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校正外れ

ISO9001の「7.6 監視機器及び測定器の管理」に測定器の校正外れが見つかったときの要求事項が書かれています。

さらに、測定機器が要求事項に適合していないことが判明した場合には、組織は、その測定機器でそれまでに測定した結果の妥当性を評価し、記録すること。組織は、その機器及び影響を受けた製品に対して、適切な処置をとること。校正及び検証の結果の記録を維持すること。

すなわち校正外れが見つかったら、その装置で検査した製品に対する影響を考慮して、ちゃんと是正しなさいよ、と言うことです。
しかしこれをきちんと解釈すると、大変なことです。例えば測定機の校正周期が1年間だった場合、校正外れがが発生したのは、去年の校正の直後かもしれないわけです。ちゃんと裏付ける記録がない限り、1年分の製品を「影響を受けた製品」と判断せざるを得ません。
校正外れのモードによっては大変なことになります。すでに市場に出荷してしまったものを引き取って再調整・検査をしますか?毎月10万台も生産しているような民生用の製品だったら120万台です。しかも売れ先が判っていないだろうから、新聞広告を打ったりなど、大変です。
特に耐圧試験など、安全性にかかわる検査に関しては問題発生時のリスクが高いので、こういう問題が発生しないようにしなければなりません。しかし校正期間を短くしたりするのも合理的ではありません。測定機を校正してもらうだけで、そこそこの費用がかかってしまいます。
ちょっと工夫すれば、毎朝の始業点検時に、測定機の確からしさを確認記録することができます。
こうしておけば、万が一耐圧試験機の電圧がおかしくなっている、感動電流の設定がずれるなどの不適合が見つかっても、1日分の在庫を再検査するだけですみます。前の日に作ったロットならば、まだ工場の倉庫にある確率はかなり高くなります。

統計的品質管理 p管理図・c管理図

不良率の様に二項分布に従う計数値は、p管理図で管理をします。例えば機能検査での不良率などをp管理図で監視できます。また監視するロットサイズが毎回同じであれば、不良率を計算する手間を省き不良数だけをプロットすればOKです。これをpn管理図といいます。

また単位面積当たりの欠点(傷など)はポアソン分布をしており、c管理図で管理をします。検査対象の単位が毎回変わるときには、欠点率を計算してやらないとだめです。この欠点率をプロットしたのがu管理図です。

xbar-R管理図と同様に、何ロットかサンプリングしたデータから上限限界と下限限界を計算します。管理図の見方もxbar-R管理図と同じですが、以下の2点について注意をしなければなりません。

  • 下限管理限界
     計算上下限管理限界がマイナスになれば、下限限界を設定する必要はありません。しかし普通に考えると、不良率は少なければ少ないほどよいので、下限限界というのは必要なのかと疑問を持ちませんか?
    工程能力が同じであれば、確率分布に従って不良が出るはずです。従って下限限界を超えてしまったら、検査がきちんと機能していないと考えるべきなのです。
  • リアルタイム性
     これらの管理図は、リアルタイムには監視できません。半日とか一日の仕事が終わって初めて不良率の計算ができます。従ってこれに頼りすぎていると、不良をたくさん作った後で、変だったよね、と手遅れになります。従って同じ不良モードが2件続けて発生したら工程をとめて原因を追求するくらいの迅速性が必要です。

ある工場でpn管理図を見せてもらったら毎日管理限界が階段状に変化しています。管理限界の値を毎日のロットで再計算しているのです。これではまったく意味がありません。絶対管理限界を超えることはありえません。
(p管理図の場合は、生産数量によって管理限界が変動します。ただし管理限界値の計算は、工程が安定した状態で一定期間の実績から求めます)

統計的品質管理もただの道具です、使い方を間違えれば意味がないだけではなく、とんでもない間違いを犯す可能性もあるのです。

統計的品質管理 xbar-R管理図

xbar-R管理図は、長さとか重さとか電圧などの計量値で工程能力を管理するときに使える非常に便利なツールです。

実際にばらつきは分散とか標準偏差で現されますが、工程内でリアルタイムに監視するのはちょっと骨が折れます。そのため標準偏差の変わりにR(レンジ、最大値と最小値の差)で代用します。平均値(xbar)とRで中心値のずれ、ばらつきを監視するわけです。

過去からの数値から、その工程の実力がわかるので、上限限界と下限限界を計算できます。(詳しくは、こちらのコラムに解説しておきました)この限界を超えていれば、即座にラインを止めて原因を探る。と言うように使えます。また限界を超えていなくても、単調増加、単調減少、中心から片側への偏りの傾向が見られれば何か問題が発生しかかっているわけです。

サンプルは普通5個くらいなので、現場でも簡単に電卓をたたけば管理図がつけられます。間違っても仕事が終わってからまとめて計算しようとなど考えてはいけません。この管理図はリアルタイムに工程能力の変動を監視できるところにメリットがあります。

例えば金属加工などで仕上がり寸法をxbat-R管理図で監視していれば、バイトの磨耗などが早期に発見できて、たくさん不良を作ってしまうようなことがありません。

最近ではお客さんが監査にこられたときに、統計的工程管理をしていますか?と聞かれることが結構あります。監査官の力量によるのですが、何でもかんでも管理図を張り出してあれば安心すると言う悪い傾向があります。委託先もお客さんに言われるものだから、無意味な管理図を張り出しています。管理の為の管理になってしまっており、困ったものです。

例えば、半田槽の温度をxbar-R管理図で監視していたりする。ちゃんとできていれば、加熱ヒータの劣化などが事前に分かり、予防保全することができます。しかし温度測定器の精度がそこまでなくて最後の1デジットをふらふらしているだけ。監査官も一緒になって平均値がふらふら(0.1℃の範囲で)している原因を考えたりと、非常にこっけいです。Rなんて常に一定ですから。

ちゃんと目的を明確にして、それに見合ったデータを取らねばなりません。またサンプルを抽出するタイミングも、工程能力や目的をにらんで適切に設定しなければなりません。

例えば、部品の受け入れ検査でxbar-R管理図をつけていると、規格には入っているけれどベンダーさんの工程で何か問題が発生していることが見えてきます。こういう場合に即座にアクションを起こすとトラブルの未然防止ができるわけです。

統計的品質管理 抜き取り検査

ロットごとにサンプルを抜き取り、ロットの品質を保証するという考え方があります。品質保証レベル(AQL)に従ってサンプル数を決め、検査をするわけです。しかしどう頑張ってもAQL=0.1%を保証するのがせいぜいでしょう。抜き取りサンプル数がとんでもなく多くなってしまいます。これだけ検査しても納品したロットの中から0.1%不良が有っても許してね、と言うのがAQL(Acceptable Quality Level)の意味です。やはり基本は工程内で品質を作りこむ、不良は作らないと言うことになります。
しかし検査をしてしまうと製品として使えなくなる様な場合は(破壊検査)、意味があります。その場合でもAQLレベルを上げてやらなくては経済的に成り立ちません。例えば1000個のロットでAQL0.1%を保証しようとすると、125個のサンプルが必要です(1回抜き取り並)。これでは検査費用を除いても10%以上のロスになります。
例えばトランスなどの様に不良モードが安全性に深刻な影響を与えるような場合は、AQLで保証してもらっても困ってしまいます。耐圧試験の不良などが発生してしまうと、たとえ1台であっても、ラインを止めて、原因を追究しなければなりません。従って受け入れ側でAQLで抜き取り検査をしても、あまり意味がありません。トランスの耐圧不良などのようなシリアスな欠点に対しては100%良品でなくては困るのです。
この辺を考えてか、私が指導したほとんどの中国工場は、受け入れ検査時の抜き取り基準を、シリアスな欠点に対してはAQL=0.0%にするという手順にしてあったりします。しかしこれは抜き取り検査の意味がありません。当然ですが抜き取りサンプル数の表の中にはAQL=0.0%などと言う欄は出てきません。AQL=0.0%では抜き取り検査ではなく、全数検査になってしまいます。
従って製品に深刻な不良モードを与える可能性のある部品に付いては、抜き取り検査で品質を保証するのではなく、きちんと部品業者の工程を見て、工程が品質を作りこめるようになっているかどうか確認する必要があります。

品質改善と生産計画

日本ではJIT(ジャストインタイム)生産が当たり前になっています。JITのメリットは材料・中間完成品の在庫を徹底的に減らし、経営効率を上げることかと思います。それだけではありません、JITによって品質改善も可能です。
一般的な電子応用製品の生産工程は、部材準備、前加工、組み立て、検査、包装というように工程が区分されています。組立工程は機械実装、手実装と細分化できます。
品質保証の大原則では、各工程が品質を保証して、次工程に渡すことになります。各最小単位の工程で品質を確認し、問題があればすぐ対策・改善する。この様に改善のフィードバックループを小さくすればするほど、対策・改善のスピードは上がります。
例えば、加工方法や部品に問題があって不良が発生すれば、不良を作り続けるリスクを持って生産していることになります。従ってすばやい問題発見と解決が必要になります。
また小さなループで改善をまわすことにより、改善方法と効果の関係を早くつかめ、すばやく最適の改善策を見出すことができます。
しかし各工程の品質を保証するためにそれぞれの工程で100%検査して次工程に渡すことは、原理的に不可能であったり、経済的に不可能であったりします。次工程の検査や最終工程での検査でしか見つけられない不良もありえます。
例えば前加工で作られたサブアッセンブリィが中間在庫としてたくさんあった場合、次工程で不良を見つけてしまうと、不良の原因によっては中間在庫全てに不良が含まれている可能性があり、選別や再加工をしなければならなくなります。
これはコストの無駄遣いだけではなく、品質にも影響があると考えなければなりません。いつもと違う異常作業(選別や再加工)をしなければならない。作業のばらつきが品質のばらつきになるので、作業をすればするほど品質リスクは増えます。
従って生産計画をきちんと立て、部材投入から製品完成まで最短でアウトプットできるようにしなければなりません。
また生産をしていると現場では、いろいろな理由で生産が中断することがあります。例えば部品が足りなくなってロットの何台かを完成できない、工程中でラインアウトした製品が遅れてラインに復帰する、などの問題が発生します。こういう状況が発生しないような準備が必要です。発生してしまった場合、中間在庫の識別表示などの管理は当然ですが、こういう問題を皆で共有し改善の意識を持たなければなりません。
よい工場を見ると、このような中間在庫はわざと目立つところにおいてあったりします。

ISO9001の認証

何のためにISO9001の認証を取得するのでしょうか?
これがきちんと解っていない企業が結構たくさんあると思います。ISO9001を導入すると、規定文書や 記録が増えてコストが上がる、改善に役立っていない、内部監査・サーベイランスで大変、等などいろ いろな声が聞こえています。
ISO9001は事業をするためのライセンスなのでしょうか?ISO9001の認証を取得することにより、事業経営が有利になるでしょうか?
答えはNOです。
「あしたの発想学-いかにして痛くない注射針はできたのか」の著者・岡野雅行さんはISO9001は導入しないといっておられます。しかし岡野さんの会社は中小企業ながら、大企業が行列を作って発注したがる超優良企業です。
ISO9001は会社の方針・目標を達成するための方針・目標管理ツールとして活用することができます。 きちんと活用することにより、会社の経営改善・利益改善に貢献することができます。一方認証を取得・維持するためには、審査機関に支払うコストが発生します。これを上回る利益を上げなければ、投資効果はありません。また認証を取得しなくても、規格が要求する意味を正しく導入することにより同様な効果が上がるはずです。
ここをきちんと理解しておかないと、管理の為の管理、ISOの為のISOになってしまいます。経営者から現場までこの意義を正しく理解して運用しなければ、認証取得はできても維持をしてゆく段階で、無用の長物になったり弊害さえ発生します。
中国の部品ベンダーに採用監査に行って驚いたことがあります。この会社はISO9001の認証を取得しているのですが、ISO9001のマニュアルが応接室に飾ってありました。
コンサルタント会社に高いお金を払ってマニュアル一式を導入したようです。しかしマニュアルは新品のままで、誰も読んだことがないようです。事実現場を見ても、品質マネジメントシステムが運用されているとはいいがたい状況でした。
別の生産委託先は、文書・記録がイントラネット上できちんと管理されており、非常によく見えました。作業員の教育履歴、能力、資格なども従業員番号を入れればさっと出てきます。
しかしここも現場を 見ると、品質マネジメントシステムがきちんと回っていない。内情をよく見ると、現場の組長さん・班長さんたちには1台ずつコンピュータが行き渡っていないので、規定文書をしょっちゅう参照できない。また作業者の能力・資格は人事部の職員しかアクセスできないので、現場の組長さん・班長さんには参照できません。
IT化の流れからは逆行してしまうかもしれませんが、ここでは文書・規定類をプリントアウトして現場に備え付けるところから始めました。実はこれも管理職者から反対され、説得しなければなりませんでした。曰く規定類を現場においておくと、これをもって退職してしまう従業員がいるというのです。

有害物質管理

最近環境保護のためRoHS指令などにより有害物質が製品に含まれていないことを保証しなければならなくなっています。この方面では日本の中でトップランナー的な役割を担っておられるS社さんの「グリーンパートナー認定」を生産委託工場2社(台湾企業の中国工場)で同時期に指導したことがあります。
このころまだ台湾企業は環境問題にあまり関心がなく、ISO14000を取得している会社はまれでした。
そんな中で環境保護の話から説明し、何とかグリーンパートナーの認証が得られるように指導をしました。
さすがS社さんのネームバリューで、グリーンパートナーの認証を取得すること自体は2社とも大いに乗り気で、専属のプロジェクトチームを起こしてくれました。
まず環境管理システムを構築するために、1日指導をして方向付けを行い、1週間後に成果を確認する、という方法で準備を開始しました。同時進行で2社に交互に出向き指導をしました。最終的には2社とも無事グリーンパートナーの認証が得られましたが、それぞれの対応がまるっきり違っており非常に興味深いものがありました。
A社:
専属プロジェクトのリーダに品証部の経理がつきました。この人の人脈ですでにグリーンパートナーの認証を受けている会社があり、そこからいろいろ情報を入手したようです。よその会社でうまくいっていても、会社ごとの事情が違っているので、システムをそのまま持ち込んでもうまくは行きません。
準備の間中、彼は終始どうしたらS社さんの認証が得られるかということのみにフォーカスしていました。何度も環境管理の意義を説明して、原点に戻らせる必要がありました。ここをきちんと指導をしておかないと、認証合格しても現場がそれを維持することができません。意義をきちんと理解してもらうということが重要です。
B社:
こちらの会社は専属プロジェクトのリーダに管理部の経理がつきました。彼はユーモアのセンスがあって、メンバーを盛り立てるのが得意な男です。しかし環境管理に関する人脈はないようで、よその会社から環境管理システムを貰ってこようなどということはしませんでした。その代わり、会社の前の道路掃除からはじめました。従業員全員の意識は当然こちらの会社のほうが高くなります。
こちらの会社では有害物質の分析のためにICP発光分光分析装置という高価な装置を買ってしまいました。社長はこの装置が認証合格の決め手になったと思っているようですが、私から見るとプロジェクトのリーダのリーダシップによるところが大きいと思っています。
両社ともいろいろな手順を作りましたが、笑うに笑えないエピソードをひとつ。
まだ全ての部材が環境対応にはなっていないので、環境対応部品の識別のためのシールを作りました。これを業者さんが納入する梱包箱に貼ってもらおうと言う訳です。そうすれば受け入れ検査の検査員が一目で識別できます。
ある日受け入れ検査部の経理が困った顔で私に相談に来ました。日本の部品業者さんが、識別シールを貼らずに納入してきたので、これから受け入れ不合格として日本に部品を全部返却するというのです。私はそれを聞いて、一瞬めまいがしました。そんなことをしたら部品が欠品して生産ができません。
自分たちが作ったルールがちゃんと機能するかどうかも検証しないで、そのルールにがんじがらめに縛られてしまっています。