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後悔

 失敗から学ぶのは、後悔しないためだ。自分自身の失敗から、何が悪かったのか、どうすればそれを防げるのか、検討し再発防止対策を実施する。さらに他人の失敗も同様に検討し未然防止対策を実施する。このような活動により、失敗による後悔をなくす。

つまり「やってしまった失敗」で後悔しないために再発防止をする。
それを拡大して、他人が「やってしまった失敗」にも未然防止をする。
こういう趣旨で「失敗から学ぶ」のコラムを書いている。

しかしよく考えてみると、後悔するのは「やってしまった失敗」だけではない。「やらなかったこと」に対する後悔もあるはずだ。

卑近な例で考えてみよう。

  • やってしまった後悔
     想いを寄せている女性に告白する。そして断られてしまった。
  • やらなかった後悔
     想いを寄せている女性に告白できなかった。

どちらも後悔するだろう。
しかし、やってしまった後悔は、時が経つにつれてだんだん小さくなる。
一方、やらなかった後悔は、時が経つにつれてだんだん大きくなる。

製造現場にも同様な後悔はないだろうか?


このコラムは、2020年3月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第949号に掲載した記事です。

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逆境

 天才打者・イチローが大リーグに移籍して初めて対戦したのはアスレチックのティム・ハドソン投手だ。この試合でイチローはセカンドゴロ、ファーストゴロ、三振とハドソン投手に完全に抑え込まれている。

ハドソン投手とイチローの対決は、2001~10年に、打率0.215(65打数14安)を記録している。2001年から10シーズン連続して打率0.300以上を記録しているイチローにとって天敵とも言える投手だ。

そのハドソン投手の印象を問われたイチローは「ハドソン投手は、私というバッターの可能性を引き出してくれる素晴らしいピッチャーです。だから私も練習して彼の可能性を引き出せる素晴らしいバッターになりたいですね」と答えている。

さすがは天才と言われる打者だ。天敵の存在を恨むのではなく、自己の成長機会と捉えている。それだけではない。自分もハドソンの成長を支える打者として成長したいと考えている。ただ考えているだけではないはずだ。イチローの言動から察すると、その思いを現実化する修行僧の様な日々の鍛錬があったに違いない。

新型コロナウィルス。我々もまた大きな敵に直面している。逆境に落ち込むのではなく、前を向いて挑戦しよう。

逆境とは我々に可能性を引き出してくれる素晴らしい成長の機会である。


このコラムは、2020年3月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第948号に掲載した記事です。

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努力すれば報われる?

 「努力すれば報われる」多くの人がそう信じて努力をしておられると思う。
子供の頃から「努力」の重要性を教えられ、努力をすれば必ず望ましい結果を得ることができると信じてきた。しかし長年生きていると、努力しても報われない経験を何度も体験してしまう。

野球が大好きで、プロ野球選手になりたくて一生懸命努力した。しかし甲子園大会にすら出ることはできなかった

スチュワーデスになることを夢見て努力したが、JALの破綻でスチュワーデスの採用枠が極端に縮小してしまった。

製造現場で仕事をしたくて工学部で一生懸命勉強したが、営業部に配属された。

努力より、能力、タイミング、巡り合わせで決まってしまうことの方が多い。
世の中そんなに甘くはない、努力だけでは報われない。そんな声が聞こえる。

確かにプロ野球選手になりなかった少年は、努力が足りなくてプロ野球選手としての能力が十分でなかったのかもしれない。
しかしスチュワーデスになりたかった女性や、工学部出身の若者のケースは自分の努力以外のところで夢が叶わなかった、と考えることができる。
従って「努力すれば報われる」は、青少年に努力の大切さを伝えるための言葉でしかないのだろうか?

私はこの言葉の理解(因果関係)が間違っているような気がする。
「努力すれば報われる」のではなく「報われるまで努力する」
が正しい理解だと考える。


■■ 編集後記 ■■

最後まで読んでいただきありがとうございます。いつもより長文です。お暇な時にでも…

 2月19日、東莞から日本に戻りました。
移動の制限、濃厚接触の回避策、感染の疑いがある者の早期発見対策などなど、中国広東省の感染拡大防止対策は有効に機能しているように思えます。
アパートの窓から見下ろす大きな商業施設の周辺は人影はほとんど見えません。間引き運転の地下鉄にも、乗客はまばらです。被感染の危険性はあまり感じられませんが、アパートに篭っているだけで仕事がありません。お客様はそれぞれ少ない従業員で生産を立ち上げるのに精一杯です。私の出番はありません。
そんなわけで一旦撤退を決断し、日本に戻ってきました。

地下鉄、バスを乗り継いで広州白雲空港に行きました。東莞南城発の空港バスは平時1時間に2便ほどあったはずですが、1日9便に減っています。地下鉄も大幅減便。それでも地下鉄、空港バスともガラガラです。「濃厚接触」にならないよう距離を置いて乗車できます。その上にマスク二重、ゴーグルで完全武装。

国外に脱出する中国人で空港は混雑していると予想してましたが、ほとんど人はいません。ラウンジも職員はほとんどおらず、飲み物、食事のサービスも最小限となっていました。

JALはいつもより小さな機体を使っていましたが、ガラガラ。平時と違い他の乗客との距離を置くため、後方の座席を予約しました。最後方の中央4座席が埋まっていたので、一つ前方の席を予約していました。しかし搭乗して見ると、最後列4座席は乗客はいません。急にキャンセル?空港での健康チェックで搭乗できなかった?色々疑念が湧きましたが、とりあえず安全サイドです(笑)

羽田空港着陸時に東京湾の中程に大型クルーズ船が見えましたが、問題の客船かどうかはわかりません。

二重マスクとゴーグルでモノレール、JRと乗り継ぎ新宿に出ました。

新宿で私の前方を歩く一団はビックカメラの大きな袋を提げていました。会話から中国人旅行客とわかりましたが、一人もマスクをしていません。
日本は安全と信じ込んでいるのでしょうか?しかし自分が感染しているリスクを考えれば、最低でもマスクをすべきです。
やはり中国の方が安全かもしれないと嘆息しました。

新宿からは濃厚接触のリスクを減らすため、奮発して特急列車で帰りました。
自宅では自主的に宅内隔離生活をしています。たくさん読書ができそうです。


このコラムは、2020年2月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第945号に掲載した記事です。

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答えより問い

 学生は、問題に対する答えを常に求められている。答えが正しいことで次のステップに進むことができる、ある種ゲームのような状況に慣らされて来た。

しかし学生と社会人の仕事は同じではない。
学生は問題を解答する。
社会人は問題を解決する。

社会人は学生と同じ習性を持ち続けていては仕事の成果はおぼつかない。

仕事上で求められるのは、問題の答えではない。問題から導かれた答えが要求する「行動」が仕事上で求められるモノだ。

学生に与えられる問題の殆どには正解がある。
社会人に与えられる問題には正解がある保証はない。

問題に正解がある保証がないということは、導いた答えは即次の問いとなる。
答えより次の問いを立てることが、仕事ではより重要なことと思う。


このコラムは、2019年6月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第833号に掲載した記事です。

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PISA調査

 先週の新聞にPISA調査に関する記事が出ていた。
PISA(Programme for International Student Assessment)調査とは、OECD(国際経済協力機構)が実施している学習到達度調査のことである。
15歳(高校1年生)を対象に「数学的応用力」「科学的応用力」「読解力」の学習達成度を2000年から3年おきに調査している。日本では外務省下の教育委員会・教育研究革新センターが取り組んでいる。

2018年実施したPISA調査結果が先週公表された。
新聞各社は以下のように報道している。

「読解力」15位 自由記述、正答率の低さ目立つ

読解力は15位(平均得点504点。OECD平均は487点)で、8位(同516点)だった前回調査(2015年)から順位を落とした。
テキストから情報を探し出す問題や、テキストの質と信憑性を評価する問題、自分の考えを根拠を示しながら説明する自由記述形式の問題で正答率の低さが目立ち、正答率が8.9%(OECD平均は27.0%)の自由記述問題もあった。また、前回、前々回(2012年)と比べ、習熟度の低い(408点未満)生徒の割合が増えた。

《朝日新聞》

「日本の15歳の読解力、過去最低の15位」

 OECD学力調査 科学・数学は上位維持
経済協力開発機構(OECD)は3日、世界79カ国・地域の15歳約60万人の生徒を対象に2018年に行った学習到達度調査(PISA)の結果を公表した。日本は読解力で前回の15年調査の8位から過去最低の15位に後退した。科学的応用力は5位(前回2位)、数学的応用力は6位(同5位)となり、それぞれ順位を下げたが、世界トップレベルは維持した。
PISAの18年調査では読解力を重点的に調べ、日本では全国の高校など約180校の1年生約6100人が参加した。03年調査では日本の順位や平均得点が下がり「PISAショック」と呼ばれた。特にトップレベルにあった読解力は14位と急落し、文部科学省が「脱ゆとり教育」の路線を本格化した。12年調査では4位まで回復したが、15年調査では再び8位に下がった。

18年調査の日本の読解力は、平均得点が504点となり、OECD加盟国の平均(487点)より高かったものの、15年調査より12点下がった。日本の生徒のうち、408点未満の最下位グループは16.9%と15年調査よりも4ポイント増加した。

《日経新聞》

PISAで読解力低下 長文に触れる機会作りを

PISAは日本の教育政策に大きな影響を与えてきた。2003年調査でも読解力や数学の順位が大幅に低下し「ゆとり教育」が原因と指摘された。それを機に、全国学力テストが始まり、学習指導要領が改定されて授業時間が増えた。
 その後、順位はいったん回復したが、前回は再び低下に転じて参加国・地域中8位となり、今回はさらに15位まで急落した。

《毎日新聞》(社説)

「PISA調査 日本の読解力低迷、読書習慣の減少も影響か」
本や新聞などをよく読む生徒の方が平均点は高く、読解力低下の結果には、読書量の減少も影響しているようだ。
日本の読解力の順位は、前々回の2012年調査では過去最高の4位だったが、前回の15年は8位、今回は15位と急落した。
文科省によれば、小6と中3を対象に毎年実施し ている全国学力テストなどでは特に学力低下の傾向はみられないといい、同省担当者は「今回のPISAで読解力がなぜ低下しているのか要因を特定するのは難しい」と話す。

《産経新聞》

PISAで読解力低下 長文に触れる機会作りを
PISAは日本の教育政策に大きな影響を与えてきた。2003年調査でも読解力や数学の順位が大幅に低下し「ゆとり教育」が原因と指摘された。それを機に、全国学力テストが始まり、学習指導要領が改定されて授業時間が増えた。
 その後、順位はいったん回復したが、前回は再び低下に転じて参加国・地域中8位となり、今回はさらに15位まで急落した。
 とりわけ日本の正答率が低かったのは、ある程度長い文章から求められた情報を探し出したり、書かれていることの信用性を評価して事実なのか意見にすぎないのかを判断したりする問題だ。

《毎日新聞》(社説)

各社「読解力」の低下を大きく取り上げており、その原因を

  • PC操作(調査はPCで回答する)に慣れていない。
  • SNSなどで短文やアイコンだけのコミュニケーションばかりしている。
  • 新聞、書籍などの長文を読む機会が少ない。

などとしている。

新聞社は営業的に、ラインやツィッターよりもっと新聞や本を読めと言いたいのだろう(笑)

しかしこういう調査で一喜一憂するのもどうかと思う。
確かにPISA調査結果によって「ゆとり教育」の間違いに気がつき、修正されたという利点はあった。今回も教育現場のICT化が加速するかもしれない。

しかし平均値だけを比較して一喜一憂する意味があるだろうか。
母集団の代表値として平均値を使うことはある。しかしばらつきを考慮する必要もあるだろう。

参考図書:「平均思考は捨てなさい」
戦闘機のコックピットを設計するために多くの空軍兵士の体のサイズを測定し平均的空軍兵士の体格を見出したが、それに合致する兵士は一人もいなかったそうだ。

ところで、PISAで高得点を取るのは簡単だ。灘高校、開成高校などの進学校から受験者を選べば良いのだ。
中国は全国からサンプリングせずに北京、上海、江蘇省、浙江省だけを選んでいる。前回(2015年)は広東省が入っていたが、成績が思わしくなく、浙江省に変えられたのだろう(笑)2015年の成績は中国は3つのカテゴリーすべてで日本より劣っているが2018年はすべてのカテゴリーで中国が日本より高得点を取っている。
PISAは「メンツ」のために実施するのではなく、自国の教育を改善するために実施すべきだろう。


このコラムは、2020年1月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第927号に掲載した記事です。

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警官が勤務改ざん

警官が勤務改ざん、不正受給の疑い「雑用ばかりで不満」

 勤務実績を改ざんし、超過勤務などの手当を不正受給したとして、警視庁は20日、同庁サイバー犯罪対策課の男性巡査部長(40)を電子計算機使用詐欺や公電磁的記録不正作出・同供用などの疑いで書類送検し、同日付で懲戒免職処分とした、と発表した。容疑を認め「雑用を自分ばかりが頼まれる不満を発散させるためだった」と説明しているという。
 人事1課によると、巡査部長は、課員の勤務実績のシステム入力担当だった2018年5月~今年6月、自身の超過勤務などを406時間分水増しして入力し、125万7513円の手当を不正に受給した疑いがある。同庁は監督責任で、男性警視ら当時の上司4人についても訓戒や所属長注意とした。

(朝日新聞ディジタル 2019年12月20日)

 40歳で巡査部長ということはノンキャリアの警察官だろう。工場の職位でいえば、現場作業員の班長、組長クラスだと思う。この問題を不正を働いた警察官の問題ではなく、警察官に不正を働かせてしまった組織の問題として考えみよう。

「雑用を自分ばかりが頼まれる不満を発散させるため」不正を働いたと被疑者は供述している。警視庁サイバー犯罪対策課にどんな雑用があるのかは分からないが、例えば、上司や同僚のためにお茶汲みなどの仕事をさせられていたとすれば、同情の余地はあるかもしれない。

課員の業務実績のシステム入力を「雑用」と感じていたのだとすると、明らかに仕事を割り振った上司の責任だ。きちんとその仕事の重要性を説明する必要がある。実際に課員の収入に関わる重要業務のはずだ。
業務実績のシステム入力作業内容が、課員ごとのタイムカードからキーボードを使って入力するような仕事であれば「雑用」と感じるのも無理はないだろう。改善する必要がある。

そのような「雑用」を改善するために改善提案を出したが、提案賞の500円をもらっただけで、何の変化もフィードバックもなければより不満をつのらせる結果になる。
工場の班長・組長が被疑者と同様の気持ちになり不正を働く、作業員へ負の影響を与える、離職する、などは容易に想像がつく。

その結果の影響は、班長・組長個人より組織側の方が深刻だ。

まずは、公平公正に互いに助け合う組織文化を持たねばダメだろう。上位職の指示命令が絶対で、下からの提案がないような組織文化では「不正」「欺瞞」が唯一の不満解決手段になりうる。

そして「雑用」や「つまらない仕事」などないこと、それらの仕事の意義を理解してもらう。「雑用」「つまらない仕事」と感じるのであれば、それを改善する。
「改善提案」と「不満」は表裏の関係であることもある。改善提案制度は報奨金を与えるのが目的ではない。職場の問題に気付き、それを改善することが目的のはずだ。

提案が採用される・されないの判断をきちんとフィードバックしなければ、だれも提案しなくなるか、最悪不満か拡大することもありうる。


このコラムは、2019年12月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第919号に掲載した記事です。

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チャンスは貯金できない

 「チャンスは貯金できない」米国政治家ヘンリー・キッシンジャーの名言らしい。
ツーアウト満塁のチャンス、しかし残念ながら打順は下位打線。このチャンスを上位打線に回る次の回までとっておくわけにはいかない。

チャンスは貯金できないばかりではない。一瞬のタイミングを逃せばチャンスは去っていく。「チャンスの女神には後ろ髪がない」という言葉があるように、チャンスに気がつき振り返った時はすでに遅いということだ。

中村天風師は「チャンスに直面した際、無駄に迷いためらわない。颯爽たる行動力をもって、万難を排してチャンスをキャッチせよ」と言っておられる。

しかし我々のような凡人には、向こうからやってくるのがチャンスであるのか、ピンチであるのか簡単には見分けがつかない。チャンスは時としてピンチの仮面をかぶってやってくる。ピンチがチャンスを装って来ることもある。

バブル期にチャンス到来と考え、本業を忘れ土地や金融商品に手を出し失敗した経営者もあっただろう。

逆もある。食品メーカにとって致命的と思われる製品へのゴキブリ混入が発生、マスコミにも大きく取り上げられる、という大ピンチをチャンスに変えた事例もある。

品質クレーム

チャンスは貯金できないのであれば、颯爽たる行動力でチャンスをキャッチする。そしてピンチにはへこむことなく、どうすればチャンスに変えられるか考え抜くことだ。


このコラムは、2020年1月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第927号に掲載した記事です。

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作業員の離職率

 先週は明治大学で経営学部の学生さんに講義をした。バリバリ理系出身の私が社会科学を勉強している学生さんに講義などおこがましいが、我が師匠の故・原田則夫師の経営哲学を紹介させていただいた。

毎週日替わりで現役の著名経営者が講義をする。私から見ると、大変羨ましい授業だ。その特別講義のトップバッターとして登壇させていただいた。
私の場合は、私が著名経営者と言う訳ではなく、原田則夫師の経営哲学伝導者として、呼んでいただいている。

その講義の後に、中国人留学生からご相談を受けた。
彼女のお父様は、中国で300人規模の工場を経営されているが、従業員の離職率が高くて困っている。どうすれば作業員を定着させることができるか、と言うのがご相談の趣旨だ。

非常に問題意識の高い現実的なご質問だと感心した。
日本の学生も頑張れ!と思わず心の中で叫んでしまった。
自分が20代の頃は、経営的な問題意識は微塵もなかったので、えらそうな事は言えないが(笑)

「離職率が高い」と言う現象に対して、解決課題をどう定義するかを、まず考える。

「離職率を下げる」と言うのも解決課題になるが、他にも解決課題は設定可能だ。つまり離職率が高くて問題になるのは、作業員の熟練度が不足する、人員の確保が難しい、などの原因により、生産性、品質、納期などを、望む範囲にコントロール出来ない事だ。

従って「離職率を下げる」以外にも、「少人数で生産出来る様にする」という解決課題も出て来るはずだ。

今回はとりあえず、「離職率を下げる」と言う解決課題に関して、根源的なアドバイスをさし上げた。

まず従業員が辞める理由を理解しなければ、離職率を下げる事は出来ない。ここで多くの経営者や経営幹部が犯す間違いは、最近の若者は理解出来ない、と考える所に有る。

「違い」に着目すれば、当然理解出来ない。
たとえ「違い」を見つけることができたとしても、それがどうマネジメントの役に立つのか考えてみると良い。今の若者は、上からの指示に従うことに慣れていない。では指示をせずに仕事をしてもらうことができるだろうか?
多くの一人っ子は、両親祖父母に大事に育てられたから、叱るとすねる。では叱らずに仕事を教えることができるだろうか?

「違い」を理解してもマネジメントの役には立たない。
「違い」に着目すれば、このように矛盾する事ばかり列挙することになる。

「違い」ではなく「共通点」に着目すべきだ。
70后、80后、90后どの世代にも、経営者でも作業者でも、人間としての共通点があるはずだ。その共通点に着目すれば、年代の差、職位の差は無くなる。その共通点は、幸せになる事だ。幸せになる事は、人として共通の人生の目的と言って良いだろう。

仕事を通して成長することにより、幸せになる。これが実感出来れば、人は簡単には離職しなくなる。なぜなら、仕事と人生の目的が一致するからだ。逆に言えば「仕事を通して成長することにより、幸せになる」と言う理念に納得出来ない人は、辞めてもらった方が企業にとって好結果となるはずだ。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事に加筆したものです。

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 ついている,ついてない,と感じることがままある.
売り上げ増加を見込んで,設備投資をしたら金融危機で受注がすっかり減った.
地震の代替え生産で大量に受注を得たが,洪水の影響でサプライヤーから部品が入ってこない.
逆に,
キャンセルで大量に部材が余ったが,別の顧客の増産要求に即応できた.
出荷抜き取り検査で不良が見つかり,顧客への流出が防げた.

こういう運,不運というモノがある.
ではその「運」とは何だろうか.

出典を忘れてしまったが,こういう定義がしてあった.
「準備の上に訪れるチャンスを運という」

運を制御できない偶然のモノと考えていては,運を生かすことは出来ない.経営を偶然に任せる訳には行かない.

万全の準備があって初めて運がある.

以前インドネシア・バタム島に工場を立ち上げたことがある.
不運なことに,工場立ち上げ直後に受注が減って,この工場にまわす生産を確保することが出来なかった.そのため立ち上げサポートに現地に入っていたメンバーはくる日もくる日も作業者の教育・訓練に明け暮れた.

そのおかげで,この工場はすばらしい工場になった.
米国の最大手通信機器メーカ向けに生産した製品は納入1号機から,客先工程,市場で1台も不良が発生しなかった.客先から絶大な信頼を得ることが出来た.

受注減は準備をするためのチャンスだった訳だ.その準備の上に客先受注というチャンスが訪れた.これが「運」というモノだろう.
こう考えれば,運はコントロールできないモノではなくなる.

経営上発生する全ての困難は,準備をするチャンスだ.正しく準備さえ出来れば,運はやってくる.

不景気で受注が減った時に,不運と考えて首をすくめ,ひたすら経費節減に取り組み耐える.これでは運はやって来ない.生産が減っている時こそ改善のチャンスだ.課題を間違えなければ,必ず運はやって来る.
生産量拡大の改善をしても,同じ不運が何度もやってくることになる.
高品質高付加価値を目指して生産性を改善する.こういう準備ができれば,今までにない運がやって来るだろう.


このコラムは、2012年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第260号に掲載した記事です。

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濡れ雑巾でコンピュータを拭き掃除

 今週のテーマに登場した,濡れ雑巾でコンピュータを掃除する女子作業員は,本当に実在した.

このくらいで驚いてはいけない.

現場をきちんと観察し,想像力を高めれば,当然予測できる内容だ.作業員たちが終業後の掃除をどうやっているか観察していれば,分かるはずだ.

びしょ濡れのモップで床掃除をすれば,梱包箱が濡れる.ダンボールは一度濡れると,その強度が落ちてしまい,乾燥しても復活しない.また中の部材,製品にダメージを与える可能性もある.材料,半完成品や完成品が入った箱を床に直置きしてはならないと,何度も指導するのはそのためだ.

SARSが流行っていた時も,宿舎や工場の消毒をしたと報告を受けて,すぐにヤバイと感じた.塩素系の消毒液が,電子部品にかかれば信頼性上の深刻なダメージを受ける.

この様な感性を,現場リーダは持つ必要がある.

事故の影に「ヒヤリ・ハット」がある様に,物事にはすべて,正常・異常・事故の三つの状態がある.正常な状態からいきなり事故は発生しない.必ずなんらかの異常があり,それが直接原因,間接誘因となり事故は発生する.

リーダは,正常と異常の中間にある「正常ではない状態」を感知する感性を持たせなけらばならない.

つまり掃除をするのも,消毒液を散布するのも「正常ではない状態」だ.正常ではない状態が,安全,品質,生産性に与える影響を予測できるようにする.これは机上の一般論だけでは教えきれない.OJTで教え,それを水平展開する力を持たせなければならない.


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第165号に掲載した記事です。

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