職の頃,中国にある4社の協力工場を指導していた.当時は表面的なことしか目に見えず,日中の違いを考慮して,指導すべきだと考えていた.

日本的な考え方を指導しても,理解出来ないだろうと言う思いがあり,仕組みで間違いなく,効率よく生産出来る様にすることに力を入れていた.当時は,中国人と日本人の考え方の違いを解説した本を読みあさったモノだ.

独立した後,どうすれば人が働く意欲を持つか,と言うことを考える様になった.日本の会社では,そういうことを考えなくても仕事はできた.会社には人事部門があり,彼らが制度や施策を下ろしてくれる.自分は,それを自部署にどう展開するかだけを考えれば良かった.
しかし一人になると,自分で全て考えなければならない.中国で工場を経営している人たちと,毎月勉強会をする様になった.

人が働く意欲を持てば,仕事が楽しくなるはずであり,仕事が楽しければ,幸せになるはずだ.幸せな従業員が集まった会社は,業績も良くなる,という単純な信念で,ずっと考えて来た.

今の所たどり着いたのは「共通点をマネジメントする」と言う方法論だ.

人の魂は,何人であろうと「幸せになりたい」と言う意欲を持っているはずだ.幸せになるためには成長しなければならない.成長のための努力は喜んで取り組むはずだ.努力した結果「幸福」と言う最高のインセンティブが得られる.この「成長意欲」を求心力として,組織をマネジメントすれば,意欲の高い組織になるだろう.

「報酬と罰」で動機付けられる組織は,人が生き生きと働く環境にはなり難いと考えている.


このコラムは、2012年11月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第285号に掲載した記事に加筆したものです。

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