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5S再考:躾け

 5S活動は「草の根活動」ではない.経営者が率先して活動すべきである.
号令だけ出して後は現場に任せる,これではうまく行かない.特に「躾け」は経営者自身の活動だ.
 
最後のS:「躾け」の定義は,
「人がきちんと決まりを守るようよい習慣を身につけさせること」
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」は一種現場のPDCAのようなものだ.この四つのSがぐるぐると回ってスパイラルアップしてゆく.
しかし「躾け」だけはちょっと違う.
毎日毎日忍耐と継続力を持って取り組まなければ「躾け」は達成できない.
子供のころを思い出していただきたい.
毎朝学校に行くとき母親に「ハンカチを持ったか」と聞かれる.学校では教師に「持ち物検査」をされ,ハンカチを持っていないと廊下に立たされる.
こういうことを何年も経てようやくハンカチを毎日持ち歩くようになる.
そしてハンカチを持たずに外に出てしまうとなんとなく落ち着かなくなる.
これが決まりを身につける「習熟化」→「習慣化」→「習性化」のプロセスだ.
このプロセスを達成させるのが「躾け」である.
母親がそうであるように,経営者は愛情を持って従業員を躾ける必要がある.
この「躾け」が会社の文化を造る.
上司から5Sをしろといわれれば,仕事だから従うだろう.しかし言われなければやらない,すぐに忘れてしまう.
「躾け」がきちんと出来ていれば,従業員は自ら働く.
先ほど説明したPDCAのスパイラルアップの上昇角度を決めるのが「躾け」だといってもよいだろう.

5S再考:清潔

 5Sというのはもともと日本から入ってきた考え方である.それをいきなり中学しか出ていない中国の工員さんたちに理解させようというのが無理な話だ.
農村部でわれわれ日本人が想像もできないような生活をしていた子達に「5Sをしっかり守るようにしなさい」と指導したところで理解できるはずが無い.
分かりやすく説明することが必要だ.
四つ目のS:「清潔」の定義は,
「整理,整頓,清掃の3Sを徹底し,維持できるようにすること」
国語辞典を調べると
清潔:
 (1)汚れのないこと.きれいなこと.
 (2)人格や生活態度が正しくきれいであること.
とある.
5Sの清潔は若干異なる.
整理を徹底し,維持できるようにすること
 要らないモノが発生したらすぐ捨てられるようにしておくこと.要らないモノが発生しないようにしておくことである.
要らないモノをおいておく場所をなくしてしまう.こうすれば整理するしか方法が無い.
今使わないモノ.これも要らないモノである.これを作らない.必要なときに必要な分だけ作る.
JIT(ジャストインタイム)生産方式はまさに「清潔」の方法である.
JIT生産方式は完成車メーカだからできることだ.われわれ部品メーカは作りだめをしておかなければ対応できない.とおっしゃる経営者がよくおられる.
JIT生産方式の本当の狙いを理解していない.必要なときに必要な分しか作らない.実際やってみる.これでうまくできないところを改善する.
JITとは改善しなければならない所を浮き彫りにし,改善のプレッシャーをかける.改善を継続するための仕掛けなのだ.
整頓を徹底し,維持できるようにすること
 たとえば設備のメンテナンス・段取り換え時に工具を使う.この工具を決められた位置においておけば探す無駄が省ける.これが整頓である.整頓が徹底,維持できるようにするためには,戻すことも考えなければならない.
従ってメンテナンス・段取り換えに必要な工具を設備のそばに置くようにする.
これで整頓された状態が維持しやすくなる.
さらに一歩進んで,工具を使わなくてもメンテナンス・段取り換えできるようにする.
ねじを締める場所があれば,ドライバーを使わなくてもねじを回せるようにする.またはねじを使わなくても脱着できるようにする.これが清潔である.
清掃を徹底し,維持できるようにすること
 工場の壁の塗りなおし作業をさせたときに驚いたことがある.床には塗料がたれ,壁だけではなく腰板まで塗料がはみ出ている.塗り終わった後に拭き掃除をすれば良い,という考え方だ.
あらかじめ床に養生シートをおき,腰板にはマスキングをしておく.こうしておけば拭き掃除をしなくてよい.しかも塗りあがりもきれいになる.こういう考え方が「清潔」だ.
テーピングされた部品をリードフォーミングしリードの長さを切りそろえる.
この作業によって切り取ったテープとカットしたリード屑が床の上に散乱する.
作業の後に清掃をしなければならない.
あらかじめゴミ箱を用意し,テープがゴミ箱に落ちるようにする.リード屑は飛散しないようにする.これが「清潔」だ
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5S再考:躾け

5S再考:清掃

 工場の中にはそこいら中に5Sの標語が書いてある.ポスターも何枚も貼ってある.しかし本当の5Sが定着していない.そんな工場をよく見る.
ではなぜ5Sが定着しないのだろうか?
5Sの号令をかけても,目的とゴールをきちんと示しているだろうか?
目的やゴールがなければ人は動かない.
三つ目のS:「清掃」の定義は,
「職場内をきれいに清掃し,汚れの発生を防ぐこと」
では清掃のゴールは?どこまできれいにしたら合格だろうか?
清掃の目的はなんだろうか?
これを語らずにただ掃除をしろといっても,心のこもった掃除はできない.
先日中国の工場にお邪魔したとき社長さんが会議室の床が少し汚れているのを気にされ,庶務の職員を呼んできれいにしておくように注意した.多分これでは不十分だろう.
庶務の責任者,掃除のおばさんを呼んで自ら床掃除をしてみせる.これで方法と基準が伝えられる.次からは社長がやったのと同じくらいきれいにしなければならない.これがゴールだ.
特に中国の場合,きちんと方法も示しておく必要がある.以前作業員が現場の検査装置用コンピュータキーボードを水が滴る雑巾で拭き掃除をしているのを見たことがある.掃除の仕方から教えなければならない.そう覚悟しておいたほうがよい.
日本の工場でも油で汚れた機械場の床を指差して「今からここに座るがよいか」と社長がその職場の責任者に言ったそうだ.これでどのくらいきれいにしなければならないか規準ができる.
掃除の目的はなんだろうか.
★掃除とは心の準備,心を磨くこと
 昔は新人は先輩より早く職場に入り掃除をした.先輩が使っている加工機を拭き掃除しながら,先輩の機械にどんな工夫がしてあるのかを盗み見る.
ベテランの職人はこういう若者に自分の技を伝えたものである.
中国に来て35年のベテラン社長さんは,5Sを徹底させるために全員に雑巾を配った.自分も朝晩机の周りを拭き掃除している.これが一種の躾になる.
★掃除とは予防保全の第一歩
 機械設備をきれいにしておけば異状があればすぐにわかる.油まみれの設備では多少の油漏れが発生していても気がつかない.放置しておけば重大な故障につながる可能性がある.
毎日拭き掃除をしていれば機械のがたやネジの緩みなどすぐにわかる.
以前プリント基板のパターン間がショートしている不良が多発したことがある.
調べてみるとパターンを露光した後の不要なエッチングレジストの洗浄不良だった.設備の水洗浄ノズルの揺動カムが外れていた.
この設備きちんと磨き上げてあったが,水洗ノズルが揺動している所を覗くガラス窓の内側が汚れたままで中がよく見えていなかった.窓がきれいに磨かれていれば洗浄ノズルが揺動していないのはすぐわかったはずだ.
清掃の目的がわかっていれば,この覗き窓が第一優先できれいにしてなければならない.
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5S再考:清潔

5S再考:整頓

 5Sは元々日本で考え出された工場管理の方法であるが,いまや中国でも日系企業ばかりではなく,中華系工場も5Sの標語を掲示してある.
中には「安全(Safety)」「スピード」「節約」「習慣化」「サービス」「シンプル」などを追加している工場もあり,6Sは当たり前,8Sというのまで見た事がある.
しかし何か違和感を感じている.日系の工場も含めて「見せ掛けの5S」になっているように思える.
本来5Sとは生産性改善,品質改善の基本であって,モノ造りだけではなく全ての会社に適用可能である.5Sの目的は「儲かること」でなければならないと考えている.
「明日お客様がいらっしゃるから5Sを徹底するように」と発破をかけること自体が5Sの本当の意味を理解していないことだといえる.
第二のS:「整頓」の定義は,
「必要なモノを定位置に定量おき,表示を明確にする」
中国では「三定:定位・定量・定品」と説明している.
すなわち定位置に定量だけ決まったモノをおいておく,という意味である.
このとき「モノ」という単語は中国語で「物品」と言わないで「東西」と説明するようにしている.これは前回「5S再考:整理」で説明したように,「整頓」しなければならないモノは品物とは限らないからである.
作業がしやすいように作業場の材料を置く場所を決めておく.これで材料を取る時間が0.1秒短縮できたとする.0.1秒を馬鹿にしてはいけない.1時間に1000個作る工程ならば,これだけで3%生産性が改善できる.更にこの0.1秒の積み上げが作業者の疲労を軽減すればもっと大きな効果が期待できる.
工具をきちんとラックに吊るしてしまってある.工具の形を表示してどの位置に戻せばいいかすぐ分かるようにしてある.ラックの定位置も床にテープで表示してある.
「整頓」がきちんとできているように見える.しかし本当にそうだろうか?
作業者は工具を使うたびに定位置においてあるラックまで取りに行っている.
取りに行く時間,戻しに行く時間が無駄である.これが「見せ掛けの整頓」だ.
ラックは作業をする場所に移動しておかなければならない.
製品・半製品は,未検査品と検査済み品の見かけはまったく同じ場合が多い.
未検査品,検査済み品の置き場所を決め表示をしておく.これが「整頓」である.「整頓」によりモノの状態が明確になる.これで工程飛ばしを防ぐ事が出来る.
作業に対して「整頓」すると言うのは,作業の内容,順序を決めきちんと見えるようにしておくことだ.一種の標準作業化である.これにより生産性が安定する,異常状態がすぐわかるようになる.
子供の頃母親からしょっちゅう「机の上を整頓しなさい」といわれた.5Sの「整頓」はそれよりも少し深い意味がある.
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5S再考:清掃

5S再考:整理

 5Sは元々日本で考え出された工場管理の方法であるが,いまや中国でも日系企業ばかりではなく,中華系企業も盛んに5Sの標語を掲示してある.
しかし何か違和感を感じている.日系の工場も含めて「見せ掛けの5S」になっているように思える.
本来5Sとは生産性改善,品質改善の基本であって,モノ造りだけではなく全ての会社に適用可能である.5Sの目的は「儲かること」でなければならないと考えている.
「明日お客様がいらっしゃるから5Sを徹底するように」と発破をかけること自体が5Sの本当の意味を理解していないことだといえる.
初めのS:「整理」の定義は,
「必要なモノと不必要なモノを区別し不必要なモノは捨てる」
例えばコンビニエンスストアー.
陳列棚はお客様に商品を買っていただくための貴重なスペースである.したがって売れ行きの落ちた商品は直ちに捨てて,売れ行きの良い商品と置き換えなくてはならない.
これが整理の考え方である.
「整理」の定義で「物」をあえて「モノ」と書いているのは意味がある.
「整理」は品物だけではなく全てのモノに対して行う事が出来る.
作業を考えてみよう.
作業の中には必要な作業と不必要な作業がある.これをきちんと区別して不必要な作業を捨てる.
これが整理の考え方である.
ドラッガーは「革新の鍵は捨てることにある」といっている.
企業戦略にも整理が必要だということだ.集中と選択により不必要なビジネスを捨てる.
これが整理の考え方である.
物が捨てられなくて,倉庫に物が溢れ返っている.そのために不必要なスペースがが必要になり,不必要な運搬作業が必要になる.それらを管理するために不必要な管理が増える.
悪循環である.
ウチの従業員は5Sが守れなくて困る,と愚痴を言っている経営者はいないだろうか?
5Sの第一歩「整理」は捨てるという経営判断である.
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5S再考:整頓

生産ラインが困る仕組み

 生産ラインが困る仕組みという言い方をすると誤解を受けるかもしれない.日々改善を継続する仕組みと言いかえたほうが良いだろう.
 生産性の改善を上からの指導でドンとやると何とか改善できるが,現場の創意工夫で日々改善がなかなか出来ない.日本の工場では作業現場による改善が普通に行われていても中国の工場では夢のような話ではないだろうか? 
ちょっとした工夫で日々改善の習慣付けができる.
今回はそんなお話をする.これをお読みになっているあなたの工場で応用していただければ,大変光栄です.
結論から言うとタイトルに示したように「生産ラインが困る仕組み」を作ればよいのだ.これだけでは何の意味か解らないので例で説明しよう.
・不良が発生するとラインが止まるようにしておく
 現場の班長さんが,一番怖れているのはラインストップだ.生産計画が時間内に達成できなければ,生産管理,営業からいっせいにクレームが来る.
したがって生産量の確保が任務だと思っている班長さんは結構いる.
こういう人たちにはラインストップは大きなプレッシャーになる.
不良が発生したらすばやく解決する.そして次に同じ不良が発生しないように工夫させる.これを習慣付けておけば,一気に生産性改善はできないにしても,日々少しずつ改善ができる.
小さな改善でも複利で効いてくるので,継続すれば大きな改善効果になる.
中国で先端的な組み立てラインを実現されている船井電機さんもこの手法を取られている.作業中に何か問題点があれば,作業者がライン停止のボタンを押す様になっている.ライン停止が発生するとすぐさま班長さんが問題解決をしラインを再稼動する.
ラインが止まっている間に工程内の大きな時計が停止時間を累積カウントしていく様になっている.一日の停止目標時間が決まっているので,班長さんのすばやい行動と再発防止の工夫が必要になってくる.
・問題点がリアルタイムに見えるようにしておく
 不良の発生でラインを停止するのも問題点の可視化になるが,その手前で問題点を見えるようにする.
生産管理板などにより,2時間おきに生産出来高を記入して管理している工場が多い.これでも生産性を阻害する問題が発生していることを可視化できるが,リアルタイムには見えていない.過去2時間の間に何らかの問題が発生した,という事がわかるだけである.結果だけを見ていてはなかなか改善ができない.
これをリアルタイムに見えるようにしておく.今現在完成していなければならない数量と,実際に完成している数量がリアルタイムに見えていれば,すぐに手が打てる.
さすがにホワイトボードに記入する方式ではこういうことはできない.リアルタイムに計画生産高を計算表示し,現在出来高との差異がマイナスになっていれば赤行灯が点灯する電子生産管理板が既製品で簡単に手に入る.
こういうツールを応用して,班長さんに赤行灯が点灯したらすぐに生産性を阻害している原因を除去するように指導をしておく.
もちろんボトルネックが発生している工程を手助けするのではなく,ボトルネックが発生する原因を解決するように動機付けておく必要がある.
この二つの事例で「生産ラインが困る仕掛け」をご理解いただけただろうか?
このように問題点の発生が即改善を要求する仕掛けを作っておき,班長さんたちの現場力を鍛え,日々改善の習慣をつける.
これも一種のOJT(現場教育)だと思う.
こちらの記事もどうぞ:「ラインを止めなさい」

工場長5S巡視

 5Sがなかなか定着しないと悩んでおられる経営者の方にトップの5S巡視をお勧めしている.
定期的に巡視をして各職場の「3S(整理・整頓・清掃)+安全」を見て回る.
これをトップがやる意義は大きい.
まずトップの本気度を全員に知らせることができる.
次に5Sの合格基準を全員に理解させることができる.
あなたの工場,オフィスには5Sの合格基準はおありだろうか?
たとえば整理・整頓はどのくらいの状態になっていたら合格といえるか.清掃はどのくらいきれいになっていれば合格といえるか.これらを統一した数値基準で示すのは難しい.
管理者によっても基準が変わってしまうだろう.
そこでまずトップが職場を回って基準を示す必要がある.
ある職場では床をピカピカにしてある.そのため毎週ワックスをかける.ピカピカにしすぎて誰かが滑って転んだら笑い話にもならない.
5Sはプロフィットを目指して行われるべきである.基準をきちんと示しておかないと無駄な5Sになってしまう.
5S巡視では直接現場のリーダ・作業員に指示をする.管理者に後できれいにしておくようにと指示をするのではない.その場で5Sの乱れを指摘し処置をさせる.これで現場のリーダ・作業員が5Sの基準と目的を理解できる.
例えば作業じまいの清掃の時間帯に巡視をしてみる.
私は清掃時間にとんでもない光景を見たことがある.作業員が,ラインに設置された検査用コンピュータのキーボードを水が滴る雑巾で拭いていた.その場で班長と作業員を集め,コンピュータの清掃方法を教えた.
現場では我々の想定外のことが発生しているものだ.
5Sに限らず,時々職場を一回りすると,いろいろな改善点が見えてくる.
残業時間帯,二直目の作業時間帯など時々巡視をしてみると現場の管理レベルがわかる.
いつ工場長が巡視に来るか分からない状態にしておけば,作業員も緊張感を持って作業をすることができる.

続・ホウレンソウ

前回の記事で「ホウレンソウ」がうまくできないのは,部下の能力育成が足りないからだと書いた.しかし何でもかんでも「ホウレンソウ」をしてくるのも問題だ.
特に幹部・幹部候補生がしょっちゅう「ホウレンソウ」をして指示を受けるというのはいただけない.
何か判断をしなければならない局面に遭うと,すぐに上司の指示を仰ぐ.これではいつまでたっても幹部としての仕事はできない.
中国の工場でこういう幹部をよく見かける.指示を受ければきちんと仕事をするが,自分で判断したがらない.一見仕事を嫌がらずにきちんとこなす,上司とのコミュニケーションもよい.しかしこれでは幹部としての仕事は任せられない.
実はこのような行動に出る部下の心理は「責任回避」が働いている.
仕事をしてうまく行かなくても指示をした上司の責任であり,自分は指示に従って一生懸命仕事をしたのだから責任はない,という考え方である.
指示にはよく従う.上司の受けのよい報告ばかりする.こういうYESマンばかりでは「ホウレンソウ」はうまく働かない.
「ほうれん草」が「酸性土壌」ではよく育たないのと同じように,「ホウレンソウ」も「賛成土壌」では育たないのだ.
前回の記事はこちらから「ホウレンソウ」

ホウレンソウ

 ホウレンソウというのは「報告・連絡・相談」のことだ.日本の企業では当たり前のことだが中国ではなかなか難しい.
日系企業でも「報・連・相」という標語が張り出している工場を見たことがある.しかし「ホウレンソウ」のように分かりやすいインパクトはない.
中国の会社で「ホウレンソウ」がうまく行かずに困っている幹部の方も多いのではないだろうか.
部下がきちんと「ホウレンソウ」ができないと嘆く前に,自分が部下に対して「ホウレンソウ」ができるようにしているかどうか見直したほうが良い.
部下がきちんと報告できないのは,能力が足りていない場合がある.上司の部下育成の努力不足である.連絡・相談も普段からコミュニケーションがうまく行っていなければ,期待するほうが無理だろう.
こんな極端な例はあまりないかもしれないが,私がセミナーに使っていたホテルの例を紹介しよう.
このホテルは4つ星ホテルで,その地域では老舗のホテルである.
定例でこのホテルでセミナーを開催していたが,セミナー開催の一週間前に担当の女性から電話がかかってきた.「セミナー会場は,月餅の倉庫になっているので使用できない」との報告だ.
中国では中秋節にどのホテルも月餅の販売に力を入れており,その月餅がセミナーを開催予定の会議室にいっぱい積み上げられているというわけだ.
いきなりそんな連絡を貰っても困る.
大体中秋節は毎年の恒例行事であり,事前に分かっていたはずだ.
月餅販売の担当者と会議室担当者の間で連絡がきちんとできていない証拠である.
結局私のセミナーはホテル内のレストランの個室で開催された.
その次の回は会議室の予約が入っておらず,私がホテルに到着した時点で何も準備がしてなかった.
担当の女性はセミナー開催の直前に別の部署に異動になっていた.
3回目は心配だったのでセミナー開催の4日前に,営業部の経理(日本で言えば部長)に電話で確認をした.
しかし又予約がスタッフに伝わっておらず準備がしてなかった.問題の経理は春節前で長期休暇をとっていた.上司からしてこれである.
たまたま2回とも他に予約が入っていなかったので事なきを得た.
この事例で中国は全部こうだと言うつもりはないが,中国人スタッフは個人プレーに走る傾向にある.
上述の例では営業部に会議室の予約状況が全員に分かるようにカレンダーを張り出しておけば簡単に防げたであろう.
「ホウレンソウ」がきちんと回る職場の雰囲気を作り,「ホウレンソウ」が行われるような工夫をちょっとするだけで格段に良くなると考えるのだが.
ちなみにこのホテルでは以降セミナーを開催しないことにした.
仏の顔も三度までである.

メンテナンス作業

新聞の報道記事からメンテナンスに関して考察してみよう。
「空自機墜落、原因は配線ミス 防衛省が断定」
 愛知県豊山町の県営名古屋空港で10月31日に航空自衛隊の支援戦闘機F2Bが離陸に失敗し炎上した事故で、防衛省の事故調査委員会は15日、事故原因を、定期点検をしていた三菱重工業の配線ミスと断定した、と発表した。
機体の姿勢を感知するセンサー(ジャイロ)と飛行制御コンピューターの間の配線を誤ったため、水平尾翼が異常な角度で動いて墜落した。今後、配線ミスが起きた原因を調べるとしている。
ジャイロというのは傾きを検出するセンサーである。
離陸時に機体が上に傾いているので上下ジャイロからは上に傾いているという信号が出る。しかしまっすぐに進んでいれば左右のジャイロ出力はない。
メンテナンス時に上下と左右のジャイロ出力が入れ替わってしまっため、飛行制御コンピュータは機体が水平状態と認識しており更に水平尾翼のフラップを上昇側に持ってゆく。実際に機体は上昇しており更に上昇角度が大きくなる。
パイロットはそれを補正しようと水平尾翼のフラップを下降側に倒す。
飛行制御コンピュータはフラップの角度は検出できるが上下ジャイロの出力がないので、更にフラップを下降側に倒す。
離陸時最大の推進力を出しているのにフラップを下降側にぐいと倒されたのではひとたまりもない。頭からもんどりを打つように墜落をしてしまったのだろう。
工場の設備でもメンテナンスの直後は意外にも問題が発生するものだ。
 分解清掃した部品の組み付け間違、組み付け忘れ。
 仮締めしたネジの本締め忘れ。
 設定の戻し忘れ。
 メンテ作業中に解除した安全機構の戻し忘れ。

等、いくらでもリスクはある。
メンテナンス作業手順にメンテナンス完了時の確認手順をきちんと入れておく必要がある。メンテナンス作業も「4M変動」のひとつと認識すべきだ。
防衛庁は、今回の原因調査により見合わせていたF2の飛行を配線を確認した後再開するという。
しかし誤配線はF2以外の機体でも発生しうる。全機体を再確認する必要があるだろう。
こんな事例もある。
装置内でX線を使用しているため扉を開けたときはX線が止まるように安全装置がついていた。メンテナンス時にX線が正しく出ているかどうか調べるために、扉の開閉を検出するマイクロスイッチをテープで止めて扉が閉まっている状態にしておいた。点検完了時にマイクロスイッチのテープをはがすのを忘れ運転を開始。
このため運転中に扉を開けるたびに作業者がX線に被爆していた。幸いX線の量が微弱であったため人体への影響は心配なかったが、目に見えないだけに深刻な事故だといえよう。
メンテナンス作業に対しFMEA(故障モード効果解析)を実施し、問題点の抽出と対策を立てる事が必要だ。
皆さんの工場でも、メンテナンス作業を再度見直されてはいかがだろうか。


このコラムは、2007年11月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第9号に掲載した記事です。

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