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緊急避難

 2月19日、東莞から日本に戻りました。
移動の制限、濃厚接触の回避策、感染の疑いがある者の早期発見対策などなど、広東省の感染拡大防止対策は有効に機能しているように思えます。アパートの窓から見下ろす大きな商業施設の周辺は人影はほとんど見えません。間引き運転の地下鉄にも、乗客はまばらです。被感染の危険性はあまり感じられませんが、アパートに篭っているだけで仕事がありません。お客様はそれぞれ少ない従業員で生産を立ち上げるのに精一杯です。私の出番はありません。そんなわけで一旦撤退を決断し、日本に戻ってきました。

地下鉄、バスを乗り継いで広州白雲空港に行きました。東莞南城発の空港バスは平時1時間に2便ほどあったはずですが、1日9便に減っています。地下鉄も大幅減便。それでも地下鉄、空港バスともガラガラです。「濃厚接触」にならないよう距離を置いて乗車できます。その上にマスク二重、ゴーグルで完全武装。

国外に脱出する中国人で空港は混雑していると予想してましたが、ほとんど人はいません。ラウンジも職員はほとんどおらず、飲み物、食事のサービスも最小限となっていました。

JALはいつもより小さな機体を使っていましたが、ガラガラ。平時と違い他の乗客との距離を置くため、後方の座席を予約しました。最後方の中央4座席が埋まっていたので、一つ前方の席を予約していました。しかし搭乗して見ると、最後列4座席は乗客はいません。急にキャンセル?空港での健康チェックで搭乗できなかった?色々疑念が湧きましたが、とりあえず安全サイドです(笑)

羽田空港着陸時に東京湾の中程に大型クルーズ船が見えましたが、問題の客船かどうかはわかりません。

二重マスクとゴーグルでモノレール、JRと乗り継ぎ新宿に出ました。

新宿で私の前方を歩く一団はビックカメラの大きな袋を提げていました。会話から中国人旅行客とわかりましたが、一人もマスクをしていません。日本は安全と信じ込んでいるのでしょうか?しかし自分が感染しているリスクを考えれば、最低でもマスクをすべきです。
やはり中国の方が安全かもしれないと嘆息しました。

新宿からは濃厚接触のリスクを減らすため、奮発して特急列車で帰りました。自宅では自主的に宅内隔離生活をしています。たくさん読書ができそうです。


このコラムは、2020年2月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第945号の編集後記に掲載した雑感です。

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不立文字

 不立文字(ふりゅうもんじ)とは禅宗の教義を表す言葉で、文字や言葉による教義の伝達のほかに、体験によって伝えるものこそ真髄であるという意味。

通常私たちは,文字や言葉を使って他人とコミュニケーションをしている。
しかし相手に伝わる情報は言葉よりも、表情、仕草などの言葉以外の要素によるところが多いと言われている。口角を上げる、ウィンクをする、親指を立てる。こういった仕草が言葉以上の情報を相手に伝えることもある。

しかし不立文字で得る情報は,相手の感情ではなく禅宗の教義だ。単純な事柄ではない。言葉を使わずに禅宗の教義を理解することができるのだろうか?

禅宗には「只管打坐」という言葉がある。真理を会得するためには教えを請うのではなくひたすら坐禅をせよ、という意味だ。

真理とは何かを百言を費やしても理解できないであろう。だからこそ不立文字であり只管打坐なのではなかろうか?

百言を費やして説き教えるよりは、自ら体験することで理解させる。

このように簡単に言葉にしてしまうと、ありがたみがなくなるが(笑)「教える」とは、体験を通して自ら理解させることではないだろうか。


このコラムは、2019年9月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第870号に掲載した記事です。

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AIは製造現場を救うか?

製鉄所、AIの導入進む 設備の老朽化・団塊世代の退職 トラブル防ぐ熟練者のノウハウ、継承

 鉄鋼大手が、製鉄所での操業トラブルに悩んでいる。「鉄は国家なり」と称された高度経済成長期につくった設備の老朽化に加え、団塊世代のベテラン技術者の退職が相次いでいるためだ。現場でのトラブルを未然に防ぐノウハウをどう継承していくか。解決策として期待されるのがAI(人工知能)の導入だ。

全文

(朝日新聞ディジタルより)

 中国の製鉄業が国策の後押しで勢いづいているらしい。

一方日本の製鉄業界は操業トラブルに悩んでいるという。
国内最大手の日本製鉄は18年度、大分や和歌山の製鉄所でトラブルが相次ぎ、想定より約100万トン(約2%)の減産を強いられた。
国内2位のJFEスチールは18年度、国内3地区の製鉄所にある高炉の操業トラブルで当初の想定より約180万トン(約6%)の減産となり、追加の対策費として約100億円をあてた。

このような状況を打破するために、鉄鋼各社はAIの導入を進めていると朝日新聞は報道している。

日本製鉄は、効率的な生産計画づくりにAIの活用を検討している。顧客ごとの出荷形状に合わせ、かつ母材の無駄なく生産計画を立てられるようにする。
JFEは工場内のセンサーで検知した鉄鋼の温度や成分などをAIが分析し、製造中の鉄鋼製品に異常がないかを分析し品質を保証する。

これらの作業は現場の生産計画担当者や保守担当者の技能できちんとこなせていたはずだ。そうでなければAIに彼らの技能を落とし込めないはずだ。

社内に蓄積された技能や知見をAIに落とし込むことになんら異議はない。
しかしそれでよいのか?という気持ちを拭い去れない。

社内に蓄積された技能は暗黙知として代々伝わってきたはずだ。それは先輩が築き上げた暗黙知の上に、自分たちの知恵を代々積み上げてきたもののはずだ。AIに教えられて作業する職員はAIに言われた通りに作業をする。彼らに
先輩がやってきたように、先輩の暗黙知の上にさらに工夫や改善を積み上げることができるのだろうか?

機械に指示された通りに働く人間はいかにして創造力を磨くのだろうか。AIは好ましくない事例を発見すれば、ディープラーニングでアルゴリズムを修正することができるはずだ。しかしAIは「無」からは創造できない。

人間が創造力を放棄したら、進化はそこで停止するのではなかろうか。


このコラムは、2019年9月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第873号に掲載した記事です。

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ココロで繋がる組織

 企業経営において方針管理・目標管理が重要であることには誰も異論はないと思う。方針管理・目標管理と方針と目標を対であげている。目標を上意下達で一方的に下ろすのではなく、方針を共有しそれに合わせた目標を現場の管理職・監督職で決定するという意味だ。

目標そのものを上意下達すればそれはノルマにしか見えない。しかし方針を上位下達し、現場で目標を設定すれば、現場の必達使命となる。使命とは文字通り命をかけたコミットメントだ。
それほど大袈裟なことではないかもしれないが、社長が鉛筆を舐めた目標よりは、自分たちで議論した目標の方が達成モチベーションは高くなる。

しかしこれだけでは弱い。
目標は期限内に達成したか、達成できなかったは明確に判断できる。
前職時に事業部長が業界ナンバーワンになるために年間売上500億という目標をぶちあげたことがある。500億円という数字には実感が湧かなかったが(笑)業界ナンバーワンという目標には心躍った。しかし上期が終了した時点で、
年間500億円は到底無理だと判明してしまった。メンバーのモチベーションは急降下、下期の成績も振るわなかった。

当時金額で目標を設定するから、達成不可能と判明するとモチベーションが維持できないのだと考えていた。

しかし目標は具体的な数値でなければ評価しにくい。後に自分たちで設定した目標を必達目標とするための「ココロ」が欠けていたと気が付いた。「ココロ」とは抽象的な言い方だが、組織の存在意義と理解していただきたい。自分たちが仕事をする目的が目標につながっていなかったということだ。

企業には経営目的とか経営理念がある。それが「ココロ」だ。経営目的や経営理念は、今期達成する・しないというモノではない。企業が存続する限り持ち続けるモノだ。

組織のメンバーが「ココロ」を共有し、それに反していない限り目標を達成できなくても、来年頑張ればいい、ということになるはずだ。

残念ながら、業界ナンバーワンという目標は1年で終わった。


このコラムは、2019年9月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第876号に掲載した記事です。

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折り紙基板

 村田製、「折り紙基板」に吹く5Gの追い風

 村田製作所に次世代通信規格「5G」の追い風が吹きそうだ。注目を集めているのは、長年存在を公開してこなかった秘蔵っ子、高機能基板「メトロサーク」だ。
電子部品を載せる基板といえば堅い板状のイメージがあるが、メトロサークは鶴を折る折り紙のような柔軟性を持つ。5G時代に主力の積層セラミックコンデンサー(MLCC)に続く、新たな屋台骨となるかもしれない。

全文

(日本経済新聞)

 折り曲げられるプリント基板は以前からある。FPC(フレキシブル基板)と呼ばれている。従来型のプリント基板間を接続するために開発され、その後部品を実装し折り曲げることにより実装効率を上げるのに貢献している。

しかし村田製作所の折り紙基板(メトロサーク)は折り曲げるだけではなく、たたむことができる。メトロサークはFPCより応用範囲が広がりそうだ。

日経の記事を読むと、メトロサークの開発は2008年から開始している。2017年まで開発を外部に公表していない。多分、革新的な技術に他社の追従はないと自信があったのだろう。特許の有効期間が10年近く伸びたのと同じだ。

以前のメールマガジンでサムソンの折りたたみスマホ「Galaxy Fold」の発売遅延をご紹介した。

「Galaxy Fold」発売延期

Galaxy Foldは再発売されており、連続折りたたみ試験の様子がTV広告で紹介されている。サムソンはこの評価を発売前に完了しておくべきだった。

もちろん村田製作所の皆さんがこのメルマガを読んでいたとは思えないが(笑)
村田製作所は研究開発だけではなく、信頼性評価にも十分な時間をかけたのだと思う。これが日本企業の企業文化であり、顧客から信頼される要因だと思う。


このコラムは、2019年10月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第889号に掲載した記事です。

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日替わりヒーロー

 プロ野球は今週末日本シリーズが始まるらしい。中日ドラゴンズファンの私は、今シーズンも早々にペナントレースへの興味を失った。

今季は3季連続優勝の広島カープが散々の成績となり、読売ジャイアンツが5季ぶりのリーグ優勝となった。両チームの躍進と蹉跌の原因を考えてみたい。

監督の違いを考えると、
 原監督:10季中6季リーグ優勝
 緒方監督:5季中3季リーグ優勝
両軍互角だ。

やはり選手の戦力差のように思われる。
象徴的なのは、昨シーズンまで広島で主力選手として活躍した丸選手が巨人に移籍している。ということは、今期限りで丸選手を手放す巨人は来季のリーグ優勝は危ういかもしれない。アンチジャイアンツの個人的たわごととお許しいただきたい。

本日のメルマガで言いたかったことは、ヒーローが固定化している組織は脆弱性を内包している、という仮説だ。ここまで長い前置きを置かずとも、普通に考えてもこの仮説は真実のように思える。

会社という組織も同じだろう。
経営トップのカリスマ性、有能な幹部のずば抜けた能力だけでは、限界がある。
毎日ヒーローが入れ替わるような組織の方が強いはずだ。
こういう組織は、常に2番手3番手が競い合っており相互成長がある。同様に部門間でも相互成長があるはずだ。

もちろん日替わりヒーローが互いに競争相手を潰し合うような競争関係であれば、組織力が上がるはずはない。


このコラムは、2019年10月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第888号に掲載した記事です。

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続々・未然防止

 先週は六本木ヒルズの回転ドア事故を例として、ヒヤリハット事象から未然防止をしたいと提案した。

先週の記事「続・未然防止」

ヒヤリハット事象は安全問題だけではない。工程内不良もヒヤリハット事象と考えるべきだ。重要なことは、ヒヤリハット現象を放置することなく報告が上がるようにする。報告内容を検討し、未然防止対策を検討する。

そのため、ヒヤリハット報告には原因を分析し対策を立案するに足る情報が必要だ。5W1Hをもれなく記述することが基本。それに加えて以下のような情報があると良いだろう。

設備:使いにくい。慣れていない。いつもと動作が違った。
方法:慣れていない。やりにくい。
材料:いつもと違った。
人:忘れていた。焦っていた。疲れていた。

4Mで考えて見たが、人為ミスの場合最後の人の情報も重要になるだろう。
例えば「忘れていた」のはなぜか?とさらに原因を深める。手順が複雑、作業習熟度が不足などのより高次の原因が見つかるはずだ。そうすれば、ジグ化、半自動化などにより作業を単純化し、習熟度に関係なく正しい作業が出来る様になる。

このように検討を深めれば、作業員の再教育・再訓練などというあまり実効性を感じられない対策とはならないはずだ。

こちらもご参考に
「未然防止」


このコラムは、2018年2月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第634号に掲載した記事です。

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水無常形

『夫兵形象水,水之形,避高而趨下,兵之形,避実而撃虚。水因地而制流,兵因敵而制勝。故兵無常勢,水無常形,能因敵変化而取勝者,謂之神。』

孫子の兵法に有る一説だ。読み下し文にすると以下の様になる。

れ兵の形は水にかたどる。水の形は高きを避けてひくきにおもむく。兵の形は実を避けて虚を撃つ。水は地に因りて流れを制し、兵は敵にりて勝を制す。故に兵に常勢なく、水に常形なし。能く敵にりて変化して勝を取る者、これを神と謂う。

水は高き所に留まらず常に下に有る。特定の形を持たず、四角い水槽に有れば四角となり、丸い器に有れば丸くなる。

老子はこう言っている。
上善若水,水善利万物而不争。
上善は水の如し。水は善く万物を利して争わず。

柔術の極意に「柔能く剛を制す」と言う言葉が有る。
経営の極意は『水無常形』『上善若水,水善利万物而不争』ではなかろうか。
万物の源である水が高きを目指さず、他者に寄り添い利他を目指す。そういう経営が最終的には利を得る、と中国古典が教えている様な気がする。


このコラムは、2018年2月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第632号に掲載した記事に加筆しました。

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仲間力

 「ワンピース」というコミックをご存知だろうか?
伝説の海賊王ゴールド・ロジャーが残した財宝「ワンピース」を求めて旅をするモンキー・D・ルフィ率いる麦わら海賊団の冒険を描いたコミックだ。

ワンピースから触発を受けて、チームとグループの違いを考えたことがある。
チームとグループ

この時の結論は

  • グループとは:メンバーがそれぞれ自分の責任にコミットしており、場所と時間を共有した、テンションの高い集団。
  • チームとは:メンバーがそれぞれチームへの貢献をコミットしており、目的と成果を共有した、モチベーションの高い集団。

春節休暇中に「ルフィの仲間力」という書籍を読んだ。

著者の安田雪教授は社会ネットワーク分析を専門とする学者だ。
彼女の分析によると「仲間力」とは

  • 仲間を集める力
  • 仲間と助け合う力
  • 仲間との信頼を強める力
  • 仲間と一緒に成長していく力

だと言っている。

「仲間を集める力」は、共感できる「夢」を持っていること。
「仲間を助ける力」ではなく「仲間と助け合う力」だ。麦わら海賊団の船長・ルフィは「俺一人ではやっていけない自信がある!!」と宣言している。
「信頼を強める力」とは「無償の愛」だ。ルフィ自身が赤ひげシャンクスに命を助けられている。シャンクスは自分の左腕と引き換えにルフィを救う。ルフィの信頼を強める力の原点はここにある。
「仲間と一緒に成長していく力」兄・エースを救えなかったルフィーは、自分の弱さを克服するため仲間と別れ2年間修行をする。他のメンバーもそれぞれの場所で修行をし2年後に再開。仲間は一緒にいる必要はない。それぞれの場所でそれぞれの任務を果たせば良い。

「ワンピース」を子供の漫画と侮ってはいけない。
組織やチームがどうあるべきか、考えなければならない我々にとっても大きな気づきを与えてくれるはずだ。


このコラムは、2018年2月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第630号に掲載した記事に加筆しました。

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刮目相待

 『刮目相待』とは中国語の四文字熟語で三国志の『士別三日,即更刮目相待』という一節が原典だ。勇猛なだけで学のない呂蒙という武将が暫く会わぬ内に、学識を身につけた、という故事だ。日本語では「男子三日会わざれば刮目してみよ」と訳されている。

珍しく中国の四文字熟語をテーマとしてみた。実は2月10日付の朝日新聞・天声人語に「刮目」という文字が出ており、『刮目相待』という成語を思い出した。

(天声人語)イーロン・マスク

イーロンマスクの新型ロケット「ファルコン・ヘビー」の打ち上げ成功に関連して書かれたコラムだ。
ファルコン・ヘビーは、ステラのスポーツカーを搭載しデビット・ボウイの「スペース・オデッセイ」をかけながら火星まで運ぶという。米国の宇宙開発を担うNASAよりすごいことを民間企業がやってのけた。

南アフリカ生まれの青年はアメリカに渡り、今では電気自動車、太陽光発電、宇宙開発企業のオーナー経営者だ。世界中の人間がイーロン・マスクを刮目しているだろう。

天声人語の論調は、米国には若者の「妄想」に金や技術をだす大人がいる。日本にはその様な若者がいないだろうし、「妄想」には冷笑しか与えない、と悲観的だ。

日本の若者という「群像」を考えると、就職氷河期に就職できずに今だに非正規職員として働いている40代の「若者」を筆頭に、若者に覇気を感じない。当然若者の中には、「妄想」を抱いて努力している人もいるだろう。私の友人にもそういう若者はいる。しかし峰の高きは、裾野の広さによる。

イーロン・マスクの様な高い峰が存在するのは、米国にはそれを支える裾野となる若者が大勢いるということだ。

この問題は若者の意識の問題ではない。
日本の大人たちが「ゆとり」「思いやり」の本質を見失っている様に思えてならない。ゆとり教育は、出る杭を育てる教育ではなかった。数学が苦手でも芸術を磨く。数学が得意なら徹底的に尖らせる。そういう理念ではなっかったのか。円周率を3と教える様では、出る杭を育てる教育は無理だろう。
働き方改革も残業時間にしか目が向いていない様だ。働く目的や目標が確かであれば、寝ずに働いても心は折れないはずだ。

一番の問題は、若者の「妄想」を冷笑する我々大人の姿勢だ。
刮目して大器を探したい。


このコラムは、2018年2月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第629号に掲載した記事に加筆修正しました。

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