品質保証」カテゴリーアーカイブ

レンジから火花、犯人はゴキブリ 掃除で製品事故防止

 火花が出たオーブンレンジの中からゴキブリ4匹の死体が――。製品評価技術基盤機構(NITE)の製品事故の調査で、小動物がしばしば“犯人”とされている。

 「電気炊飯器が過熱して煙が出た」「電子レンジの電源が勝手に入った」。これらの原因は、製品内に入り込んだゴキブリやそのフンが基板に触れたことだった。

 他にも、ネズミがかじって冷蔵庫のコードから火が出たり、エアコンの室外機やパソコンの中にムカデが入ったり。彼らがよく出没する台所などは掃除して清潔に。

(asahi.comより)

 笑い話のようだが昆虫や小動物による被害は結構ある。
私は以前サラリーマンだったころ電源装置を作っていた。お客様(PCメーカ)から黒焦げになった電源装置を返却され、原因の調査を依頼された事がある。

エンドユーザ様からのクレームで、長期休暇の後電源を入れたらPC本体から異臭と煙が上がったという。電源装置の中を開けてみると、プリント基板のパターン面が焼けて殆ど炭化していた。中から黒焦げになった巨大なゴキブリが出てきた。

デスクトップPCの電源はPCがオフの時にも動作し続けている。
PC本体についている起動スイッチは電源スイッチではなく、CPUに起動の割り込みを入れるためのスイッチだ。このスイッチが押されたことを検出するために、PCがオフの時にも5Vの出力だけ供給し続けている。

僅かな電力だが、スイッチング電源は動作しており内部の電圧は400V以上になっている部分がある。この電圧に感電死したゴキブリが原因で発火したと推定した。

当然推定だけではお客様に信じていただけないので、実証実験をした。
事業部のメンバー全員に同報メールを流し、生きたゴキブリを捕獲してくるよう依頼した。さすがにすぐには集まらなかった。数日して知り合いのレストランから貰ってきた(苦笑)というゴキブリが手に入った。

早速スイッチング電源と同じ電圧のパターンの上をゴキブリに歩いてもらった。何度か繰り返すうちに、感電して死んでしまうゴキブリを観察する事が出来た。
ゴキブリは感電死した後も体内に電流が流れ続け、湯気のようなモノが立ち上がる。その後徐々に炭化してゆく事が分かった。

連休中PCがオフになっており、電源のファンが回っていない。
ファンの風孔からゴキブリが侵入。電源装置は動作しているので僅かながら暖かい。暖かいところを求めてさまよっていたゴキブリが内部の高電圧に触れ感電死、徐々にゴキブリ体内の水分が蒸発してしまい炭化してゆく。
そして連休明けにオフィスに戻ってきた人間がPCを立ち上げる。
電源の冷却ファンが回りだし新鮮な空気(酸素)が大量に供給され一気に発火、発煙にいたった。

実験結果からこんな「推理小説まがい」の不具合解析報告書を書き上げお客様に提出した。

しかしこの対策に困ってしまった。
世の中にはゴキブリが寄り付かないプリント基板が存在する。
家電メーカ系列のプリント基板業者がゴキブリが寄り付かないプリント基板を商品化している。昆虫の生態学者かと思われるほどの知識を持った営業マンに色々教えていただいた。

ゴキブリが嫌う臭いを基板に印刷してある。この基板を使うとゴキブリが寄って来ないそうだ。
しかし普通のプリント基板よりもコストが高くなってしまう。
実はこのプリント基板業者の親会社も、一部の高級炊飯器にしか使っていないそうだ。

またゴキブリは温かいところが好きなので、常時通電しておくようなアプリケーションでは暖を求めてゴキブリが寄ってきてしまう。
ゴキブリは平たい隙間ならば難なくもぐりこんでしまうが、円形の孔に対しては体の幅以下の直径ならばもぐりこめない。

など教えてもらったゴキブリの習性から、冷却ファンの通風孔の形状を変更することにした。しかし出荷済み製品には適用できない。既出荷品に関しては長期休暇の間はコンセントを抜いておくように注意をしていただくことになった。

後にも先にもゴキブリによる電源装置の焼損事故はこれ一度きりだった。
当時品質保証を担当していた私は、こういう事故の調査解析が秘かな楽しみであった(笑)


このコラムは、2009年5月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第97号に掲載した記事に加筆しました。

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両エンジンとも脱落 回収急ぎ原因究明へ 

 【ニューヨーク=真鍋弘樹】USエアウェイズ機がニューヨークのハドソン川に不時着した事故で、米国家運輸安全委員会(NTSB)は16日、事故原因の調査を本格的に開始した。野鳥の衝突による事故とみられているが、エンジンは2基とも外れて水没していることが判明し、原因を特定する物証はまだ得られていない。
……
 両エンジンは、機体がハドソン川に不時着した際に脱落したとみられている。水中ソナーで沈んでいる位置を特定する作業を進める。エンジンを回収し、付着物のDNA分析をすることで、バードストライクの有無や、鳥の種類まで分かるという。

(asahi.comより)

エンジンが停止してしまった旅客機を155人の乗客乗務員誰一人犠牲者を出さずにハドソン川に不時着させたチェスリー・サレンバーガー機長はすごい奇跡を起こした英雄としてたたえられている。

別の記事には

「あの機長は男の中の男だ。事故後、フェリーターミナルに座り、何ごとも起きなかったかのように制帽をかぶってコーヒーをすすっていた」
救出後の機長を近くで見た警察官は、そう米メディアに語った。

と紹介されている。まるでアメリカ映画のような話だ。

まだ事故の原因は判明していないが、このバードストライクというのは何とかならないものだろうか。鳥が飛行機のエンジンに巻き込まれるのは、奇跡的な確率だろう。航空機の事故も車の事故と比較したら発生確率はうんと低いだろう。
しかし発生確率だけで考えてはいけない。

人命がかかっており、更に1回の事故での犠牲者が自動車事故の100倍もある。
「重大性」という概念からすれば、航空機事故の発生確率は自動車事故の1/100でなければならない。
人命がかかっているという事を考慮すれば、発生確率は限りなくゼロでなければならない。

私たちのように工場でモノ造りにかかわっている者も、業界の水準がこの程度だからと不良率という概念に甘えるのではなく。不良ゼロを目指すべきであろう。


このコラムは、2009年1月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第78号に掲載した記事です。

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現場を知らない設計者が良い設計が出来るはずはない

 今日はテーマとして「設計不良」を取り上げた。

私が若かった頃は、工場にはたいていすごく怖い人がいたものだ。下手な図面を出すと電話がかかってきて叱られる。場合によっては工場まで呼びつけられて叱られる。

私は機械加工は専門ではないのだが、若い頃板金図面を描いていた時期がある。
その頃は良く板金工場の親方に呼び出されて叱られていた。加工する機械を見せられ、この機械でどうやってこれを作るのだ、と叱られるわけである。

私はこんな風にして、専門外の機構設計を学んだ。

本日のテーマで取り上げた会社は、本社設計部門の若手設計者が中国工場に出張してくることはめったにない。
実はこの会社の経営者は技術系の人間であり、設計者が忙しいのを十分承知しており、設計者の処分な負担を極力排除しようとしているように見受ける。
しかし現場を知らない設計者が良い設計が出来るはずはない。


このコラムは、2007年10月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第5号に掲載した記事に加筆しました。

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生産委託先指導

 住友ゴム工業は30日、加古川工場(兵庫県加古川市)で生産する防舷材と、南アフリカ子会社で生産するタイヤにおいて、品質管理の不正があったと発表した。タイヤでは顧客仕様と異なる製品を最大40万本出荷していた。防舷材では定められたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータ変更を500物件(5389基)で行っていた。発覚後に社内で検証し、安全性には問題はないという。

 品質管理のばらつきや管理体制が孤立していたことで不正が発生したとしている。南ア子会社で1月に品質調査を実施したところ、不正が発覚。対象は2017年8月~21年5月までに出荷していたタイヤで、寸法や重量、剛性などの均一性、一部製品のビード部形状が顧客と取り決めた仕様と異なった状態で出荷していた。

 南ア子会社は、13年にアポロタイヤ南アフリカを買収して子会社化したため、品質管理をアポロ社のシステムのまま継続していた。今回対象の製品は南アフリカ製の新車向けへの供給分で、車両8万台分に相当する。

 防舷材は、港湾岸壁用ゴム防舷材で不正が発覚した。船舶接岸時に発生する防舷材の圧縮状態を再現して圧縮性能を確認する試験で、国際航路協会の定めたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータの変更を行っていた。同製品はハイブリッド事業本部が手がけており、同事業本部以外から品質チェックできる体制がなく、今回の不適切事案につながったとしている。

(YAHOOニュースより)

 なんともお粗末な事件だ。
南アフリカの子会社を買収する際に、社内の管理体制や品質保証システムを監査しなかったのだろうか?さらに買収後も現地のマネジメントのまま放置、ということのようだ。

買収した工場とは言え、自社工場と同等の品質管理システムを運用し、同等の品質水準を持たねばならない。加古川の自社工場ですら適切に管理できないのでは無理もないかもしれない。

前職時、電源装置の品質保証を担当していた時、生産コスト的に国内生産が維持できなくなり、マレーシア、中国、メキシコ、インドネシアに生産委託をしていた。インドネシア工場は自社の孫工場だったので、我々の生産技術・品賞メンバーが立ち上げからサポートした。

その他のマレーシア、中国(4社)、メキシコは事前に生産委託先の採用監査を行い。生産立ち上げの支援・初ロットの生産確認をし出荷可否を判定する。生産開始後も工程内品質の日報・週報の報告を受けるほか、年間計画を立てて委託先工場の指導訪問をしていた。

採用監査では、特殊工程に従事する従業員の教育・技能認定制度をはじめ、品質管理・保証の仕組み、実施状況、生産現場の管理状況まで監査して、生産委託先の採用可否を判断していた。
もちろん監査で見抜けず後で苦労したことはあったが、本日の事例のような事は採用監査時に採用可否判断できることだ。監査時に品質管理システムに不足があれば、生産開始前に補わなければならない。

たかだか単価3US$の電源ユニットでも、愚直に同様の品質保証体制を構築した。
当然コストもかかる。しかしこういう泥臭い努力を重ねた結果、中国の生産委託先工場で、新機種生産開始3ヶ月以内で直行率99.99%以上を達成することができた。上述の3US$の電源ユニットだ。かかった間接コストは、不良損失コストの削減でカバーできたはずだ。


このコラムは、2021年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1174号に掲載した記事に加筆しました。

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水虫薬に睡眠剤誤混入

水虫薬の誤混入、健康被害113件に 交通事故も14件」

 福井県あわら市の製薬会社「小林化工」が製造した爪水虫などの皮膚病治療薬に睡眠導入剤の成分が混入していた問題で、健康被害を訴える人が、新たに29人増えて計113人(8日時点)となった。北海道から熊本県まで約20都道府県に及ぶという。福井県と同社が取材に明らかにした。同社によると、運転中に意識が薄れるなど服用の影響とみられる交通事故が14件あったという。

全文

(朝日新聞より)

 誤混入というより、間違った薬剤で水虫薬を生産したようだ。
本来主成分の「イトラコナゾール」を入れるところを睡眠導入剤を投入し錠剤を生産した。

睡眠導入剤を投入してしまった原因を、「作業員が勘違いで量ってはいけないものを量り、袋に入れた」と作業員の人為ミスと説明している。

しかし人為ミスを原因とすると「作業員に注意した」「作業員に再指導した」「ミスした作業員を解雇した」などという効果の期待できない再発防止対策しか出てこないだろう。

「なぜミスをしたか」を分析しなければならない。

  • 薬剤の瓶に名前ラベルがなかった。
  • 薬剤の瓶の名前ラベルが消えかかっており読みづらかった。
  • 配合指示書が間違っていた。
  • 配合指示書が読づらく読み間違えた。
  • イトラコナゾールと睡眠導入剤の保管棚が同じで取り間違えた。
  • 睡眠導入剤がイトラコナゾールの代用として使えると思った。
  • イトラコナゾールと睡眠導入剤がそばに置いてあり、間違って取った。
  • イトラコナゾールを正しく準備したが、別の調剤中の睡眠導入剤を配合した。
  • などなど

これはありえないだろうと思える原因もたくさん挙げる。
それぞれの原因を消滅される対策をする。

今回の原因ではないと思われる原因にも対策をする。
今回の問題は、運転中に眠くなったり、意識を失えば直ちに人身事故となる。過剰な対策と思えても実施すべきだ。

皆さんの仕事でも人為ミスで大きな事故が発生することもありうるだろう。事故が起きる前に対策を実施すれば問題は発生しない。
小林化工は取り返しの効かない問題を発生させてしまった。せめて我々はこの事故に学び未然防止をしたいものだ。

原稿を書き上げた後に、本件により死亡事故が発生したという報道があった。

『水虫薬の製造で「名ばかりチェック」 社長らの一問一答』

この記事により以下が明らかとなった。

  • 投入すべき薬剤と間違えて投入した薬剤は、形状の異なる容器に入っていた。
  • 薬剤の名称・ロット番号は容器に表示されていた。
  • ダブルチェックは名ばかりで機能していなかった。

社長が発言した「厳密なるチェックができなかった」の意味を問われ、社長は「最終試験」について述べている。記事からは読み取れないが、薬が完成後その成分分析をしなかったようだ。

医薬品業界の常識はわからないが、完成品の出荷検査はやらないのだろうか?

ダブルチェック記録、作業記録だけを品質管理の記録として品質保証するのは無理だろう。今回の事故は、製品ロットごとに成分分析を実施し出荷の可否を判定していれば防げたはずだ。


このコラムは、2020年12月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1072号に掲載した記事です。

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メルセデスベンツリコール

 メルセデス・ベンツ日本は7月8日、『Aクラス』など18車種について、ステアリングシャフトに不具合があるとして、国土交通省にリコール(回収・無償修理)を届け出た。

(中略)

対象車両は、ステアリングシャフトにおいて製造機器の使用が不適切なため、ユニバーサルジョイントのベアリングを圧入する穴径が大きいものがある。そのため、使用過程で操舵時に遊びが発生して異音が発生し、最悪の場合、ユニバーサルジョイントが脱落することで操舵不能になるおそれがある。

改善措置として、全車両、ステアリングシャフトのシリアル番号を点検し、交換が必要なものは良品に交換する。
不具合および事故は起きていない。ドイツ本社からの情報によりリコールを届け出た。

(全文)

(Responseより)

 記事には「ステアリングシャフトにおいて製造機器の使用が不適切なため」とあるが、単純にステアリングシャフトに穴を開ける際に間違ったドリルの刃を使用したのではなかろうか?単純なヒューマンエラーのように思える。

ドイツという国の印象から考えると、ありえない不良のように思える(笑)

多分そんな単純なヒューマンエラーではないのだろう。
例えば、作業開始時に初物検査で穴径を測定した。ドリルの刃が破損したので交換。このとき径の違うドリルの刃を選んでしまった。またはドリルのキレが悪くなったので、刃を研いだ。その時にそばにあった径の大きなドリルの刃と取り違えた。

「初物検査」は始業時にやる検査ではない。変化点における検査だ。
当然上記のような状況も変化点だ。この変化点でも「初物検査」を行うべきだ。


このコラムは、2021年7月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1162号に掲載した記事です。

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顧客感動

先週は「顧客満足、顧客不満の解消」について考えてみた。今回はそれらを超越した「顧客感動」について考えたい。

ずいぶん前のことだがTVコマーシャルで「デライト」という言葉を知った。
たばこ会社のコマーシャルで、タバコを吸おうとした紳士がそばに子供がいるのに気がつきそっとタバコをしまう。という映像に「デライト」という言葉がかぶさってくる、というコマーシャルだったと記憶している。

顧客満足(Customer satisfy)と顧客感動(Customer delight)の違いとは
「顧客満足」は顧客の要求を100%満たしている状態。
「顧客感動」は顧客の要求を超えた品質(機能、性能、質感など)
と定義すればわかりやすいだろうか。

以前指導していた電動バスの製造企業は售后服務(アフターサービス)という部門があり、顧客クレーム対応をしていた。バスのモータが故障したということで、即顧客訪問。迅速な対応は良いが、車内に持ち帰った情報は、不良と言われたモータの外観写真のみ。

これでは技術も品証も何も動けない。

售后服務としては、不良現品を持ち帰る手筈を整え早急に不良解析を行い、不良原因を突き止め、顧客に対して他のバスへの波及の可能性を含めて報告しなければならない。これができてプラスマイナスゼロの成果だ。

ここで「顧客感動」レベルの対応はなんだろうか?
顧客の立場に立って考えれば、答えは明確だ。
顧客がバスの故障で困るのは「運行ダイヤの維持をどうやって実現するか」ということだろう。これを素早く解決すればプラスマイナスゼロからプラス側に振れるだろう。

実は全く故障しないバスを提供しても、顧客はその凄さに気がつかない可能性がある。稀に故障するがその対応が素晴らしい。というのが理想状態なのかもしれない(笑)


このコラムは、2021年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1179号に掲載した記事です。

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スイッチ接点不良

 タイホンダおよびホンダは7月8日、『レブル250』など8車種について、ヘッドライトが点かなくなるおそれがあるとして、リコール(回収・無償修理)を国土交通省へ届け出た。
対象となるのは(中略)8車種で、2014年3月19日~2021年4月28日に製造された4万3387台。
対象車両はハイビーム/ロービーム切換えスイッチの接点構造が不適切なため、はんだフラックスが接点表面に残留するものがある。そのため、そのまま使用を続けると、切換えスイッチが接触不良となり、最悪の場合、ヘッドライトが点かなくなるおそれがある。

改善措置として、全車両、対策品の切換えスイッチを組付けたウィンカスイッチアッセンブリと交換する。

不具合は104件発生、事故は起きていない。市場からの情報によりリコールを届け出た。

Responseより)

 「ハイビーム/ロービームの接点構造が不適切」としか表記されていないので何が問題なのか判断できない。普通に考えるとスイッチの端子はスイッチ筐体の外側にあり、筐体内側のスイッチ接点にフラックスが侵入するような構造になっていないはずだ。

半田付けによりフラックスがスイッチ内部の接点まで侵入するのであれば、部品選定時の評価不足と言わざるを得ない。

前職時代に新規部品登録委員会の主査をしていた。機構部品は分解して内部観察、スイッチ、コネクタ類は硫化水素による腐食試験を実施していた。ただ分解するだけでは何も判断できないかもしれないが、継続することによりどういう構造でフラックスの侵入を防いでいるのかわかるはずだ。

またこのような事故が、経験値を積み上げる。流石にどこのメーカのどの型番のスイッチかを公表はしないだろう。しかしその気になれば道はある(笑)

以前回収対象になっていたPC電源をジャンク屋を回って探した事がある。
手に入れたPC電源を分解し、中を調べてみたが原因は分からなかった。しかしこの話を他社の品質担当者にしたら、それはこういう不良なのだよ、とそっと教えてくれた。熱意があれば道は開けるものだ(笑)


このコラムは、2021年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1165号に掲載した記事です。

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失敗事例の活用

 失敗を失敗に終わらせない。他人の失敗をも経験値として共有し、失敗を未然防止する。そのために失敗原因を特定し、その対策を考え設計や製造法を改善する。

 自己の失敗を教訓として対策を考え・実施するというのは当たり前のことだ。
市場で発生してしまった不良の原因を調査し、再発しないように製品設計や生産方式を改善する。

これだけではまだ不十分だ。
この失敗体験を組織に蓄積しなければならない。これが不十分だと、組織メンバーの世代が交代するたびに同じ不具合が発生することになる(こういう事例は少なくない)。

過去の失敗事例の当事者だった設計者は、役職がつき設計に直接タッチしなくなっているだろう。上司の検図で設計の不備を発見するのも容易ではない。

私が前職で品質保証を担当していた時、失敗事例を網羅したチェックリストを作成した。設計者は設計完了時にこのチェックリストに従って確認をする。
そしてそのチェックリストを上司とともにレビューする。この時の上司の役割は、設計者がチェック項目の意味を理解できているか確認すること。理解が足りないと判断した時は指導する。

このチェックリストは、過去の失敗事例(暗黙智)を形式智に変換する仕組みとした。従ってチェック項目の意味を伝えなければ形式的な確認しかできないだろう。そのため設計者と上司の対面によるダブルチェックとした。


このコラムは、2021年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1171号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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新規・珍奇技術

 以前ご紹介したプラスチック製インペラの燃料ポンプのリコールが拡大している。

「デンソーの燃料ポンプ」

通常はプラスチック材料をグリースなどの油脂が付着する環境では使用しない。
ガソリンもプラスチック材料を侵し、膨潤、破断などの不具合を発生させる。今回の回収は耐油脂製プラスチック材料の強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用している。ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有しガソリンが付着しても問題はないはずだ。だが、成形時の温度が低いと、樹脂密度が低くなりガソリンにより膨潤する。

市場不良発生により、初めてこの現象に気がついたというのではお粗末だ。
当然新規材料なので分からなかったということはありうるだろう。

燃料ポンプに使用することを決定した時点で、使用環境で変形などの変化が発生しないことを確認すべきだ。なぜなら燃料ポンプのインペラに関して過去から、燃料ポンプの寸法制度、ゴミの巻き込みなどで回収騒ぎを起こしている。このことに着目すれば、「プラスチック・インペラの寸法精度」というキーワードが出てくるはずだ。もちろん加工精度には問題はない無かろう。しかし使用中の変動も考えるのが設計者の役割だ。

新規・珍奇技術を採用する時は十分な検討が必要だ。
新規技術を採用すれば、同業者の一歩前に出られる。この誘惑に勝つのは困難だろう。
珍奇技術を採用してしまうと業界標準とはならず、供給性や価格で不利になる。

しかしナーバスになるだけでは、競争力のある製品は作れない。
事前に想定できる事態を列挙し、事前に対策することで問題を回避したい。


このコラムは、2021年8月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1172号に掲載した記事です。

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