品質保証」カテゴリーアーカイブ

問題対処

 先週の「失敗から学ぶ:問題解決と問題対処」で、発生した問題を根絶するため原因追求し改善するのが「問題解決」、発生した問題の影響を管理するのが「問題対処」と書いた。

例えば、生産中に発生した不良を、生産に影響を与えない様にラインアウトし修理工程に回すのは「問題対処」。生産中に不良が発生したらラインを止めて、再発防止をするのが「問題解決」。

短期的に見れば、生産に影響を与えない様に「不良」を管理する方が合理的に思える。しかし長期的に見れば、不良を根絶する様「改善」した方が合理的だ。

この様に考えると問題対処などせずに問題解決をしなければならない事になる。しかし問題が工程内ではなく、顧客や市場で発生した場合は「問題対処」が重要となる。

「問題の発生防止」は当然だが、「問題の拡大抑制」、「問題の影響緩和」という問題対処も重要となる。
拡大抑制とは、波及範囲(問題が内在している製品ロットなど)を特定し隔離するなどの対処だ。
影響緩和とは、内部発熱が大きくなった時に機能停止により焼損事故防止するなどの対処だ。

しかし「拡大抑制」も「影響緩和」も市場で問題発生した場合、出来ることは限られる。ほとんどの場合、市場回収しかなくなる。

いずれにせよ、問題発生前の平素から「問題解決」に心がけることが必要だ。問題が発生しない平素から問題解決、という言い方に矛盾がある様に感じるが、ヒヤリハット300件に重大事故1件というハインリッヒの法則にある通り、日々発生する工程内不良を粛々と問題解決し続けることで顧客クレームを防ぐことができよう。

以前生産委託先の中国工場を日本から遠隔管理する際に、工程内不良が0.3%を超えたら即現地に出張指導をしようと決めていた。当時はハインリッヒの法則を意識したわけではないが、10ppmの重大事故(顧客クレーム)の陰に3000ppmのヒヤリハット(工程内不良)が潜んでいる、と後付けできそうだ(笑)


このコラムは、2018年1月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第621号に掲載した記事に加筆しました。

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不況の処方箋・高品質

 北京オリンピックが終わって一気に世の中の景気が冷え込んでしまった.
米国ビッグ3は経営難に陥り,政府の援助を要請している.
日本の自動車業界も押しなべて減産計画を打ち出している.
電子産業界も数千人単位の人員削減を発表した.

右を見ても左を見ても景気の悪い話ばかりである.
しかし景気が悪いと嘆いてはいられない.世界経済はいくら経営努力をしても自分達の力ではどうにも改善はできない.どの会社にも同じ条件だ.自分達でコントロールのできる条件で改善する事が出来れば,一気に競合の中で優位を占める事が出来る.

逆境はチャンスである.

こういう時期に体質改善を図り基礎体力を付けたい.
今までのような低コスト・大量生産から,高品質・高付加価値・高フレキシビリティ生産に切り替える事が重要だと考えている.

高品質:
今までのように不良率の低さを話題にするのではなく,不良がないのが当たり前にする.日本の企業の優れたところは,偏執狂ともいえるほどの不良低減活動を継続することである.
オペレーションリサーチ(OR)の教科書には品質とコストの曲線の最低地点(サドル点)が最適の品質だと書いてある.しかし世の中はそう単純ではない.品質とコストの2軸だけで世の中は説明できない.

顧客の安全・安心を徹底的に極めれば,コストと品質は相互にコンフリクトする要因にはならないはずだ.

以前指導をしていた工場でこんな事があった.
トランスを納入していた工場から,品質要求が厳しすぎるから値上げを認めなければ納入しないと申し入れがあった.トランスに付着している半田ボールの規格が厳しすぎるというのだ.

トランス工場に出かけて見入ると,コイル線をリード端子に半田付けする工程で発生した半田ボールを最終検査工程で拡大鏡を使って除去していた.女工さんを大勢投入しており,確かにコストがかかっている.

この工場には,半田付け工程で半田ボールが発生しないように工夫する事を教えた.
ちょっとした工夫で,半田ボール除去のための工数が大幅に削減できた.
こういう工夫をしなければ,この工場は永遠に顧客のクレームを受け,品質とコストのトレードオフに苦しんでいたはずである.

高品質にすることにより,顧客の信用が得られより良い条件で取引ができるようになる.コストをかけずに高品質にする事が出来た.高品質にすることにより,不良損失コストが抑えられる.

そんな事例があなたの工場にもないだろうか.
まだ成功事例がなくともアイディアを実行に移せば,必ず成果はあるはずだ.


このコラムは、2008年12月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第70号に掲載した記事です。

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データの活用

 「ビッグデータ」「データマイニング」というキーワードを目にする機会が最近増えて来た。色々なデータを収集活用する事が可能になって来ている。
IoTの広がりが多種のデータ収集を可能にしている。例えばApple Watchなどに代表される身につけるデバイスがネットにつながる事により、個人のヘルス・データが大量に集まる様になっている。このビッグデータを解析する事により医療が、治療から予防に進化しようとしている。

これは我々製造業にも応用可能だ。

工程内検査のデータを集約し、Cpkをリアルタイムでモニターするなどと言う応用は既に実用化されて久しい。数値データのみではなく言語データの解析も可能だ。

先日顧客工場でアフターサービス部門が管理しているデータを見せてもらった。
単純に保守用パーツの在庫データを管理しているだけだ。しかし見方を変えると、これは市場での部品故障のデータだ。このデータにより部品ごとのMTBFを計算し、保守部品の最適在庫量を決める事が可能になる。

更に踏み込んで、設計時にこれらのデータを活用すれば、期待寿命に適合した部品選択、設計が可能となる。データを一見した所、期待寿命に適合した設計によりコストダウンが可能になるというよりは、製品のライフサイクルコスト、可動率の改善に役立ちそうだ。どちらにせよ顧客満足を上げる事が出来る。

こういう考え方が出来れば、アフターサービスのデータは「事後対策」から「事前対策」のためのデータとなる。

もちろんその効果を得ようと思えば、収集しているデータ(保守部品の在庫量)だけでは不足だ。「事前対策」に必要なデータは何か、アフターサービス部門だけではなく、設計部門、品質保証部門と協力して検討する必要がある。

顧客クレームが発生してから行う「事後対策活動」は、緊急度が高く精神的な負担も大きい。一方顧客クレームの発生を抑える「事前対策活動」はより効果が高く精神的な負担が少なくなるはずだ。

こちらもご参考に
「データの活用」


このコラムは、2016年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第492号に掲載した記事です。

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データの活用

 データを活用して仕事のパフォーマンスを評価する。生産活動の中で日常的に行われていると思う。SPC(統計的工程管理)SQC(統計的品質管理)もその一種だが、1日の生産量、品質の出来映え、納期の遵守率など単純なデータで管理する事も多い。

管理すべき指標に合わせて採取するデータが変わる。
例えば、生産量のデータを毎日記録していても生産性は分からない。生産に要した時間、作業人数を記録する事により一人当たりの単位時間生産量が計算できる。これが生産性の指標になる。

当たり前の事だが、これが出来ていない工場を時々見かける。
ある工場では、品質指標として「直行率」(手直しなしで工程内検査を合格する率)と「品質達成度」を毎日記録していた。「品質達成度」が平均90数%となっている。
日々の推移を見るグラフでは、ほぼ毎日100%を達成しており、1日だけ85%と言う日が有った。これで平均が100%近くになるはずはない。よく見ると、品質達成率が125%の日がある。
またもう一つの品質指標である「直行率」を見ると、0%(手直せずに完成する製品が0個と言う意味)の日が沢山ある。

このような状況で、平均90数%の「品質達成率」と言うのは奇異だ。担当者に「品質達成率」の意味を尋ねると答えられない(笑)

このように作成したグラフが、毎月の経営会議なり品質会議で一人歩きしている。

どこかに間違いがあるはずだ。収集しているデータがおかしい、データを計算しているExcelの計算式がおかしい、指標そのものがおかしい、と言う事を確認しなければならない。

実はこのような事はままある。
標準作業時間を決める時に、ストップウォッチで作業時間を計測しただけの値を使っている。
部品調達率を計算する時に、ベンダーの納期回答に対する差異を使っている。
ベンダーの品質能力の指数に、受け入れ検査合格率だけを使っている。
顧客に対する納期遵守率に、納期変更後の日付を使っている(苦笑)

例を挙げれば、いくらでも出て来るだろう。

またこのような事例は現場だけではない。
経営者がバランスシートしか見ていないのでは?と疑問を持たざるを得ない事例を良く目にする。この様な工場では、材料在庫、中間在庫、完成品在庫が大量にある。こういう状態で受注が増えれば、あっという間に資金がショートし倒産する。

事例に挙げた工場では、コンサルに指導を受けてKPI管理をしている。
グラフを作成するためのExcelシートはコンサルが提供してくれたそうだ。管理すべき指標が正しいのか、指標が正しく管理出来ているのかをコンサルは指導しなかった様だ。

こちらもご参考に
「データの活用」


このコラムは、2016年8月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第488号に掲載した記事です。

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宇宙行けば体重減ります 宇宙機構、飛行士514人解析

 宇宙に行くと体重が減る──。宇宙航空研究開発機構の松本暁子医長らのグループが、30~50歳代の宇宙飛行士延べ514人について、宇宙へ行く前後の体重変化のデータを集め、そんな解析結果をまとめた。

 調査対象は、1961年から2004年の間に宇宙へ行った米国、日本、カナダ、欧州、ロシアの飛行士のうち、米航空宇宙局(NASA)の記録があった男性延べ434人、女性同80人。宇宙飛行の前後で体重が平均2.13%減っていた。

 宇宙では、無重力のため筋肉量が減るほか、体液の移動など様々な要因で、体重減少が起きるらしい。地球に帰還し3カ月~1年経った後も、飛行前に比べて平均約1%軽かった。

(asahi.conより)

 こういうデータの出し方は,大変胡散臭い.
例えば私の場合体重68kgなので,2.13%の体重増減といえば,約1.4kgだ.このくらいの体重変動ならば,朝食前と夕食後では十分起こりうる.また2,3kmジョギングしただけでも,その程度の体重は減る.

たまたまあったデータで,科学的な結論を導こうというのが間違いだ.

宇宙に行く前後の体重データには,測定時条件の誤差+測定誤差+宇宙効果が含まれている.測定時条件とは,測定時に空腹だったかどうかなどの身体的な条件による誤差.測定誤差は,測定器具と測定方法による誤差.これらの誤差が,宇宙効果よりも小さくなくては有意とはいえない.

しかも宇宙効果の中には,個人差によるバラツキ,宇宙滞在期間によるバラツキが含まれる.

従ってこの調査によって得られるのは,宇宙に行くことにより「筋肉量の減少」と「体液の移動」によって体重が減少するかもしれないという仮説だけだ.

体重減少のメカニズムを考えると「筋肉量の減少」は,再評価する価値がありそうだ.しかし「体液の移動」に関しては,移動しても体液はまだ体内にあり,体重変動があるとは思えない.

科学的な結論を得ようとするならば,検証可能な仮説を立て,正しいデータにより検証をしなければならない.
当然データには誤差によるバラツキ,効果によるバラツキが含まれる.これは統計的に検証可能だが,正しいデータを取らなければ誤差によるバラツキの方が大きくなってしまい,有意な結論を導くことはできない.

まずは具体的な仮説を設定する.
この例で言えば「宇宙に行く前後で体重減少がある」は,まだ具体的ではない.
「宇宙滞在時に筋肉量が減り体重が減る」という仮設にすれば,具体性が増す.
その仮説に基づき,必要なデータを集める.
この例ならば,宇宙滞在期間と体重減少量との間に相関があるかどうかという仮説を検証するデータを集めればよい.

その上で各個人の体重減少量のバラツキが,誤差によるバラツキより十分大きいことが検証できれば,この仮説は有意であると結論をつけることができる.

今「イシューからはじめよ」という本を読んでいる.
著者の安宅和人氏は,脳神経科学の研究者であり,経営コンサルタントのキャリアを持つという変わった人だ.
本書の中で,問題を解くことを考えるのではなく,まず問題を見極めよ.その上で価値のある結果を導け.と説いている.

今まで問題解決に関する書籍にはたくさん出会ってきたが,安宅氏のようにまず問題を見極めよ,という主張は新鮮であり,もっともだと思う.

ご興味がある方は是非一読をお勧めする.
ただし今回のコラムに書いたような統計的手法について語っている本ではない.

「イシューからはじめよ」


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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品質意識

 以前「無料工場診断」でお邪魔した工場で,品質保証部ローカルスタッフの皆さんと昼休みに雑談をしたことがある.

アルミダイキャスト製品を中心とした工場だ.
午前中の現場診断で,工程内不良率が高いのがこの工場の問題点だと認識していた.しかし工程内不良品は,また原材料として再利用できる.歩留まりという観点だけを見ていれば,そこそこ良いデータが見えている.従って経営者の問題意識は,リードタイムや納期遵守に関する問題に集中していた.当然工程内不良率を下げてやれば,リードタイム,納期遵守率も改善できる.

品質保証部のスタッフはどんな問題意識を持っているのか興味があり,雑談をしてみた.

彼らの問題意識は「各部署の品質意識が低い」ということだった.
いろいろな部署の実例を挙げて品質意識に関する不満を説明してくれた.

しかし「品質意識が低い」ということは品質保証部にとっては不満ではない.課題だ.
「品質意識が低い」と不満を漏らすということは,自分たちの仕事が全うできていません,ということを言っているのと等しい.

品質保証部の仕事は「品質管理」と「品質改善」だ.
これを通して顧客の満足を得るのが品質保証部の仕事だ.
この二つの任務「品質管理」「品質改善」が円滑に行われるためには,従業員全員の「品質第一のココロ」を養わなくてはならない.

従って品質保証部のスタッフは他部署の人間が「品質意識が低い」という感想や不満を漏らしてはならない.どのようにすれば全社の品質意識が上がるかと真剣に考え,それを実際の施策に落とし込まねばならない.


このコラムは、2009年12月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第130号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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確信ミス

 今週は「ヒヤリハット」に続いてミスについてもう少し考察してみたい。
ミスにはいくつかタイプが有る。

  • 無知ミス:知らない事により発生するミス。
  • うっかりミス:知っているのに何らかの理由で発生するミス。
  • 確信ミス:間違った理解により確信を持って起こすミス。
  • 過信ミス:能力を過信することにより、回避不能となり発生するミス。
    良いネーミングが思い浮かばなかった。ご容赦願いたい。

無知ミスやうっかりミスに関しては、上述したヒヤリハットの様に、有効な対策が有る。作業を定型化したり、ポカよけを入れることにより予防可能だ。

厄介なのは、確信ミスや過信ミスだ。間違った理解や過信により、基本動作を無視してしまうミスだ。チェルノブイリの原子炉メルトダウンは過信ミスによるモノだと言われている。臨界点を越えているのに、まだ制御可能と過信したために手遅れとなった。

30年前のJAL機御巣鷹山墜落事故は、圧力隔壁に修理時に確信ミスが有ったと、事故調査委員会は考えた様だ。
事故機の圧力隔壁交換修理時に、ボーイング社の指示書通りの修理がされず、上下の隔壁をつないだ箇所のリベット留めが不十分で強度が足りない状態になっていた。修理担当者の証言が得られず、調査報告書には記載出来なかったが、事故調査委員の見解は、修理作業員の確信ミスと判断した様だ。
つまり、作業担当者が指示書通りではパーツ間に隙間ができるため問題だと思い込み、隙間ができないように継ぎ板を切断したのではないか。その結果、リベット留めの強度が不十分になった、と推定した。

以前指導したメーカでは、コストダウンの為に保護回路を取ってしまった。
元エンジニアのオーナ経営者の「過電圧保護など必要ないだろ」の一言に誰も反論出来なかった。しかし寿命設計が不適切であり、部品の寿命により過電圧が発生。保護回路がない為に周辺を巻き添えにして破損すると言う市場不良が多発してしまった。この時点で相談を受けても手遅れだ(苦笑)

これらの事例には共通点が有る。局所的な問題点を、全体を理解せずに対処してしまうと、この様なミスが発生する。これは当人が確信を持ってミスを犯しているので、防ぐのは困難だ。

修理にはしばしば「現物合わせ」と言う異常行為が行われる。
ボーイング社の修理事例では、現物合わせをしなければならない理由を検証していれば、飛行中に圧力隔壁が吹き飛んでしまうなどと言う事故は発生しなかったはずだ。

設計変更は本来、変更による影響を検証しなければならない。上述の例では過電圧が発する可能性を漏れなくあげていれば、過電圧保護回路を取ると言うコストダウンはせずに、不適切な寿命設計を発見出来ていただろう。
この寿命設計ミスを修正して初めて、過電圧保護を取ると言うコストダウンが可能となる。ちなみに過電圧保護機能を外しても、2,3点の部品を減らす事が出来るだけだ。金額にすれば数円だ。

いずれの場合も、正規の手順から外れた場合に「標準手順」を愚直に実施する他に事故を回避する手段はないと考えている。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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「ヒヤリハット手帳」を作成、ミスを最大限防ぐ

 仕事のミスは防ぐべきものだが、気の緩みや勘違いなどで、思わぬミスをしてしまうことはよくある。そんなミスにすぐ気づき、「ヒヤリとする」「ハッとする」。そこまではいい。問題はその後だ。小さなミスをしたあなたは、ホッと胸をなで下ろして、やり過ごしていないだろうか。やってしまったミスと正しく向き合い、その後のミスを防ぐ方法を紹介する。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 記事は「ヒヤリハット」を個人資産として手帳に蓄積しよう、と言う趣旨だ。
私は「ヒヤリハット」を組織資産として蓄積活用することを推奨している。

「ヒヤリハット」と言うと、ハインリッヒの法則を想起される方が多いだろう。労働災害を調査したところ、1件の重大事故の背後には29件の軽事故が発生しており、300件のヒヤリハットが発生している、という経験則を見つけている。これがハインリッヒの法則だ。

ヒヤリハットをなくすことで重大事故を防ごうと言うのが、災害防止の考え方だ。災害防止と同様に、ヒヤリハットをなくすことで顧客クレームも予防出来ると考えられる。

例えば、作業員が生産中の製品がいつもと違うと言う違和感を持った。それを班長に告げたところ、製造ミスに気が付き全数修復した。もしこの作業員が気が付かなかったら、もしくは気が付いても何も言わなかったら、大量の不良が客先に流出するところだった。
この話は実際にあった例で、この作業員には報奨金が与えられた。詳細は記憶にないが、当時にしては破格の金額だった。

設計でも同じ様なことは有る。検図や設計レビューで気が付けば良いが、生産開始後に気が付くと、相当な損失となる。金額だけではなく、製品リリースが遅れる事が致命傷となることも有る。

この様なヒヤリハット体験を、組織の知恵として蓄積する仕組みを持つ。この仕組みが機能する為には、まずはミスを隠さない組織文化が必要だ。

前職時代には、過去数年間の設計ミス事例を洗い出し、1項目1ページの定型レポートを作った。このレポートを分析し、設計レビューチェックリストを作成した。設計完了後、設計者自身でチェックをし、チームリーダが設計者と面談で確認しながらダブルチェックをすると言う仕組みを作った。設計審査は、このチェックリストが完成しなければ開催出来ないルールとした。

このチェックリストを運用し始めてから、設計ミスは格段に減った。
実際には、チェックリストだけではなく計算機支援でデザインルールチェックも入れた。デザインルールは、上記の設計ミス事例集から抽出している。

プリント基板に後加工でパターンカットやジャンパ線を追加する事はほとんど無くなった。ほとんどと書いたのは、設計後仕様変更があり、プリント基板に後加工をする必要が発生する事が時々有ったからだ。(こちらは別の方法で削減しなければならない。)

しかし、チェックリストを作っても運用が形式的になれば効果は期待出来ない。ルールとは別に、チョットした仕掛けを入れた。
上述したチェックリスト運用ルール中のチームリーダとのダブルチェックは設計者に対する教育効果を狙っている。若手の設計者が、先輩の失敗と言う「財宝」から学ばなければ、それこそ宝の持ち腐れだ。

製造のミスも同様だ。工程内不良が事故に於けるヒヤリハットに当たる。
工程内不良の原因をしっかり分析し、再発防止をする。これを作業指示書に反映するとともに、次の機種の作業指示書には最初から再発防止を組み込むようにしておく。

このようにして組織でヒヤリハットを蓄積共有し、活用する事が重要だと思っている。特にこれからの中国でのモノ造りは、単純に製造部門だけのモノ造りでは無くなって来る。工程設計、製品設計も中国でやる様になるだろう。この様な考え方を導入しておかねばならない。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に加筆しました。

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問題解決と問題対処

 1月5日配信のメルマガ「因果関係と相関関係」「ジョブ理論」という書籍をご紹介した。

この書籍の中に日米の自動車工場の比較があった。
米国の自動車業界は、できる限り問題を修復しようとする。
日本の自動車業界は、問題が発生するプロセスを改善しようとする。

米国の自動車業界は、問題を管理しようとした。
問題発生に備え、予備の部品を用意する。問題が発生した製品の修理ラインを作る。生産ラインで発生する問題を管理することで、生産ラインを効率良く稼働する様に考えた。
つまり発生する問題に「対処」する方法を考えた。

一方日本の自動車業界は、生産ラインで発生する問題の原因を徹底的に学習し再発防止を繰り返した。
トヨタが修理工場をなくし、ラインを止めて修理する様にしたのは、問題の再発防止を促進するためだ。生産ラインを改善すれば、生産ラインは高効率で生産できる様になる。
これが問題に対する「解決」だ。

「対処」は問題に対する一時しのぎ。
「解決」は問題の根絶。
と考えていただければわかりやすいかもしれない。

もう一つ例を示そう。

設備点検でネジの緩みを見つけた時に増し締めするのは「問題対処」
設備点検でネジの緩みを見つけた時に原因分析をして対策するのが「問題解決」

問題対処の方が簡単にできる。問題解決には時間がかかることもある。
目先の効率にとらわれ問題対処ばかりしていれば、本当の効率改善は不可能だ。


このコラムは、2018年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第619号に掲載した記事に加筆しました。

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問題解決

 先週のコラムで「物有本末」と言う話をした.

問題解決にも「物有本末」がある.
問題解決の結果,改善効果が発生する,これが「末」だとすれば,「本」は何だろう?

問題発見,解決課題の設定,ここいら辺に「本」がありそうだ.
真の問題を見つける,本質的解決課題を設定する,ここいらで間違いがあると,「末」としての改善効果は期待出来ない.

例えば,ある工程の作業にムダがあることに気が付いた(問題の発見).
作業方法の改善によりサイクルタイムが短く出来そうだ(解決課題の設定).

こう言う形で改善活動を進めると,改善効果は期待出来ない.
問題が真の問題かどうか?解決しなければならない課題は何か?
こう言う考察が抜けている.

本質的課題は,ある工程のサイクルタイム短縮ではなく,全工程の生産性向上のはずだ.従ってある工程のサイクルタイムが,全工程のタクトタイム以下であれば,この問題は真の問題ではない.
従って,この工程のサイクルタイムを短くすることが解決課題ではなく,この工程をなくせないか,と言うのが本質的課題となる.作業自体はなくせなくても,工程はなくすことができるはずだ.

他の例を挙げよう.
顧客に不良品を流出させてしまい,全数再出荷検査をすることにした.
こう言う考え方が「本末」を間違えていると言いたい.

真の問題は,顧客に不良品が流出したことではなく,工程内に不良がある事,その不良が工程内検査で100%捕捉出来ない事だ.
この2点に真の問題があり,ここに解決課題を設定しなければ,不良流出は必ず再現する.工程内で不良が発生し続けていれば,不良流出の可能性は残る.
そして工程内検査で不良捕捉が100%出来ていない,と言う問題にフォーカスしなければ,全数再出荷検査をしても,不良流出の可能性はゼロにはなっていない.

不良流出で,お客様からきつくお叱りをいただく.ここで焦って「全数再検査」などと言う再発防止対策を出してはならない.検査は何も付加価値を生まない.ムダな作業を一生続けなけることになる.

ここで,全体を俯瞰し真の問題は何処にあるのか?本質的解決課題は何か?冷静に考えなければならない.

問題に直面したら,焦って対応を考えるのではなく,一歩引いて高い場所から俯瞰する習慣を持っていただきたい.その際に「物有本末」と呪文を唱えていただいたら良かろう(笑)


このコラムは、2013年6月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第314号に掲載した記事に加筆しました。

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